There's a way to make this work, and that way is hard. As Taleb says, "Become anti-fragile, or die."
- Taylor Mason, Billions season 2
*Taleb: ナシーム・ニコラス・タレブ。著書『反脆弱性』などで知られる随筆家。
縁遠いようで身近、身近なようで縁遠い金融をテーマにしたテレビドラマ。それが『ビリオンズ』です。ヘッジファンドマネージャーVS連邦検事の熾烈な対決を中心に、ドラマは一見すると難解そうな金融の世界へ誘います。現在、Netflixで配信中の『ビリオンズ』の面白さとは何なのか?そして、その裏にある秘訣を探っていきます。
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海外ドラマ『ビリオンズ』とは?
海外ドラマ『ビリオンズ』は、2016年にアメリカの放送局Showtimeで放送が始まりました。同局は、過去にも『デクスター』『ホームランド』などの大人向け名作ドラマを製作・放送してきています。
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『ビリオンズ』はこれまで6シーズンが放送され(日本ではシーズン5までNetflixで配信中)、シーズン7が製作されることも決定しています。このシーズン7でドラマは完結する予定ですが、現在、4つのスピンオフドラマが企画中ということで、まだまだ『ビリオンズ』の世界は広がっていきそうです。
ヘッジファンドマネージャーのボビー・アクセルロッドを演じるのは、ドラマ『バンド・オブ・ブラザース』『ホームランド』などで知られるダミアン・ルイス。カリスマ的な億万長者の姿を見せてくれます。
対する連邦検事のチャック・ローズを演じるのは、映画『サイドウェイ』や『シンデレラマン』での演技が高く評価されたポール・ジアマッティ。落ち着いた独特の口調が耳に残ります。
シーズン2から登場する新人ディーラーのテイラー・メイソンを演じるのは、ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』や映画『ジョン・ウィック:パラベラム』に出演したエイジア・ケイト・ディロン。北米のテレビドラマでノンバイナリーのメインキャラクターが登場するのは『ビリオンズ』が初めてなのだとか。
ドラマの中でも、テイラーに対して使われる代名詞はHeやSheではなく三人称単数としてのTheyです。個人的には、テイラー役のような必ずしもノンバイナリーの人が演じる必要がない役でも、ノンバイナリーなどLGBTQ+の俳優が起用されるのは良い傾向だと思います。LGBTQ+の俳優が演じられる役が増えることに繋がるので。
ドラマの内容はフィクションですが、部分的には実話にインスパイアされています。特に、現実のヘッジファンドCEOのスティーブ・コーエンの訴訟などが基になっているとか。
予告編(シーズン1)
NYタイムズ現役記者が製作
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↑ NY証券取引所で取引開始のベルを鳴らす『ビリオンズ』のキャスト
金融というジャンルをここまで本格的に扱った海外ドラマは、おそらく古今東西『ビリオンズ』ぐらいでしょう。法廷ドラマなどでは、たまにインサイダー取引の話があったりしますが、『ビリオンズ』ほどではありません。
『ビリオンズ』が金融の世界をリアルに描くことが出来ている背景には、クリエイターのアンドリュー・ロス・ソーキンがいます。アーロン・ソーキンの親戚ではありません。
アンドリュー・ロス・ソーキンは、ニューヨーク・タイムズの金融コラムも担当している経済ジャーナリストです。2009年に出版したノンフィクション小説『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』は、多くの賞を獲得しました。
アンドリュー・ロス・ソーキンは、アーロン・ソーキン製作のHBOドラマ『ニュースルーム』でもコンサルタントの一人を務めていましたが、本格的にドラマ製作に関わるのは今回が初めてです。NYタイムズの現役トップ記者が、脚本段階から全面的に製作に関わっているのが、金融ドラマ『ビリオンズ』の面白さの秘訣になっています。
このドラマは金融の世界を存分に見せてくれますが、同時に視聴者を置いてけぼりにすることはありません。出てくる金融・経済用語の中には難しいものもあるのですが、あくまでもメインはヘッジファンドCEOと連邦検事の2人の対決なので、その構図自体はシンプルになっています。多くの視聴者の支持を得られている理由は、そんなところにもあるでしょう。
登場人物
ボビー・アクセルロッド
アックス・キャピタル社のCEO。純資産は100億ドル規模。多額の寄付を多方面で行っているが、9.11事件のときに大金を稼いだと言われている。金を稼ぐためならどんなことでもやる。負けず嫌いな性格がときに弱みとなる。
ララ・アクセルロッド
