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Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』感想~定跡で勝つ美しさ~

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I would say it is much easier to play chess without the burden of an Adam’s apple.

- Elizabeth Harmon in The Queen's Gambit

 

 毎週のように新作ドラマ、しかも映画並みのクオリティの作品が登場する昨今の海外ドラマ界には驚くばかりです。先日、Netflixで配信が始まったアニャ・テイラー=ジョイ主演のドラマ『クイーンズ・ギャンビット』も、そんな作品の一本でした。

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『クイーンズ・ギャンビット』基本データ

・原題:The Queen's Gambit

・配信元:Netflix

・配信日:2020年10月23日

・話数:7

・原作:ウォルター・テヴィス(『地球に落ちてきた男』『ハスラー』の原作も)

・監督:スコット・フランク

・キャスト:アニャ・テイラー=ジョイ、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー、トーマス・ブロディ=サングスター

・あらすじ:

 母親を亡くした幼いエリザベス・ハーマンは、孤児院に送られる。孤独を感じていた彼女は、用務員のおじさんからチェスを学ぶ。すると、天才的な実力を発揮するのだった。

・予告編:

www.youtube.com

※『クイーンズ・ギャンビット』は、現在Netflixで独占配信中。『クイーンズ・ギャンビット』はミニシリーズなので、シーズン2以降はありません。 

 

チェス用語解説

 私自身はチェスのルールを知っているぐらいで、詳しいというほどではないのですが、いくつか自分でも調べたのでまとめておきます。

 

ギャンビット:序盤で、駒をわざと相手に取らせる戦術。

クイーンズ・ギャンビット:クイーンの列のポーンを最初に動かし、相手に取らせようとする戦術。

キャスリング:キングとルークの位置を一手で交換できる特殊ルール。

ダブルポーン:自分のポーンが同じ列に2つ並ぶこと。将棋の二歩と同じだが、反則ではない。戦略的に良くないとされる。

エクスチェンジ:自分の駒を取られる代わりに、相手の駒を取る展開。駒交換。

フォーク:1つの駒で2つの駒を狙う戦術。両取り。

多面指し:一人の人が、複数の相手と同時に対局をすること。

早指し:普通の対局よりも、制限時間が大幅に短く設定された対局。

詰めチェス:ある適当なチェスの盤面を作り、そこから既定の手数でチェックメイトに持ち込む問題。パズルのようなもの。

封じ手:対局が一日で終わらなかった場合に、翌日の最初の一手を紙に記しておくこと。対局相手は、その一手を翌日の対局が始まってから知ることになる。

→夜のうちに、相手がどんな手を出すかあらゆるパターンを考え、それらに対する戦略を練っておくことは出来る。

グランドマスター:チェスの最高位の称号。1950~60年代当時は、世界で50人程度しかいなかった(今は1500人ほどいる)。

 

 各エピソードのタイトルに用いられている通り、チェスの展開はオープニング(序盤)→ミドルゲーム(中盤)→エンドゲーム(終盤)の順で進みます。エンドゲームは、『アベンジャーズ』シリーズ4作目のタイトルとしてもお馴染みかもしれません。

 

※追記:作中で「ソ連のノナ・ガプリンダシヴィリ選手は女性初のグランドマスターだが、男性とは対戦したことがない」という趣旨の台詞がありましたが、これは間違いです。ノナ・ガプリンダシヴィリは、ドラマの最終話の時代設定の1968年までに男性のグランドマスターとも対戦したことがあります。

 

 この件について、ガプリンダシヴィリはNetflixに対して訴訟を起こしている最中ですが、作中の台詞が誤りであることが明らかなため、ここで訂正しておきます。

参照記事:『クイーンズ・ギャンビット』のとあるセリフがNetflixを相手取った5億ドルの訴訟問題に発展

 

 

 

『クイーンズ・ギャンビット』感想(ネタバレあり)

 今に始まったことではないのですが、近年の海外ドラマ界はヤバいです。毎週のように映画クオリティの素晴らしい作品が生み出されています。最近だと、Amazonの『ザ・ボーイズ』シーズン2は凄く面白かったですし、来週からはDisney+で『マンダロリアン』シーズン2が始まります。

 

 では、今週は?Netflixで10月23日から配信が始まったドラマ『クイーンズ・ギャンビット』もまた、映画並みのクオリティを悠々と達成した秀作でした。

 

 監督は、Marvel映画『LOGAN/ローガン』の脚本やNetflixのミニシリーズ『ゴッドレスー神の消えた街ー』を手掛けたスコット・フランク。今回の映像は、序盤ではセピア調、そしてベスが活躍していくにつれて徐々に鮮やかになっていく色調が印象的でした。60年代のファッションやインテリアもオシャレ。これだけでも、ずっと見ていられます。

