海外ドラマパンチ

海外ドラマ最新情報・紹介・感想

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

この海外ドラマが気になる<2023年7月編>とSFプロトタイピング的なドラマの話

 全米脚本家組合(WGA)によるストライキは一向に終わりそうにありません。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)は、映画製作者協会(AMPTP)との契約が切れるのが6月末でしたが、ひとまず7月12日まで交渉期間を延長しました。この日になっても交渉が終わらなければ、SAG-AFTRAもストライキに入ります。まぁ、交渉期間を延長しているということは、何かしらの交渉はちゃんと行われているようです。ということで、2023年7月版の「この海外ドラマが気になる!」です。

 

 

2023年7月の気になる海外ドラマ

一流シェフのファミリーレストラン』シーズン2 7月26日 Disney+

『グッド・オーメンズ』シーズン2 7月28日 Amazon

 

 今月は、気になる新作ドラマがありませんでした。その代わりに、この2作はとても楽しみにしています。それぞれのシーズン1を観た人ならば、きっと同じ気持ちだと思います。そろそろ日本未上陸の『Poker Face』、『Jury Duty』、『バリー』シーズン4、『イエロージャケッツ』シーズン2などもずっと気になっていますが、とりあえず今月は少し箸休めの期間として、これまでの見逃した作品を観ていきたいと思います。

 

 気になる海外ドラマニュースがいくつかあったので、少し書いておきます。大きな賛否両論を呼んでいるHBOの『THE IDOL/ジ・アイドル』に関して、日本のいくつかのメディアが「打ち切り」だと報道していましたが、打ち切られてはいません。元々全6話のはずだったシーズン1が5話に短縮されただけで、シーズン2に関しては未定です。打ち切られそうではありますが。

 

 昨年末に、シーズン2で打ち切られたNetflixの『シスター戦士』ですが、続報がありました。このドラマは、かなり熱狂的なファンダムを生み出したにも関わらず無残にも打ち切られてしまったので、今までずっとファンによって復活を求める活動が行われていました。クリエイターのサイモン・バリーは、6月28日に、ドラマが復活することを発表しました。Netflixではなさそうですが、様々なネットワークに掛け合って継続させることができたのでしょう。

 

 私は『シスター戦士』を観てはいませんが、こういう出来事は、夢があるなと思います。私の大好きなSFドラマ『エクスパンス~巨獣めざめる~』も、同様のファンの活動のおかげでシーズン4以降が製作されたと聞いています。テレビドラマの増加に伴い、打ち切りドラマが増えてしまうのは仕方ないのかもしれませんが、こういった根強いファンがいるようなドラマは、そもそも簡単に打ち切ってほしくはないですねぇ。

 

 そして『バビロン・ベルリン』のニュースも入ってきました。ドイツの傑作歴史サスペンスドラマは、無事にシーズン5に更新されました。シーズン4の放送が半年前とかだったので、少し心配していましたが、杞憂でした。ただ、日本ではシーズン4が未上陸なので、早くどこかで観られるようになると良いですね。

 

SFプロトタイピング

 今、冬木糸一による『SF超入門』という本を読んでいます。この本は、SF小説のガイドブックであるとともに、それらのSFがどのような未来を描き出しているのかを解説している本でもあります。いわゆる「SFプロトタイピング」的な内容を含んでいます。

 

 SFプロトタイピングは、実際にビジネスの場でも活用されている手法です。簡単に言うと、現実的に起こり得るSFストーリーを通して未来に関するビジョンを作り、そこから逆算して現在の我々がすべきことを考察するというものです。

 

 『SF超入門』が扱っているのは小説だけですが、テレビドラマにもSFプロトタイピングに使えそうで、かつ面白い作品は多くあります。ということで、いくつか挙げてみます。

 

