All we have to do is imagine it, trust it, and flip the switch.
- Joe MacMillan, Halt and Catch Fire
今や仕事にも生活にも欠かせないコンピューター。そんな現代社会の基礎となったのが1980年代のPC開発競争でした。巨大な計算機を家庭にも置けるサイズにまで小型化し、世界中のどんな情報にもアクセスできるインターネットができるなど、40年前なら考えもしなかったことが現実になりました。
ドラマ『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア 制御不能な夢と野心』は、誰も想像していなかった未来を夢に見て、実現させようとした人々の物語です。今回は、本作の概要と魅力をネタバレなしで紹介します。
基本データ
- 原題:Halt and Catch Fire
- 放送局:AMC
- 放送期間:2014~2017年
- シーズン数:4
- 話数:40
- キャスト:リー・ペイス、マッケンジー・デイヴィス、スクート・マクネイリー、ケリー・ビシェ、トビー・ハス
- あらすじ:元IBM社員のジョー・マクミランは、かつて独自のPCを作っていた会社員や優秀な大学生プログラマーなどを集め、当時主流だったIBMのPCよりも高性能で安くてコンパクトな新しいPCを作ろうと奮闘する。
- 予告編:
ホルト・アンド・キャッチ・ファイアとは?
ホルト・アンド・キャッチ・ファイア(Halt and Catch Fire)とは、コンピューターの動作を終了させるコードを指す言葉です。ドラマの『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア~制御不能な夢と野心~』は、80年代のPC開発競争を背景に、画期的なPCの開発を目指す人々の姿を描いた人間ドラマです。
ドラマの内容はフィクションであるものの、シーズン1の内容は実在したPC企業「コンパック」の実話に基づいており、その他の部分でも現実と重なるところが非常に多くあります。
2014年にアメリカAMCで放送が始まった『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア』は、視聴率はさほど高くなかったものの、批評家を中心に高い評価を受けている作品です。そのおかげもあり、打ち切られることはなく、シーズン4で完結しました。2021年にBBC Cultureが世界各国の206人の批評家にアンケートを取った「21世紀最高のテレビドラマベスト100」では第50位にランクインしています。
日本では、全4シーズンがHuluで独占配信中。シーズン3までは日本版DVDがレンタル・販売されています。
登場人物・キャスト
ジョー・マクミラン/リー・ペイス
計画のリーダー。かつては、IBMで営業社員として働いていた。独自のビジョンと力強いリーダーシップでチームをまとめ上げる。本人はPC設計もコーディングもできない。
キャメロン・ハウ/マッケンジー・デイヴィス
大学を中退してOS開発に参加したプログラマー。コーディングにかけては誰よりも優秀だが、自己破壊的な性格を持つ。
ゴードン・クラーク/スクート・マクネイリー
PC販売会社で働く社員。ジョー・マクミランに誘われてPCの設計を担当する。かつて、妻のドナとともに独自のPCを作っていたことがある。
ドナ・クラーク/ケリー・ビシェ
ゴードンの妻。かつて、ゴードンとともに独自PCを開発していた。ゴードンとドナの間には、娘が2人いる。
ジョン・ボズワース/トビー・ハス
PC販売会社の営業部長。誰とでもすぐに打ち解けることができ、商談をまとめ上げる能力が高い。仲間からも慕われている。
ゴードンとドナの夫婦がPC自体(ハード)を作り、キャメロンがOSやアプリ(ソフト)を開発、ボズが営業として売り込み、ジョーが全体をまとめる、といったような役割分担になっています。
これが80年代だ!
