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Netflixドラマ『ザ・チェア~私は学科長~』感想:まったりコメディ、ときどき大学風刺

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 Netflixで配信が始まったサンドラ・オー主演のドラマ『ザ・チェア~私は学科長~』を観ました。今回は、ネタバレも若干含みながら、感想・レビューを書いていきたいと思います。全体的にはコメディなのですが、現代の大学が抱える問題も少し見ることが出来たりして面白いですよ。

 

 

 

 

Netflixドラマ『ザ・チェア』基本データ

・原題:The Chair

・配信:Netflix

・配信日:2021年8月20日

・話数:6

・クリエイター:アマンダ・ピート、アニー・ワイマン

・主演:サンドラ・オー(ドラマ『グレイズ・アナトミー』『キリング・イヴ』)

・あらすじ:

 ペンブローク大学文学部英文学科初のアジア系女性学科長になったジユン・キムは、様々な困難に直面する。

。予告編:

www.youtube.com

 

デイヴィッド・ドゥカヴニー

 『ザ・チェア』全6話の中で一番好きだったのが第3話なのですが、この話の中で、英文学科は特別講師として俳優のデイヴィッド・ドゥカヴニーを呼ぼうとします。『X-ファイル』のモルダー捜査官ですね。有名人を呼ぶことで、学科の人気を集めようというわけです。

 

 本来、純粋な学問の場であるはずの大学ですが、経営上は人気もないとやっていけません。特に、日本では大学数が増える一方、少子化により全体の学生数は減っているので、学生へのアピールを重視している大学も中にはあります。

 

 一概に、人気を集めるのが悪いとは言い切れないところがありますが、問題ではあります。有名人かつ、きちんと授業をしてくれるなら解決ですけどね。そういう人も実際にいます。タレントのパックンは大学で教えたりもしているのですが、そんなに楽な授業ではないと聞いたりもします。

 

 ちなみに、ドゥカヴニーは、ドラマ『カリフォルニケーション』で作家を演じていたので、彼を英文学科に招待すると聞いて、自分は一瞬納得しかけてしまったのですが。

関連記事:海外ドラマ『カリフォルニケーション』のすゝめ~お気楽作家のL.A.生活~ - 海外ドラマパンチ

 

キャンセルカルチャー

 今の大学の講義は、撮影OKとしている場合も多くあります。また、ほとんどの大学生はTwitterなどのSNSをやっているので、講義の感想などを何気なしにアップすることがあります。

 

 コロナ禍の現在においてはオンライン講義を行っている大学も多く、中には講義映像を一般に公開している先生もいます。大学の講義は、かつてよりもずっと外に開かれたものになっているのです。

 

 では、もし講義中に教師が問題発言を行ったらどうなるのでしょう。大学内は、通常よりも言論の自由がより保障されているようなところがあるので、従来ならば問題にはならなかったでしょう。しかし、現在は生徒がSNSに気軽にアップして、炎上させてしまうことがあり得ます。

 

 『ザ・チェア』第2話では、ビルがヒトラー礼賛と取れる発言をします。当然ながら、これは炎上。世間から非難の的になります。となると、次は謝罪です。日本でもよくやりますよね。そこで、第3話の終盤の集会でビルは定型文を言うわけです。 

 

誤解を招く表現をして申し訳ない

 

 現実世界で、何度この表現を見たことか。女性蔑視発言を行った森喜朗の「不愉快な思いをされた皆さんに謝罪したい」や、他人の金メダルを噛んだ河村たかし名古屋市長の「迷惑をかけているのであれば、ごめんなさい」も同じです。自分の発言が悪かったのではなく、受け取り手が悪かったかのように言っただけで、謝罪をした気持ちになっているのです。

 

 ビルに対しても、大学生たちが言っていましたね。あまりにも現代日本でよく見る謝罪方法だったので、こんなに痛烈に皮肉られては笑わずにはいられません。

 

 こんな言葉では何の謝罪になってもいないので、ビルの信用はそのまま失墜し、教授職を失いかけています。しかし、最終話でジウンは「こんなことをしても何も変わらない」ことに気付きます。

 

 実際、そうだと思います。不適切言動をした人だけを退任させても、何も変わらない場合も多くあるでしょう。しかし、現実にはそれが多数です。私たちは、東京オリンピック組織委員会の例をずっと見続けていますから、説明は不要でしょう。何も変わっていないのです。

 

 このように、不適切な言動を行った人が世間から叩かれたことにより、その人が退任させられることをキャンセルカルチャーと言います。それが良いのか悪いのかは難しいところです。

 

 キャンセルカルチャーに裁判はないので、これは私刑の一種です。中には、退任などの社会的制裁を受けるべき人物もいるでしょうが、それに値しない人もいます。個人的には、ドラマのビルがキャンセルされたのは、やり過ぎだと思います。このようなことを防ぐことは出来るのでしょうか?

