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海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4感想~ストリートの子供たちに未来はあるのか~

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World goin' one way, people another.

- The Wire season 4 

 

 HBOの歴史的な名作ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』もシーズン4に突入。シーズン4のテーマは「子供」。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4では、貧困問題の根本をまざまざと見せてきます。

 

これまでの感想&あらすじ

海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン1感想

海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン2感想~港湾だってボルティモア~

海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン3感想~警察は街のために何が出来るのか?~

 

 

 

 

『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4基本データ

・原題:The Wire

・放送局:HBO

・放送日:2006年9月10日~12月10日

・話数:13

・一話あたりの長さ:58分

・あらすじ:

 麻薬売人の父親や麻薬中毒の母親など、様々な問題を抱えるボルティモアの4人の少年たちは、8年生になり転機を迎える。

・オープニング(シーズン4):

www.youtube.com

 

あらすじ(ネタバレ)

 バークスデールの組織は解体され、ボディーマルロのもとで売買を続ける。一方、刑事を辞めたプレッツは教師になっていた。プレッツが担当することになった8年生の生徒は、皆何かしらの問題を抱えていた。

 

 ウィーベイ(エイヴォンの手下で、今は刑務所にいる)の息子のネイモンドは、両親から当然のようにウィーベイのようなストリートの兵士になるものだと思われていた。ランディは、レックスの殺害に間接的ながら関わったような形になっていた。デューカンは、親がヤク中で貧困であったため、十分な食事や衣服も用意できないでいた。マイケルの母親もまたヤク中であったが、彼には弟のバグがおり、バグの面倒も見なければならなかった。

 

 警察を辞めたバニー・コルヴィンは、大学教授と協力して、子供たちの教育問題に取り組む。プレッツの学校に来たコルヴィンは、落ち着いて授業を受けられない生徒を特別なクラスに集めて授業をすることにした。始めは、反抗的な彼らだったが、やがてコルヴィンらによる型にとらわれない教育により、社会性を身につけ始める。

 

 プレッツも、なかなか授業に集中してくれない生徒たちに困っていたが、サイコロ賭博の話に絡めて確率の話をするなどして、上手く授業を回すことが出来るようになっていた。そんな折、学校ではテストの時期が近づいていた。テストの成績が悪いと学校の待遇が悪くなるため、教頭らは先生たちにテスト対策の授業のみを行うように指示する。

 

 そんな学校の指示に納得できなかったプレッツは、引き続き独自の授業を続ける。テスト対策を行わないコルヴィンの特別クラスも解体の危機にあったため、コルヴィンは教育委員会や市議会議員らと交渉する。しかし、結局コルヴィンのクラスは解体されることになる。彼のクラスの生徒はこれまでの普通のクラスに戻ることになったのだが、社会性を身につけた彼らの態度は見違えるように変わっていた。

 

 ウィーベイの恩により、ボディーに雇われたストリートで売買をしていたネイモンドだったが、ある日警察に捕まる。そんな彼を、コルヴィンは一時的に保護するものの、母親には「少年刑務所が怖いのかい」と言われる。ランディは、レックス殺害の件で警察と話をするが、そのせいで「チクリ屋」と呼ばれ皆から疎まれイジメを受ける。

 

 マイケルは、カッティのボクシングジムに通っていたが、マルロから仲間にならないかと誘われる。彼は、結局マルロの仲間になり、クリススヌープの下で殺しのことを学ぶ。将来のあるネイモンドがストリートで生きるのはあまりにももったいないと感じたコルヴィンは、自分でネイモンドを引き取って育てることにする。

 

 ボルティモア市では、市長選も熾烈を極めていた。当初は、現職のクラレンス・ロイスが圧勝だと思われていたが、証人殺害事件の影響で支持率は大きく下がり始めていた。対立候補カルケティは、ロイスの中傷にもめげずに、ボルティモアを変えるという強い決意で地道に票を集めていた。投票の結果、カルケティが当選し、黒人の多いボルティモアでは異例な白人市長が久しぶりに誕生することになった。

 

 市長になることが確実となったカルケティは、市の改革に着手する。その一環で、警察の数字至上主義をやめ、量より質を重視した犯罪捜査を行うようにする。だが、学校が5400億ドルもの赤字を抱えていることが明らかになり、カルケティは頭を抱える。

 

 マルロの捜査を行っていた重大犯罪課は、捜査の打ち切りを余儀なくされる。その後、レスターは空き家からレックスの遺体を発見し、他にも多くの遺体があるのではないかと予想する。彼の予想は的中し、ボルティモア市中から全部で22体の遺体が発見された。これらは、いずれもクリスとスヌープの仕業だと見られている。

 

※群像劇である『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のあらすじはめちゃくちゃ難しい。このあらすじでは、本編の10分の1も扱えてないと思います。逆に言えば、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の脚本はとても濃密で、こんなあらすじでは語れないほどに優れているということになるでしょう。

 

 

 

感想(ネタバレあり)

