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海外ドラマ『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』感想|巨大企業詐欺の真相

Do or do not. There is no try.

- Yoda

 

 人々に安価な医療検査の機会を与えると期待されたシリコンバレーの企業「セラノス」は、実は巨大な詐欺であったことがわかり崩壊しました。ディズニープラスで配信中の『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』は、若くしてセラノスを創業し、将来有望な女性CEOとして注目されていたエリザベス・ホームズが主人公のドラマです。今回は、ネタバレも含めてこのドラマの感想をまとめていきます。

 

 ドラマ『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』は、ディズニープラスで独占配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

 

 

基本データ

  • 原題:The Dropout
  • 製作:Hulu(日本ではディズニープラスで配信)
  • 原作:ABCニュースの同名ポッドキャスト番組
  • 公開時期:2022年3月3日~4月7日
  • 話数:8
  • 脚本:エリザベス・メリウェザー(ドラマ『New Girl/ニュー・ガール』)
  • 主演:アマンダ・サイフリッド
  • あらすじ:エリザベス・ホームズがCEOを務めたシリコンバレーの医療関連会社「セラノス」の詐欺事件の全貌を描く。

予告編

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感想

 誰にでも分け隔てなく平等な医療が受けられることを目指す。そのために、血液を一滴採取するだけであらゆる検査をすることができるデバイスを作る。エリザベス・ホームズのその志は本物だったと信じています。ただし、同時にお金を稼ぐことと成功を掴むことへの執着も強く、やがてシリコンバレー最大の詐欺事件を起こすことになります。

 

 エリザベス・ホームズが最初に詐欺的行為を行ったとされているのは、試作品のデモのときでした。実験室では成功したものの、海外に持ってきたときに故障してしまい、直すことができませんでした。そこで、エリザベスは後に完成すれば良いだろうと考え、デモのときには過去の成功データを使って誤魔化しました。

 

 これ以降の詐欺的行為のほとんども、この考えに基づいてやっています。つまり、今はできないけど、いずれ完成させられる技術だから、とりあえず誤魔化しておこうというわけです。

 

 シリコンバレーの企業のCEOは、自らの画期的なビジョンを示して、そこに人々を向かわせるのが仕事です。エリザベス・ホームズは、自分のビジョンに固執し過ぎて、実際の研究の状況をろくに理解していなかったんじゃないかと思います。あるいは、受け入れられなかったのか。「血液一滴だけであらゆる検査ができる小型デバイス」というビジョンは19歳のときにすでに作り上げられており、10年以上に渡ってセラノスはこの目標に向かって進んできました。

 

 エリザベスは、このスローガンを何度も繰り返していたことで、自己暗示にかけられたような状態になっています。科学的にそんな技術が不可能であると言われても、もう成功を信じ込んでいるのでどうしようもありません。成功が確約されていると思い込んでいるので、一時的な措置として虚偽のプレゼンをしたり、患者に誤ったデータを渡すことになっても罪悪感はありません。

 

 エリザベス・ホームズが主犯格とは言え、セラノス事件のすべての原因が彼女にあるとは思えません。長年のパートナーであったサニー・バルワニを始め、側近たちがエリザベスの暴走を止められなかったのもまずい。エリザベスに反対したらクビにされるので、結果的にイエスマンしか残らないのはわかりますが、サニーはどうにかしなければいけなかった。

 

 ガチガチの警備と弁護士軍団を擁するセラノスに対して内部告発を行ったエリカ・チャンとタイラー・シュルツの勇気には拍手。なかなかできるものではありません。

 

 一方で、リチャード・フース博士もセラノスを告発した側の人間ですが、どうも嫌な感じがします。「エリザベスが一度でも特許をくれと頼みに来たらすぐにくれてやったよ」とか言っちゃって、エゴ丸出しなんですよね。最終的には勝利したものの、妻にも隣人にも見放されて孤立してしまったフース博士に対しては、あまり同情したくなくて複雑な気持ちになります。

 

