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ドラマ『メディア王~華麗なる一族~』シーズン3ネタバレ感想

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I’m just really happy in my headspace, and I hope they’re happy in theirs.

- Kendall Roy, Succession season 3

 

 先ほど『メディア王~華麗なる一族~』シーズン3を観終わったばかりなのですが、まず言わせてください。圧倒されています。これはとんでもない。これほど凄いものが生まれてしまうとは。間違いない。これは、現代最高峰のドラマであり物語であり芸術です。

関連記事 ドラマ『メディア王~華麗なる一族~』シーズン4ネタバレ感想 - 海外ドラマパンチ

 

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基本データ

  • 原題:Succession
  • 放送局:HBO
  • 放送期間:2021年10月17日~12月12日
  • 話数:9
  • クリエイター:ジェシー・アームストロング
  • キャスト:ブライアン・コックス、ジェレミー・ストロング、キーラン・カルキン、サラ・スヌーク
  • 予告編:

    www.youtube.com

 海外ドラマ『メディア王~華麗なる一族~』全4シーズンはU-NEXTで独占見放題配信中。なお、以前は『サクセッション』または『キング・オブ・メディア』というタイトルのときもありました。

 

ネタバレ感想

第1~2話:選択のとき

 シーズン3は、前シーズン最終話の会見の直後からスタートします。ケンダルは、グレッグから証拠書類を受け取り、ウェイスター・ロイコの違法行為を大々的に告発しました。第1話と第2話は、ケンダルによってもたらされた大混乱の最中での話です。ケンダル側かローガン側か。関係者は選択を迫られます。

 

 ローガンは、自分がCEOを退く意志があることを認め、次期CEOの候補としてシヴ、ローマン、ジェリーの名前を挙げます。家族ならシヴかローマン、経歴ならローマンかジェリー、女性ならジェリーかシヴ。どの候補もどこか短所があるので、決めきれません。飛行機での協議の結果、ひとまずシヴということになります。

 

 しかし、シヴは弁護士の取り込みに失敗。CEOの座はジェリーに移ります。この情報がリークされてニュースにもなったので、ジェリーは自分の名前が載っているテロップを記念にパシャリ。シヴは、悔しさに身を震わせます。

 

 その後、シヴ、ローマン、コナーの3人はケンダルのもとへ。ケンダルは、兄妹で協力して会社を変革させていこうと提案します。ケンダルにとって、この行動はお金のためではなく、社会的な善のためなのです。少なくとも口ではそう言っており、ケンダル自身もそう信じています。

 

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 ケンダルの説得を聞いて、シヴはちょっと気持ちが揺らぎ、ローマンも3人兄妹での共闘なら見込みがあるかもしれないと思い始めます。しかし、ローガンからドーナツが送られてきたことで風向きは変わります。ローガンの存在を改めて感じた2人は、ローガン側に付く意志を固めました。

 

第4~5話:老いぼれが世界を回す

 第4話では、ケンダルとローガンは一緒に大株主のジョシュ(エイドリアン・ブロディ)のもとを訪れます。ケンダルがごたごたを起こしている間にも、スチューイとサンディによる委任状争奪戦は進んでいるので、大株主の票は確実にしておかなければいけません。ジョシュは不安を口にしています。親子でこんなことをやっていて会社は大丈夫なのか。自分だってそんなに危ない賭けには出たくないと。そりゃそうです。

 

 海辺でのランチで、ローガンは安心してくれと断言します。ケンダルとも上手いようにやるからと。その後に、1分ぐらい無言のシーンがあり、ケンダルとローガンは互いの真意を図り合っています。この演技は鳥肌ものです。そこまでのストーリーの上手さもありますが、この2人(ジェレミー・ストロングとブライアン・コックス)だからこそ成立した場面でしょう。

 

 第5話は株主総会。ロイ家vsスチューイ&サンディの対決がついに終結します。とは言っても、投票をしたわけではありません。委任状闘争はほぼ五分五分までもつれ込んでいるようで、どちらの陣営にとっても結果が見えません。双方とも、なんとか交渉をまとめようとしています。

 

 しかし、そんな重大な日にローガンは体調を崩し、訳の分からないことを口走り始めます。サンディの方も、車椅子に乗っていて、しゃべるのもままなりません。彼の意見は娘によって代弁されるので、もはや本当に彼の意思なのかどうかも疑わしい。世界規模の巨大メディア企業の命運が、まともに話すこともできない2人の老人に掛かっているとは。なんともはや。

 

 そこで、しゃしゃり出てきたのがシヴ。この機に乗じて、自分に有利な形で交渉を決めてしまおうと、サンディの娘に声を掛けます。サンディの娘のために取締役の席を1つ、そして自分のためにも席を1つ増やすと提案したのです。結果的に、交渉はこれで片付きました。でも、ローガンはひどく気分を害され、以降、わざとシヴを会議に呼ばなかったり、シヴを冷遇することになります。

 

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「あれは空想の猫だよ。そんなことより、どっか行ってくれる?」

 

第6話:世界を牛耳るのは誰?

