You have to treat these people like sensitive children.
- Armond, The White Lotus season 1
海外旅行に行きにくい昨今。とりあえず海外ドラマだけでも、リゾート気分を味わうのも良いかもしれません。U-Nextで独占配信中の『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』は、そんなときにまさにうってつけ。近年のアメリカ事情に対する風刺を交えながら、魅惑的なハワイのリゾートを覗いてみましょう。
ドラマ『ホワイト・ロータス』基本データ
・原題:The White Lotus
・製作:HBO
・放送年:2021年
・話数:6
・監督-脚本:マイク・ホワイト(映画『スクール・オブ・ロック』脚本)
・あらすじ:
ハワイにあるリゾートホテル「ホワイト・ロータス」に3組の客がやって来た。休暇を楽しみに来た彼らは、ホテルでの7日間の滞在を通して何かを悟るのかもしれない。
・予告編:
『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』シーズン1は、U-Nextで独占配信中。
登場人物
モスバッカー家
成功した実業家のニコール、その夫のマーク、娘のオリビアとその友人のポーラ、息子のクインの5人組。夫のマークは、父親がバイセクシャルだったことを知り、大きなショックを受ける。ニコールは、休暇中も仕事をしがち。ポーラは、現地のカイと仲良くなる。が、オリビアはその関係を邪魔しようとする。ゲームに夢中だったクインは、ビーチで寝る羽目になったことで、自然の雄大さを知る。
パットン夫妻
裕福な育ちでマザコンのシャノンと、妻になったばかりのレイチェルの新婚夫婦。シャノンの母親が予約した部屋と違う部屋をあてがわれたことで、シャノンは支配人にクレームを言い続ける。自称ジャーナリストのレイチェルは、キャリアを諦めろと言わんばかりの夫に不安を覚える。
タニヤ・マックワッド
無気力な独身女性。ベリンダのマッサージに大層感動し、ベリンダと仲良くなろうとする。ベリンダが起業するなら投資しても良いと言う。後に、隣室にやって来たグレッグと関係をスタートさせる。
アーマンド
ホテルの支配人。新人のラニの出産に動揺し、クレーマーのシャノンにイラつく。オリビアが落としたバッグに入っていたドラッグでハイになり、5年間の禁酒も解禁。
感想・解説(ネタバレ)
①リゾートホテルへようこそ
正直、観始めたときは、このドラマがどんなものなのかさっぱりでした。最初に、棺桶が映るので、どうやら最終話までには誰かが死ぬようです。シャノン(ジェイク・レイシー)という男が「新婚旅行で来たが、妻はここにはいない」と言っていたので、死んだのはレイチェル(アレクサンドラ・ダダリオ)なのかな?と想像してみたり。
しかし、物語本編が始まってからは、全く人が死ぬような雰囲気がありません。ひたすら、ハワイのリゾートホテルの光景が流れます。良いなぁ。こういうリゾート行ってみたいなぁ、と思います。特に、ここ数年はコロナ禍で海外にほとんど行けない状況なので、なおさら。
しかも、皆さんお洒落で美しい。特に、レイチェル、オリビア(シドニー・スウィーニー)、その友人のポーラ(ブリタニー・オグラディ)ですよ!3人とも、今をときめく人気女優です。そのファッショナブルでセクシーな出で立ちには、惚れ惚れします。
まるでリゾートホテルのPRビデオのような映像がたくさんあります。良いなぁ、良いなぁと何度思ったことか。こういうところに新婚旅行で行ってみたいよね、なんて考えたりもします。
②新婚夫妻の受難
新婚のパットン夫妻は、昼も夜もさぞかし充実した日々を過ごしているのかといえば、徐々に2人の間には暗雲が立ち込めます。事の始まりは、ホテル側による部屋の手配ミス。それ自体は確かにホテルに文句を言っても良い事案ですが、さすがに程度というものがあります。妻のレイチェルは、現状の部屋で十分満足しているんだから。
夫のシャノンによるクレームは、どんどんエスカレート。対抗する支配人のアーマンド(マレー・バートレット)も新婚旅行を台無しにしてやろうと、タニヤ(ジェニファー・クーリッジ)が散骨する船に同乗させたり、シャノンの母親を呼んできたりします。
シャノンはついに、支配人をクビにすることに成功します。クレーマーもここまでくるとヤバすぎる。アーマンドは、支配人としての最後の晩は”うん”と頑張ったのですが、パイナップルナイフを刺されてしまいます。残念。
