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Netflixドラマ『キング・オブ・ストンクス』~実際の不正会計事件を基にしたビジネスドラマ~

 Netflixで配信が始まった『キング・オブ・ストンクス』は、ドイツで急成長を遂げていたデジタル決済サービス企業の不正会計事件をコメディを交えて描いたビジネスドラマです。ドラマの内容はフィクションですが、実際にドイツで起こった事件をベースにしています。今回は、その基になった事件の紹介も含めて、ドラマ『キング・オブ・ストンクス』のレビューをしていきます。

 

 

 

基本データ

  • 原題:King of Stonks
  • 配信:Netflix
  • 言語:ドイツ語
  • 配信日:2022年7月6日
  • 話数:6
  • 概要:デジタル決済サービスで急激に成長を遂げているドイツのフィンテック企業ケーブルキャッシュは、政府との契約を前にどうしても隠しておきたい事情があった。COOのフェリックス・アーマンドは、問題を解決するために不正に手を染めるようになる。

予告編

youtu.be

*タイトルにあるstonksとは、「株式」を意味するstocksを意図的に書き間違えたもの。SNSで金融関連のジョークなどを言うときに使われる現代語です。なお、このドラマはリミテッドシリーズなので、シーズン2はありません。

stonksの元ネタになったミーム画像

ケーブルキャッシュは実在する?

 ドラマ『キング・オブ・ストンクス』では、ケーブルキャッシュ社の不正会計事件が描かれていますが、実際にはこの名前の企業は存在しません。よって、ドラマの内容は基本的にフィクションです。ただし、物語のモデルになった企業は存在します。それは、ドイツのワイヤーカード社です。

 

 ワイヤーカードは、デジタル決済サービスを軸に世界40ヵ国以上で展開していたフィンテック企業であり、ドイツ株式指数(DAX)主要30銘柄にも指定されていました。

 

 2019年、イギリスのフィナンシャルタイムズ紙は、ワイヤーカードの不正会計疑惑を報じます。しかし、ドイツの連邦金融監督庁はこの疑惑を追及せず、むしろワイヤーカードを擁護して、空売り規制をかけました。後に、この行動は批判され、2021年1月には長官が辞任しています。ワイヤーカードは、その後の捜査・起訴などの影響で2020年に経営破綻しました。

 

 この事件で問題視されたのが、会計監査がまともに行われていなかったことでした。ワイヤーカードの監査を担当していたのは、世界4大会計事務所(BIG4)の一つであるアーンスト&ヤング(EY)です。

 

 ワイヤーカードの不正会計は、アジアの銀行にあると言われていた19億ユーロが実際には存在しないことが判明したために明らかになりました。銀行口座に資金があるかどうかを確かめるのは会計監査の基本であるにも関わらず、EYがこの調査を怠っていたことが大きな問題とされているようです。

 

 ドラマとは企業名などが違うだけで、事件の概要はほとんど一致していることがわかります。ドラマで描かれていたマフィアとの繋がりの件はフィクションだと思いますが、大規模な不正会計事件があったことは事実です。

 

 

感想(ネタバレあり)

 ドラマ主人公は、元技術屋だというフェリックス・アーマンド。最初は、なんだかパッとしなくて、コミュニケーションが苦手そうな印象がありました。しかし、実際にはケーブルキャッシュ社を成長させてきたのは他ならぬフェリックスであり、CEOのマグヌスは派手好きな見せかけだけの人物であることがわかってきます。

 

 急成長をしているケーブルキャッシュですが、実はポルノ映像会社やマフィアとの繋がりがありました。ある日、マグヌスはマフィアに誘拐されてしまいます。フェリックスは、マグヌスを助けるために巨額の資金洗浄を助けると言い出します。まるで『オザークへようこそ』のような展開です。オザークは会計士個人の話なのでともかく、ケーブルキャッシュのような大企業が積極的に資金洗浄に手を貸すというのは、あまり現実的ではないのかも。

 

 いきなり窮地に立たされたフェリックスですが、何百個もの個人事業者をでっち上げることで目標を達成。会社が急成長しているという噂が広まって株価はどんどん上がり、スイスの世界経済フォーラムで発表をすることになります。

 

 しかし、マグヌスはパーティで浮かれて飲み過ぎて講演をドタキャンしてしまいます。代わりにフェリックスが登壇しましたが、人々が見たかったマグヌスなので、彼が出てこないので失望が広がり、株価は下がっていきます。この出来事を通してフェリックスは、会社の実態ではなくマグヌスというキャラクターに会社の評価が左右されていることに気づきます。

 

 フェリックスは、どんなこともかなり器用にこなしていきます。天才的なほどに。マグヌスと社会活動家との対談の機会を設けるためには、様々な人に成りすますなどしています。これは、実際にはマグヌスをわざと失敗させるための作戦だったのですが、結果的には運転手の発砲事件をきっかけに会社のPRが成功し、株価は上がっています。

 

 今度は、フェリックスはアジアの誰も知らない企業に巨額の投資をし、その資金を徐々に回収していくことで利益を上げているように見せかけます。会計監査の人は、なぜかこのトリックに気づくことができず、ケーブルキャッシュの評判はさらに堅いものになります。

 

 これらの出来事の裏で、投資会社のシェイラはケーブルキャッシュの失敗に賭け、空売りをしていました。同時に、新聞記者にも接触して、不正会計の記事を書いてくれるように頼みます。これ、どう見ても株価操作ですよね。そんなことをしてたら逮捕されるだろうと思っていたら、最終話で案の定ケーブルキャッシュ側が空売りした人々を告発しています。

 

 最後は、ドイツ銀行との勝負が始まるかどうかというところで終わっています。現実のワイヤーカードは、この後に不正会計疑惑が捜査機関によって調べられ、何人か起訴されています。ドラマでも、そこまで描いてくれた方がスッキリしたかなと思います。リミテッドシリーズなので、シーズン2もありませんから。

 

レビュー

 ドラマとしては『キング・オブ・ストンクス』には、上手くないなと感じてしまうところが所々に見られます。例えば、SNSのミームや切り貼り動画を使うなどポップな演出がしばしばありますが、さほど印象的ではありません。一瞬映像が停止するという演出もありますが、私自身のWi-Fiの調子が悪いのではないかと何度か心配させられただけで、一体何の効果を狙ってやっているのかわかりません。

 

 物語自体も、せっかく実話を基にしているにも関わらず、マフィア絡みの件やフォーラムでの銃撃事件などはリアリティに欠けています。いずれも、視聴者を楽しませようとして付け加えた要素はほとんど空振りに終わっています。もっと現実のワイヤーカードの事件に沿った内容にすれば、面白いドラマにすることができたんじゃないのかなと思います。

 

 一方で、派手好きなCEOマグヌスとそれに振り回されるフェリックスというキャラクターは面白く、特にフェリックスが機転を利かせて行う不正の手口には感心させられます。自分自身は、ワイヤーカード社の事も全く知らなかったので、このように知るきっかけができたのも良かったです。

 

↓グーグルアースと同じ画期的なシステムをグーグルよりも先に発明していたドイツの知られざる企業を扱ったNetflixドラマ『ビリオンダラー・コード』もおすすめ。

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