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海外ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン5感想~現代の「実話」を語る~

Never do you mention she is, for real, a tiger.

あんたは一度も彼女が本物の虎だと言わなかったじゃないか。

- Ole Munch, Fargo season 5

 

 これは実話である。そう嘯き続けてきた『FARGO/ファーゴ』のドラマ第5弾です。ここにきて原点回帰というより、新たな原点を示したような印象です。『ファーゴ』が伝え続けてきたメッセージをこれまで以上に強く打ち出し、エンディングではその先を見せるシーズン5。ネタバレありのレビューです。

関連記事:ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン5についてわかっていること - 海外ドラマパンチ

 

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基本データ

  • 原題:Fargo
  • 放送局:FX
  • 放送期間:2023年11月21日~2024年1月16日
  • 話数:10
  • 脚本・監督:ノア・ホーリー等
  • 出演:ジュノー・テンプル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジョン・ハム、ジョー・キーリー

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誘拐から始まる物語

 ドラマ版『FARGO/ファーゴ』のシーズン5の物語は、映画版と同じく、誘拐で幕を開けます。ドットの家に侵入者が押し入ってくる一部始終は、映画版のシーンを明らかに意識しています。

 

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 リビングでテレビを見ていたドット。すると、目出し帽を被った侵入者が窓から覗いてくる。ドットは逃げ出し、侵入者は家の中に入ってきます。最終的に、ドットが階段から転げ落ちて一時的に失神してしまい、誘拐されるところまで映画と同様の展開になっています。

 

 ただし、映画での被害者と異なり、ドットはかなりテクニカルに反撃しています。この時点で、すでに只者ではない感があります。リビングからいつの間にか姿を消したかと思うと、押し入ってきた悪漢に火炎放射を食らわせます。シャワーカーテンにくるまって暴れるのとは訳が違います。

 

 この「只者ではない感」は、第1話の最後で確信に変わります。誘拐犯たちが警官に停められた隙を突いて逃げ出すと、売店の中に罠を仕掛け、負傷した警官の応急処置をしながら反撃し、ついに逃走します。

 

 なんで、ドットはこんなに自己防衛力が高いのか。元裏社会の人間だったのではないかと疑ってしまいます。しかも、家に帰ってきたドットは、明らかに誘拐されていたのに、何もなかったと警官にも夫にも言い張ります。そこまでして事件の被害者であることを隠そうとするのには、きっと何か裏があるに違いない! ドットに対する疑義はさらに強まっていきます。

 

 

ドットの過去

 ドットの正体は、保安官のロイ・ティルマンによって早々に明かされます。ドットは、彼の元妻で、無理やりでも連れ戻そうとしているそう。ヤバい男の雰囲気がします。しかも、ロイを演じているのはジョン・ハム。有害な男性キャラクターであることがほぼ確定します。

 

 ジョン・ハムといえば、ドラマ『マッドメン』で、猛烈にハンサムだけれど、中身がクズすぎる広告マンのドン・ドレイパーを演じたことでブレイクした俳優です。ドラマの中の世界でカリスマ的な支持を得ている有害な男性を演じさせるなら、彼はピッタリです。

 

 この後のエピソードで、実はドットがロイの家から逃げ出したこと、ドットがロイから暴力を受けていたこと、その暴力が相当なものであったこと、今のロイの妻もDVの被害者であることが順々に明かされていきます。もったいぶって少しずつ明らかにされますが、ロイが元妻を執拗に追いかけているという事実と、昨今の社会情勢を踏まえれば、ここまでの内容は第2話の冒頭で容易に推察が付いてしまいます。

 

 そのため、正直に言えば、ドットの過去に関する話は、ただの答え合わせに感じてしまって、あまり興味を持てたとは言えませんでした。題材が題材なだけに、興味が持てないと言うと社会的に正しくない態度になってしまうかもしれませんが、仕方ありません。

 

 とはいえ、人形劇のシーンは、一見すると可愛らしい人形の話に見えて、実際には過去に体験した過酷な実体験を話しているというギャップが、演出としてとても良かったです。同様の演出が、昨年秋の『ジェン・ブイ』にもあったので、直接的ではなく凄惨な出来事を表現する方法の一つになっていく気がします。ただ、『ファーゴ』に関しては、その数話後に直接的なDV表現があるので、直接的な描写を避ける目的だったわけでもなさそうです。

 

 シーズン5は、これまでの『ファーゴ』で最もストレートに、最も力強くフェミニズムのメッセージを打ち出した作品です。『ファーゴ』は常にフェミニズムの物語でしたが、ここまで強い意志を見せたシーズンはありませんでした。