 

 

 

女性ドクター

 最近の大学は先進的なフリをしているところも多いですが、実際には教授陣はまだまだ旧態依然としたような部分もあります。教授たちの高齢化が進んでいるのは仕方ないにしても、ほとんどが男性です。アメリカの場合は、白人男性ということになるのでしょう。

 

 ドラマでは、学科長のジユン・キムの他に、黒人女性教授のヤスミン・マッケイ、長年教授職に就いているジョーン・ハンブリングの3人の女性教授が登場します。3人ともに実力で今の地位を得てはいるのですが、女性であるために受ける不利な経験も描かれます。

 

 ジョーンが最終話で語ったことが、端的には女性教授が受ける不利な状況になります。男性教授たちの仲間意識みたいなものの中には入れてもらえず、雑用を任されがちです。ヤスミンは、無理やり合同講義にされたベテランの男性教授から厳しい評価を受け、終身教授になれません。

 

 これは、別にアカデミックの世界に限った話ではなく、ビジネスの世界でも起こっていることなのでしょう。実力主義を標榜していながら、実態が伴っていないわけですから、そのあたりはフェアな世界になっていってほしいし、そうしていかなければいけません。

 

 ドラマとしては、名作『マッドメン』でも同様のテーマが扱われているので、ぜひ観てほしいです。

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今後の大学はどうなる?

 教授の男女比率ということに関しては、何十年も前の教育状況が関係しているので、今すぐにはどうしようもないのかもしれません。では、これからは女性や多様な人種の教授も増えてくるのでしょうか?その第一歩として、現在の大学生の男女比率は重要な指標になってきます。

 

 現在、アメリカの大学の在校生に占める女性比率を調べてみると、ハーバードとスタンフォード大学は50%、イェール大学は51%、マサチューセッツ工科大学は45%など、いずれの大学でも女性比率は40%を超えています。今の教授は男性がほとんどかもしれませんが、今後は女性も増えてきそうな感じはしますね。

 

 一方、日本の大学を見てみると、東京大学は19%、京都大学は22%、早稲田と慶応義塾大学は37%、東京工業大学は13%など、非常に低い値になっています。この数字を見る限り、日本ではまだまだ男性が教授職のほとんどを占めることになりそうです。

 

(アメリカの大学は男女差はあまりなくなってきていますが、人種に関しては差があるようです。例えば、現在のハーバード大学のアジア系の比率は20%です。実際のアメリカ国民のアジア系比率は5%程度なので、圧倒的に高い数字になっているのですが、本来ならばハーバードのアジア系比率はもっと高くて良いはずなのです。アジア系は一般に勉強熱心とされており、データでも裏付けされています。つまり、ハーバードを含め、いくつかの大学はアジア系に対して入試で差別をしているのではないかという問題があります。)

参考記事:優秀過ぎるアジア人学生「締め出し」でハーバード大学が犯した罪|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

 性別や人種による差別がなくなってほしいというのは、誰しもが願っていることだと思います。しかし、なかなかその解決法を見つけるのは難しいのかもしれません。それでも、まずは問題があることを知る必要があります。『ザ・チェア』は、知るきっかけを与えてくれる作品ではあるでしょう。

 

 

 

総括

 最後に、『ザ・チェア~私は学科長~』のドラマとしての自分のレビューを書いておきます。ジャンルとしては、一応コメディになると思いますが、とてもまったりとして雰囲気で進みます。その中で、ときに風刺を交え、現代のアカデミックの世界が抱える問題の一端を覗くことが出来るのは興味深いです。

 

 『ザ・チェア』は、見ればそれなりに楽しめるし、それなりに学べることもあったりする良作です。個人的には風刺が好きなので、もっと大学への強い風刺があっても面白かったかなとは思いましたが、全体のまったりした雰囲気を優先したということでしょう。それはそれで良いと思います。

 

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