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『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』が傑作ドラマである3つの理由

 これまで数々の海外ドラマを観てきましたが、リミテッドシリーズに関して言えば、先日観た『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』が最高傑作であると断言します。現在、アメリカで大きな社会問題になっている「オピオイド危機」の全貌とその発端となった数々の嘘を描き出すドラマ『DOPESICK』は、ぜひとも多くの人に観てほしい作品です。

 

 今回は、Disney+(ディズニープラス)で配信中の海外ドラマ『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』が傑作ドラマである3つの理由をネタバレなしで紹介します。

 

 

 

基本データ

  • 原題:Dopesick
  • 配信:Hulu(アメリカ)、ディズニープラス(日本)
  • 公開年:2021年
  • 話数:8
  • 原作:ベス・メイシー『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』
  • 脚本:ダニー・ストロング
  • 監督:バリー・レヴィンソン、マイケル・クエスタ、パトリシア・リゲン、ダニー・ストロング
  • キャスト:マイケル・キートン、マイケル・スタールバーグ、ケイトリン・デヴァー、ウィル・ポールター、ピーター・サースガード、メア・ウィニンガム

予告編

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 ドラマ『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』は、Disney+(ディズニープラス)で独占見放題配信中。リミテッドシリーズなので、シーズン2はありません。ディズニープラスは、月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

アメリカ最大の健康危機を描く

 1999年以降、アメリカではオピオイド危機が大きな社会問題になっています。オピオイドとは、麻薬系鎮痛剤に入れられている成分の一種。モルヒネもオピオイドです。オピオイド系鎮痛剤は強い痛みにはよく効くため、手術やガン治療の際には有効な薬になります。しかし、依存性も強いので、むやみに摂取すると中毒になってしまう可能性があります。

 

 1999年以降、オピオイドの使用量が急激に増え、それに伴って依存症になる人も急増しました。1999年から2021年までの22年間で、93万人以上が亡くなっていると言われ、2021年に薬物の過剰摂取で亡くなった人のうち75%近くはオピオイド関連によるものでした。オピオイド危機が特に深刻な地域では、依存症患者がオピオイドを盗むための犯罪が増え、治安も悪化しています。

 

 2017年には、大統領が「公衆衛生上の非常事態宣言」を出し、オピオイド危機に立ち向かう方針を示しました。しかし、未だに事態は収まらないどころか、コロナ禍に入ってから犠牲者はさらに増えています。

 

 これほど大きな問題になっているにも関わらず、私はこのドラマを観るまでオピオイド危機のことをほとんど知りませんでした。『DOPESICK』を観れば、この問題がどれほど重大なものかはよく分かると思います。

 

誰にでも起こり得る恐怖

 このドラマは、どんなホラーよりも怖いです。なぜなら、オピオイド系鎮痛薬による依存症は、”痛み”を感じた人なら誰にでも起こり得るからです。薬物依存症というと違法薬物を思い浮かべますから、そういったものから距離を置いていれば普通は問題ありません。しかし、オピオイドはそうではありません。オピオイドは、完全に合法な方法で、本人が気づかないうちに摂取している可能性があります。

 

 オピオイドは、本来ならば強い痛みを持つ患者に限定して使われるものですが、1999年以降、あらゆる痛みを持つ患者に処方されるようになりました。例えば、事故で体の一部を痛めてしまった場合などにも使われます。最初のうちは良いのですが、痛みが収まってきた頃からが問題です。もう鎮痛剤は必要ないにも関わらず、依存性の強いオピオイドを飲み続けたために中毒になっています。ここから抜け出すのは困難です。

 

 始めは単なる一過性の痛みだったのに、オピオイドのせいで、いつの間にか依存症になってしまいます。違法薬物に全く手を出していなくても、そうなるのです。このような事態に陥った人が何を経験するのか、そしてその先には何が待ち受けているのか。ドラマでは、その様子が克明に描かれています。辛い場面もありますが、目を離すことができません。

 

 特に、町医者を演じるマイケル・キートンと事故がきっかけでオピオイド系鎮痛剤を処方される患者を演じたケイトリン・デヴァーの演技は素晴らしいです。ケイトリン演じるベッツィが薬物中毒になっていく過程は、見ているだけでも本当に痛ましい。迫真の演技をぜひ目撃してほしいです。

 

 なお、現在の日本ではオピオイド危機は起こっていません。日本では、オピオイドの用途はガン治療など一部に厳しく限定されているためです。そのため、日本にいる限りは、知らず知らずのうちにオピオイド依存症になる可能性は低いです。オピオイド危機は今後も日本国内では起こらないかもしれませんが、アメリカで起きたこの事態から学ぶべき要素はあります。特に、この危機が人間の「」から始まったことは特筆に値します。

 

真相をめぐるサスペンス

 オピオイド危機は、なぜ起こってしまったのでしょう? 『DOPESICK』は、オピオイド危機が始まった1990年代後半から2006年までの出来事を描き、その根本にある「」を暴き出します。あまりにも大規模で信じ難い話ではあるのですが、これは事実です。

 

 ドラマでは、大手製薬会社のパーデュー・ファーマのCEOリチャード・サックラーが主人公の一人になっています。なぜなら、パーデュー・ファーマおよびそのCEOを歴任していたサックラー家こそがオピオイド危機を始めた張本人だからです。

 

 パーデューは、オピオイド系鎮痛薬であるオキシコンチンの売り上げを伸ばすために、重症だけでなく軽症でも痛みを感じる患者なら誰でも対象にしようと考えました。そのために、営業に非常に力を入れ、医者たちに積極的に働きかけました。政府機関のアメリカ食品医薬品局(FDA)にも働きかけました。オキシトシンの売り上げを伸ばすためなら、嘘でも賄賂でも何でもあり。パーデューが実際に行った数々の行為には、目を疑いたくなります。

 

 ドラマでは、パーデューを捜査する麻薬取締局(DEA)や検察官の姿も描かれ、パーデューがやってきたことが徐々に明らかにされます。時系列がかなり入り組んでいるのですが、それは真相究明のサスペンスを盛り上げるため。そのおかげで、重いシリアスな話であっても先が気になってどんどん観てしまう構成になっています。

 

さらに知りたい方へ

 オピオイド危機は非常に大規模で、ドラマでは描き切れていない内容もあります。このドラマには原作があります。ベス・メイシーによるノンフィクション『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』は、光文社より翻訳版が刊行されています。ドラマを観てさらに詳しく知りたいと思ったら、まずは原作を読んでみるのがおすすめ。

 

 オピオイド危機を扱った映像作品として、U-NEXTで配信されているドキュメンタリー『巨大製薬会社の陰謀/THE CRIME OF THE CENTURY』もおすすめです。監督は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞の受賞歴があるアレックス・ギブニー。

 

 このドキュメンタリーは2時間ずつの前後編に分かれており、前編は『DOPESICK』と似た内容が扱われています。ドラマで描かれたような事柄が、数々の証拠や関係者の証言で裏付けられていきます。

 

 注目すべきは後編です。『DOPESICK』は、1990年代後半から2006年までの出来事しか扱っていませんが、このドキュメンタリーの後編では、その後のオピオイド危機の展開が描かれます。なぜオピオイド危機は終わらないのか? 希望の光はあるのか? など、こちらも必見の内容です。

 

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