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『ドクター・フー』を見る順番は?スピンオフの『トーチウッド』『クラス』も含めて紹介

Doctorwhologo2018

 イギリスの大人気SFドラマ『ドクター・フー』が、近年Amazonプライムでも配信が始まって、日本でも知名度が上がってきたかもしれません。現在、『ドクター・フー』はDVDレンタルのほか、動画配信サービスではHuluとAmazonプライムで観ることができます。

 

 しかし、『ドクター・フー』を観るに当たって一つ頭を悩ませるのが、その順番です。日本にはない「クリスマス・スペシャル」があったり、スピンオフドラマの『秘密情報部トーチウッド』や『クラス―ねらわれたコールヒル高校ー』などもあるので、意外と複雑になっています。今回は、そんな『ドクター・フー』関連作品の放送順をスピンオフドラマを含めて、すべて紹介します。

 

 

 

 

ドクター・フー』とは

 『ドクター・フー』は、1963年にイギリスBBCで放送が始まった国民的SFドラマです。1989年に一度終了した『ドクター・フー』ですが、2005年から新シリーズが始まりました。基本的に、私たちが観ることが出来るのは、この新シリーズになります。

 

 『ドクター・フー』の最たる特徴の一つが、主人公であるドクターを演じる人が定期的に変わる点です。『007』シリーズとは異なり、「再生」という手法でこれを可能にしているのですが、詳しくはドラマ本編をご覧ください。

 

 旧シリーズを含めて、現在までに13人の人物がドクターを演じています(ウォー・ドクターなどを数に入れると、厳密にはもう少し多いですが)。新シリーズは、9代目のクリストファー・エクルストンから始まります。

 

 『ドクター・フー』には、いくつかのスピンオフ作品が存在します。そのうち、日本で観ることが出来るのは『秘密情報部トーチウッド』と『クラスーねらわれたコールヒル高校ー』の2つです。

 

 『秘密情報部トーチウッド』(全4シーズン)は、本編に登場するキャプテン・ジャック・ハークネス率いる秘密組織トーチウッドの物語です。『ドクター・フー』が全世代向けであるのに対し、『秘密情報部トーチウッド』は大人向け作品になっています。『クラスーねらわれたコールヒル高校ー』(全1シーズン)は、コールヒル高校を舞台にしたスピンオフです。全1シーズン。

 

 『ドクター・フー』は、基本的に一話完結なので、どのシリーズ(英国ドラマはシーズンではなくシリーズと言う)から見始めても良いのですが、やはりシリーズ1から見始めるのをおすすめします。スピンオフについては、気になるものから見てみると良いと思います。ただし、本編シリーズ4に『秘密情報部トーチウッド』シリーズ2のネタバレが含まれていたりするので、すべて順番通りに観ていくのがベストです。

 

ドクター・フー』及びスピンオフの順番

9代目クリストファー・エクルストン=ドクター

ドクター・フー』シリーズ1

 

10代目デイヴィッド・テナント=ドクター

ドクター・フー』シリーズ2

『秘密情報部トーチウッド』シリーズ1

ドクター・フー』クリスマス・スペシャル「消えた花嫁」

ドクター・フー』シリーズ3

ドクター・フー』クリスマス・スペシャル「呪われた旅路」

『秘密情報部トーチウッド』シリーズ2

ドクター・フー』シリーズ4

ドクター・フースペシャル・エピソード「もうひとりのドクター」「死の惑星」

『秘密情報部トーチウッド』シリーズ3

ドクター・フースペシャル・エピソード「火星の水」「時の終わり パート1 & 2」

 

11代目マット・スミス=ドクター(ニュー・ジェネレーション)

ドクター・フー』シリーズ5

ドクター・フー』シリーズ6 エピソード1~6

『秘密情報部トーチウッド』シリーズ4

ドクター・フー』シリーズ6 エピソード8~13

ドクター・フー』シリーズ7 エピソード1~5

ドクター・フー』クリスマス・スペシャル「スノーメン」

ドクター・フー』シリーズ7 エピソード6~13

ドクター・フー』50周年記念エピソード「ドクターの日」「ドクターの時」

 

12代目ピーター・カパルディ=ドクター(ネクスト・ジェネレーション)

ドクター・フー』シリーズ8

ドクター・フー』シリーズ9

『クラスーねらわれたコールヒル高校ー』シリーズ1

ドクター・フー』クリスマス・スペシャル「帰ってきたドクター・ミステリオ」

ドクター・フー』シリーズ10

ドクター・フー』クリスマス・スペシャル「戦場と二人のドクター」

 

