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麻薬犯罪ドラマの隠れた名作『スノーフォール』をネタバレなしでレビュー

If we win this war, we can change the course of history. And this war, we can win.

- Teddy McDonald, Snowfall

もし俺たちがこの戦争に勝ったら、歴史を変えられるんだ。そして、この戦争に関しては、俺たちは勝てるんだ。

ーテディ・マクドナルド『スノーフォール』

 

 麻薬組織ものは、ハードなクライムドラマを求める海外ドラマファンには欠かせないジャンルです。このジャンルの名作といえば『ブレイキング・バッド』や『THE WIRE/ザ・ワイヤー』などの名前があがりますが、ドラマ『スノーフォール』も決して見逃すことはできない秀作です。今年、シーズン6で完結したクライムドラマ『スノーフォール』の見どころをネタバレなしで解説していきます。

 

 海外ドラマ『スノーフォール』全6シーズンは、Disney+(ディズニープラス)で配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

基本データ

  • 原題:Snowfall
  • 放送局:FX
  • 放送期間:2017~2023年
  • 話数:60
  • 主演:ダムソン・イドリス

予告編

youtu.be

 

 製作総指揮であり、オリジナルパイロットなどの監督を担当したジョン・シングルトンは、1991年に映画『ボーイズ’ン・ザ・フッド』でアカデミー賞の監督賞と脚本賞にノミネートされた人物。アフリカ系として初めての監督賞ノミネートでした。

 

 本作は、アフリカ系の製作者や出演者による作品を対象にしたNAACPイメージ・アワードやブラック・リール・アワードの複数部門でノミネートや受賞をしています。ただ、ゴールデングローブ賞やエミー賞など、いわゆる"白人の賞”では候補になったことはないため、criminally underrated(犯罪的に過小評価されている)と称されることもよくあります。

 

 2023年には、ファイナルシーズンとなるシーズン6で幕を下ろしました。知名度の高いドラマではありませんでしたが、きっちり6シーズンで完結したところを見ると、根強いファンはちゃんといたようです。こんなに素晴らしいドラマなので、打ち切りにならなくて本当に良かったですよ。

 

 

ドラマの設定

 舞台は、1980年代のロサンゼルス。主人公は、ちょこっとコカインを売っているフランクリン・セイントという黒人青年です。確かに少量でも麻薬を販売することは犯罪ですが、フランクリンの叔父さんはれっきとした麻薬売人なので、地域柄を考えればこのくらいは犯罪のうちにも入らないかもしれません。

 

 フランクリンは、あるとき「クラック」の製造現場に出くわします。クラックは、コカインを精製したものであり、元のクラックよりも遥かに快感を得られ、依存性が高いと言われています。このときは、まだ世の中にクラックは出回っていなかったので、フランクリンはこの新製品を人々に販売して稼ぐことを思いつきます。

 

 1980年代は、実際にクラックがロサンゼルスでブームになった時代です。そんな歴史的背景を基に、フランクリンが裏社会で勢力を伸ばしていく様子を描いたドラマが『スノーフォール』というわけです。ちなみに、snowという言葉は、コカインの隠語の一つとしても使われています。snowfallというタイトルも「コカインの始まり」みたいな意味なので、本物の雪は関係ありません。

 

時代背景

 このドラマは、1980年代のロサンゼルスで起こったクラックブームを題材にしています。このクラックブームが起こった原因の一つはCIAにあるとされており、ドラマではこのことも大きく扱われています。少し予備知識があっても良いと思うので、簡単に解説します。

 

 当時、中米のニカラグア共和国では、政府と反政府ゲリラのコントラが戦争を行っていました。これは、冷戦の代理戦争の一つになり、ソ連は政府側を、アメリカは反政府側を支援するようになります。その際に、アメリカのCIAは、コントラを支援するための資金を、中米のコカインをアメリカ国内で販売することで得ようとします。つまり、CIAがコカインをアメリカに流通させることで、お金をかき集め、コントラ支援に充てようというわけです。

 

 CIA絡みの事件なので色々明らかになっていない部分もあるようですが、大筋に関してはかなり有力な説と言われています。さらに、CIAがアメリカにコカインを持ち込んだのは黒人を減らすためだという意見もありますが、これはさすがに陰謀論だとされています。

