2022年のエミー賞の結果が発表されています。アメリカのテレビ界で最も重要な賞であるエミー賞は、今一番面白い海外ドラマを知る一つの指標になります。ということで、今回はエミー賞2022の受賞結果を一覧で紹介するとともに、受賞した作品をそれぞれ紹介していきます。なお、この記事ではノミネート一覧を省略しているので、詳しく知りたい方は以下の記事で。
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2022年エミー賞の概要
エミー賞は、毎年アメリカのテレビジョン・アカデミーが開催している授賞式です。エミー賞には、デイタイム・エミー賞などいくつかの種類がありますが、通常エミー賞と言ったらプライムタイム・エミー賞のことを言います。プライムタイム・エミー賞では、1年間で最も優れたテレビドラマを決める賞でもあり、ドラマを対象にした賞の中では最も権威があるとされています。
エミー賞のカテゴリーは非常に細かく分かれており、しばしば賞が多すぎて把握しきれないと冗談でも本音でも言われます。もっぱら注目されるのは、ドラマ部門、コメディ部門、リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門の3つ。リミテッドシリーズとは、1シーズンで完結するドラマのことです。作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、監督賞、脚本賞が主要7部門と言われています。
この7部門以外は、厳密にはプライムタイム・クリエイティブアーツ・エミー賞という括りになっており、メインの授賞式の1週間前に受賞者が発表されます。基本的には、こちらもプライムタイム・エミー賞として扱われます。
なお、日本ではU-NEXTで9月13日8:00から授賞式および直前のレッドカーペットの模様が独占生中継される予定です。
以下、エミー賞2022の受賞結果を書いていきます。タイトルの横には、現在、その作品が日本で配信されている動画配信サービスを書いてあります。配信状況は変わっている場合があります。タイトルにリンクが貼ってある場合、このブログの中でその作品を扱ったページに飛びます。
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作品賞
ドラマ部門
『メディア王~華麗なる一族~』シーズン3 U-NEXT
コメディ部門
『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』シーズン2 Apple TV+
リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門
『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』シーズン1 U-NEXT
コンペティション番組部門
『リゾのビッグスター発掘』Amazon
トーク番組部門
『Last Week Tonight with John Oliver』未上陸
テレビ映画部門
『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』Disney+
アニメ部門
『ARCANE:アーケイン:League of Legends』シーズン1 Netflix
短編アニメ部門
『ラブ、デス&ロボット』シーズン3「彼女の声」Netflix
ドキュメンタリーシリーズ部門
『ザ・ビートルズ: Get Back』Disney+
ドキュメンタリースペシャル部門
『ジョージ・カーリン/伝説の社会派コメディアン』U-NEXT
演技賞
ドラマ部門
主演男優賞
イ・ジョンジェ『イカゲーム』Netflix
主演女優賞
ゼンデイヤ『ユーフォリア/EUPHORIA』U-NEXT
助演男優賞
マシュー・マクファディン『メディア王~華麗なる一族~』U-NEXT
助演女優賞
ジュリア・ガーナー『オザークへようこそ』Netflix
ゲスト男優賞
コールマン・ドミンゴ『ユーフォリア/EUPHORIA』U-NEXT
ゲスト女優賞
イ・ユミ『イカゲーム』Netflix
コメディ部門
主演男優賞
ジェイソン・サダイキス『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』Apple TV+
主演女優賞
ジーン・スマート『Hacks』未上陸
助演男優賞
ブレット・ゴールドステイン『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』Apple TV+
助演女優賞
シェリル・リー・ラルフ『アボット・エレメンタリー』Disney+
ゲスト男優賞
ネイサン・レイン『マーダーズ・イン・ビルディング』Disney+
ゲスト女優賞
ローリー・メトカーフ『Hacks』未上陸
リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門
主演男優賞
マイケル・キートン『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』Disney+
主演女優賞
アマンダ・サイフリッド『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Disney+
助演男優賞
マレー・バートレット『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』U-NEXT
助演女優賞
ジェニファー・クーリッジ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』U-NEXT
監督賞
ドラマ部門
ファン・ドンヒョク『イカゲーム』Netflix
コメディ部門
MJ・デラニー『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』Apple TV+
リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門
マイク・ホワイト『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』U-NEXT
脚本賞
ドラマ部門
ジェシー・アームストロング『メディア王~華麗なる一族~』U-NEXT
コメディ部門
クインタ・ブランソン『アボット・エレメンタリー』Disney+
リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門
マイク・ホワイト『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』U-NEXT
その他(一部抜粋)
最優秀声優賞
チャドウィック・ボーズマン『ホワット・イフ…?』Disney+
最優秀ナレーター賞
バラク・オバマ『グレイト・ナショナルパーク 驚きに満ちた世界』Netflix
最優秀タイトルデザイン賞
『セヴェランス』Apple TV+
最優秀楽曲賞
『シュミガドーン!』"Corn Puddin'" Apple TV+
最優秀テーマ曲賞