13代目ジョディ・ウィテカー=ドクター(リボーン)

ドクター・フー』シリーズ11

ドクター・フー』シリーズ12

 

注意点

DVDの方へ

 現在までに『ドクター・フー』の新シリーズは、すべてDVD化されています。ただ、おそらくレンタルなどで見掛けるのは、もっぱらシリーズ5以降のものだと思います。DVDのタイトルで、「ニュー・ジェネレーション」は11代目マット・スミス=ドクターのS5~7、「ネクスト・ジェネレーション」は12代目ピーター・カパルディ=ドクターのS8~10、「リボーン」は13代目ジョディ・ウィテカー=ドクターのS11~になります。なお、これらのサブタイトルは日本独自のものです。

 

Huluの方へ

 Huluの場合は、50周年記念エピソード以外は、Huluにある通りの順番で観ていけば大丈夫です。50周年スペシャルは、シリーズ7と8の間になります。『秘密情報部トーチウッド』と『クラス』の順番に関しては、上のリストをご覧ください。

 

Amazonプライムの方へ

 Amazonプライムでは、今月から『ドクター・フー』シリーズ5~10及び『クラス』が配信開始されました。しかし、Amazonプライムの仕様が非常にわかりにくく、検索の仕方によっては出てこなかったり、有料版のもののみが出てきたりします。必ず「ドクターフー」と検索してください。「doctor who」や「ドクター・フー」だと、一部の作品が出てきません。

 

 また、スペシャル・エピソード等がシリーズ本編に入っていたり、別扱いになっていたりするので、注意したいものは以下の通りです。本編と別扱いのものは、タイトルを全て入れて検索し直してみてください。

 

・クリスマス・スペシャル「消えた花嫁」は、S3の最初

・クリスマス・スペシャル「呪われた旅路」は、S4の最初

スペシャル・エピソード「もうひとりのドクター」~「時の終わり パート2」の5話は、S4の最後

・クリスマス・スペシャル「スノーメン」は、S7の最後(順番が前後しています)

・50周年記念エピソード「ドクターの日」は、本編とは別扱い

・50周年記念エピソード「ドクターの時」は、S8の最初

・クリスマス・スペシャル「帰ってきたドクター・ミステリオ」と「戦場と2人のドクター」は、いずれも本編とは別扱い

 

 なお、現在Amazonプライムで見放題配信されているのは『ドクター・フー』S1~10、『秘密情報部トーチウッド』S1~3、『クラス』S1になります。『ドクター・フー』S11~12、『秘密情報部トーチウッド』S4は、別途料金を追加することで観ることができます。 

 

 

 

ドクター・フー』各シーズン感想・解説

 このブログで扱っている『ドクター・フー』関連の記事は以下のようなものがあります。いずれも、各シーズンのネタバレを含みます。

 

アロンジ!『ドクター・フー』シリーズ3感想&各話解説 - 海外ドラマパンチ

『ドクター・フー』シリーズ4~冒険も笑いもパワーアップ~ - 海外ドラマパンチ

英国SFドラマ『秘密情報部トーチウッド』シーズン1~もっと仲良くして!~ - 海外ドラマパンチ

 

⇩ところで、今回の記事は、見出しの付箋が独特な色になっています。 これは、ターディス・ブルーというもので、ドクターが乗る宇宙船のターディスの色になります。カラーコードは#003B6Fなので、ぜひ使ってみてください。

 

 

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時間は螺旋に渦を巻く『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3

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General rule is, everybody's lying. Period.
- Wayne Hays in True Detective season 3

 

 これまで海外ドラマはたくさん観てきましたが、その中でも私が一番好きなのが『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン1です。今回は、その『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』のシーズン3の考察・解説と感想です。

※『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3は、『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』というタイトルになっている場合もあります。

 

関連記事:

刑事ドラマの最高傑作『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン1 - 海外ドラマパンチ

刑事ノワールの秀作『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン2- 海外ドラマパンチ

 

 

 

 

『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3基本データ

・原題:True Detective

・放送局:HBO

・放送日:2019年1月13日~2月24日

・話数:8

・クリエイター:ニック・ピゾラット

・キャスト:マハーシャラ・アリカーメン・イジョゴスティーヴン・ドーフ

・あらすじ:

