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なぜ『ザ・ソプラノズ』は21世紀の最も偉大なテレビドラマなのか?

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 海外ドラマ黄金時代と言われる現代。『ブレイキング・バッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』など多くの素晴らしいドラマが生まれ、クオリティに関しては映画とほとんど変わらないか、むしろ超えているような作品もあります。

 

 いわゆるピークTV時代とも言われる時代ですが、その始まりとされている、1本の作品があります。それが『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』です。今に至るまで数多くのテレビドラマに影響を与え、現代のテレビドラマ黄金期の祖となった『ザ・ソプラノズ』について今回は解説していきます。

関連記事:映画『ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち』感想&レビュー - 海外ドラマパンチ

 

 海外ドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』全6シーズンはU-NEXTで独占見放題配信中。

 

 

 

海外ドラマ『ザ・ソプラノズ』基本データ

  • 原題:The Sopranos
  • 放送局:HBO
  • 放送期間:1999~2007年
  • 話数:6シーズン86話
  • 脚本:デヴィッド・チェイス
  • キャスト:ジェームズ・ガンドルフィーニ、イーディ・ファルコ、ロレイン・ブラッコ、マイケル・インペリオリ、ドミニク・キアネーゼ
  • あらすじ:ニュージャージー州のイタリア系マフィアで幹部のトニー・ソプラノは、パニック症に悩まされセラピーに通うことにした。マフィア内部での争い、家族のいざこざ、対立する組織との関係にトニーは常に悩まされる。

 

HBOの評価を決定的にした『ザ・ソプラノズ』

 今では『ゲーム・オブ・スローンズ』で有名なHBOですが、本格的にドラマ製作を始めたのは1997年の『Oz/オズ』から。1998年から放送開始した『セックス・アンド・ザ・シティ』は世界的にもヒットしていました。

 

 HBOはケーブル局として最初にドラマを作り始めた局であり、地上波では出来ない過激な表現も可能であることから、テレビドラマの表現の幅を広げることに成功しました。

 

 1999年から始まった『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』は、そんなHBOの評判を決定的にしました。批評サイトRotten Tomatoesでは、シーズン1は98%フレッシュを獲得。全シーズンを通しても、92%フレッシュの評価を得ています。

 

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 エミー賞では作品賞に通算7回(シーズン6が2部構成だったため)ノミネートされ、シーズン5とシーズン6後半の2度受賞しています。主演のジェームズ・ガンドルフィーニとイーディ・ファルコは、ともに主演男優/女優賞に6回ノミネートされ、3回受賞しています。

 

 『ザ・ソプラノズ』は、視聴者からも爆発的な人気を得ており、ファイナルシーズンの平均視聴者数は820万世帯でした。同局のヒット作『セックス・アンド・ザ・シティ』ファイナルシーズンが660万世帯だったことと比較しても、人気の高さがわかります。最終回は1190万世帯が視聴し、その衝撃的なエンディングは、大きな話題になったそうです。

 

 現在、レビューサイトIMDbでは33万人以上からレビューされ、星9.2/10を獲得しています。これは、同サイトに掲載されているすべての実写海外ドラマの中で第6位です。英ガーディアン誌が選ぶ21世紀最高のテレビドラマランキングでは第1位になるなど、本作を史上最高のドラマに挙げる人も数多くいます。

参考記事:The 100 best TV shows of the 21st century | Television | The Guardian

 

 有名人にも『ザ・ソプラノズ』のファンは何人もいます。例えば、俳優のスティーヴ・ブシェミは、放送開始時から本作の大ファンでした。あまりにも好きすぎるので、シーズン3からはエピソード監督として参加し、シーズン5から出演もしています。彼が監督したシーズン3第11話「逃亡」は、ファンから愛され、最も高く評価されているエピソードの一つです。

 

 個人的に意外だったのがキーナン・シプカも『ザ・ソプラノズ』の大ファンだということです。最近はNetflixのドラマ『サブリナ:ダーク・アドベンチャー』に主演していた現在21歳のキーナンは、今年6月のインスタグラムの投稿でもトニー・ソプラノのシャツを「永遠に着る」と言っているほどのソプラノズファンです。放送当初は、まだ生まれてもいなかった世代ですが、そんな人々の心も掴んでしまうのです。