『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』U-NEXT
最優秀VFX賞(シーズン)
『ボバ・フェット』Disney+
最優秀VFX賞(エピソード)
『イカゲーム』第7話「VIPたち」Netflix
最優秀スタント賞
『イカゲーム』Netflix
受賞作品紹介
『メディア王~華麗なる一族~』
ドラマ部門 作品賞、助演男優賞、脚本賞
配信:U-NEXT
世界的メディア企業の次期CEOをめぐるドロドロの後継者争いを描く。会話劇がメインではあるものの、盛りだくさんの風刺ネタとブラックジョークには笑いが止まらず、駆け引きと裏切りのストーリー展開に目が離せません。シーズン2に続き、シーズン3でもドラマ界最高の栄誉を獲得したのも納得。
『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』
コメディ部門 作品賞、主演男優賞、助演男優賞、監督賞
配信:Apple TV+
サッカーのことを全く知らないアメリカのアメフトチームの監督が、イギリスのサッカーチームの監督をすることになってしまうコメディドラマ。メンタルヘルスを一つのテーマとしており、主人公のテッド・ラッソは、選手一人一人に寄り添うことで最大の能力を引き出していく。シーズン1に続きシーズン2でも作品賞を受賞。
『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』
リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門 作品賞、助演男優賞、助演女優賞、監督賞、脚本賞
ハワイのリゾートホテルにやってきた観光客たちと現地のホテル従業員たちの視点から現代の格差社会を風刺するブラックコメディ。観ているだけで本当にリゾート気分が味わえてしまう映像や音楽にも注目。2022年放送予定のシーズン2では、シーズン1とは異なる登場人物たちがシチリアのホテルを訪れる。
『チップとデールの大冒険 レスキュー・レンジャーズ』
テレビ映画 作品賞
配信:Disney+
同名アニメシリーズの32年ぶりの続編。アニメキャラクターと人間が共存している(1988年の『ロジャー・ラビット』のような)世界で、かつて人気に出演して人気を得ていた俳優のチップとデールの活躍を描く。メタ的なストーリーや有名映画のパロディが多く含まれ、映画ファンから絶賛された。なお、エミー賞のテレビ映画部門でアニメ作品が受賞するのは史上初。
『ARCANE:アーケイン:League of Legends』
アニメ部門 作品賞
配信:Netflix
Netflixオリジナルのアニメシリーズ。人気ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』が原作になっているが、オリジナル設定が非常に多いので、原作の知識ゼロでも全く問題ない。3DCGによる革新的な映像やスチームパンクな世界観、姉妹の確執をめぐる熱いストーリーが大きな話題になり、全世界で大ヒットを記録。アニー賞ではノミネートされた全9部門受賞を果たし、名実ともに今最も注目されているアニメシリーズになった。シーズン1は全9話。シーズン2は2022年内に配信予定。
『ラブ、デス&ロボット』
短編アニメ部門 作品賞
配信:Netflix
デヴィッド・フィンチャーとティム・ミラーが製作総指揮を務めるNetflixオリジナルの短編アンソロジーアニメシリーズ。今回の受賞対象となったのは、シーズン3の「彼女の声」。一見すると実写かと見間違えそうな映像が特に高く評価され、話題にもなった。
『ザ・ビートルズ: Get Back』
ドキュメンタリーシリーズ部門 作品賞
配信:Disney+
イギリスの伝説的ロックバンド「ザ・ビートルズ」の未公開映像を含むドキュメンタリーシリーズ。ピーター・ジャクソン監督。本来は映画になる予定だったが、最終的に全3部、合計8時間のシリーズになった。フィルムからリストアされた貴重な映像を6時間以上含んでいる。一部では劇場公開もされた。
感想~エミーの壁~
ここからは個人の感想です。U-NEXTで、エミー賞授賞式を一通り観ました。ハイライトは、何と言っても『アボット・エレメンタリー』で助演女優賞を受賞したシェリル・リー・ラルフの熱唱。鳥肌ものでした。『メディア王~華麗なる一族~』のマシュー・マクファディンと『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』のアマンダ・サイフリッドの演技も個人的にとても好きだったので、受賞は嬉しかったです。
Netflixの『イカゲーム』は世界的に大ヒットしていましたが、他のノミネート作品と比べると批評面での評価がやや厳しかったため、2部門(主演男優賞、監督賞)での受賞は快挙。私自身は、デスゲームものが苦手すぎて未見ですが。新作コメディ『アボット・エレメンタリー』が助演女優賞と脚本賞で受賞したのも快挙。欲を言えば、もう少し受賞できそうな部門もあったのですが、エミーの壁に阻まれてしまいました。
「エミーの壁」というのは私の造語ですが、これは近年のエミー賞に非常に顕著な2つの特徴を指しています。一つ目は、連続受賞の多さ。エミー賞は、同じ俳優や作品が連続受賞することはとても多いです。今年のドラマ部門とコメディ部門の主要計14部門のうち、過半数の8部門が前シーズンと同じ受賞者です。『メディア王』と『テッド・ラッソ』は面白いし、ゼンデイヤもジュリア・ガーナーも素晴らしいのだけど、マンネリを感じざるを得ません。
もう一つの特徴が、一部の作品に受賞が集中してしまうことです。今回、ドラマ・コメディ・リミテッドの主要計21部門で、名前が挙がったのは10作品。『メディア王』『テッド・ラッソ』『ホワイト・ロータス』の3作品を合わせるだけで、過半数の12部門になります。
特に、リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ部門は、ノミネート段階から『ホワイト・ロータス』関係者の名前ばかりが上がっています。対抗馬と目されていた大傑作『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』は、主演男優賞のマイケル・キートンの受賞のみに留まっています。私の意見としては、『ホワイト・ロータス』は別に観ても観なくても良いですが、『DOPESICK』はぜひとも観ていただきたいです。
この2つのエミー賞の特徴、いわゆるエミーの壁のせいで、新作や過去に受賞を逃した作品の受賞は困難になっています。エミーの壁の主な原因は、エミー会員が限られた一部の作品しか観られていないことにあると言われています。過去の受賞作品なら後からでも作品をチェックしますが、そうでなければ後回し。近年はドラマ自体の作品数も増えており、エミー会員であってもノミネート作品をすべて観られていません。結果として、前年覇者や批評家の間で話題になった一部の作品に票が集まりやすい状況が出来上がっています。
エミーの壁の解決法は私には思いつきませんが、この状況が変わらないならば、エミー賞は近いうちに同じ作品ばかりに延々と賞をあげつづけるナンセンスな賞になるでしょう。