 第6話は共和党の集会です。ここで、改めて『メディア王』というドラマが現実の何を風刺しているのかをおさらいしておきます。ローガン・ロイのモデルとなっているのは、間違いなくルパート・マードックです。ルパート・マードックは、テレビ局のFOXや新聞社のニューヨーク・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルなどを傘下に持つニューズ・コーポレーションの創業者。現実にメディア王と呼ばれています。

 

 ルパート・マードックの政治的スタンスは保守派であり、ドナルド・トランプ元大統領と仲が良いことも知られています。また、FOXニュースやニューヨーク・ポスト(ワシントン・ポストではありません)の報道も、基本的には保守寄りとされています。

 

 ロイ家も保守派で、共和党支持です。大統領の”レーズン”もローガンと仲が良かったのですが、会社の捜査に関して何も便宜を図ってくれないので、圧力をかけるためにATNニュースで大統領の健康問題を報じます。すると、大統領の支持率はあっという間に下がってしまい、次期大統領選への出馬を断念してしまいました。

 

 ロイ家としても、それは困ります。せっかく仲が良い大統領だったのですから。そこで、今回の集会で次期選挙での候補を選ぼうというわけです。本来は、共和党内から数人の候補者が出て、党員による予備選挙を経てから最終的な共和党としての大統領候補が決まるのですが、そんなことは関係ありません。ローガンが誰か選んで、ATNがその候補者にとって好意的な報道をすれば、もうその人に決まりです。FOXニュースは、CNNを超えるほどの視聴者数を持っていますから。

 

 はたしてルパート・マードックがそれほど大きな力を持っているのかは知りませんが、ローガン・ロイは持っています。たぶんローガンにとっては、自分の頼みを聞いてくれて、テレビ映りが良い候補者ならば誰でも良いのです。そこで選んだのが移民排斥を唱え、ヒトラーを引用することも厭わない、極右思想の候補者でした。

 

 こんなことがまかり通っているとするなら、民主主義とは一体何なのだ?と言いたくなります。おそろしい。とは言え、これはあくまでも風刺ですから、実際にはそんなことはないでしょう。そうとでも思っておかないと安眠できません。

 

トムとグレッグ①

 そんな最中、不安で仕方ないのがトム・ワムズガング。自分は刑務所に行くことになるんだと諦め、ローガンにも自分が身代わりになって良いと伝えています。刑務所のことを調べまくっています。元部下のグレッグも、ケンダルを裏切ったことで、生贄に差し出すかもしれないと脅されています。そんな2人は妙に意気投合しています。

 

 トム&グレッグの関係は、いつだって素晴らしいものです。グレッグは、以前は遊園地の着ぐるみでゲロを吐いているような生活をしていました。そんなグレッグのことを、トムは常に気にかけ、富裕層の生活を教えてあげたのです。リッチな人々は、犬のウンチ袋にクッキーを入れず、座るときは他人の背中に足を置くんだよと。優しいではありませんか。これぞパワハラ上司のお手本です。

 

 トムは、グレッグに対して「君を去勢して結婚したい」とまで言っています。なんとロマンチックな。グレッグが、ケンダルの助手のコンフリーを好きになったときも、それはやめとけよと助言しています。コンフリーは立派すぎて、グレッグとは釣り合わないからと。でも、本当はトムはもっとグレッグと一緒に過ごしていたいだけなんです。グレッグとトムの距離が離れそうになるたび、彼は悲しそうな目をしています。

 

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第8~9話:裏切りのトスカーナ

 第8話と第9話の舞台はイタリアのトスカーナ地方。ケンダルたちの母親のキャロライン・コリングウッドが再婚するので、その結婚式に出席するために一家揃ってやってきました。この頃、会社はルーカス・マットソン(アレクサンダー・スカルスガルド)が創業したIT企業GoJoの買収を計画していました。GoJoはニュース配信や賭博などができるアプリで非常に勢いがあるようです。例えるなら、Yahoo!アプリみたいなものでしょうか。Yahoo!アプリは、Yahoo!ニュースはもちろん、Gyao!で動画配信、スポーツくじのtotoも扱っています。