 1980年に、パーセル家の2人の子供が失踪した。刑事のウェイン・ヘイズは、相棒のローランドとともに、事件の捜査に当たる。

・予告編:

www.youtube.com

※『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3は、Amazonプライムビデオで配信中。DVD等では『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』となっています。

 

ざっくりあらすじ(ネタバレ)

 パーセル事件は、1980年にウィルジュリーの兄妹が失踪したことから始まります。ほどなくしてウィルの死体が見つかります。しかし、有力な容疑者を掴むことができないまま、1980年の捜査は”ゴミ男”ことブレット・ウッドワードの死をもって終了します。

 

 1990年には、ジュリーの指紋が発見され、再捜査が始まります。しかし、このの捜査もまた、兄妹の父親であるトム・パーセルの死をもって終了します。実は、このときにウェインは富豪のホイト家が事件に関わっていることに気づいたのですが、ホイトからの圧力により、それ以上の追及をしませんでした。

 

 2015年では、ウェインは事件についてのインタビューを受けています。その中で、記者がいくつかの新情報を持っていることを知り、ウェインは再び事件の闇に引き戻されます。このときのウェインは記憶障害を患っていたので、ずっと秘密にし続けていたホイトと事件の関連を忘れてしまっていました。

 

 2015年の再調査の結果、ホイトの娘のイザベルが、自分の娘を失ったショックからジュリーを誘拐したことが明らかになります。そのときに、ウィルは転んだはずみで頭を打ってしまったのでした。長年イザベルに監禁されていたジュリーでしたが、隻眼のワッツの手引きで脱出を果たしたのでした。

 

時間は螺旋状

 
 
 
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 『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3の最たる特徴は、3つの時間軸が入り乱れる構造にあります。シーズン1でも、主に3つの時間軸がありましたが、あくまでも現代パートで過去の事件を思い出し、後半では現代パートでの捜査がメインでした。

 

  一方、シーズン3は1980年、1990年、2015年という3つの時間軸を常に行き来しながら進みます。いわば、螺旋状に時を行きつ戻りつしながら話が進んでいくのです。これは、シーズン1のプロットをさらに発展させたものと言えます。

 

 このプロットは、『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』ならではのものであり、画期的なものだと私は思っています。『トゥルー・ディテクティブ』以外にもインタビュー形式で物語が進んでいく映画やドラマはあります。しかし、それらは前半が回想で、後半が現代パートとなるものがほとんどです(自分は、なぜか映画『アトミック・ブロンド』が最初に思い浮かんだのですが、他にも色々あるでしょう)。過去パートでも現代パートでも、同時進行で物語が進んでいくものは『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』ぐらいではないでしょうか。

 

 この螺旋状のプロットにすると、登場人物と視聴者の間では、明らかに情報格差が生じます。なぜなら、現代パートの人々は、過去の事件がどのように終わったかを当然知っているからです。観ている方としては、言葉の端々から事件の顛末がぼんやりとわかるものの(過去の捜査が途中で切り上げられたことなど)、詳細は全くわかりません。その部分は、過去パートで徐々に明かされていくことになります。これには、まるでジグソーパズルのピースが埋まっていくような面白さがあります。

 

ミステリーとしての完成度が高い

 シーズン3は、他のシーズンよりもミステリーとしての完成度が上がっています。ホイトの名前は、兄妹の母親のルーシーがかつて働いていた場所の名前として、序盤からはっきり出てきます。後半ではあまり言及されませんでしたが、兄妹が以前から父親に内緒で誰かのところへ通っていたことへの説明も、この真相で十分理解できます。

 

 自分が一番腑に落ちたところは、脅迫状の件。あの脅迫状は、母親のルーシーが、トムを安心させるために書いたことが途中で明かされるのですが、これが自分にはずっと引っかかっていたのです。子供が消えたことに対する回復が早すぎるし、何よりとても回りくどいように思えたのです。しかし、ルーシーがホイト側からジュリーを預かっているという説明を受け、ジュリーが安全であることを知っていたなら、これは納得できる行動です。

 

 おそらく、他にも伏線は多数あるでしょう。『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3は、これまではなかったミステリーとしての面白さが加わったシーズンでもありました。

  

刑事の物語

 
 
 
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 『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』は、どのシーズンでも、その主眼は事件そのものではなく刑事の生き方にあります。シーズン3では、ウェイン・ヘイズ刑事の生き方が描かれます。彼は、1980年にパーセル事件を担当してから、この事件に人生を振り回されることになります。

 