 
 
 
 
 
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 2021年には、ドラマの前日譚となる映画『The Many Saints of Newark』が公開予定。HBOを代表するマフィアドラマは、現在でも根強い人気を誇っています。と同時に、21世紀のテレビドラマに非常に大きな影響を与えたとされる本作。その理由を探っていきましょう。

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悪役ドラマを開拓

 ドラマ『ザ・ソプラノズ』の最大の功績が、悪役が主人公のドラマを開拓したことです。テレビドラマの人気ジャンルと言えば、今も当時も、刑事・弁護士・医療です。他にもSFやコメディなどがあるわけですが、いずれにしても善人の話です。

 

 一方、『ザ・ソプラノズ』の主人公トニー・ソプラノはマフィアのボスです。どう弁解したところで、彼は悪人です。法的にも倫理的にもアウトな人物として描かれています。

 

 特に、画期的だったとされるのがシーズン1第5話の「真相」Collegeです。その年のエミー賞では脚本賞を受賞しており、2009年にTV Guideが発表したオールタイムランキングでは第2位に選ばれた名エピソードです。

参考記事:TV Guide's 100 Greatest Episodes of All-Time - Wikipedia

 

 このエピソードで、トニー・ソプラノは自らの手で殺しをします。拳銃などでスマートに殺すのではなく、文字通り自分の手を使って相手を殺します。その場面が生々しく描かれています。

 

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 今となっては『デクスター』や『ハンニバル』など、数多くのドラマで同様のシーンがあり、目新しいものではないかもしれません。しかし、それらのドラマがあるのは、そもそも『ザ・ソプラノズ』があったからこそ。

 

 テレビドラマは映画とは異なり、視聴者に長く観てもらうことが大事なので、主人公のキャラクターはフレンドリーで親しみやすい方が良いと考えがちです。その常識を打ち破ったのが、『ザ・ソプラノズ』シーズン1第5話だったのです。

 

 その後、ドラマ界ではアンチヒーローが席巻することになります。『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のオマール・リトル、『デクスター』のデクスター・モーガン、『ブレイキング・バッド』のウォルター・ホワイト、『マッドメン』のドン・ドレイパー、『ハウス・オブ・カード』のフランク・アンダーウッド……。今や人気キャラクターの多くはアンチヒーローと言っても良いほどです。

 

 『ブレイキング・バッド』のクリエイターのヴィンス・ギリガンは「トニー・ソプラノがいなかったらウォルター・ホワイトはいなかっただろう」とインタビューで語っています。『ザ・ソプラノズ』が築いたアンチヒーロー像は、現代まで多くのテレビドラマに引き継がれています。

参考記事:James Gandolfini Death: Vince Gilligan Says Without Tony Soprano There Would Be No Walter White – The Hollywood Reporter

 

映画の技法をテレビドラマに

 現代はテレビドラマ黄金時代とも言われるほど、ドラマのクオリティが上がってきています。その要因の一つが、ドラマでも映画と同様の撮影をしたり、映画で実績のある監督やキャストを使うようになったからです。

 

 では、そもそもそのようなことをやり始めたドラマは何なのか? もうわかりますね。『ザ・ソプラノズ』です。ハイクオリティなドラマと言えば現在でもHBOの名が真っ先に挙がりますが、その方向性を決定付けた作品なのですから。

 

 キャストについては、マーティン・スコセッシ監督の映画『グッドフェローズ』と共通する俳優が多く起用されています。トニーのセラピストのDr. メルフィーを演じるロレイン・ブラッコ、側近のポーリーを演じるトニー・シリコ、甥っ子のクリスを演じるマイケル・インペリオリ、NYの組織のフィルを演じるフランク・ヴィンセントが主なところです。

 

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 撮影に関しては、ロケ撮影を多く行っています。テレビドラマといえば、セットで撮影することがほとんどだったところ、『ザ・ソプラノズ』では実際に舞台となるニュージャージーで撮影した場面が多くあります。

 

 撮影自体も素晴らしく、例としてオープニングクレジットを挙げてみましょう。トニーがニューヨークから自宅のあるニュージャージーに車で帰る様子を映し出しています。Alabama 3によるテーマ曲Woke Up This Morningとともに、道中の名所が映し出されていくので、何度観ても飽きません。