 

 これまで、父親からの寵愛を上手いように得てきたローマン。ケンダルのように裏切ることはなく、シヴのように自己主張も強くありません。加えて、ふざけているようで気さくな人柄からか、IT系の若いCEOたちと良好な関係を築いています。ルーカスとの交渉でも重要な役割を果たし、今では父親のナンバーワン・ボーイになっています。

 

 しかし、ここで大失態をやらかします。ジェリーに送るつもりだった自分のイチモツの写真を間違って父親に送信してしまいました。しかも会議中に。呆れ返り、怒るローガン。シヴは、すかさずローマンへの不安を表明します。ジェリーにも声を掛け、セクハラとして人事部に訴えた方が良いのではないかと助言しています。ライバルの足を引っ張ることにかけては抜け目ありません。

 

 ケンダルは裏切り者、ローマンは性的倒錯者、シヴは暴走しがち。自分の子供たちにすっかり失望してしまったローガンは、マットソンから持ち掛けられた買収に合意します。他社、特に若いIT企業に買収されたら、家族経営ではなくなり、会社は完全に実力主義となるでしょう。ローガンの子供たちは、重役に就くことはもちろん、社内に残れるかどうかも怪しいものです。

 

 それなら、3人で共闘路線を敷くしかありません。すっかり戦意を喪失してしまったケンダルを再び奮い立たせ、3人兄妹で父親のもとに向かいます。切り札は、キャロラインが離婚調停の際に出していた条件。これによれば、3人の子供たちの支持がなければ、買収は成立しないそうです。

 

 ローマンは、最後まで渋っていました。マットソンとそれなりに良好な関係を築いており、そもそもこれまで父親に歯向かったことなどありません。シーズン1第6話で、ケンダルが父親の不信任決議を出したときも、事前にはケンダル側に付いていたものの、ローガンの目の前では情けなく手を下げてしまいました。でも、今回は違います。勇気を振り絞って、父親に立ち向かいます。

 

 3人揃ってローガンに立ち向かったとき、しかしながら、勝つのはやはり帝王ローガン。百戦錬磨のメディア王ローガン・ロイには、ある伏兵がいました。彼の名はトム・ワムズガング。彼が事前に兄妹の切り札を伝えていたため、ローガンはキャロラインと交渉して離婚調停の件を解決してしまいました。

 

トムとグレッグ②

 トムは、刑務所行きの不安とは別に、妻シヴとの関係を常に不安に感じていました。トムを今の地位に留めているのは、シヴ・ロイの名前があってこそです。もし、シヴに捨てられてしまったら、もうおしまいです。単なる男です。仕事ができるのかどうかもわかりません。だから、やたらとシヴとの子供を欲しがっています。子供がいれば、ロイ家との繋がりをさらに強固なものにできるはずだからです。

 

 一方のシヴは、ときどきトムを愛していないと発言します。シヴは、トムが刑務所行きになってしまうと話してもろくに相手にしていません。他人のことを1ミリも気にかけないのがシヴらしいところなのですが、パートナーのトムとしては真意がわからず、一緒にやっていくのは大変です。そこで、トムはシヴに頼らない別の手段を探り始めました。自ら刑務所行きを買って出たのも、その一つ。その結果、刑務所にも入らずにローガンからの信頼を勝ち取れたようです。

 

 このタイミングで、シヴから兄妹共闘の作戦を聞かされます。もはやシヴを介した繋がりに期待できなくなっていた折でのチャンスだったので、グレッグを誘ってローガン側に寝返りました。トムとグレッグの長身コンビは、ここに来てローガンの伏兵として名乗りを上げたのです。

 

 グレッグは、完全に調子に乗っています。コンフリーじゃ駄目だと言い出し、今度はルクセンブルクの王位継承順位8番の貴族を口説いていきます。シーズン1でローガンのスリッパを探していた頃とは大違いです。シーズン3に入ってからは、ローガンもグレッグのことを認識している節がありました。グレッグにコーラを注ぎ、大統領候補を決めるときにもグレッグに意見を聞いていました。裕福であることの味を知り、ローガンからの信頼を現実的に得られる立場になったグレッグは、悪魔と契約を結んだのでした。

 