貧困層の教育問題

 根本的な社会問題の解決に「子供」というのは一つのキーワードになってくるはずだと思います。特に、貧困問題のような長年に渡る問題を解決するには、学校教育は重要になってくるでしょう。ボルティモアの街を隅から隅まで描いてきた『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のシーズン4は、この子供の教育問題がテーマになっています。

 

 シーズン1でも、ディアンジェロか誰かが「俺たちにはこれ以外の生き方がないんだ」というようなことを言っていましたが、シーズン4はその背景を描くものとも言えます。メインとなる4人の少年たちは、親がストリートの売人だったりヤク中だったりします。そんな彼らは、自分たちも将来ストリートで生きることになるだろうと思っており、また周りの人間もそう思っています。

 

 幸いなことに、彼らにはプレッツやコルヴィン、ボクシングジムのカッティなど、実の親以上に気に掛けてくれる人がいます。ネイモンドはコルヴィンに救われるのですが、マイケルはそうはいきませんでした。カッティが必死に彼に手を差し出すにも関わらず、マイケルはクリスとスヌープの下でストリートの兵士となる道を歩み始めます。

 

 自らの道を変えることの出来なかったマイケルの物語はとても悲しい。ただ、現実にもそうであるから、貧困問題や麻薬問題がいつまで経っても解決されないのかもしれないと考えると、さらにやるせない気持ちになってきます。

 

②ストリートを生きるバブルス

 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』をシーズン1から観続けてきた人ならば、バブルスに対して多少の愛着が湧いていることでしょう。このドラマを観る前であれば、ホームレスでクスリ漬けの男に興味を持つこともなかったでしょうが、バブルスは『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の中でも最も魅力的な人物の一人になりました。

 

 バブルスはセコいところもあるんですが、それ以上に優しく人情味あふれる男です。シーズン1でも、相棒の白人の男のことをとても気に掛けていました。シーズン4では、バブルスのカートビジネスも繁盛し、新たな相棒もいます。しかし、非力なバブルスはある男に目をつけられ、毎回痛めつけられてしまいます。バブルスが殴られるシーンはいつも辛い……。

 

 いつまでもやられているわけにはいかないと考えたバブルスは、クスリに青酸化合物を混ぜ、それを男に渡すことで殺そうと計画するのですが、これが取り返しの付かない悲劇を招くことになります。相棒が間違って飲んでしまい、死んでしまうのです。これに非常に罪の意識を感じたバブルスは、警察に自首するも、取調室で自殺を図ります。結局これは未遂に終わったのですが、バブルスは精神病院に送られることになります。

 

 誰よりも優しい男が、誰もが嫌う人物についに報いようとしたときに、この悲劇は起こってしまいます。まともな社会人でもなければギャングでもないバブルスですが、この仕打ちはあまりにも残酷。ですが、同時に弱肉強食のストリートで生きるとはそういうことなのかもしれないとも思ってしまうのです。

 

③カルケティはボルティモアを変えられるか

 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4では、ボルティモアの市長選も行われます。当初は不利だと思われていたカルケティでしたが、最終的にボルティモアの白人市長になります。

 

 カルケティを演じるのが、後に『ゲーム・オブ・スローンズ』で狡猾な策士リトルフィンガーことピーター・ベイリッシュ公を演じるエイダン・ギレンであるため、何か企んでいるのではないかと勘ぐってしまうのですが、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のカルケティは珍しくまともな政治家です。彼自身は、本気でボルティモアを変えたいと思って市長選に名乗りを挙げています。

 

 しかし、理想を掲げることと実現することは全く別の話です。カルケティは、以前に市長を務めていた人物から「市長になったら、クソを食らい続けることになる」と言われます。警察の人事にしても、各方面の意見を考慮しなければならず、学校予算の問題も一筋縄では解決しません。その結果、カルケティ自身も納得のいかない決断をすることもあります。

 

 カルケティの物語は、理念を持った政治家であっても、結果的に酷い政治を行うことになってしまう過程を示しているのかもしれません。日本を含め、現実に誰が首長になろうとも国や地域が何も変わらない理由がよくわかります。

 

 

 

まとめ

 以上、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4について書いてきました。「子供」に焦点を当てたシーズン4では、黒人貧困層の根本問題を見せてくれました。それは、現在のBlack Lives Matter運動の背景にも通じるものでしょう。今のアメリカを理解するのに、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は格好の作品と言えるでしょう。

 

 しかし、堅苦しいだけのドラマではないのが『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の素晴らしいところです。4人の少年たちが一緒にたむろしていた頃から、各々の道に進む過程を描いたシーズン4は、映画『スタンド・バイ・ミー』のようなノスタルジックな思いも掻き立てます。

 

 もちろん、魅力的なキャラクター陣のことも忘れてはいません。シーズン4では、プレッツが中心人物の一人になってきますが、教師がとても似合っていましたね。自分もプレッツみたいな教師に出会えたら良かったなぁなんて思います。

 

 そして、クレイ・デイヴィス。クソ野郎ですよ。シーズン3ではストリンガーから金を騙し取り、シーズン4ではカルケティを騙します。そのくせ、いつまでも上院議員の席に就いているのです。Sheeeeeeeeit! ←でも、このセリフだけはどうしても笑わずにはいられない


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