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海外ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン5感想~真実は明かされるべきか~

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The bigger the lie, the more they believe.

- The Wire season 5

 

 ボルティモアの街を隅から隅まで描いてきた『THE WIRE/ザ・ワイヤー』もついにファイナルシーズンとなるシーズン5に来てしまいました。シーズン5のテーマは「マスコミ」、そして「真実」。ボルティモアをリアルに映し出してきた『THE WIRE/ザ・ワイヤー』が最後に映し出す光景は何だったのか。

 

これまでの感想

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『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン5基本データ

・原題:The Wire

・放送局:HBO

・放送日:2008年1月6日~3月9日

・話数:10

・一話あたりの長さ:58分

・あらすじ:

 ボルティモアでは、財政難により警察の予算が大幅に削られていた。そこで、マクノルティは刑事として絶対にやってはいけない方法に乗り出す。

・オープニング(シーズン5):

www.youtube.com

 

あらすじ(ネタバレあり)

 警察官の昇給を約束したカルケティ市長だったが、学校の財政難により、昇給どころか時間外手当も出せない状況にあった。経費削減のため、廃墟から22体の遺体が発見された事件の捜査も一時停止される。一方で、レスターによるクレイ・デイヴィスの汚職捜査は大詰めを迎え、ロンダ・パールマンが訴訟を担当していた。

 

 警察がろくに捜査も出来ない状況に憤ったマクノルティは、ホームレス連続殺人事件をでっち上げる。しかし、連続殺人とはいえ被害者がホームレスなので、当初はさほど注目を集めなかった。

 

 一方、ボルティモア・サン紙には、新人記者のアルマと腕の良くない記者のスコットがいた。編集者のガスは、スコットが嘘を吐いているのではないかと疑い始める。ホームレス殺人事件の取材をしていたスコットは、犯人を名乗る男から電話があったと言う。

 

 これを聞いたマクノルティは良い機会だと思い、利用することにする。結果、この事件は全国から注目される事件になる。そして、マクノルティの思惑通り、カルケティは制限なしの設備と人員を提供することを発表する。

 

 十分な資金を得たマクノルティは、マルロ事件だけでなく他の事件にも設備や人員を提供する。そのおかげで、いくつかの事件やマルロの事件は解決されるが、キーマバンクはマクノルティとレスターの嘘に耐えられないでいた。キーマは、マクノルティの嘘をダニエルズに報告し、このことは市長にも伝わる。

 

 知事選に立候補する予定のカルケティは、この時期にスキャンダルが起こることを嫌い、一件を隠し通すことにする。ボルティモア・サン紙でも、ピューリッツァー賞のためにスコットの疑惑はないことにされ、嘘を上司に告発したアルマは左遷される。

 

 ストリートでは、マルロが勢力を伸ばしていた。金の隠し方などについて、プロポジション・ジョーから教えを受けていたマルロだが、麻薬の供給源(グリークらギリシャ人の組織)を自分のものにするため、ジョーを殺す。マルロは、オマールと懇意にしていたブッチーも殺したため、オマールは復讐のためにボルティモアに戻ってくる。

 

 オマールは、クリススヌープマイケルの手から逃れるものの、脚を怪我する。そして、店で子供に撃たれて死ぬ。その後、レスターの盗聴の成果により、マルロらは一斉に逮捕される。マルロは、マイケルが警察に情報を流したのではないかと疑い、スヌープにマイケルを殺すよう指示するが、逆にスヌープがマイケルに殺されてしまう。

 

 マルロを捕まえたものの、捜査手法に問題があるとして、検事のパールマンと悪徳弁護士のレヴィは、取引をしてマルロを釈放させる。

 

 一連の騒動が終わった後、マクノルティとレスターは警察を辞める。カルケティは知事選に当選する。ボルティモア・サン紙は賞を獲る。一方で、ストリートでは依然として麻薬取引が行われている。

 

感想(ネタバレあり)

①マスコミの実態

 現代社会において、マスコミに対してリテラシーをもって向き合うことは大切でしょう。だからといって、SNSで度々巻き上がるような過度なマスコミ批判もいかがなものかとは思います。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン5では、実際にボルティモア・サン紙で長年記者を務めていたデイヴィッド・サイモンの目を通して、マスコミの実態が描かれます。

 

 シーズン5で扱われるスコットの捏造記事事件は、2003年頃に実際にNYタイムズ紙で起こったジェイソン・ブレアの事件をベースにしていると思われます(ドラマの中でも言及されていました)。自分のために記事を捏造する輩がいるのは、これはもう仕方がないのかもしれません。しかし、本当に問題なのは、それを見過ごす周りの人物たちなのではないでしょうか。

