新古典としての地位を海外では築きつつある『THE WIRE/ザ・ワイヤー』ですが、日本での知名度が低い!なぜ、これほどの名作が日本で知られていないのか!ということで、今回は現代アメリカのリアルを描く海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の魅力を徹底的に紹介していきたいと思います。
ネタバレはないので、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』を未見の方、少し観たことがあるけど途中で観るのを辞めてしてしまった方には特に読んでほしいです。もちろん、すでに観たことがある方も大歓迎です。
- 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』基本データ
- 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は本当に史上最高のテレビドラマか?
- 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のここに注目!
- そうは言っても最初はハードルが高い
- まとめ
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』基本データ
- 原題:The Wire
- 放送局:HBO
- 放送期間:2002~2008年
- シーズン数:5
- 話数:60
- 一話あたりの長さ:約58分
- 脚本:デイヴィッド・サイモン(元ボルティモア・サン紙記者)、エド・バーンズ(元ボルティモア市警察殺人課刑事)
- キャスト:ドミニク・ウエスト、イドリス・エルバ、ソーニャ・ソーン、アンドレ・ロヨ、ウェンデル・ピアース、エイダン・ギレン、マイケル・ケネス・ウィリアムズ
- あらすじ:ボルティモア市警のマクノルティは、これまで誰も手を付けてこなかったエイヴォン・バークスデールの麻薬組織の捜査を手掛けることになる。マクノルティは各部署からクセのある人員を与えられ、ともに捜査を始める。
予告編
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は本当に史上最高のテレビドラマか?
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の魅力を語る前に、実際に『THE WIRE/ザ・ワイヤー』が史上最高のテレビドラマと言われている証拠を示しておきましょう。
まず、受賞歴について言っておくと、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』はエミー賞脚本賞にノミネートされたことがあるだけで、エミー賞とゴールデングローブ賞を一つも受賞していません。視聴率も、放送当時はそれほど高かったわけではありませんでした。
しかし、放送終了後に評価はどんどん高まっています。2016年に英エンパイア誌が読者投票を行った「史上最高のテレビドラマトップ50」で1位、2021年にBBC Cultureが世界の206人の批評家を対象に行った「21世紀最高のドラマベスト100」でも堂々の1位になっています。
参考記事:Why The Wire is the greatest TV series of the 21st Century - BBC Culture
世界最大の映画・ドラマレビューサイトのIMDbでは、テレビドラマの中で『バンド・オブ・ブラザース』『ブレイキング・バッド』『チェルノブイリ』に次ぐ順位で、星9.3/10という評価を得ています。ただ、他の3作品と比べるとやや視聴者数が少ないため、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』を観た人は人々に「You should watch The Wire.」と言って布教するのがお決まりだそう。
2020年前期の調査では、アメリカのストリーミングサービスで視聴されたテレビドラマランキングで『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は第9位になっており、これはHBO作品の中では『ゲーム・オブ・スローンズ』などを押さえて最上位となっています。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は10年以上前のドラマなので、この結果はかなり異例です。このことから、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は現在進行形でファンを増やし続けているドラマと言えるでしょう。
参考記事:8 Of The Top 20 TV Shows Right Now Are Netflix Originals
オバマ元大統領も『THE WIRE/ザ・ワイヤー』を絶賛しており、「テレビドラマとしてだけでなく、芸術作品として、ここ数十年で最高のものの一つだ」と言っています。2015年には、クリエイターのデイヴィッド・サイモンをホワイトハウスに招いて対談もしています。この対談の中で、オバマ自身が『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の大ファンであると言い、ドラマの中でも扱われた社会問題についてデイヴィッド・サイモンと語り合っています。
他にも、ハーバード大学で『THE WIRE/ザ・ワイヤー』が講義に使われたり、実際の麻薬売人がこのドラマを観て警察の捜査手法を学んでいるなど、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』にまつわるエピソードは数多くあります。それらは、いずれも『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のリアリティが徹底されていることの証でもあります。
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のここに注目!
