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映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』感想:新時代のジェームズ・ボンド完結編

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 待ちに待って、さらに待った007最新作。007歴は短いのですが、自分もファンの端くれではあるので、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の感想を書いておきたいと思います。普通に書いても良いのですが、こういった大作映画が感想が山のように溢れているので、あえて海外ドラマファンの目線も積極的に取り入れながらまとめてみます。

 

※ネタバレを含みます!

 

 

 

 

テレビドラマ経験を持つクリエイター

 このブログは一応海外ドラマを専門に扱っているので、海外ドラマファンの目線も交えて『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を語っていきます。そのために、まずは予備知識を。

 

 今のハリウッドでは、ドラマシリーズの経験がない人の方が少ないと言っても良いくらい、映画とドラマの交流が活発になっています。この『ノー・タイム・トゥ・ダイ』においても、ドラマで高い評価を受けたクリエイターや俳優が何人も参加しています。

 

 監督のキャリー・ジョージ・フクナガは、2009年の映画『闇の列車、光の旅』で長編映画監督デビューをしました。このときも評判は良かったそうですが、その評価を決定的にし、一般にも知られるようになったのは、2014年のドラマ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン1においてです。

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 通常、テレビドラマはエピソードごとに監督が変わることがほとんどなのですが、『TRUE DETECTIVE』シーズン1に関してはキャリー・フクナガが全8話を監督。ドラマは批評家からも視聴者からも絶賛され、キャリー・フクナガはエミー賞で監督賞を受賞します。

 

 以降、Netflixのドラマ『マニアック』で全話の監督・脚本、『エイリアニスト』で脚本を務めるなど、ドラマ界での経験は豊富です。2015年には映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』を監督しています。

 

 『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の脚本に参加したフィービー・ウォーラー=ブリッジも、テレビドラマ出身で現在最も注目されているクリエイターの一人です。脚本を担当した『キリング・イヴ』はエミー賞作品賞にノミネートされ、自身の芝居を原作とするドラマ『フリーバッグ』では作品賞、主演女優賞、脚本賞の3部門を獲得しています。

 

 今作の悪役サフィンを演じたラミ・マレックは映画『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞を受賞しましたが、彼にもドラマの代表作があります。4シーズンに渡り主人公のハッカーを演じた『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』は、非常に高い評価を受け、エミー賞では主演男優賞を受賞しています。

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 パンフレットに載っているラミ・マレックへのインタビューで、彼は映画とテレビドラマの違いを聞かれています。その中でサム・エスメイルの名前も出てきているのですが、彼は『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』の脚本・監督を手掛けた人です。このドラマは、サム・エスメイルの独自のセンスが脚本から映像・音楽までビンビンに発揮された作品なので、本当に凄いクリエイターです。

 

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クレイグ=ボンドの完結編として

 『スペクター』から6年。私たちは待たされました。2020年4月に公開するかと思いきや、直前に延期が決定。それ以降、ずるずると延期を繰り返し、2021年10月ついに公開に至りました。

 

 最初のガンバレルシークエンスを見た瞬間に、グッと胸にくるものがありましたね。ボンドとマドレーヌがドライブをしているシーンでは『女王陛下の007』のテーマ曲が掛かるなど、過去作へのオマージュも欠かしません。

 

 今回の敵は、ナノロボットを用いて人類の大量殺戮を目論むサフィ。荒唐無稽な悪役が『007』に帰ってきました。ラミ・マレックの声が良いですよね。落ち着いた感じが、かえって怖い悪党になっています。

 

 一方、新たなキャラクターとして007を襲名したノーミが登場。マドレーヌの娘も登場し、ボンドの次の世代を感じさせます。子供を守ろうとするボンドという構図は新鮮でした。

 

 スパイとしてのボンドの誕生を描いた『カジノ・ロワイヤル』に始まり、一度死んでから復活した『スカイフォール』を経て、新たな世代へと繋ぐ『ノー・タイム・トゥ・ダイ』。007を生まれ変わらせたダニエル・クレイグの5部作は、長いシリーズの中でも大きな転換点となったことは間違いないでしょう。

 

キャリー・フクナガ監督の功績

 正直、今回のアクションシーンは、あまり印象に残っていません。アナ・デ・アルマス演じるパロマが男3人をなぎ倒したところはよく覚えていますが、それ以外では予告編で受けた以上の興奮はなかったかなと感じてしまいます。

 