 

 回りくどい話もなければ、独特な例え話も控えめになっています。力強い女性キャラクターが出てくるのはこれまで通りとも言えますが、明確な敵キャラが設定されているのは珍しく、ロイ・ティルマンは誰がどう見てもゲスに見えるようになっています。

 

 

ロイ・ティルマンの薄さ

 ロイは、そのせいでどうしようもなくつまらないキャラクターになっています。ジョン・ハムが演じているおかげで、外見だけは十分楽しめますが、キャラクターとして浅い。「有害な男性キャラクター」という一言で説明できてしまいそうなシンプルさです。

 

 DVクソ野郎だから感情移入なんてできないし、笑えるような悪役でもありません。あまりにも現実世界にいそうなので、寓話的でもありません。「これは実話である」と言って、逆説的に現代の寓話をやり続けてきた『ファーゴ』が、ここにきて本当の実話をやることになったのです。

 

 ロイ・ティルマンの浅さは、ジョン・ハムがドン・ドレイパーという役を演じられることを知っていると、余計にもったいないと感じてしまいます。どうしようもないクズなのに人々が惹きつけられてしまうという、真に有害な男が持っている性質がドン・ドレイパーにはありました。でも、ロイ・ティルマンをどれだけ見ても、なぜあれほど(ドラマの中の世界で)支持されているのかがよくわかりません。

関連記事:60年代が脈動する海外ドラマ『マッドメン』の面白さとは? - 海外ドラマパンチ

 

 ロイ・ティルマンに一切の親しみやすさを与えないことで、このような男性を絶対に許さないという意図があるのかもしれません。実際、勘違いしてドン・ドレイパーのすべてを信奉してしまう男性もいるので、そういった事態を防ぐ目的があるのでしょうか。

 

ロレインの格好良さ

 シーズン5のベストキャラクターは、ジェニファー・ジェイソン・リー演じる事業家のロレイン・ライオン。格好良かった。債権取り立て事業で成功したと言っていますから、やってることはヤクザのボスみたいな感じなのでしょうか。そんなにクリーンなビジネスで稼いだ雰囲気ではありません。それでも、さすがやり手の人間ではあります。どんな相手でも物怖じせずに要求を突きつけ、平気で脅迫もします。

 

 保安官選挙の妨害は、弁護士が考えたのかもしれませんが、面白かったですね。第8話の冒頭、なぜか彼は3人の男を同じ名前に変更させます。このときには、一体何がしたいのかわからなかったのですが、その後のディベートのときに彼の企みがわかります。なんと、彼は3人の名前を「ロイ・ティルマン」に変えていたのでした。そして、本物のロイそっくりの恰好をさせて、モノマネをさせます。ロイの言動をいちいち真似するので、会場は大盛り上がり。でも、本物のロイの気分は最悪。観ているこっちとしては、痛快でした。

 

 ちなみに、エピソードの冒頭でよくわからないシーンを見せ、中盤から後半でそのシーンの種明かしをするという構成は、特に『ブレイキング・バッド』サーガでよく用いられたものです。真似をしようとしても上手くいかない作品もある中(*1)で、『FARGO/ファーゴ』クオリティには信頼が置けます。

 

*1 具体例を挙げるなら『オザークへようこそ』。冒頭のよくわからないシーンが長すぎてただのよくわからないシーンになっているし、肝心の種明かしのシーンになっても冒頭シーンとの対応がわかりにくいことがしばしばある。シーズン2第1話など。

 

 ロレインは、他人に厳しい人物に見えますが、それは自力でのし上がってきたからでもあります。常に優しいわけではありませんが、保安官代理のオルムステッドを引き抜いて相応しい待遇を与えたり、ドットの捜索に全面協力するなど、やるときはやってくれます。カッコいい!