①魅力的な登場人物たち
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』には、決まった主人公がいない群像劇であり、魅力的な登場人物たちが多数登場します。最初は登場人物が多く、また全員が似たような恰好をしているので見分けるのが大変なのですが、シーズン1の半分ぐらいを観れば彼らのことが好きになってしまうに違いありません。
シーズン1の登場人物は、ほとんどが警察側か麻薬組織側の人間なのですが、好きになる人物は専ら組織側の人間でしょう。街のみんなのことを知っているドラッグ中毒のホームレスや子供たちの面倒を見る麻薬売人、中間管理職の哀愁漂う組織の売人など、通常ならば「悪役」としてレッテルを貼られていた人物たちが個性的なキャラクターとして登場します。
警察側の人間も、最初こそパッとしないのですが、徐々に彼らの中にも好きなキャラクターや共感できる人物を見つけられるでしょう。シーズンが進むにつれて、さらに個性的なキャラクターたちも出てきます。
登場人物の数で言えば、『ゲーム・オブ・スローンズ』と同じぐらいでしょうか。むしろ、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』では『ゲーム・オブ・スローンズ』ほど犠牲者は出ない(笑)ので、こっちの方が多いぐらいかもしれません。それでも、個々の人物がそれまでの人生を歩み、そこに”生きている”ことが伝わってくるため、多くのキャラクターが印象に残っています。
②他では見られない緻密な捜査
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は、刑事ドラマとしての側面も持つのですが(決して刑事ドラマだけの作品ではないのですが)、そこで描かれる捜査は他の作品では見られないほど緻密に行われています。基本的には、1シーズンを通して一つの捜査が行われるため、捜査の開始から起訴するまでの過程が細かに描かれていきます。
タイトルにもなっているwire(盗聴)が捜査の鍵となるのですが、実は盗聴をするのは第6話ぐらいからです。そもそも、The Wireというタイトルになったのは元刑事のエド・バーンズが「盗聴をするための手続きが面倒だったから、それを伝えたくてこれにした」と言っているぐらいで、捜査手続きの面倒が多々出てきます。
それでも、いざ捜査を本格的に開始すると、非常に綿密な捜査が行われます。これだけ証拠があれば、文句なく起訴できるだろうなというぐらい丁寧です。捜査指揮官の指示も的確で無駄がありません。刑事ドラマをよく観ている方でも、これほど捜査過程がリアルに描かれたものは観たことがないでしょう。
③点と点が繋がる脚本の上手さ
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』ほど周到に練られている脚本を自分は見たことがありません。群像劇というだけでもストーリーを作る難しさは上がると思うのですが、さらにそれぞれのストーリーが相互に影響し合いダイナミックに展開していく様は見事です。
しかし、ドラマを観続けていくと、さらにこの脚本の上手さに舌を巻くことになります。過去にさらっと触れられていたことが後に登場したり、以前の会話が後の行動を暗示していたりと、伏線が非常に多く存在します。そのため、最初は無駄に見えたシーンでも、実は深い意味があったということはよくあります。
例として、シーズン1第1話冒頭のシーンを観てみましょう。
これは、スノット・ブギーという男の殺人現場で刑事のマクノルティと被害者の知人が話している場面です。一部を抜き出して訳してみると、次のような会話をしています。
マクノルティ:こいつは、洗礼式のときに上着を忘れて鼻水を垂らしていたから、それ以来ずっとスノット(鼻水)と呼ばれていたらしい。フェアじゃないよな。(Doesn’t seem fair.)
男:人生なんてそんなもんだよ(Life just be the way, I guess.)
……スノットが彼らとカードゲームに参加しては、毎回お金を盗んでいると聞き、
マクノルティ:スノットがいつも金を盗むなら、なんでいつも参加させているんだ?
男:ここがアメリカだからだよ(This America, man.)