 

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 テレビドラマのオープニングといえば、登場人物の顔とともに俳優の名前が次々と出るものが一般的でした。しかし、このオープニングでは主人公がいるにも関わらず、顔は部分的にしか映し出れず、町の風景をメインに見せていきます。現代でも十分に通用するクールな映像です。 

 

変化する主人公像

 名作には、優れた脚本が不可欠です。『ザ・ソプラノズ』の脚本も非常に秀逸なのですが、注目すべきはシーズンが進むにつれて”変化する主人公”を描いたことです。

 

 それ以前のドラマと言えば、登場人物の性格は全シーズンを通してさほど変わりません。今でも、特にCBSのドラマなどは典型的にそのタイプの作品です。登場人物のキャラが変わらなければ、視聴者も安心して気楽に観ていけるなどのメリットがあります。

 

 しかし、トニー・ソプラノの性格は、話が進むにつれて変わっていきます。現実の人間は誰しも性格や考え方が徐々に変わっていくように、同様の変化がトニーのキャラクターにもあります。

 

 トニーに限らず、彼の家族やマフィアの仲間たち、その間の人間関係もシーズンを追って変わっていきます。『ザ・ソプラノズ』には、マフィアものでは珍しくセラピストが出てくるのですが、その心理セラピーを通してトニーの精神状況はさらに深掘りされていくのです。

 

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 この脚本の作り方に最も大きな影響を受けているのが、AMCの『マッドメン』です。1960年代の広告業界で働く主人公とその家族、会社の同僚たちを描いたこのドラマは、言うなれば会社版『ザ・ソプラノズ』。主人公の家族構成や、中間管理職のような立場は、いずれもとてもよく似ています。

 

 製作面でも、BGMをあまり使わないところや、現実の生活を出来る限り再現しようとするところは共通しています。それもそのはずで、『マッドメン』のクリエイターを務めたマシュー・ウェイナーは、『ザ・ソプラノズ』でも何度か脚本を担当しています。

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 ”変化する主人公”をさらに追求したのは、『ブレイキング・バッド』でした。トニー・ソプラノはときに良い方に変化したり悪い方に変化したりするのですが、ウォルター・ホワイトは完全に悪を突っ走ります。最初はただの高校教師だったのが、麻薬精製を始めたことで、悪の道に堕ちていくのです。

 

 おそらく『ブレイキング・バッド』ほど主人公像が大きく変わるドラマは他にありません。徐々に徐々に、それでも確実に墜ちていく主人公を描き切った脚本は、非常に高く評価されています。

 

『ゲーム・オブ・スローンズ』への影響

 今度は『ザ・ソプラノズ』が、2010年代に世界中を興奮の渦に巻き込んだメガヒット作『ゲーム・オブ・スローンズ』に与えた影響を見てみます。

 

 今では、HBO最大のヒット作といえば『ゲーム・オブ・スローンズ』に他ならないのですが、それ以前は『ザ・ソプラノズ』でした。『ザ・ソプラノズ』の成功がなければ、HBOはドラマ製作に潤沢な予算を掛けるのを辞めていたかもしれないと考えると、直接的にも『ゲーム・オブ・スローンズ』が『ザ・ソプラノズ』と無縁ではないことがわかります。

 

 『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作者であるジョージ・R・R・マーティンも、『ザ・ソプラノズ』のファンの一人です。彼は、大きな予算を掛けられるが2時間しかない映画ではなく、長い時間を掛けられるドラマの方がこの作品は相応しいと考えていました。しかし、地上波の場合は表現の規制が厳しく、エログロを含めた過激な表現は出来ません。ケーブル局のHBOならば大きな予算を掛け、自由な表現が可能だと判断し、製作を決めました。

参考記事:George RR Martin: Hollywood would have ruined Game of Thrones | Game of Thrones | The Guardian

 

 ジョージ・R・R・マーティンは、トニー・ソプラノというキャラクター造形の巧みさについては何度も語っています。トニーは悪人で最低な人間だと思うにも関わらず、その人間的魅力はどうしても好きにならざるを得ないと。

