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海外ドラマ『インダストリー』は2020年代の変わりゆく職場を描いた金融ドラマ

 日本では、働き方改革のスローガンのもとに職場環境が変わり、さらにコロナ禍の影響でも半強制的に様々な変化が訪れました。海外でも同様に、職場の様子はここ数年で大きく変わりつつあるようです。BBCとHBOが贈るドラマ『インダストリー』は、そんな急激に変貌しつつある職場を描いた金融ドラマです。

 

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基本データ

  • 原題:Industry
  • 放送局:BBC One(英国)、HBO(米国)
  • 放送期間:2020年~
  • シーズン数:2(シーズン3に更新済み)
  • 話数:S1: 8話、S2: 8話
  • 原案:ミッキー・ダウン、コンラッド・ケイ
  • あらすじ:ロンドンの大手投資銀行「ピアポイント」に新卒で採用された若者たち。しかし、半年後には半数がクビにされてしまうため、誰よりも懸命に働いて成果を出さなければいけない。

予告編

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以下、ネタバレを含みます

 

新卒社員のプレッシャー

 新卒一括採用は日本やアジア圏だけの文化だけだと思っていましたが、このドラマを観ているとイギリスの投資銀行には同じような仕組みがある気がします。新たにピアポイントに入社してきた若者たちは、それほど金融の経験があるようには見えませんでしたし、所属する部署も人事からの指令で適当に決まっているように見えます。

 

 ただし、日本の新卒一括採用と違うのは、半年後に半数がクビになるということ。採用してねーじゃん。「首切り」と呼ばれる行事に怯える新入社員たち。その日に備えて、上司の恩寵を得ながら何とか成果を上げようと頑張ります。

 

 その中で、頑張りすぎてしまう若者が一人。毎日トイレの個室で仮眠を取るだけで、仕事に全精力を注いでいます。上司から、さすがに退勤カードを押さないのはまずいから一度帰ってくれと言われてしまうほど。頭をスッキリさせる危険な薬も飲んで、小さな仕事でも頼まれたことは完璧にこなそうとします。

 

 明らかに不健康で、昭和の時代だったとしても許されなさそうなレベルです。でも、これは極端な例だとしても、このくらい大きなプレッシャーを与えられ、徹夜を繰り返して仕事をしてしまう人もいると思います。いくら高給を積まれても、命に関わるレベルのプレッシャーが懸かる仕事は、個人的には避けたいですね。

 

 

あちらはセクハラ

 新卒の若者たちがピアポイントで遭遇するのは、数々のパワハラやセクハラ。上司のおじさんから、様々なハラスメントを受けます。ただし、上司も長く投資会社にいるだけあって、業務に関しては有能で、ハラスメントもそこまでわかりやすくはなかったりします。

 

 FX部門に配属されたヤズミンの上司はケニー。ヤズミンが任される仕事は、もっぱらランチの使い走りばかり。いつも新入社員のやることだからと言われて仕方なくやっていますが、彼女は納得が行っていません。さらには、ケニーからディナーへのお誘いもあります。ヤズミンはこれを断りますが、そのせいでさらに関係が悪くなっていきます。

 

 ケニーも、露骨にセクハラをすることはあまりありません。新人がパシリになるのも、本当に毎年恒例のようです。ただ、ケニーが黙ったときは黙ったで、パッシブ・アグレッシブ(受動的攻撃性)になるので、とにかく面倒くさい。何気に、FX部門のお局さんとでも呼ぶべき年長の女性社員がヤズミンを全く擁護しないのも辛いところ。

 

 結局、第5話のストリップクラブでの出来事が完全にアウトなので、ケニーは言い逃れ用のないセクハラ野郎ではあります。ヤズミンが告発したら、ケニーは追放されて、ピアポイントの社会的評判も落ちます。ちょうど#MeToo運動が盛り上がっている頃なので、社会的正義のためには告発をするべきです。

 

 しかし、ヤズミンはその代わりに、告発をしないことで自分が有利な立場に立てることに気づきます。クビ切りを乗り切る絶好の切り札です。ということで、ヤズミンは社会的正義ではなく自分のキャリア的成功を優先する決断をしました。

 

 いくら#MeTooがあるとはいえ、告発をしたら自分のキャリアに大きな変更が生じてしまうという現状はあります。Netflixのドラマ『フィール・グッド』のシーズン2では、コメディアンの主人公がセクハラの告発をするか人気テレビ番組に出演するかの2択を迫られます。社会的正義がこれほど叫ばれている社会でも、告発者にはどうしても大きな負担が生じてしまう。どうするのが良いのかは、これからも議論されなければならないことです。

 