ボビーの妻。オーガニック指向のレストランを経営している。生まれは一般的な家庭であるため、ボビーの妻であることに関して親戚からの反応は様々。ボビーとララの間には2人の男の子がいる。
マイク・”ワグス”・ワグナー
ボビーの右腕。アックス・キャピタル社のディーラーたちを取り仕切る立場でもある。部下に対しては特に口が悪い。
チャック・ローズ
ニューヨーク南地区の連邦検察官。金融犯罪を主に扱っており、負けたことがない。ボビー逮捕に執念を燃やす。BDSM趣味がある。
ウェンディ・ローズ
チャックの妻であり、アックス・キャピタル社の心理セラピスト。ディーラーたちが取引で利益を出せるように、精神面でのサポートをしている。ボビーのメンター的な存在でもある。チャックとウェンディの間には男の子と女の子がいる。
ブライアン・コナティー
連邦検事。チャックの最も信頼する部下。
ケイト・サカー
連邦検事。チャックの部下。
テイラー・メイソン
シーズン2から登場。アックス・キャピタル社に新たに入ってきた天才ディーラー。市場を読む能力はボビーより強いかもしれない。ボビーの下で経験を積む。
見過ごされてきた金融犯罪
金融犯罪は、多くの人にとっては馴染みがないものだと思います。自分たちが金融犯罪に関わることもないでしょうし、誰かが逮捕されたとしても、傷害事件とは異なり、あまりニュースにはなりません。
一方で、2008年のリーマンショックの成り行きを見ると、金融犯罪がどれほど多くの人々に影響を与えるかが分かります。ウォール街から始まった世界規模の金融危機は、世界的な経済の悪化を招き、多くの雇用が失われました。
しかし、リーマンショック関連で、実際に逮捕された金融関係者は一人もいません。どう考えたって、これはフェアではないわけです。その出来事が『ビリオンズ』のきっかけになっています。
連邦検事のチャック・ローズは、公平であるべき投資市場のルールを守らない者たちを徹底的に追い詰めます。裁判では負けなしだったチャックは、今度はヘッジファンドCEOのボビー・アクセルロッドを標的にします。
ボビーは、とにかく金持ちです。どれだけ金を使っても余るほど持っています。それでも、まだまだ金を稼ごうとしています。嫌味な奴だなぁとは思うのですが、彼はウォール街のロビンフッドとして人々からは好かれています。各方面に多額の寄付をしているので、そのおかげでしょう。
チャックが捜査を始める前は、ボビーはウォール街では珍しくクリーンな金持ちだと思われていました。それが、大金持ちだとしても好感度が高い理由の一つでもありました。でも、チャックいわくウォール街に潔癖な人間などいません。
チャックの捜査により、ボビーは犯罪すれすれのことを何度もやっていたことが明らかにされていきます。しかし、それらは巧妙に隠されているため、チャックはどうやってボビーの悪事を暴いていくのか? 一方のボビーは、どうやってチャックの攻撃を交わしていくのか? これが『ビリオンズ』の見どころになってきます。
現代の億万長者の姿
『ビリオンズ』はお金の話ですが、実際のお金はほとんど出てきません。証券取引はすべて電子上で行われますし、普段の買い物はすべてクレジットカードです。犯罪ドラマの方が金額は少なくても、紙幣を見ることはずっと多いです。
『ビリオンズ』には紙幣は出てきませんが、出てくるお金の単位は桁違い。ドラマの中の取引は基本的に100万ドル(日本円で約1億円)単位で行われるので、想像なんて出来るものではありません。
そんな世界で生きるボビーの普段の生活ももちろん豪華です。でも、それは現代的なスタイリッシュな豪華さ。ボビーは成金ではないので、無駄なお金の使い方はしません。ケチというわけではなく、必要なときに遠慮なくお金を使うという金持ちです。
現代の億万長者は着るものも違います。お金のかかったオーダーメイドのスーツを着るのは、時代遅れなのかもしれません。ボビーのお気に入りはロックバンドのTシャツです。気合を入れたいときには、MegadeathやMetallicaのTシャツを着ます。
ドラマ自体も、エンディングには大抵ロックが流れます。『ビリオンズ』はロックなんですよ。一方、金持ちが登場するドラマでも『メディア王~華麗なる一族~』はクラシックにラップを取り入れたようなテーマ曲が使われています。前者が現代の金持ちの話であり、後者が時代遅れな金持ち一家の話であることによる違いですね。
ボビーが圧倒的な金持ちなのは間違いないですが、検事のチャックもそれなりに所得があるはずです。彼は、立派なスーツを着てちゃんとした会食によく出席しています。『ビリオンズ』には、少なくとも年収10万ドル以上の人しか出てこないので、どの場面もお金のある世界の話です。現代の億万長者の生活を見ることが出来るのも『ビリオンズ』の面白さです。
まとめ
海外ドラマ『ビリオンズ』は現在Netflixで全話配信中。現在までに5シーズン60話が製作され、シーズン6も決定しています。1話60分で1シーズン12話なので、なかなかボリューミーなのですが、その価値はあります。億万長者の熾烈な争いの世界を覗いてみてはどうでしょうか。
↓「だから言っただろう、ボブ。その価値はある」
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