 まず、先月最新シーズンが公開されたアンソロジーシリーズの『ブラック・ミラー』。このドラマの舞台は近未来で、まさに「現実的に起こり得る」世界を描いています。例えば、シーズン1第3話「人生の軌跡のすべて」では、人生で起こったことをすべて記憶できるチップが人々に埋め込まれている世界が描かれます。シーズン2第1話「ずっと側にいて」では、故人の生前のSNSの投稿などを基にして、故人の人格を完全に再現できる技術が扱われます。

 

 こういった技術は今すぐにでも実現してしまいそうですが、『ブラック・ミラー』のエピソードは、いつもとんでもなく後味が悪い終わり方をします。ただ、それらのエンディングは決して技術のせいばかりではなく、人間の欲望が増幅された結果であったりします。個人には理解できないスピードで技術発展が進む現代社会でも、くれぐれも人間性を失わないよう、このドラマは警鐘を鳴らしているように感じます。

 

 『セヴェランス』も、設定は『ブラック・ミラー』のエピソードのようです。このドラマは、職場と私生活の記憶が分裂できる技術「セヴェランス」が実現した近未来を舞台にしています。ワーク・ライフ・バランスの重要性が叫ばれる昨今、『セヴェランス』は働き方に関して新たな知見を与えてくれるかもしれません。

関連記事:ドラマ『セヴェランス』シーズン1感想|ワーク・ライフ・バランスの究極の解決法 - 海外ドラマパンチ

 

 昨年あたりからの生成系AIの急速な発展には目を見張るものがありますが、同時にちょっとした恐ろしさも感じます。『ウエストワールド』や『ヒューマンズ』は、もしもそんなAIが「意識」を持ったらどうなるかを描いた話です。私は、AIが将来的にも意識を持つようになるとは考えていませんが、一方でAIの挙動があたかも意識を持っているかのように見えることがあるのは事実です。

 

 ChatGPTなど、現実世界の生成系AIは、すでに人間たちが作った文章や画像などのデータを学習しています。では、どこからそのデータを収集しているのかといえば、インターネットです。インターネット空間には、現実空間ほどちゃんとした規制がありません。差別的言動は蔓延し、有害なポルノも至るところに転がっています。これは、人間のあらゆる欲望を満たすための場所である「ウエストワールド」と、ほとんど同じです。

 

 生成系AIが差別的な言動をすることは、すでに様々な研究から明らかになっています。それは、AIが学習したデータの中に、差別的な内容が含まれていたためです。そういえば、『ウエストワールド』のドロレス・アバナシーが暴力的な行動に出るようになったのも、人間の暴力が一つのきっかけでした。AIが、自発的に悪意を持つことはありません。AIが悪意を持っているように見えるとしたら、それは悪意を持つ人間が存在するからです。

 

 古くは『ナイトライダー』というドラマがありましたが、あの「ナイト2000」のような善良なAIを作ることは、今後の目標になってくるでしょう。

 

 さらに遠い未来を見据えるなら、『エクスパンス~巨獣めざめる~』も有効でしょう。このドラマでは、火星と小惑星にも人間が移住するようになり、太陽系全体を股にかけて行動するようになっています。このドラマの物理描写の正確さにはいつも驚かされます。実際に、宇宙船で長期滞在するようになったとき、あるいは他の惑星に住むようになったとき、どのような備えが必要なのかを考える役に立つでしょう。

 

 『フォー・オール・マンカインド』は、架空の宇宙開発の歴史を描いている割にリアリティには若干欠けているのですが、宇宙ホテルや火星への有人探査など、扱われている題材は今後数十年以内にも実現可能性のあるものです。

 

 今現在に視点を戻すと、全米脚本家組合のストライキの一つの目的は、AI脚本家への規制です。つい先日配信が始まったMCUドラマの『シークレット・インベージョン』では、オープニング映像がAIによって作られていることが大きな議論を呼びました。つい1年前だったら、これらの議論が大真面目に行われることなど想像できなかったでしょう。

 

 科学技術の発展のスピードは、私たちの想像のスピードを超えています。だからこそ、私たちの想像を逞しくしてくれるSFというジャンルは、これまで以上に重要になってきています。

 

psbr.hatenablog.com