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- Don Draper, Mad Men season 1 episode 1 "Smoke Gets in Your Eyes"
冒頭から長い英語を書いてしまったのですが、『マッドメン』の魅力の一つはそのウィットに富んだ会話にもあるので、第1話でのドン・ドレイパーの言葉を引用させてもらいました。
1960年代ニューヨークの広告業界を舞台にした海外ドラマ『マッドメン』は、エミー賞やゴールデングローブ賞を総なめした名作として知られています。最近になって自分も観たのですが、これは面白い!その評判は正真正銘のものでした。
ということで今回は、Amazonプライムビデオで見放題配信もされている海外ドラマ『マッドメン』の魅力をネタバレなしで紹介します。
↓ さらにディープに『マッドメン』の魅力を探る(軽微なネタバレあり)
海外ドラマ『マッドメン』基本データ
- 原題:Mad Men
- 放送局:AMC
- 放送期間:2007~2015年
- 話数:7シーズン全92話
- クリエイター:マシュー・ワイナー
- キャスト:ジョン・ハム、エリザベス・モス、ヴィンセント・カーシーザー、ジャニュアリー・ジョーンズ、ジョン・スラッテリー、クリスティーナ・ヘンドリクス、キーナン・シプカ
- あらすじ:1960年代、ニューヨークのマディソン街にある広告代理店に働く男たちは、自分たちを「マッドメン」と呼んでいた。スターリング・クーパー社で働く有能な広告マンのドン・ドレイパーを主人公に、当時の人々の生き方を映し出す。
予告編
海外ドラマ『マッドメン』とは?
1960年代のニューヨークの広告業界を生き生きと描いた『マッドメン』は、批評家から高く評価され、視聴者からも高い人気を得ました。エミー賞では、毎年作品賞にノミネートされ、そのうち4年連続受賞。これは、同部門の史上最多タイ記録です。主演のジョン・ハムは主演男優賞を受賞し、クリエイターのマシュー・ワイナーは脚本賞を3度獲得しています。
マシュー・ワイナーは、それ以前にHBOの『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』シーズン5~6にも脚本家として参加しており、ここでも2度のエミー賞作品賞受賞に貢献していました。
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主演のジョン・ハムは、本作でブレイクしました。そのハンサムな顔立ちと大柄な体格は、60年代のハリウッドスターのような風格があり、まさにぴったりのキャスティングだったと思います。
ペギー・オルセンを演じるエリザベス・モスは、それ以前にも『ザ・ホワイトハウス』に出演していましたが、ブレイクしたのは同じく『マッドメン』と言って良いでしょう。2017年からは『ハンドメイズ・テイル』に主演し、エミー賞を受賞しています。
『マッドメン』は、7シーズン続いていることから、批評家だけでなく視聴者からの人気も高かったことがわかります。平均視聴者数は約200万世帯であり、これは同時期にAMCで放送されていた『ブレイキング・バッド』(最終シーズンを除く)よりも高い数字になっています。
それでは、なぜ『マッドメン』がこれほど批評家から高く評価され、視聴者にも人気の高い作品になっているのか、探っていってみましょう。
洗練されたデザイン
『マッドメン』を観始めたならば、30秒で、その人気の理由の一つがわかります。テーマ曲とともに男のシルエットが転落していく、このオープニングです。
60年代のニューヨークの広告業界を舞台にした作品らしく、当時の広告ポスターの画像などをふんだんに取り入れています。テーマ曲は、ドラマのために新しく作られた曲なのですが、こちらもドラマにぴったりのものになっています。
このスタイリッシュなオープニングに代表されるように、登場人物の衣装やオフィスの様子を含めて、『マッドメン』のデザインは綿密な時代考証を基に再現されたエレガントなものになっています。
当時のニューヨークを再現しているのは、デザインだけではありません。台詞や小ネタの数々に至るまで、60年代が徹底されています。例えば、当時のアメリカで人気だった俳優の話だったり、流行っていたコメディアンのネタなども出てくるんです。
