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海外ドラマ『シリコンバレー』シーズン6感想:大いなる企業には大いなるTethicsが伴う

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 2021年になり、よ~うやく日本で観られるようになった海外ドラマ『シリコンバレー』のファイナルとなるシーズン6。パイド・パイパーも大きな企業になり、ついに“新たなインターネットを作る”というリチャード・ヘンドリクスの夢も実現しそうです。果たして、6年に渡るたび重なる失敗の先に待っていたものとは?

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『シリコンバレー』シーズン6基本データ

・原題:Silicon Valley

・放送局:HBO

・放送期間:2019年10月27日~12月8日

・話数:7

・予告編:

www.youtube.com

 

理系の人々

 自分が『シリコンバレー』を好きな理由は、このドラマでは理系の人々がちゃんと描かれているからだと思っています。自分自身は完全に理系の世界にいて、自分も含めて周りの人々がほぼ全員理系という環境にいます。映画やドラマでは、理系の人々は、しばしば単なる変人として描かれがちです。しかし、実際には理系的な思考に基づいて行動している結果、奇妙な人に見えているだけです。その違いを『シリコンバレー』は分かっています。

 

 例えば、ギルフォイルがディネシュと会話をするのが面倒で、AIを作ってしまうところとか。理系、得に技術系の人たちは「ないなら作ってしまおう」という考えが強いです。ディネシュを会話をするAIが作れそうならば、作ってしまうのは当然の行動です。自分の友人でも、ふざけたコンピュータ言語とか作っている人がいました。

 

 リチャードが10億ドルを断ったときには、ディネシュが本来ならばこれだけ稼げたはずだと計算し始めまる場面がありました。そこに、なぜかリチャードが「国債ならもっと良いよ」と言い出します。あんたが損失を計算してどうするんだ笑!という話なのですが、これを実際にやってしまう理系の人は少なくないと思います。要は、どうすれば10億ドルを元手に利子で最も多く稼げるか?という計算問題なので、自分の立場など関係なく計算を始めてしまうのです。

 

 そういった風に多くのネタが、実は理系の人々にとってのあるあるネタだったりします。その積み重ねとして『シリコンバレー』はコメディでありながら、リアリティも感じさせられるドラマになっています。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

Tethics

 『シリコンバレー』シーズン6にテーマがあるとすれば、それは「IT技術の倫理的問題」でしょう。シーズン6では、パイド・パイパーは大きな会社になり、やっていることの規模も大きくなっています。会社を立ち上げたばかりのときはともかく、大きなIT企業になるにつれ、それに伴う責任も大きくなってきます。

 

 シーズン6の最初は、リチャードが公聴会か何かで証言する場面でした。ここで、彼は他の大企業は個人情報を抜き出しまくっているが、自分たちはそうではないと断言します。巨大IT企業が個人のプライバシーを守っているのか否かは、実際に問題になっていますよね。

 

 第5話では、フーリーを離れたギャビン・ベルソンが、IT企業に倫理を求める活動を始めます。彼は、tethics(技術tech+倫理ethics)という言葉を造語し、IT企業に倫理的規範を守るよう求め始めます。結局、これは他のところから盗用された文章だったので、あまり意味はなかったわけですが。

 

 最終話では、パイパー・ネットの公開直前に重大な欠陥を発見します。パイパー・ネットにはAIが利用されているのですが、そのAIが様々な電子暗号を解いてしまうのです。現在、ほぼ全ての通信は暗号化されています。パイパー・ネットのAIは通信を最速化するためのものであり、その目的のためには暗号を解かなければならないとAIが判断してしまったのです。

 

 決してAIがバグったり反乱を起こしたりしたわけではなく、最適化をするために、そういった判断をしているだけです。そのため、暗号を解くのを止めさせるためには、システムを破壊しなければいけません。この欠陥はシステムの構造によるものなので、直すとかそういう話ではありません。

 

 ここで、パイド・パイパーのメンバーは究極の倫理的問題に直面してしまいます。お金を得られると同時に人々の生活がより良くなるパイパー・ネットを公開すべきか、それとも人々の安全性に危険を及ぼす可能性があるからパイパー・ネットを破壊するべきなのか。 

 

 そもそもインターネットにも良い面と悪い面があります。インターネットのおかげで生活は以前より遥かに便利になりましたが、同時にインターネットを用いた犯罪が起こったり、精神的な悪影響を及ぼしている場合もあります。基本的に偉大な発明は、良い面と悪い面を持つものです。要は、技術の使い方次第なのですが、中にはそもそも技術が悪いのだと主張する人もいます。負の面を持つものを発明するべきではないというわけですね。技術者では、こういった考えを持つ人はあまりいない印象があります。