 

 『ファーゴ』には、いつも生活感のある警官が出てきますが、今回のオルムステッドは、借金とヒモ夫に頭を悩まされています。学生ローンの返済に追われているのがリアル。それにしても、あの夫はカスすぎて酷い。よく共同生活を送っていたものだと感心します。幸いにも、オルムステッドは夫を追い出すことができて、借金も帳消しにすることができました。実話だったらこんなに幸運なことはないでしょう。

 

 ドットにも面白いところはあります。侵入者を追い払うためとはいえ、自作の防犯設備が過激すぎて、ちょっと笑えます。これなら、スコッティがホームアローン状態になっても、難なく悪漢を殺すことができます。

 

 ただ、面白いとは言っても、ドットにあのような過去があることを知っているので、シーズン2でキルスティン・ダンストが演じたペギー・ブロムクイストと似たような雰囲気は感じるものの、その極端さを笑えるような気持ちには、少なくとも自分はなれませんでした。

 

 

赦し

 ロイ・ティルマンがつまらないキャラクターである一方、ジョー・キーリー演じる息子のゲイターは、なかなか良いキャラクターです。有害な父親のもとで育ったために、自らも父親のような性格になりかけていて、父親に認めてもらおうと頑張っているゲイター。これこそが有害な男性の最も有害なケースです。有害さが伝染してしまうのです。

 

 しかし、最終的にはゲイターは、父親の呪縛から逃れることができました。そういう「救い」を見せてくれたのは、優しさを感じます。これまでの『ファーゴ』は、基本的にブラックコメディなので、主人公が凍った池に落ちて死ぬみたいなエンディングをやっていましたが、その頃とはだいぶ感触が違います。

 

 エンディングといえば、語らなければいけないのが、あの男。オーレ・ムンクです。ドラマ版『FARGO/ファーゴ』恒例、謎に強い男枠です。シーズン1ならローン・マルヴォ、シーズン3ならV・M・ヴァーガです。しかも、今回はおかっぱなので、『ノー・カントリー』のおかっぱ男も想起されます。

 

 これまでの謎の男たちは、謎に強いだけでしたが、今回の謎の男は、その正体も謎です。第3話でいきなり500年前のウェールズに話が飛ぶと、そこにもムンクはいました。もはや人間じゃない。

 

 過去の謎の男たちと比べると、ムンクはメインストーリーにはあまり関わってこなかったので、物足りなさを感じていました。不気味なヤバい奴が状況をかき回してこその『ファーゴ』だと思っていたので。

 

 でも、最終話でやっと存在意義がわかりました。ロイ・ティルマンの件がすべて片付いた後に、ムンクはドットの家にやってきます。決着を付けなければいけないとかなんとか。明らかに危険な雰囲気を醸していますが、ドットの夫のウェインは能天気にビールを差し出します。スコッティも、ムンクを恐れる様子は全くありません。どこまで寛容なんだ、この家族。

 

 ムンクが、自分の過去の話やなぜ罪を犯さなければならないかをおどろおどろしく語る傍ら、ドットは一緒にビスケットを作ろうと誘います。なんだかんだビスケットを作り、ドットの家族と一緒に食卓についたムンクは、最後にビスケットを齧って満面の笑みを見せます。

 

 

 これまでのシーズンにはなかった優しさを感じます。ムンクがしてきた行為は罪深いものです。しかし、ドットの家族からの親愛により、呪縛から解放されました。ローン・マルヴォもV・M・ヴァーガも『ノー・カントリー』のおかっぱも、最後までその本質が変わることはありませんでしたが、ここにきてついに改心したのです。

 

 間違いを犯してきた人でも、それは他人や社会の呪縛のせいで犯した罪であり、呪縛から解かれれば善い人間になることができる。中には、ロイ・ティルマンみたいな施しようのないクズもいるが、ゲイターやムンクはまだやり直せる。そういうメッセージだと自分は受け取りました。

 

 

総括

 これまでのシーズンとは異なり、『ファーゴ』史上最もストレートに力強いメッセージを打ち出したシーズン5。ブラックユーモアや独特の語り口は抑えめに、シンプルな物語が展開していきます。

 

 個人的には、ブラックユーモア、独特な語り、クセの強いキャラクター、そしてそれらが織り成す予測不能なストーリーこそが『ファーゴ』だと思っていたので、メッセージ性こそ共通しているものの、それ以外の要素が薄められたシーズン5には、正直戸惑いもあります。

 

 でも、第1話の誘拐、第4話のハロウィンの襲撃、第8話の弁論大会などは純粋に面白く、ドラマとしては十分に良い作品であるのは確かです。最終話に至って、なぜこんなにもリアルな話を『ファーゴ』でやったのかという理由も分かった気がして、色々と腑に落ちました。

 

 最終話を除けば、シーズン5は、これまでの『ファーゴ』に共通するメッセージを、全く誤解の余地がないようにストレートに示しています。その上で、最終話ではこれまでとは異なる新たな展望を見せます。シーズン5は、『ファーゴ』の物語の原点を改めて示したうえで、再定義を試みたシーズンなのかもしれません。

 

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