Amazonオリジナル映画『サウンド・オブ・メタル』のネタバレ感想を書きます。いつもは、もうちょっとまとめているのですが、映画記事はそんなに読んでくださる人も多くないので、粗削りのままアップしています。
追記:祝アカデミー賞2部門(音響賞&編集賞)受賞!
予告編
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この映画は、全体的に"音”の非常に注意が払われています。最初は、ルーベンも普通に音が聞こえているのですが、途中から突発性難聴になってしまいます。最初の段階では、全く音が聞こえないわけではなく、音が非常に聞こえにくい状態です。山を登ったときや水に潜ったときに、耳抜きをしないと耳が詰まったように感じますが、あのときに聞こえる音に似ています。ただし、もっとくぐもった感じです。
そこから、どんどんルーベンの聴力は失われていき、グループで生活しているときは、もうほとんど聞こえていないぐらいです。食事のシーンなんかは、上手いなと思いましたね。ルーベンの立場からすると、皆無言で静かに食事をしているように思えるのですが、実際には色々な物音があったりするわけです。手話で会話をしたりもしているのですが、当時のルーベンは手話を理解できなかったので、皆でテーブルを囲んでいても、自分だけ孤独に食事をしているような感覚になってしまいます。それを、音を用いて体感させてくれるのは、上手いですよね。
後に、ルーベンは手術を受けて、器具を付けていれば、ある程度は音が聞こえるようになります。しかし、この音というのが、以前に聞こえていたものとは全く違うのです。雑音がうるさく、会話を聞き取るのが難しいのです。スマホで撮った動画だと、やたらと風の音ばかりが入っていて、人の声が聞き取り辛いと思うのですが、ちょうどその感じです。
機械で音を取ると、大体そういったようになるのかなと思います。人間の耳、というより脳の機能も含めて聴覚は、自分にとって重要な音を選別しています。風の音や心臓の音は常に聞こえているはずですが、実際に聴覚が認識することはありません。一方で、機械はどの音が重要かどうかを判断することは出来ないので、すべての音を音量そのままに脳に伝えます。そのため、風や雑音など、どうでも良いような音も聞こえてきてしまうのです。
そのため、ルーベンの彼女のルーの歌声もよく聞き取れませんでした。あのシーンは、切ないですよね。最初は私たちは普通の音声で聞くので、良い歌だなと思っているのですが、そこから徐々にルーベンの聴覚になっていきます。そうすると、途端にガサガサした音になってしまい、ルーの歌声も機械音にうずもれてしまいます。とても残酷です。それでも、全く耳が聞こえないよりは良いのか。難しいところです。
ルーベンは聴覚を失ったからといって、すべてを失ったわけではありません。真の静寂を知ったルーベンは、最後に器具を取り外し、再び静寂の世界に耳を傾けたのでした。