 

 編集者のガスは、スコットが嘘を吐いている可能性を何度も上司に指摘していました。しかし、賞を狙う上司たちはガスの意見を無視し、信頼性に問題のあるスコットの記事を載せ続けます。結局最後まで、この嘘が暴かれないというのが気持ち悪いところですが、それは我々が見ている現実のニュースにも嘘が混じっているということを示唆しているのかもしれません。

 

 デイヴィッド・サイモン自身も記者であったのならば、彼が思うマスコミのあるべき姿というものがあるでしょう。それは、まさにこの『THE WIRE/ザ・ワイヤー』なのではないかとも思うのです。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の最たる特長は、徹底して中立的な視点からボルティモアの街を描き、善悪の判断をしていないというところにあります。これは、そっくりそのままマスコミのあるべき姿に重ねて考えることも出来るでしょう。そういう意味で、ファイナルシーズンではマスコミというテーマが扱われたのかもしれません。

 

※凄くどうでも良いことですが、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン5で新聞社が扱われたことに、日本人から見ると奇妙な符合を感じてしまうのです。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は、現在では最も高い評価を受けているテレビドラマの一つなのですが、エミー賞やゴールデングローブ賞を一つも受賞しておらず、いわば「無冠の帝王」状態にあります。この「無冠の帝王」という言葉は、もともと新聞記者を指して使われていたものです(だから?笑)。

 

②真実は明かされるべきか

 シーズン5では、ついにマクノルティが禁断の手を使います。ホームレスの死を殺人に見えるように細工し、連続殺人をでっち上げるのです。これは明らかに違法行為です。倫理的にも正しいとは言えないでしょう。それゆえ、バンクとキーマは激しい拒絶反応を示します。

 

 しかし、マクノルティのおかげでいくつもの事件が解決されます。実際に彼の嘘によって被害を被った人もいないのです(被害者が性的な動機で殺されたと聞き、遺族が傷つきはしますが)。そのため、レスター、シドナー、カーヴァーらは賛成しています。

 

 この問題はシーズン3のハムステルダム問題とも通じるところがあります。法律的には違法なことであっても、それによって被害を受ける人がおらず、逆に利益しかないのであればそれは善いことなのか?という命題です。シーズン3のハムステルダムは隠し通すことが難しいかったので、結局バレてしまったのですが、今回の事件が世間に明らかにされることはありませんでした。

 

 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』では、どんな事柄に対してもドラマ自体が判断を下すことはないため、どう考えるかは完全に視聴者に委ねられています。自分は、コルヴィンやマクノルティの行動に賛同しちゃうかなぁ?

 

③シリーズを通した謎の解決

 『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン5では、これまでちらほらと見られた伏線が一気に回収されていきます。シーズン1でクレイ・デイヴィスの運転手が大金を運んでいるのが見つかりましたが、ここに来てこの運転手が再登場します。さらに、シーズン2で登場したグリーク&スピノスも再登場。シーズン3では、本来秘密であるはずの大陪審になぜか弁護士のレヴィが現れるという展開がありましたが、その理由も明かされます。

 

 最終話ではマルロはストリンガーのように不動産業を始め、マイケルはオマールのような姿を見せます。そして、これまでのシーズンファイナル同様に、シリーズファイナルでも、結局「何も変わらない」ボルティモアの街を映し出します。ある意味とても後味が悪いのですが、リアリティを追求する『THE WIRE/ザ・ワイヤー』ならではの最終話であり、自分はこのような形で終わって良かったなと思っています。 

 

 

 

まとめ

 もう終わってしまった。どんなドラマでもそうだけど、もうあの慣れ親しんだ仲間たちに会えないのかと思うと、少し悲しい。それでも『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は、あまりだらだら続けることはなく、潔く終わってくれたのは良かった。

 

 全5シーズン60話を通して、現代アメリカの真の姿(私自身にはそれが真の姿かどうかはわからないのですが、アメリカの人たちが皆そう言うのだからそうなのでしょう)を見せてくれた『THE WIRE/ザ・ワイヤー』というドラマは、日本人にとってもアメリカを理解するための貴重な材料になるかもしれません。

 

 ただ、それ以上に面白い!最初こそややハードルが高いですが、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』独特のリズムを掴んでからは、魅力的な登場人物たちや先の読めない展開の虜になっていました。海外ドラマ黄金期の今であっても、このようなドラマは唯一無二でしょう。

 

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