現実世界では悪人に出会いたくはありませんが、フィクションの世界の悪人たちに惹きつけられるものがあるのは事実です。法的あるいは倫理的にアウトな存在である彼らは、海外ドラマの世界のいたるところで活躍してきました。
悪役が主人公(アンチヒーロー)のドラマが最も人気があったのは、2010年前後のことでした。名作ドラマ『ブレイキング・バッド』を筆頭に、『マッドメン』『デクスター』など、魅力的なアンチヒーローが多数登場しました。近年はブームが収まり、倫理的にアウトな主人公が社会的に受け入れられにくい風潮もあるため、アンチヒーロードラマは減っています。
でも、ゼロになったわけではありません。しぶとく生き残っている悪役たちもまだまだいます。今回は、悪人が主人公または実質主人公の海外ドラマを12本紹介していき、彼らの悪行と強みを見ていってみましょう。
トニー・ソプラノ
『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』
職業:マフィア
悪行:暴力、恐喝、不倫
強み:腕力と数人の信頼できる部下
マフィアのボスの日常を描いた『ザ・ソプラノズ』は、史上初めて悪人を主人公にしたドラマだとされています。このドラマのヒットのおかげで、後にアンチヒーロードラマが流行するようになりました。トニー・ソプラノは、史上初のアンチヒーローであり、いまだに最も恐ろしい主人公の一人です。腕っぷしが強いだけでなく、戦略的なところもあり、気に入らない相手を倒すためなら部下も使って嫌がらせでも恐喝でも何でもやってきます。存在感だけでも怖い。
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オマール・リトル
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』
職業:無職
悪行:殺人、略奪
強み:独自の強い倫理観
ボルティモアのストリートで暗躍する一匹狼のオマール・リトルは、主に麻薬売人をターゲットに略奪をしています。善良な市民を襲うことはありません。そのため、オマールはストリートの伝説的な存在になっています。自らの掟に従い、正々堂々と悪人と対峙していく様はとてつもなくクールだ。
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ウォルター・ホワイト
『ブレイキング・バッド』
職業:高校の化学教師
悪行:麻薬製造および殺人
強み:敵の数手先を見越して行動する賢さ
うだつの上がらない高校の化学教師であるウォルター・ホワイトは怖くありません。でも、麻薬王のハイゼンベルクはとてつもなく怖い。彼に手を出そうものなら、もうおしまいです。どんな作戦を弄しても、ハイゼンベルクはあなたの手のうちを完全に知っています。
デクスター・モーガン
『デクスター』
職業:警察の鑑識官
悪行:100件以上のバラバラ殺人
強み:独自のルールに従った用意周到さ
デクスターは、これまでに100人以上を切り刻んできた連続殺人犯です。ただし、安心してください。彼が殺すのは、法の手を逃れた凶悪犯だけです。いわば闇のヒーローです。特別なスキルなどはないものの、警官だった義理の父親から教わった教えをもとに、用意周到に犯行を行っています。デクスター自身が警察で働いているということもあり、これまで一度も警察に捕まったことはありません。
ドン・ドレイパー
『マッドメン』
職業:広告マン
悪行:不倫、詐称、不誠実
強み:ハンサムな男であること
ドン・ドレイパーは、有能な広告マンであるとともに、とびきりハンサムな男です。しかし、とびきりのクズでもあります。息をするように不倫をし、昼から酒を飲み、子供たちのことを気にかけず、自分勝手な事情で会社を危険な状態にし、あるとんでもない秘密を抱えています。でも、彼はハンサムな白人男性なので、たいていのことは許されてしまいます。
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セリーナ・マイヤー
『VEEP/ヴィープ』
職業:アメリカ副大統領
悪行:国民をないがしろにした
強み:毒舌と無関心
風刺コメディドラマ『VEEP/ヴィープ』の主人公のセリーナ・マイヤーは、初期シーズンではただの暇そうな政治家に過ぎません。しかし、シーズンが進んで彼女の政治力も強まるにつれ、国家へ悪影響を及ぼし始めます。破壊的な毒舌で部下を侮辱し続けるだけでなく、政策案は忖度に妥協を重ね、ほとんど何もしない政策ができあがります。セリーナは、それでも構わないと思っています。彼女は、基本的に国民のことに興味はなく、最高権力者になりたいという執着のために政治をしているのですから。
ハンニバル・レクター
『ハンニバル』
職業:精神科医
悪行:殺人、カニバリズム