最近は落ち着いてきたように感じますが、数年前まで映画『IT/イット』やドラマ『ストレンジャー・シングス』など、80年代を舞台にした作品がブームになっていました。テクノポップに原色の派手なファッション。自分自身は80年代には生きていないのですが、そんなイメージがいつのまにか作られています。
『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア』も、そんな80年代を舞台にした作品の一つ。しかも、PC業界の話なので、サウンドトラックは全体的にテクノポップ調。当時のヒット曲も多く挿入され、雰囲気は満点です。
ファッションは、そこまで派手ではありません。大体ビジネスマンやエンジニアの話ですから。むしろ、ダサいファッションの方が多いです。エンジニアっぽいとも言えますね。コーダーたちの作業場は、ごちゃごちゃしていて、遊び道具もたくさんあります。最近のシリコンバレーのイメージもそんな感じですから、これはそんなに変わってないのかも。
↑ 登場人物たちはダサいかもしれないが、オープニングはとてもカッコいい。
人間ドラマ
『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア』は、そのあらすじから、はみ出し者たちが集まって新しいことを始め、紆余曲折がありながらもビジネスの世界で成功を目指すタイプの物語のように見えます。シーズン1はそんな感じの話です。しかし、特にシーズン2以降は、ちょっと違う展開をしていきます。
シーズン2以降も基本的なストーリーは同じです。開発しているものがPCではなくなり、ゲームだったりアプリケーションだったりしますが、何かを開発していく話であることには変わりありません。ただし、ストーリーの重点はどんどん人間関係に置かれていくようになります。
5人の登場人物は、いずれもユニークでリアリティのある者たちです。特に、マッケンジー・デイヴィスが演じるキャメロン。彼女は、いわゆる「天才プログラマー」です。他の多くのフィクション作品にも「天才プログラマー」は登場し、信じがたいほどの活躍を見せてくれます。だいたいパンクな恰好で、コミュニケーションが苦手です。どれもこれもそうです。現実に、そんな「天才プログラマー」がいるのか知りませんが、なぜかフィクションの世界ではステレオタイプな天才が増産されています。
キャメロンは違います。シーズン1に関しては、パンクで典型的な天才プログラマーらしいキャラクターだったのですが、シーズン2からはもっとリアルになっていきます。優秀なプログラマーではあるものの、タスクを抱え込み過ぎてプロジェクトの進捗を遅らせることもしばしば。他人との関係に悩み、自暴自棄になったりもします。
一般には対人関係が苦手だと思われているプログラマーですが、ジョーによれば「キャメロンほど他人想いの人はいない」とも言っています。様々なトラブルを巻き起こし、他人と衝突することも多い彼女ですが、ジョーが言っていることには一理あります。このドラマでは、キャメロンは決してステレオタイプな天才キャラではなく、複雑な人間性から成り立つ人物として描かれています。
キャメロンだけではありません。エンジニアのゴードンも、典型的なエンジニアではないユニークなキャラクターです。仕事人であり夫であり父親であるゴードンは、一見すると地味な人物ですが、身の回りの人に実は強い影響を与えています。メインの5人の中では、ゴードンに共感出来る人も多いのではないでしょうか。
そんなチームを率いるジョー・マクミランは、強烈な個性を持った人物です。未来を夢見て、自らのビジョンを基に人々を力強く導いていくジョーには恐れ入ります。さながらスティーヴ・ジョブズのようなIT業界のカリスマです。
しかし、ジョーは一緒に仕事をしたほとんどの人たちから嫌われています。強力なリーダーシップは、ときに破壊的でもあるのです。それでも、彼は人を惹きつけずにはいられません。嫌いなんだけど好きになってしまう。一緒に仕事をしたくはないけど憧れる。こんなキャラクター、他では見たことがありません。
これほどユニークな人物が揃っているので、メンバーの間では頻繁に衝突が起こります。ビジョンが違うがゆえの衝突や、相手が自分の苦労を理解してくれないがための衝突、単に人間として相性が合わないゆえの衝突など理由は様々。共感できるものもあれば、そうでないものもあり。それでも、この世にない画期的なものを作りたいという目的では、全員が共通しています。
80年代のPC開発は、やがてIT革命に繋がり、世界のあり方をガラッと変えていくことになります。結果的に有名になったのは、スティーヴ・ジョブズやビル・ゲイツなど一部の人々だけかもしれません。でも、その背景には夢を見て懸命な努力を重ねた多くの技術者たちがいました。『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア』は、そんな技術者たちにスポットライトを当て、知られざる物語を描き出しています。
海外ドラマ『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア 制御不能な夢と野心』全4シーズンはHuluで独占配信中。