すっかり置いてけぼり状態のレイチェル。裕福とは言えない家庭から、それなりに頑張って、今では自称ジャーナリストです。シャノンは、レイチェルのクズみたいな仕事なんか辞めて、裕福な自分に頼って暮らせば良いじゃないかと主張します。
他人から見れば大したことはないキャリアかもしれないけど、これはレイチェル自身が築いてきたもの。他人に頼って暮らす人生では満足したくありません。自分をセックスの相手として、すなわちトロフィーワイフとしてしか見ていない夫との結婚は間違いだったと気づきます。
そのことを、レイチェルは最後の夜にベリンダ(ナターシャ・ロスウェル)に相談します。ホテルのスパで働くベリンダは、客のタニアをマッサージで感動させたことから、出資しても良いというオファーを受けていました。ホテルから独立する夢を見始めたベリンダは、頑張って立案書を書いて提出しました。しかし、タニアは「他人に出資をすることでは自分が幸せになれない」という自己本位な考えに変わり、出資のオファーを取りやめました。
レイチェルのキャリアの悩みを聞いたベリンダは、そんなことは勝手にしろという思いです。あなたは今は裕福な白人なのだから、好きなことが出来るでしょ。キャリア復帰のチャンスだって、いくらでもあるんでしょ。そんな贅沢な悩みを私に聞かせてどうしたいんだい?、と。現時点で裕福とは言えず、一生に一度かもしれないチャンスを白人の自分本位な思想で潰されたベリンダからすれば、そうとしか思えないのです。
③裕福な白人は悪人なのか?
モスバッカー家も裕福な白人家庭です。そもそも、リゾートホテルに来る客は大体Rich White Peopleです。妻ニコール(コニー・ブリットン)と夫のマーク(スティーヴ・ザーン)は、白人、特に白人男性にとって生き辛い世の中になったと、誰にも共感されない嘆きを言っています。
マークは、当初は自分が精巣ガンではないかと思っていたので、妻に自分のペニスと睾丸を見せます。日本では、たとえR18だとしても性器を直接映すことは禁止されているので、このシーンでもモザイクが掛かっています。アメリカのHBOでは、そのまま放送されました。でも、ご安心を。作り物のペニスだったそうです。
実際にはマークはガンではなかったのですが、このことがきっかけで、父親がバイセクシャルだったと知り、大ショックを受けています。ホモフィビア(同性愛嫌悪)発言をしまくるものの、妻のニコールは、家庭内で思う存分ぶちまけるなら良いじゃないかと言います。
娘のオリビアは、そんな両親に皮肉をよく言っています。それでも、彼女も両親の裕福さのもとにいることに変わりありません。友人のポーラいわく「なんでも自分のものだと思っている」ので、ポーラの彼氏も奪おうとします。オリビアは、口では白人であることの特権性を知ったようなことを言っていますが、その自覚はないようです。
風刺満載のこのドラマでは、ある疑問を提起します。過去から現在に至るまで、白人が特権的な立場にあるのは確かです。ハワイのリゾートが、現地民を搾取することで作られたのも確かです。しかし、本当に善良な人だったとしても、特権的な裕福な白人たちは質素に暮らすべきなのでしょうか?帝国主義時代のことで責められるべきなのでしょうか?
この世界には、答えのない疑問や答える必要のない疑問があります。この疑問は、後者です。そんなこと、知ったこっちゃないのです。もっと重要な解決すべき問題はいくらでもあるのだから、白人たちのどうでも良い疑問は、彼らで勝手に悩んでいれば良いのです。
総評
最初はどんなドラマかさっぱり分からなかった『ホワイト・ロータス』ですが、どうやらこれは強烈な風刺ドラマだったようです。映像はリゾートホテルの雰囲気満点なので、眺めているだけでも楽しいのですが、中身には意外と棘があります。
とはいえ、日本に住んでいる日本人にとっては、その真意が伝わりにくいのかもしれません。個人的に風刺は好きなので、面白いドラマだと思って観ていましたが、単にリゾート気分を味わうだけでも十分だと思います。
なお『ホワイト・ロータス』は本来、1シーズンで完結するリミテッドシリーズとして製作されましたが、人気が出たのでシーズン2の製作が決定しました。ただし、ドラマは『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』や『FARGO/ファーゴ』と同様のアンソロジーシリーズになり、シーズン2の舞台や登場人物はシーズン1とは独立したものになる予定です。