このシーン以降、スノット・ブギーの話は一回も出てきません。最初にこのシーンを観たときは自分もあまり気に留めていませんでした。しかし、後にこのシーンでシーズン1、さらにはシリーズ全体のテーマを完璧に示していたことに気づくことになりました。ぜひ、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』を観終わった後にこのシーンを再び観てみてください。見方が大きく変わっていると思います。
④現実の社会問題を照らし出す
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の一番の特長が、現実の社会問題をリアルに描いているという点です。各シーズンごとに麻薬闘争、港湾労働者、政治、教育、マスコミといったテーマがあり、全体を通してボルティモアという街を取り巻く社会問題を浮き彫りにしていきます。
貧困や差別といった問題は、「これがあるから、これが起こっている」という単純な因果関係があるわけではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発生しています。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』では、そんな複雑な関係を5シーズンを通して余すところなく描いています。これにより、社会問題の実態を知り、その解決がいかに困難であるかを知ることができます。
さらに『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の凄いところは、この物語全体を完全に中立な視点で描いているところにあります。麻薬組織の人間だから悪人、刑事だから善人という前提はどこにもなく、全員がボルティモアに生きる”人間”として登場します。最近のムーブメントであるBlack Lives Matter運動では、テレビ番組などで警察が絶対的な善として描かれてきたことに関しても疑問の声が上がっていますが、10年以上前の『THE WIRE/ザ・ワイヤー』ではそのテーマも既に扱われています。まさに、善悪の基準を揺るがすようなドラマと言えるでしょう。
社会問題を扱っているなんて言うと、とても堅苦しそうに感じられてしまいますが、実際にはそんなことはありません。ここまで書いてきたように、魅力的な登場人物や脚本の上手さにより、エンターテインメントとしても優れた作品になっています。
そうは言っても最初はハードルが高い
↑シーズン3からは『ゲーム・オブ・スローンズ』でピーター・ベイリッシュ公(リトルフィンガー)を演じたエイダン・ギレンも出ています。
ここまで読んで頂ければ、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』が高い評価を受け、史上最高のテレビドラマの一つと言われているのも分かっていただけたかもしれません。そして、「じゃあ、ちょっと観てみようかな」と思っていただけたならとても嬉しいのですが、もしかしたら最初のうちは面白いと感じられないかもしれません。
というのも、シーズン1の前半はその後のための準備段階的な意味合いが大きく、キャラクターたちが魅力を発揮していないところでもあります。タイプライターを使っているなど、時代が古いなとも感じてしまいます。そのため、この段階で途中離脱してしまった人もいるかもしれません。実際、レビューで「最初の方を観たけど全然盛り上がらないからやめた」という意見もよく見かけます。
しかし、それは非常にもったいない!途中で一旦離脱するのは仕方ないかもしれませんし、それでも構わないとは思います。でも、しばらくしたら戻ってきてほしいのです。再び観始めると、最初は気づかなかった面白さにどんどん引き込まれていくことでしょう。
これから観始める人への注意点として、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は刑事ドラマではないということは言っておきたいです。刑事ドラマとして期待してみると、やや肩透かしをくらうかもしれません。確かに刑事ドラマの側面もあるのですが、むしろボルティモアという街を描いた大河ドラマのようなものとして観るのがおすすめです。
海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』全5シーズンは、現在U-NEXTで独占見放題配信中です。Amazonプライムビデオでは有料配信されています。
まとめ
以上、海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の魅力を語ってきました。まだまだ語りつくせないところもあるのですが、今回はこのくらいにしておきましょう。まだ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』を観たことがない方は、ぜひ一度観てみて下さい!
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』感想一覧(各シーズンのネタバレあり)
海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン2感想~港湾だってボルティモア~
海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン3感想~警察は街のために何が出来るのか?~
海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4感想~ストリートの子供たちに未来はあるのか~
海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン5感想~真実は明かされるべきか~
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