 

 ただし、コカイン中毒になったのは主に貧困地域、特に黒人の貧困地域であったため、クラックブームが白人社会よりも黒人社会に甚大な影響を与えたのは事実です。ドラマで描かれているCIAのストーリーは大胆に脚色されていますが、そんな歴史的背景を取り入れているおかげで、この作品はより興味深いものになっています。

 

3つのストーリー

 このドラマには3つのストーリーがあります。メインは、フランクリンが麻薬王にのし上がっていく姿を描いたストーリー。2つ目は、CIAエージェントのテディ・マクドナルドが、中米からロサンゼルスにコカインを輸入する話。そしてもう一つは、元ルチャリブレ選手、エル・オソの物語です。

 

 ルチャリブレとは、要はメキシコ式のプロレスのことですが、オソはその選手でした。だから、体がデカいです。でも、性格は優しいです。元々、オソは麻薬ビジネスとは全く関係がなかったものの、徐々にこの世界に入っていくことになります。

 

 ドラマは、フランクリン、テディ、オソという異なったタイプの3人の周辺を描いていきます。フランクリンは、家族や友人とともにビジネスに参入します。テディは、何人か仲間はいいますが、全然信用していないので、実質的に一匹狼みたいな状態です。オソは、この世界で愛人に出会います。

 

 テディは、最初こそ小心なところがありますが、どんどん嫌な奴になっていきます。フランクリンは、常に冷静で理知的な人物ですが、家族や友人をできるだけ見捨てないように尽力します。オソは、終始あまり乗り気ではないのですが、根が良い奴なこともあって、周囲の状況のせいで、なかなか足を洗えません。

 

 麻薬犯罪の異なる側面を異なるタイプの登場人物たちの視点から描くことで、このドラマは1980年代のロサンゼルスで起こったクラックブームの全貌を立体的に暴き出しています。

 

 

麻薬ドラマここに極まれり

 麻薬犯罪は海外ドラマの世界では人気のあるジャンルの一つですが、『スノーフォール』は、その集大成のような作品になっています。

 

 元々、普通の生活を送っていた主人公が麻薬王を目指してのし上がっていくストーリーは『ブレイキング・バッド』と共通しています。『ブレイキング・バッド』では、最初のエピソードと最後のエピソードでは主人公の表情も性格も全然違ってきますが、『スノーフォール』でも同じように、フランクリン・セイントが悪の道を突き進んで変貌していく様を見ていくことができます。主演のダムソン・イドリスの演技も見事です。

 

 舞台や雰囲気は、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』に近いです。どちらも、黒人コミュニティを舞台に、麻薬犯罪に携わる様々な人を描いています。両作は、ともに社会性が強い作品でもあります。黒人に対する警官の理不尽な暴力は近年のブラック・ライブズ・マター運動で注目されましたが、この2作品はそういったテーマもじっくり扱っています。

 

 時代は『ナルコス』とほぼ同じくらいです。『ナルコス』の舞台はコロンビアなので、『スノーフォール』と直接関連する話はありませんが、パブロ・エスコバルやバリー・シールといった名前は後者にも出てきます。

 

 また、『スノーフォール』は映像にこだわったドラマでもあります。映画的とでもいった雰囲気です。これは、他の作品だと『ベター・コール・ソウル』に近いです。かなり映像に気合いが入っているので、見応えがあります。

 

 そんなわけで、このドラマは面白い麻薬犯罪系ドラマの良いとこ取りをしたような贅沢な作品です。他作品でお馴染みの展開もありますが、そういった王道をきっちりやることができる作品は面白いです。加えて、クラックブームというテーマは他の作品で全く扱われてこなかったものなので、オリジナリティも十分あります。

 

 このジャンルには名作と呼ばれる作品が多いですが、『スノーフォール』もそれらに匹敵する一本です。特に、『ブレイキング・バッド』以降、数多の作品が挑戦しては苦戦してきた「普通人が悪の道を突き進む」ストーリーとしては、近年で最も面白く完成度の高い作品になっています。

 

 海外ドラマ『スノーフォール』全6シーズンは、Disney+(ディズニープラス)で配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

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