こちらはパワハラ

 CPS部門に配属されたのはハーパー。上司は、破天荒だけれど優秀なエリックです。エリックは、早々にハーパーの才能を見抜き、責任のある仕事を任せます。FX部門とは色々違います。事実、ハーパーは大きな商談をまとめたりもしていて、ハーパーとエリックの師弟関係は上手くいっているように見えます。

 

 しかし、エリックにもパワハラ体質はあります。まず、野球バットを持ってオフィスをぶらついているのが怖い。そして、自分こそが正しいという一点張りで、部下のダリアの意見はほとんど聞きません。しまいには、ハーパーを密室で問い詰めたこともあります。

 

 最後の行動は明らかなパワハラですが、それ以外はどうなんでしょう。おっかないけど、別に悪いことをしているわけではない気もします。熱血漢の方法論で実績もあるわけですし。ダリアとの関係が、互いにコミュニケーションも取れないレベルだったら問題はありそうですけど。ただ、学歴に囚われずにハーパーを重用しているところは、しっかり人間を見ているなとも思うのです。

 

 昨今のコンプライアンスに厳しい世の中を踏まえれば、エリックは密室での出来事一発で即アウトです。それが、社会的に正しいのだと思います。ただ、それでエリックがただ家庭で過ごしているだけの状態になるとしたら、果たして誰の得になっているのかはよくわかりません。一発アウトで追放というやり方がよくないのかなと個人的には思うことがあります。

 

 

頭が良いのか悪いのか

 もし、私がこのドラマをひねくれた言い方で表すとするなら、頭の良い『ユーフォリア』で、頭の悪い『ビリオンズ』になります。有名投資会社に入社できたので、ハーパー並びに同期の若者たちはきっと頭は良い方です。金融ドラマなので『ビリオンズ』のようでもあります。

 

 それと同時に、特にシーズン1では、彼女たちの性生活や薬物使用の有様がたくさん描かれています。ハーパーぐらいならわからなくもないですが、ヤズとロバートの関係はヤバすぎて失笑してしまいました。何を見せられているんだ。というか、これはさすがにヤズがエロすぎる。

 

 『ビリオンズ』も第1話の冒頭がSMプレイのシーンから始まるドラマでしたが、さすがにこんな感じではありませんでした。むしろHBOの『ユーフォリア』のよう。『ユーフォリア』には、投資会社に就職できそうな人は1人も出てきませんが、あのノリをそのまま『ビリオンズ』に持ってきたような異色さが『インダストリー』にはあります。

 

 ちなみに、シーズン2では『メディア王~華麗なる一族~』と『ジ・オフィス』への言及があります。前者はロバートの服装をケンダル・ロイのようだと揶揄うとき、後者はヤズがFX部門を去るときのシーンです。ビジネス系ドラマの2大名作の名前を挙げるとは、なかなか大胆なことをします。

 

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↑『ジ・オフィス』(UK版)のオマージュのシーン。ゼリーの中のホッキチスとダンスがそれ。しかし、ヤズは世代ではないので元ネタがわからない。イギリス人なら『ジ・オフィス』は一般教養なのに!

 

ポストコロナの金融

 シーズン2では、コロナ禍で大当たりを引いたヘッジファンド・マネージャーのジェシー・ブルームが登場。ハーパーは、ジェシーを担当することになり、製薬会社の件をめぐって大騒動を繰り広げます。シーズン2に入ってから、本当に金融の話が始まったなという感じがします。

 

 オフィスでは、仮想通貨やミーム株といった言葉が飛び交い、物語の中でも空売りやゲームストップ騒動の知識が絡んできます。正直、完全に理解するのは難しい。第6話で、ジェシーとハーパーが、ピアポイントのリシを騙すやり取りは、何をやっているのかさっぱりわかりませんでした。それでも、金融ドラマとしてやるならこのくらい本気でやってほしいと思っていたので、観ていて面白かったです。

 

 特に、シーズン2はコロナ禍後の職場や金融業界を描いていたのが興味深い。第1話では、ハーパーがリモートワークに慣れてしまって出社したくない様子が描かれていました。わかりみが深すぎる。

 

 ゲームストップ騒動も2021年のことで、ストーリー全体もAmazonによる医療企業買収の話です。それぞれ個人投資家と投資インフルエンサーの増加、コロナ禍で業績を伸ばした大手IT企業などが背景にあり、現代の金融業界のトレンドをしっかり押さえていると感じます。

 

 シーズン2の最終2話では大きな動きもあり、とても気になる終わり方をしました。金融ドラマの雄である『ビリオンズ』は2023年に終わったので、シーズン2後半のクオリティを保ってくれるなら『インダストリー』はその後継者になることができます。ぜひともそうなってほしい。今後に期待しています。

 

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