 全体的に、ややこじんまりとしているんですよね。ラスボスであるサフィンとの最終対決にしても、接近戦を1回しただけで終わってしまいます。前作『スペクター』では、ギネス記録に載るほどの大規模な爆発シーンがあった(あれもちょっと地味なシーンになっていましたが)こともあり、なんだかミニマルな感じはするのです。

 

 では、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でキャリー・フクナガ監督を起用したのは上手くなかったのかと言えば、それはNoと言いたい。なぜなら、本作が007史上最もエモーショナルな物語であるからです。

 

 クレイグ=ボンドの物語の完結は、美しくなければいけません。有終の美を飾る必要があります。そのことに関して、フクナガ監督は立派にやり遂げてくれました。特に、ボンドが最後の島に1人残ってからの場面は、すべてのカットを額縁に入れて飾りたいほど美しく描かれています。

 

 すべては最後のシーンのため。59年の歴史に終止符を打つため。絶対に必要なものでした。

 

この後はどうなる?

 それは、あまりにもショックでした。信じられませんでした。彼ならば、どこかからヘリコプターか何かを見つけて、島から脱出するだろうと思っていました。しかし、最後に「ボンド、ジェームズ・ボンド」と言ったのはボンドではありませんでした。

 

 エンドロールが始まってから、周囲からはすすり泣きの声さえ聞こえてきました。これで終わりなのか。自分たちは今、歴史の終わりを目撃してしまったのか。それを確かめる手段が、一つだけあります。最後まで観るのです。

 

 他の映画でもだいたいエンドロールの最後まで観ますが、今回ばかりは意味合いが違います。あの4語が現れるかどうかは、絶対に確かめなければいけません。

 

   JAMES BOND WILL RETURN

 

 ボンド映画ではお馴染みの文言ですが、これほどこの言葉に安堵することになるとは! ちゃんと次回作もあるそうです。ただし、ダニエル・クレイグの降板はすでに公表されているので、別の俳優に代替わりします。

 

 007史上最大の事件が起こった『ノー・タイム・トゥ・ダイ』以降、シリーズはどのように続くのでしょうか。すでに多くの人が予想しているかもしれませんが、ここであえて大胆な予想をしてみましょう。

 

 次回作の舞台は1960年代になります。

 

 現実味のない予想かもしれませんが、それなりに理由はあります。そもそも、現代を舞台にしていては、ジェームズ・ボンドというキャラクターはあまりにも古臭いのです。強い白人男性が、世界中の女性と戯れながら、敵と戦っていくというのですから。

 

 『カジノ・ロワイヤル』以降、クレイグ=ボンドは新たな時代のジェームズ・ボンド像を模索し続けてきました。それらは、非常に有意義な試みであり、成功していたと言って良いでしょう。しかし、最終的には彼は死を迎えます。やはり現代においては、古めかしいジェームズ・ボンド像は捨てられなければならなかったのでしょうか?

 

 ならば、時代を戻せば良いのです。1作目『ドクター・ノオ』は1962年に公開されているので、1960年代ならば、ジェームズ・ボンドはジェームズ・ボンドらしくいられます。もちろん、当時の映画と同じことをやっいても仕方がないので、新しいアプローチは必要ですが。

 

 現代において、ジェームズ・ボンドのようなダンディズムを前面に出した新キャラクターは他に存在しないような気がしますが、実は1人だけいます。2007年からスタートしたドラマ『マッドメン』の主人公ドン・ドレイパーです。

 

 ドン・ドレイパーは、スーツをビシッと着こなし、仕事中に酒を飲み、数多くの女性と浮名を流しています。ジェームズ・ボンドとの違いは、ドンが広告屋のアメリカ人であることぐらいです。

 

 現代の観点からすれば古臭いと思われるドン・ドレイパーというキャラクターですが、ドラマ自体はそのことに非常に自覚的であり、ダンディズムとその有害性を同時に描き切っています。『マッドメン』は批評家からも視聴者からも絶賛され、エミー賞4年連続受賞、ゴールデン・グローブ賞3年連続受賞という実績を誇っています。

 

 実際に『007』の舞台が1960年代になる可能性は非常に低いとはいえ、『マッドメン』から学べることは多々あるように思います。いずれにしろ、次回作が観られるのが5年くらい先になるのは確実ですから、その間に『マッドメン』を観ておくのもおすすめです。007ロスに『マッドメン』を。

 

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