 ウェインは、1980年の捜査の後に広報課に左遷されました。真実を追究するtrue detectiveである彼にとっては、適当に事件を解決したことにしようとする警察や、それに従うローランドのことが我慢ならないのです。しかし、1990年にはホイトからは家族を脅されたために、捜査を修了することに仕方なく従ってます。ウェインは、刑事である以前に家庭を持つ人間であるので、このような決断をせざるを得なかったのでしょう。

 

 だが、この男、警察を辞めたってtrue detectiveであることは変わりません。2015年に新たな情報を得てから、再び事件の捜査を始めます。このときに、隻眼の男に辿り着いたことで、ようやく事件の全貌が明かされたと思われたのですが、真実にはもう一歩先がありました。ジュリーはまだ生きているというのです。

 

 ウェインはこのことに気づき、ジュリーに会いに行くのですが、彼女の家に着いた瞬間にそのことを忘れてしまいます。辛い。もう一歩なのに……。でも、ウェイン自身にとっては、もう事件は解決されているので、何も問題はないのかもしれません。彼は、久しぶりに娘との再会を果たし、孫たちと遊びます。ようやくパーセル事件から解放されて。

 

 でも、妻のアメリアと出会ったのはこの事件がきっかけだし、ローランドと再会するきっかけも2015年の事件の再調査なので、一概に解放されたとは言えないのかもしれません。事件の闇から解放されたと言うのが正しいのでしょうか。

 

 最終話の最後には、ウェインがベトナム戦争に従軍しているシーンが映ります。このシーンで、ウェインは暗い森の中に入っていきます。これは、ウェインが(たとえそれが危険だと知りながらも)闇に分け入っていく人間だということを象徴しているのでしょうか。

 

 

 

まとめ

 『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン3は、これまで以上に静かな物語ではあるものの、じっくりとウェインの生き方が見られるシーズンでした。個人的には、ミステリー的な面白さにも惹かれましたね。そして、35歳差を演じ分けるマハーシャラ・アリの演技力には恐れ入ります。1980年と1990年パートもさることながら、2015年パートでも違和感なく演じてしまうところに、彼の底知れなさを感じます。

 

 さて、これで私も『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』の最新シーズンに追いついてしまったのですが、やはり気になるのはシーズン4の行方です。今のところ、『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン4についての情報は何もないのですが、クリエイターのニック・ピゾラットは「アイデアがある」というようなことも言っています。あまり急がなくても良いので、ぜひニック・ピゾラットにはじっくりと脚本を練ってもらい、シーズン4を製作してほしいものです。

 

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小説『カササギ殺人事件』感想~贅沢で香り高い名作~

 このブログは、一応海外ドラマをメインで扱っているのですが、ちょっと今回はある推理小説の話をしていきたいと思っています。私自身は、海外ドラマファンである以前にミステリーファンで、推理小説に関しては小学生ぐらいのときからずっと読んでいます。そして、この度ようやく『カササギ殺人事件』を読みました。

 

 なお、私が読んだのは創元推理文庫の『カササギ殺人事件』(山田蘭訳)になります。ページ数などに関しては、この文庫版に準拠して書いていきます。

カササギ殺人事件<上> (創元推理文庫) [ アンソニー・ホロヴィッツ ]

 

カササギ殺人事件<下> (創元推理文庫) [ アンソニー・ホロヴィッツ ]

 

ネタバレあります。未読の方はお気を付けを!

 

小説『カササギ殺人事件』感想

  一言で表すなら、贅沢。何しろ『カササギ殺人事件』一作で、上質な本格ミステリーが2つも楽しめてしまうのですから。しかも、この2つのストーリーの結び付け方が非常に巧みなのです。

 

 『カササギ殺人事件』の全体の構造を、軽く振り返ってみましょう。前半は、アラン・コンウェイが著した作中作『カササギ殺人事件』が収録されています。しかし、この事件の解決直前で、なんと上巻が終わってしまいます。下巻に入ると、今度は編集者スーザン・ライランドの物語になります。

 

 私は、前半が作中作だと気づかずに読んでいたので、下巻に入って「あ”ぁ”っ!」と驚きで声が出てしまいました。しかも、編集者が結末部分が見つからないとか言い出すのです。ふざけんな!(笑)と思いながらも、下巻ではアラン・コンウェイの死にまつわる謎を追っていくことになります。

 