強み:マインドコントロール
映画『羊たちの沈黙』でアンソニー・ホプキンスが演じた世界一有名な人喰い精神科医は、ドラマではマッツ・ミケルセンが演じています。そのエレガントな表の顔に隠された凶暴な一面に気づいた者は、彼の食卓に並べられる運命になっています。彼は身体能力も高いのですが、真の武器は相手の脳内を自在に操れること。この武器に対抗できる者は一人としていません。
ボビー・アクセルロッド
『ビリオンズ』
職業:ヘッジファンドCEO
悪行:稼ぐためならどんな手でも使う
強み:市場を読む能力
現代社会の真の悪党は、ギャングやマフィアではなく、投資で荒稼ぎするヘッジファンドかもしれません。ボビー・アクセルロッドは市場を読む才能に非常に長けているとともに、様々なコネや情報網を使って投資を行っています。ときには姑息な手段を使って法の手を逃れることもあります。投資先が地方自治体の場合は、投資による悪影響が地元民にまで及ぶことも。どんなお金も、元々はどこかで誰かが働いて稼いだものだということを忘れてはいけません。
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マーティ・バード
『オザークへようこそ』
職業:会計士
悪行:麻薬カルテルの資金洗浄
強み:危機に陥ったときの機転の上手さ
マーティ・バードは、決してパニックに陥ることのない冷静沈着なビジネスマンです。しかし、どんなときでも感情をほとんど見せない様は、不気味に見えることもあります。彼自身が暴力を振るうことはありませんが、資金洗浄のためにやってきたオザークでは、地元民たちがどんどん破滅への道を進んでいくことになります。オザーク家の人間と出会ったら、どんなに良さそうな人に見えても関わらないのが吉です。
ヴィラネル
『キリング・イヴ』
職業:殺し屋
悪行:殺人、公務執行妨害
強み:相手を油断させて楽しく殺す
ヴィラネルは、とてもファッショナブルでキュートですが、その見た目に騙されてはいけません。彼女は、ヨーロッパで最も危険な殺し屋の一人です。しかも、彼女は殺しを楽しんでいるようにすら見えます。ヴィラネルはソシオパスであるため、その行動を読むことができません。
ローガン・ロイ
『メディア王~華麗なる一族~』
職業:世界的メディア企業のCEO
悪行:メディアを腐敗させている
強み:すでに圧倒的に強いこと
現代の世界的なメディア企業は、一国の政治家などよりもはるかに大きな力を持っています。正しい情報を伝えてくれるなら良いのですが、創業者の方針によっては偏向報道になってしまうことも。ローガン・ロイは、ニュースはエンターテインメントの一種だと考えており、正確さよりも話題性を重視しています。ローガン自身の性格も酷いもので、子供たちに対する姿勢は毒親そのもの。ある意味では、世界最凶の悪人です。
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ホームランダー
『ザ・ボーイズ』
職業:スーパーヒーロー
悪行:市民の見殺し
強み:スーパーパワーと世間からの人気
近年のハリウッドはもっぱらスーパーヒーローばかりが活躍していますが、もしも現実にスーパーヒーローがいたら、どうなるのでしょう? 彼らは、本当に市民を救ってくれるのでしょうか。それとも、その絶大な人気を活用して、金儲けのビジネスをしているのでしょうか。金を稼いでいるだけならまだしも、彼が訪れたところに必ず死体の山が残されているのは見過ごせません。
まとめ―アンチヒーローの魅力―
以上、海外ドラマの悪役主人公12人を紹介してきました。中でもトニー・ソプラノ、ウォルター・ホワイト、ドン・ドレイパーなどはアンチヒーローの代表的な存在であり、他の映画・ドラマでもしばしば言及されることがあるほどです。
ここで紹介しなかったものでも、悪役がアンチヒーロードラマは多くあります。禁酒法時代に暗躍した実在の人物ナッキー・トンプソンの姿を描いた『ボードウォーク・エンパイア』、下院議員フランク・アンダーウッドを主人公にした『ハウス・オブ・カード』。ブラックコメディドラマ『フリーバッグ』の主人公もアンチヒーローの一人と考えて良いかもしれません。
アンチヒーローたちは、ときに一般的な倫理観では考えられない言動をします。自己中心的で他人を傷つけるその言動は、決して好ましいものではありません。しかし、そういった人物たちを観ているのは、実はとても面白かったりします。実際に身近にいたら嫌な人でも、ドラマの中だと不思議と観るのがやめられなくなってしまいます。
そんな”禁断の愉しみ”を与えてくれるアンチヒーロードラマ。今はやや低迷期にあるジャンルですが、過去の名作は今でも観ることができますし、新たなアンチヒーローもいずれ登場してくるでしょう。殺したくても簡単には殺すことができないのが彼らの最大の強みなのですから。