総評と補記

 2021年10月~12月にアメリカでシーズン3が放送されていて、いくつか評判を読んでいたところ、どうやら凄いシーズンだったらしいというのはわかりました。期待は高まるばかり。日本に上陸するまで2ヶ月、あらゆる手段を用いてネタバレを回避し、ついに観ることができました。聞きしに勝るとてつもないシーズン。シーズン2で一気に現代最高峰のドラマとなった『メディア王』は、シーズン3でもそのクオリティを維持し、最終話でさらに超えていきました。人が死なないのに、こんなにスリリングなドラマは他に観たことがありません。

 

 語りたいことはすでに5,000字かけて書いてきたのですが、まだまだあります。蛇足っぽいですが、いくつかさくっと触れていきます。まずは、コナー。コナー・ロイは、若い頃から政治に興味を持っていた、とよく自分でも語っています。本気で大統領選に出馬するつもりですが、ローガンから支持を得られなかったので、もうおしまいです。会社に入って経験を積みたいと言っても、誰も耳を貸しません。そもそも、ケンダルは自分が長男だと言っていますが、本当の長男はコナーです(ただし、ケンダル、ローマン、シヴの3人とコナーの母親は違います)。

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 自分のことを全く気にもかけない家族に愛想を尽かし、コナーはみんなのもとを離れていきます。別に、三兄妹はコナーのことなどはなから気にしていなかったので、コナーが離れていったことにすら気づかないかもしれませんが。でも、コナー自身はウィラとの結婚が決まり、実はロイ家の中で一番幸せに近いように見えます。いつだかケンダルが「俺の脳内世界はハッピーだ」みたいなことを言っていましたが、本当にハッピーなのはコナーの方でしょう。

 

 もう一つだけ。このドラマは、第6話を筆頭に、保守派への皮肉が強い作品のように見えます。実際そうなのですが、リベラルへの風刺も含まれています。社会の善のために、保守的な企業への告発をしたケンダルは、リベラルに近い存在です。第8話ではひたすら自分が善人であり、父親こそが悪人であると繰り返していました。自分だって人を見殺しにしたくせに。

 

 つまり、自分がやっていることが社会的な正義であると信じて、相手を心ゆくまで攻撃し、自分の悪い部分は見て見ぬふりをしているのです。なんと壮大なマスタベーションであることか。それでも、ケンダルの行動は立派だと思いますけどね。Twitterでただ政治や社会への不満をつぶやくだけで政治参加をした気分になっている人も多い世の中で、経歴に傷があったとしても実際に行動に移した勇気は称えるべきでしょう。

 

 なお『メディア王』はシーズン4の制作がすでに決定。放送時期などはまだ未定です。

追記:ファイナルシーズンとなったシーズン4の感想は以下の記事で。

ドラマ『メディア王~華麗なる一族~』シーズン4ネタバレ感想 - 海外ドラマパンチ

 

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余談—英国コメディと『メディア王』—

 ここからは、さらに余談です。先日、イギリスのドラマ『フレッシュ・ミート』全4シーズンを観終わりました。6人で共同生活をする大学生たちの日常を描くゆるめのコメディなのですが、実は『フレッシュ・ミート』と『メディア王~華麗なる一族~』には意外な繋がりがあります。

 

 というのも、『メディア王』のクリエイターのジェシー・アームストロングが、その前に手掛けていたドラマが『フレッシュ・ミート』なのです。ジェシー・アームストロングは、それ以前にも『ピープ・ショー ボクたち妄想族』を9シーズンに渡って手掛けており、英国コメディドラマ界でキャリアを築いてきた人なのです。

 

 『メディア王』は、映画『マネー・ショート』『バイス』などで知られるアダム・マッケイが制作総指揮を務めていますが、彼自身は脚本を手掛けていないので、このドラマの風刺要素がアダム・マッケイからもたらされたものとは考えにくい。むしろ、アメリカではなくイギリス出身のジェシー・アームストロングが手掛けたから、あれほど鋭い風刺ができているのではないかと思うのです。イギリスといえば、風刺・ブラックコメディの聖地ですから。

 

 『フレッシュ・ミート』と『メディア王』には内容面での共通点はほとんどないとは言え、『メディア王』のコメディ要素は英国コメディを手掛けてきたからこその味があります。あんなに面白い下ネタが次々と出てくることありますか? 空想の猫なんてネタを思いつけますか? ときにシュールで、だいだい下品で、どれも皮肉が効いたネタの数々は、見事の一言に尽きます。

 

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