 作中作『カササギ殺人事件』とアラン・コンウェイの死には関連があり、片方が解ければもう片方も解けるはずだということを、途中でスーザンは言っていましたが、結末まで読むと本当にその通りでした。一見すると、バラバラに進んでいく2つの事件ですが、これらはアランの遺書の一部が、彼の自筆による『カササギ殺人事件』内のアティカス・ピュントの遺書だったという点で繋がってきます。

 

 アラン・コンウェイ殺人事件のカギはまさにこの点であり、このことをきっかけにして犯人が明らかになりました。作中作と実際の事件が、このような形でリンクしてくる展開には、完全に舌を巻かされました。

 

 作中作『カササギ殺人事件』の謎解きも見事です。特にトリックなどは使われていないのですが、アティカス・ピュントが全ての手掛かりを基に、推論によって結論を導き出す過程はとても気持ちが良いものでした。

 

 アラン・コンウェイ殺人事件のトリックだけでも十分面白いのにも関わらず、作中作の方もそれに劣らず面白いものに仕上がっているというのは、何とも贅沢です。『カササギ殺人事件』が、現代ミステリーの中で最も優れた作品の一つであることは間違いないでしょう。

 

英語について

 『カササギ殺人事件』には、いくつかアナグラムや隠れメッセージといったものが隠されています。その一つがアティカス・ピュント・シリーズの題名です。 アティカス・ピュント・シリーズの原題は次のようになっています。

 

Atticus Pund Investigates『アティカス・ピュント登場』

No Rest for the Wicked『慰めなき道を行くもの』

Atticus Pund Takes the Case『愚行の代償』

Night Comes Calling『羅紗の幕が上がるとき』

Atticus Pund Christmas『無垢なる雪の降り積もる』

Gin and Cyanide『解けぬ毒と美酒』

Red Roses for Atticus『気高きバラをアティカスに』

Atticus Pund Abroad『瑠璃の海原を越えて』

Magpie Murders『カササギ殺人事件』

 

 頭文字を取ると、an anagramとなります。日本語の方も同様の仕掛けになっています。原題にこのようなメッセージが隠されていることはもちろん凄いのですが、私は日本語でも同じ仕掛けが施されていることにも驚かされます。日本語の方も、原題のタイトルの意味から遠くなりすぎずも、きちんと隠れメッセージが仕掛けられています。翻訳者さんの手腕に拍手です。

 

 ちなみに、このアナグラムとは何のことだったのか?読んだ方は大体わかるとは思いますが、作中では明示されなかったので、ここでは書いて一応ちゃんと書いておきましょう。

 

 そのアナグラムというのは、探偵の名前のAtticus Pundを並べ替えると、A Stupid Cuntになるというものでした。Cuntは女性器を指す英語のスラングです。海外ドラマなどではよく出てくる言葉なのですが、小説ではあんまり見ない言葉ですね。およそ『カササギ殺人事件』の雰囲気に合わない言葉だったので、アラン・コンウェイはアホなのか(笑)と思わずにはいられませんでした。

 

 加えて、アラン・コンウェイは、それぞれの作品の登場人物名にも統一性を持たせていたようです。p210に『愚行の代償』の登場人物名が列記されていて、この法則は読者が自分で探してとも書いてありました。自分にはさっぱりわからなかったのですが、その3ページ後に万年筆のメーカーだと書いてありました。『十角館の殺人』のポウ、カー、エラリイ、ヴァン、アガサ、オルツィ、ルルウほどわかりやすければ、自分もわかったんですけどね(笑)

 

カササギ殺人事件』ドラマ化決定!

 海外ドラマブログであるこの「海外ドラマパンチ」で、今回『カササギ殺人事件』の話をしているのには理由があります。というのは、つい先日『カササギ殺人事件』が本当にドラマ化されることが決まったからです。脚本は、原作者のアンソニーホロヴィッツが手掛けます。

 

 そもそもアンソニーホロヴィッツは、『名探偵ポワロ』『バーナビー警部』『刑事フォイル』など、イギリスの名作ミステリードラマを数多く手掛けてきた人物です。今回のドラマ化は、そんな彼が自身の著作をドラマ化するということなので、これは俄然期待度が上がります!