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 内容面での大きな共通点は、どちらもメインキャラクターがいきなり死ぬことが何度かあるということです。いきなり死ぬというと変ですが、要は殺されるのです。マフィアの世界もウェスタロス大陸も生存競争は激しく、様々な策略の中で重要人物が消されることがあります。予想外の展開の数々は、視聴者を惹きつけ続けていました。

 

 今は『ゲーム・オブ・スローンズ』に焦点を当てましたが、現代のほとんどの海外ドラマは直接的・間接的に『ザ・ソプラノズ』の影響を受けていると言って過言ではないでしょう。

 

『ザ・ソプラノズ』が受けた影響

 ここまで『ザ・ソプラノズ』が現代に至るテレビドラマのすべてを開拓したかのように書いてきましたが、もちろん『ザ・ソプラノズ』自身も過去の作品から多くの影響を受けています。

 

 すでに書いたように『ザ・ソプラノズ』と『グッドフェローズ』は多くのキャストが共通しているのですが、内容面でも共通点があります。特に、マフィアの日常や友情を描いたというのは大きな特徴です。

 

 他にも、映画『ゴッドファーザー』シリーズへのオマージュや引用は多く登場します。幹部のシルヴィオ・ダンテは『ゴッドファーザー PartⅢ』のマイケルのモノマネを十八番にしているほどです。

 

 ドラマ製作の面では、同じくHBOで2年前から放送されていた刑務所ドラマ『Oz/オズ』の影響は大きいでしょう。ケーブル局初のドラマとして、過激な暴力描写等も含めた『Oz/オズ』の存在が画期的だったのは間違いありません。

 

 さらに先駆的なテレビドラマとして、1990~1991年に放送されたデイヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』も忘れることは出来ません。映画業界の監督がテレビドラマに本格参入した作品でもあります。

 

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 『ツイン・ピークス』と言えばクーパー捜査官の奇妙な夢の場面がとても印象的ですが、実はこれは『ザ・ソプラノズ』に大きな影響を与えています。セラピストが登場する本作において、トニーの見る奇妙な夢は重要な要素です。さらには、夢なのか現実なのか判然としないシーンも出てきます。

 

 クリエイターのデヴィッド・チェイスは、インタビューで『ツイン・ピークス』からの影響を認めています。何が起きているのかわからない、そんなドラマは初めてだった。夢の場面は、フェリーニやヒッチコックのものより悪夢的だった、などと語っています。

参考記事:Lost, Fargo and Sopranos Creators on Twin Peaks' Influence | Time

 

まとめ—マフィアの代名詞に—

 以上、海外ドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』が現在までのテレビドラマにどのように影響を与えてきたか、またそれ自身がどのような影響を受けているかについてまとめてきました。

 

 トニー・ソプラノというアンチヒーローの誕生、映画製作をドラマ界にも持ち込んだ先駆的ドラマ、複数シーズンをかけてキャラクターの変化を描く巧みな脚本などは、後世に大きな影響を与えています。

 

 最後に、ポップ・カルチャーへの影響を軽く紹介しておきます。『ザ・ソプラノズ』の大ヒットにより、トニー・ソプラノの名前はマフィアの代名詞になっており、今でも数多くの作品で言及・引用されています。自分が知っている範囲では、近年もドラマ『バリー』『ビリオンズ』『ハイ・フィデリティ』の中でその名前が出てきます。

 

 トニー・ソプラノに言及されている作品の数は、本当に無限にあるぐらいなのですが、一番有名なのはビヨンセとジェイZが2003年にリリースした「Crazy In Love」でしょうか。

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 動画では2分10秒にthe pocket is full like Tony Soprano(ポケットはトニー・ソプラノみたいにいっぱいだ)という歌詞が登場します。マフィアのボスであるトニーは金持ちであり、常にまとまった額の現金を持ち歩いています。金持ちの代名詞、悪人の代名詞としてもトニー・ソプラノの名を知らないアメリカ人はいません。

 

 マフィアドラマの記事をビヨンセで締めることになるとは思っていませんでしたが、この記事はこれでおしまい。2021年にアメリカで公開される映画版に先駆け、このタイミングで『ザ・ソプラノズ』を観てみるのもちょうど良いのではないでしょうか。

 

 海外ドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』全6シーズンはU-NEXTで独占見放題配信中。

 

↓ 2021年公開された前日譚映画

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