自分にとっては、どれも初めて知るようなことばかりでしたが、それでも当時のNYの広告業界に引き込まれてしまいました。綿密に作りこまれた世界観は、その時代に興味のなかった者まで虜にしてしまう力があります。
巧みなキャラクター造形
『マッドメン』の主人公はドン・ドレイパーという男なのですが、最初は彼がどんな人物なのか全くわかりません。彼は過去のことを決して語ろうとしないため、どのような背景があるのかわからないのです。話が進むに連れ、その内容が徐々にわかってきて面白いのですが、今回はネタバレを控えるため、その点には触れません。
『マッドメン』では、ドンの家庭の話も多く描かれます。ドンは敏腕広告マンであり、美人の奥さんとの間に2人の子供がいます。これだけを聞くと、アメリカンドリームを体現した完璧な家庭のように見えます。
しかし、実は決して順風満帆というわけではありません。ドンは様々な女性と情事を重ね、ベティは今の生活が本当に幸せなのか疑問に思い始めています。その2人の子供たちも苦労があったりするのです。
人々の理想を映し出す広告は、外見だけは完璧なドンの家庭のメタファーでもあります。オープニングで男が落下するモチーフが描かれているのも、ドンの家庭の話を暗示しているのかもしれません。
ジェンダー論として
60年代のアメリカは、まだまだ男尊女卑の考えが当然であり、法律に基づく人種差別も行われていました。『マッドメン』の登場人物たちも例外ではなく、女性や黒人を差別する言動をすることがあります。
これは、もちろんドラマがそのような価値観を持っているというわけではありません。当時の世間では、女性や黒人に対する扱いはそれが当たり前だと思われており、差別的とは認識されていなかったのです。それを『マッドメン』ではそのまま描写しているのです。
これは、視聴者を信用しているから出来ることです。ドラマの中で差別的言動があったとしても、それはあくまでも時代背景があるからであり、現代でそのような言動をしてはいけない、ということを分かっている人たちをターゲットにしています。わざわざここで言う間でもないことだと思いますが。
ドラマに登場する”マッドメン”と呼ばれた広告業界の男たちは、昼はマンハッタンの会社で働き、夜は同僚と酒を飲み、休日は家族サービスをするのがスタンダードでした。普通に良い暮らしですよね。
でも、会社と家族の時間だけでは息苦しくなってくるときもあるのです。だから、マッドメンには多くの場合、愛人がいます。まあ、そんなのはわがままだし、家庭への裏切りだという感じはします。しかし、ドラマ自体はそのことに善悪の判断をするわけではなく、淡々と映し出していきます。
女性キャラクターは、さらに興味深いです。現代では、不利な社会的立場に置かれた女性が声を挙げることをテーマにした作品が多くありますが、『マッドメン』はなかなか単純にはいきません。なぜなら、当時の女性は不遇な状況を不遇だと思っていませんでしたし、たとえ気づいたとしても、声を挙げられなかったからです。
当時の女性は、結婚して家庭で子育てをすることこそが幸せだと思っていました。その中で、ペギー・オルセンを筆頭に、そういった価値観に疑問を持つ女性が登場してきます。
あくまでもリアリティを重視しているため、女性たちがいきなり躍進するわけではなかったりもします。それでも、60年代という時代で、彼女たちがどのように生きていくのかを見るのは、とても興味深いです。
まとめ
『マッドメン』の魅力を文章で伝えるのは、凄く難しいなと思うんです。というのは『マッドメン』がドラマにしか出来ない方法で物語を綴っているため、実際に何話か観てみないと、その面白さが分かりにくいのです。
そのあたりも、視聴者への信頼が厚いんだと思います。序盤のエピソードはあまり盛り上がらなくても、信頼された視聴者は後半への期待感で見進めていきます。そこまで見続けてくれた視聴者の期待を『マッドメン』は決して裏切りません。シーズン後半からどんどん面白くなり、シーズン3まで来ると、これ以上面白いドラマは他にないのではないかという気持ちにもなってきます。
「アクションが凄い!」とか「どんでん返しに騙される!」といったものは全くないのですが、ドラマの尺を生かしてじっくりと描かれていく広告業界の人間模様は堪らなく魅力的なのです。