 

 ただ、『カササギ殺人事件』を読んだ方ならば、大きな疑問が浮かぶと思います。『カササギ殺人事件』は、果たして映像化できるのでしょうか?作中作が謎解きのキーになっている以上、この要素を省略することは有り得ません。しかし、小説ならば作中作というのが構造的には容易にできるのですが、ドラマでは無理です。

 

 ドラマ中ドラマというのも不可能です。そもそも作中作『カササギ殺人事件』の結末は、アラン・コンウェイと犯人しか知らない、というのが事件の重要なポイントでした。しかし、ドラマの場合、結末を数人しか知らないで製作に入るということはまずないでしょう。

 

※ただし、海外ドラマ『24』は、撮影の直前まで脚本家ぐらいしか内容を知らなかったらしいです。緊迫感を第一の特徴とする『24』ならではの製作方法ですね。

 

 無難なのは、前半3話は作中作『カササギ殺人事件』の話を普通に見せ、3話のラストで「ここまでの物語は、すべてスーザンが読んでいた原稿の中の話だったんですよ」とする展開です。これならこれでも良いのですが、私はドラマ経験が豊富なアンソニーホロヴィッツに対してはさらなる期待をしてしまいます。

 

 というのも、『カササギ殺人事件』はアンソニーホロヴィッツ自身の作品なので、原作のメイントリックを流用した形で全く新しい作品にする、というのもアリなんじゃないかなと思っています。やはり、小説とドラマという媒体は違うので、それぞれの形にあったストーリーの方が面白いに決まっています。ともあれ、アンソニー・・ホロヴィッツ自身による『カササギ殺人事件』のドラマ化の今後には注視していきたいと思います。

 

↓magpie(カササギ)繋がりで。

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海外ドラマ『インセキュア』シーズン1~無自覚な差別主義者どもに物申す(コミカルに)~

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Black women aren't bitter, they're just tired of being expected to settle for less.

- Issa Dee in Insecure season 1

 

 Black Lives Matter運動が注目を集める今年、日本に住む私たちも、この問題に無関心でいるわけにはいきません。しかし、人種差別問題を扱ったものって難しそうにも感じてしまいます。今回は、コミカルに、それでいて人種差別問題に対する新たな視点を与えてくれるドラマ『インセキュア』の話です。

 

 なお、この記事にネタバレはありません。

 

 

『インセキュア』シーズン1基本データ

・原題:Insecure

・放送局:HBO

・放送日:2016年10月9日~11月27日

・脚本-製作-主演:イッサ・レイ

・あらすじ:

 ロサンゼルスの社会福祉団体で働く29歳のイッサは、日常的に繰り返される黒人差別に辟易しており、彼氏のローレンスとの関係も上手くいっていなかった。

・予告編:

www.youtube.com

※ドラマ『インセキュア』シーズン1は、Amazonプライムビデオで配信中。

 

コミカルに日常的な差別意識を描き出す

 人種差別問題を扱った映画・ドラマは、すでにたくさんあります。最近だと、映画では『ブラック・クランズマン』とか『ムーンライト』などなど。人種が違うという理由だけで、命の危険さえも高まってしまう悲惨な現状には怒りを覚えます。

 

 でも、人種差別問題はそんな極端な例だけでなく、もっと日常的にもあるようです。そのことを示してくれるのが、ドラマ『インセキュア』です。このドラマでは、人種差別により直接的に暴力を受けたりするといったような場面はありません。

 

 でも、「これくらいだったらあるかもしれない」という日常的な場面で、白人たちの差別意識が見られるところがちょくちょく出てきます。おそらく、これらはこのドラマのクリエイターのイッサ・レイの実体験が、多かれ少なかれ反映されたところであるのでしょう。

 

 例えば、主人公のイッサの同僚たち。奴ら、本当に差別主義者ばっかりなんですよ。イッサの陰口を叩いていたり、イッサが黒人だからという理由で雑なアドバイスを求めてきたり。おそらく、彼らも社会福祉団体(We Got Y'all)のメンバーである以上、人種差別反対を声高に唱えている人々なのでしょう。しかし、彼らの無自覚の差別意識は、当事者にはわかるものです。

 

 そういった差別問題が背景にあるものの、そのせいで『インセキュア』が重く暗い雰囲気になることはありません。イッサは、ラップや妄想で差別主義者たちに本音をぶちまけます。これは、なんとも痛快!その思いを直接本人にぶつけられないもどかしさはあるものの、少なくとも『インセキュア』を観ている、無自覚差別主義者どもには届いているはずです!