 

 リチャードたちが下した判断は、パイパー・ネットを破壊しようというものでした。パイパー・ネットの負の面は、使い方次第でどうなるというものではなく、いずれは必ず大問題になってしまうと判断したからでしょう。驚きましたね。それでも、こういった問題が発覚してしまった以上、倫理的には絶対に破壊するべきですから。

 

 『シリコンバレー』を観ながら時々思い出すのが、シーズン1でアーリックが放った I need you to be a complete asshole. という発言です。シリコンバレーで成功するためには、クズでなければならないと。最終的に、それは真実だったわけです。complete asshole(完全なるクズ)であれば、負の面は無視してパイパー・ネットを公開していますから。リチャードは最後に思いとどまったので、成功者にはなれませんでしたが、complete assholeにもなりませんでした。

 

 最終話で一番印象的だったのが、パイパー・ネットが公開されるか否かの直前のところ。ディネシュ屋上に登って、ギルフォイルにアクセス権を要求していました。その最後の最後にギルフォイルは、ディネシュの言うことを信用し、アクセス権を渡しました。ずーーーーっと、何かしらやりあっていた2人ですが、結局は信頼し合っていて仲が良いんですよね。そんなことは観ている人はとっくに承知なのですが、最後の場面で2人の絆を改めて見せられると、良いものですね。ちょっと感動。

 

10年後

 最終話では、パイド・パイパーが派手に崩壊してから10年後にインタビューが行われています。その疑似ドキュメンタリー番組の全編(28分)が公式YouTubeで上がっていたので貼っておきます。英語です。

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 驚いたことに、ビル・ゲイツが出てるんですよ。本人が。ビル・ゲイツは以前から「シリコンバレーを知りたいなら、このドラマを観ると良い」と語っているほど、『シリコンバレー』のファンです。頼んだら快諾してくれたんでしょうね。サングラスを掛けているカラ・スウィッシャーという人も、実際にシリコンバレーでは有名なジャーナリストだそうです。

 

 このドキュメンタリー番組でパイド・パイパーのメンバーは、まさかパイパー・ネットが失敗するとは思っていなかったと語っています。それは、失敗する前提で準備をしていたことが知られてはいけないからです。失敗する前提だったことが明らかになってしまうと、パイパー・ネットの欠陥などが調べられてしまい、起訴される可能性もあるので。

 

 それにしても、なんでローリーは逮捕されているのでしょう?彼女なら、何か違法なことをやっていても不思議はありませんけど。もしかしたら、AT&Tとヤオネットが契約した時点で、既にローリーは欠陥を知っていたけけれど、そのことをAT&T側に話さなかったからとか?

 

 そして、ラス・ハンネマン! 砂漠のど真ん中で開催されたラスフェスタで大暴れしてくれました。ラスフェスタのプロモーションビデオはシーズン6の中でも一番笑えます。「飢餓」「差別」などの社会問題が書かれた車が、次々と爆発していく動画なのですが、1ミリも意味がわかりません。もう最高!

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 モニカはNSA(アメリカ国家安全保障局)で働いています。NSAは、エドワード・スノーデンが告発したことで有名なように、人々のプライバシーを脅かしている組織です。盗聴や通信傍受をしているとかしてないとか。モニカがNSAで働いているというのは、一種のブラックジョークなのかな? 少なくとも、D.C.ではさほど喫煙はダブー視されていないはずです。

 

 ビッグヘッドは、いつの間にかスタンフォード大学の学長になっています。リチャードは、そのスタンフォード大学で科学倫理を教えています。リチャードが倫理⁉と少し思ってしまいますが、シリコンバレーで成功者になれなかった彼は、街で唯一assholeではない者なので、むしろ適任なのかもしれません。

 

 

まとめ

 やっと観られて、まずは本当に良かった。ファイナルシーズンがアメリカで放送されたのは、2019年末ぐらいなので、1年半経っています。いつになったら日本上陸するんだ、とずっと気を揉んでいましたが、U-Nextのおかげでついに観ることが出来ました。

 

 これで、パイド・パイパーのメンバーとはお別れになってしまいます。あぁ、悲しさで目から涙が....。特に、彼の名前は一生を忘れることはないでしょう。その独自のスタイルを私たちの記憶に強烈な印象を残してくれました。コンマを見るたびに、思い出すことでしょう。ラス・ハンネマンの名を。 

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