 

 
 
 
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 チェスを題材にした映像作品で一つ重要なのは、やっぱりチェスの場面をどれほど魅力的に見せるかだと思うのです。チェスは盤上でしか展開しないので、そのまま映してのでは、どうしても地味になってしまいます。

 

 『クイーンズ・ギャンビット』でも、やはりチェスの場面が多く出てきましたが、不思議なことに全く飽きません。チェスの盤面ではなく解説用の大盤で状況を見せたり、分割画面になったりと、工夫が凝らされていたので、チェスに詳しくなくても楽しむことが出来ました。

 

 もう一つ、作品にとって重要な要素は、主人公の心理をいかに描写してみせるかです。孤児院で育った孤独な少女のベス・ハーマンは、どれだけ大会に勝利しても、その孤独感を拭えません。ずっと応援し続けてくれていた(最初はお金のためだったかもしれないけど、実の娘のように応援していたのは確か)義理の母親を亡くし、大会でも負けるにつれ、そんな思いはさらに積もっていき、どんどんアルコールに溺れるようになっていきます。

 

 そこからは、孤児院のときの友人や、チェスの教えてくれた用務員のおじさんが、ずっと自分のことを応援していてくれたことを知ります。ソ連での大会では、思いを寄せていたタウンズに再会し、これまで共にチェスをしてきたベニーやハリーも遠くから戦略を練ってくれていました。

 

 斬新なストーリーかと言えば、そうではないかもしれません。むしろ、無名の主人公が王者になるというストーリー自体は非常にオーソドックスで、いわば定跡のようなものです。劇中ではチェスの指し方として言われていましたが、このドラマも何か離れ業をしようというわけではないのでしょう。定跡のストーリーラインで、それでもクオリティの高い作品に仕上げるというのが、『クイーンズ・ギャンビット』の目指しているところのように思います。

 

 その目標は、十二分に達成されました。映画ではなく、リミテッドシリーズという形式なので、私たちはより主人公のベスの気持ちに寄り添うことが出来ます。このドラマにおいて、彼女はほとんどの場面で孤独です。セックスをしても、上の空みたいなところがあります。

 

 それだけに、最終話でようやく孤独感から解放され、旧友のジョリーンに泣きつくところは、とてもエモーショナルな気持ちになります。その後も、続々と仲間たちが応援してくれます。そして、私たちも。

 

 このドラマの中でベスはずっと孤独なのですが、実は全く孤独ではないとも言えます。なぜなら、そこには必ず私たち視聴者がいるからです。ベスを子供時代から観てきた私たちは、ずっとベスのことを応援してきました。最終話でベスは、彼女を応援し続けていた存在を知るのですが、この瞬間に私たちもその一員になります。これは、とても面白い映像体験です。7時間という尺があるからこそ出来たことなのでしょう。

 

 

 

 主人公のベス・ハーマンを演じたのは、現在24歳のアニャ・テイラー=ジョイ。私にとっては、彼女の出演作を観るのは今回が初めてでした。特徴的な大きな目も可愛いらしいのですが、演技も良かったですね。チェスをしているときの表情とか、勝ちが見えたときに相手を見るときのドヤ顔なんかは、たまりません。

 

 海外ドラマウォッチャーには、ベニー役のトーマス・ブロディ=サングスターの方が馴染み深かったりするかな。彼は『ゲーム・オブ・スローンズ』で、ブラン・スタークの旅に姉とともに同行するジョジェン・リードを演じていました。それとも、『ドクター・フー』S3のティム・ラティマ―役で覚えている人もいるのかな?今回は、ヒゲを蓄えていて違和感があったんですけど、実は30歳らしい。意外!

 

 
 
 
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 個人的には、ボルコフ役の人も目を引きましたね。Marcin Dorocinskiというポルトガルの役者さんらしいんですけど。落ち着き払った圧倒的な王者の風格があります。こういう役者、好き(笑)

 

 ちなみに、『クイーンズ・ギャンビット』の話は実話ではありません。さすがにこの話が実話だったら、とっくに映画化されてそうですからね。実在したアメリカのチェスの天才にボビー・フィッシャーという人物がいましたが、彼の半生は『完全なるチェックメイト』という映画で描かれています。こちらもぜひ。

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↓海外ドラマ好きの筆者が、これまで観てきた100作品以上の中から本当に好きな30本を厳選。名作クライムドラマから大ヒットコメディまで。

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