 

 

 

ロサンゼルスに生きるアラサー女性

 『インセキュア』の主人公の2人は、ともにロサンゼルスに住み、キャリアもそこそこ順調です。でも、恋愛となると話は別で、こちらはトラブル続き。イッサには長年付き合っている彼氏がいるものの、全く進展がないことに少々うんざりしてきています。イッサの親友のモリーは、理想が高くて上手くいかないタイプ。

 

 そんな2人が恋愛や友情関係に悪戦苦闘する様は、自然と応援したくなってきます。特に、同年代の方ならば共感することも多いかも?

 

『インセキュア』シーズン2は?

 ドラマ『インセキュア』は、今年4月からHBOでシーズン4が放送されました。このシーズン4は、これまで以上に高く評価され、今年のエミー賞では作品賞(コメディ部門)、イッサ・レイの主演女優賞、イヴォンウ・オージの助演女優賞など、全8部門にノミネートされています。

 

 また、『インセキュア』は、すでにシーズン5への更新が決まっており、まだしばらくはイッサたちの奮闘を見ていけそうです。しかし、日本では現在Amazonプライムビデオでシーズン1が観られるのみで、シーズン2以降を観ることができない状況です。DVDも、発売・レンタルともにされていません。

 

 シーズン1同様に、シーズン2以降もAmazonプライムビデオでの配信を期待したいところではあります。しかし、同じくHBOの30分コメディドラマである『シリコンバレー』『BARRY/バリー』『VEEP/ヴィープ』などなどの新シーズンがいつまで経っても配信されていません。この状況を鑑みるに、『インセキュア』シーズン2の配信についても、あまり期待できないのかもしれません。

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Amazonドラマ『カーニバル・ロウ』シーズン1感想

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Chaos is the great hope of those in the shadows.

- Sophie Longerbane in Carnival Row season 1

 

 Amazonプライムビデオで配信中のオリジナルドラマ『カーニバル・ロウ』のあらすじ・感想です。エロありグロありの過激なダークファンタジーの開幕です。

 

 

 

 

ドラマ『カーニバル・ロウ』基本データ

・原題:Carnival Row

・配信元:Amazonプライムビデオ

・配信日:2019年8月30日

・話数:8

・一話あたりの長さ:56分

・キャスト:オーランド・ブルーム、カーラ・デルヴィーニュ

・予告編(なんか、全然ドラマの雰囲気と合わないんだけど):

www.youtube.com

 

ドラマ『カーニバル・ロウ』シーズン1あらすじ(ネタバレあり)

 Amazonオリジナルドラマ『カーニバル・ロウ』は、ファンタジーの世界を舞台にした刑事ドラマです。ファンタジーなので、最初は固有名詞が多くてちょっと大変だったのですが、ここで一部おさらいしておきましょう。

 

バーグ:物語の舞台となる国

ピックス:妖精。人間からは「クリッチ」という蔑称で呼ばれる。

フェイ:羽のある妖精

パック:角の生えた妖精

ダーカシャー:死体を生き返らせた怪物

カーニバル・ロウ:バーグの中で、ピックスが多く住む治安の悪い地区

 

 数年前に戦争があり、そのせいで人間たちは妖精を迫害しています。このバーグで、ピックスを狙った連続殺人事件が起きたため、刑事のファイロオーランド・ブルーム)が捜査を始めます。戦争中にファイロと付き合っていたのが、妖精のヴィネット(カーラ・デルヴィーニュ)です。

 

 捜査の結果ファイロは、事件の被害者の一人である歌手で妖精のアシュリンが母親で、人間で首相のアブサロムが父親だったことを明らかにします。アブサロムの妻のパイエティは、自分の息子のジョナを首相にしたくて、ファイロの正体を突き止めて殺すために一連の事件を起こしたのでした。

 

 パイエティが事件を起こすきっかけとなったのが、首相の隠し子の存在を教える手紙だったようですが、これが実は首相の政敵の娘のソフィが書いていました。かくして、ソフィの思う通りに事が運んだので、彼女はクリッチ迫害政策をさらに強力に推し進めていくことにします。

 

 一方で、人間のイモジェンとパックのアグレウスは徐々に惹かれあい、最終的に船でバーグから抜け出します。

 

 

 

ドラマ『カーニバル・ロウ』シーズン1感想(ネタバレあり)

Amazonイチ押し

 『カーニバル・ロウ』は、ほとんど予備知識なしで観始めたのですが、かなり大人向けのダークファンタジーでしたね。エログロ満載で。ダークな世界観は、まだシーズン1であるために少しこじんまりとしていますが、ちゃんと作りこまれています。

 