日本のある事件との類似

 自分は、このセラノス事件の顛末を観て、日本のある事件を思い出していました。STAP細胞事件です。こっちはアカデミックの世界で、あっちはビジネスの話という違いはあるにせよ、事件の性質は似ています。小保方晴子は、STAP細胞の発見で一躍有名になり、女性理系研究者の鑑として世間から注目を浴びました。後に論文の不正が発覚しても、小保方さんはSTAP細胞が存在すると信じ続けていました。

 

 両事件は、悲劇的な側面でも共通しています。セラノスでは、主任研究員だったイアン・ギボンズが、特許係争中に証言を求められているときに自殺しました。STAP細胞事件では、論文の共著者だった笹井先生が事件の最中に自ら命を絶ちました。研究者としての倫理をよく理解している人ほど追い詰められて大きなストレスを抱えてしまい、このような結末を迎えてしまうのかもしれません。

 

 STAP細胞事件の場合は、臨床段階に至ることはなく、実際に被害を受けた人もいないので、メディアの過熱報道が事件を悪化させたようにも思います。一方、セラノス事件は実際の被害者がいて規模も全然違うので、メディアが大々的に取り上げるのもわかります。そうは言っても、エリザベス・ホームズが若い女性CEOだったことから、セラノス社よりもCEO個人に異様に注目が集まっているような気がしなくもありません。

 

シリコンバレーの失敗

 2022年に入り、大きな失敗をしたスタートアップ企業をテーマにした海外ドラマが相次いで公開されました。一つ目が、医療会社セラノスの詐欺事件を描いた『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』。二つ目が、コワーキングスペースを提供する企業WeWorkの失敗を描いたApple TV+のドラマ『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』。3つ目が、配車サービスを提供するウーバーの失敗を描いた『Super Pumped: The Battle for Uber』(U-NEXTで配信予定)です。

 

 これらの企業は、世界を変えるだろうと期待されていたものの、大失敗をしました。その失敗とは何だったのか、その原因はなんだったのかは、それぞれのドラマを観ていくことで知ることができます。そこには少なからず共通点があるはずです。

 

 2022年は、シリコンバレーも転換期を迎えています。2月にはメタ(旧フェイスブック)の株価が急落、4月にはネットフリックスの株価が急落しました。FANGと呼ばれるシリコンバレーの大企業のうちの2つが苦戦しています。そんな現在の状況も踏まえて、3つの企業のの失敗の原因がCEO個人だけにあるのか、それともシリコンバレーの気質やビジネスモデルが背景にあるのではないか、と考えてみても良いと思います。

 

 セラノスの場合は、虚偽の試作品でプレゼンを行っているので、CEO個人の責任はかなり重いです。ただし、そんなエリザベス・ホームズに騙されて金を出したのは、ベンチャーキャピタルなどの投資家です。ラボの視察をきちんと行ったり、実用品の完成をせかしすぎないなど、投資家にも対策はできたんじゃないでしょうか。

 

↓ドラマにも登場したウォール・ストリート・ジャーナルの記者ジョン・キャリールーによる著書『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相』

 

総評

 最後にドラマとしての『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』の評価を少し書いておきます。特筆すべきは、主演のアマンダ・サイフリッドの演技です。自分は未だに『ミーン・ガールズ』や『マンマ・ミーア』のような明るくてキラキラした役の印象が強かったのですが、今回は全然違います。ときに情熱に燃え、ときに追い詰められる若きCEOを熱演しています。

 

 アマンダ・サイフリッドの見た目はさほどエリザベス・ホームズに似ていませんが、声はだいぶ似せていました。エリザベス本人のインタビュー動画などを見てみると、実際にあんな感じの低い作り声で喋っています。

 

BBCニュースの報道

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 内容は実話ベースなのでさほど言うこともないのですが、良かったと思います。エリザベス・ホームズがなぜ不正をするようになったのか丁寧に描かれていました。エリザベスに共感はしないとしても、背景は理解できましたし、ドラマとしてとても面白かったです。

 

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