 人狼などのクリーチャーもいくつか出てくるのですが、CGはもう一歩という感じもしました。ドラマなので、それでも十分なクオリティだと言えるのですが、HBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ダーク・マテリアルズ』と比較すると、ちょっとね。そのことを制作陣も気に掛けていたからなのか、画面は全体的に暗めでした。

 

 主演は、オーランド・ブルームカーラ・デルヴィーニュという2人で、Amazonがこのドラマに力を入れているのことが伝わってきます。オーランド・ブルームは、ロード・オブ・ザ・リング』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出ていたので、ファンタジーの世界観との相性が良いですよね。

 

 カーラ・デルヴィーニュはモデルとしての活動も多く、太眉のキリッとした顔が印象的です。役者としては、以前には、SF映画『ヴァレリアン』にも主演していました。ただ、私は正直に言うと、『ヴァレリアン』でのカーラ・デルヴィーニュの演技はあまり受け入れられませんでした。でも、今回はいくぶんか演技に慣れてきたようにも見受けられました。カーラ・デルヴィーニュ自身のカッコ良くて可愛いという魅力は、今回のヴィネット役にとても合っていたので、そこは良かったです。

 

②過激なダークファンタジー

 『カーニバル・ロウ』の特徴はエログロだと言いましたが、特に濡れ場シーンは見せ場の一つと言って良いでしょう。第3話でのファイロとヴィレットの濡れ場シーンは、とても美しかったです。この点に関しては、同じくエログロを一つの売りとする『ゲーム・オブ・スローンズ』に勝っているようと思っています。

 

 ストーリーに関しては、堅実な作りで、特に悪いところがあるでもないですが、特にハマる要素もなかったというところでした。刑事ノワールものをファンタジーの世界に持ち込んだだけあって、そのあたりの鉄板のストーリーはしっかり押さえられていたようです。ただ、メインストーリーにファンタジーならではの展開はあまりなくて、そこはもっと頑張ってくれると面白くなりそうだなとも思いました。

 

③社会問題とリンク

 『カーニバル・ロウ』は、世界観こそ間違いなくファンタジーであるものの、ファンタジーらしからぬ設定や展開がとても多いです。迫害される妖精たちとか、議会政治とか。どう考えたって、これは現実社会を反映したものだと考えずにはいられません。特に、2010年以降あたりから世界的な課題になっている移民問題です。

 

 『カーニバル・ロウ』でやろうとしていることは、映画『第9地区』みたいなことなのかなとも思います。『第9地区』は、人種差別される側の人々をエイリアンに見立てた物語でした。『カーニバル・ロウ』は、迫害される移民を妖精たちに置き換えたものだと言えます。『第9地区』の考察は優れたものがたくさんあるので、ここではわざわざやりません。

 

 果たして『カーニバル・ロウ』の場合は、この狙いは成功していたのでしょうか。上述した通り、『カーニバル・ロウ』を観て移民問題との関連を見出すのはとても容易なので、その意味では成功しているとも言えます。

 

 しかし、その割に移民問題に関して新たな見識が得られるかと言うと、そうでもないように思います。迫害や差別が酷いのは伝わってきましたし、そういうものがなくなってほしいなとは感じました、けれど、これまでもニュース等を見て感じてきたようなことでもあるので、これまで以上にその思いが強くなるというわけでもなかったです。

 

④一つの致命的なミス

 『カーニバル・ロウ』には、一つだけ設定が崩壊しているところがあるんです。現実の社会問題を描くならば、議会政治は必要なのは何となくわかります。でも、議会政治において、首相が世襲制なわけはないですよ。王政じゃないんですから。首相が死んでも、政治に詳しいわけでもない息子が首相になるなんてことはあり得ないです。

 

 民主政治でも世襲政治というものはありますが、選挙により選出されることには変わりがありません。移民問題というテーマ性を追求するために議会政治を導入する必要があった一方で、物語の展開上は世襲制が必要(一連の事件の動機となるため)なので、この間で齟齬が起きてしまったようです。

 

 

 それでも、『カーニバル・ロウ』はまだシーズン1です。これからさらにテーマ性を追求していくのか、あるいはエンタメ性を追求していくのかはわかりませんが、どちらにしろパワーアップは期待したいところです。

 

 最近は、シーズン1はあくまでも序章に過ぎないというスタイルのドラマが増えています。『カーニバル・ロウ』についても、シーズン1で世界観の説明などは十分出来たと思います。シーズン2では、シーズン1からのさらなるスケールの拡大や物語の深掘りを楽しみにしています。

 

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