海外ドラマパンチ

海外ドラマ最新情報・紹介・感想

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

ドラマ『正義の異邦人:ミープとアンネの日記』感想|アンネ・フランクをかくまった「普通」の女性の物語

But even an ordinary secretary or a housewife or a teenager can, within their own small ways, turn on a small light in a dark room.

- Miep Gies

普通の秘書や主婦あるいは学生であっても、それぞれの小さな行動で、暗い部屋に小さな明かりを灯すことができる。

ーミープ・ヒース

 

 第二次世界大戦中にアンネ・フランクが送った日々は『アンネの日記』によって世界的に知られています。過去に何度か映像化もされていますが、今回のドラマ『正義の異邦人:ミープとアンネの日記』は、アンネ生活と当時のオランダの人々の暮らしを別の視点から描いたドラマです。

 

 アンネおよびその家族は、父が経営するオペクタ商会の事務所の隠し部屋で隠遁生活を送っていました。ミープ・ヒースは、このオペクタ商会の事務員であり、アンネ一家がナチスに見つからずに生活できるように尽力した人物です。『正義の異邦人』は、彼女の視点から新たに語られる第二次世界大戦の実話です。

 

 海外ドラマ『正義の異邦人:ミープとアンネの日記』は、ディズニープラスで配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

基本データ

  • 原題:A Small Light
  • 放送局:ナショナルジオグラフィック
  • 放送期間:2023年5月1日~5月22日
  • 話数:8
  • 原案:ジョーン・レイター、トニー・フェラン
  • 出演:ベル・パウリー、リーヴ・シュレイバー、ジョー・コール

予告編

youtu.be

 

一瞬にして最大の決断

 物語の舞台となるのはオランダですが、ミープもフランク一家もオランダ出身ではなく、理由があってオランダに逃れてきた人たちです。ミープは、オーストリアで生まれましたが、食糧危機が起こったために、1920年からオランダに移住して養子として育てられました。

 

 ミープは、オペクタ商会の求人案内を見つけ、そこの事務員として採用されます。オペクタ商会の社長が、アンネ・フランクの父親であるオットー・フランク。最初は、ミープにジャム作りばかりさせるので、一体何をやらせているのだと自分も思いましたが、それも理由があってのことだと数日後に明らかになります。だったら、その理由を最初から言っておいても良かったんじゃないかと野暮なツッコミを入れたくなりましたが、ともかく、オットー・フランクは決して考えなしに命令をするような人ではないことがわかりました。

 

 無理な命令をすることがないオットーは、あるとき、ミープにとても重要なお願いをします。嫌ならば断わっても構わないと説明してから、自分たち一家を匿う手伝いをしてくれないかと頼みます。オットー自身、この依頼をするのにも、かなり勇気が必要だったと思います。もしも、ミープに断られて、しかもナチスに通報されたら、その瞬間にすべておしまいです。そんなことにはならないだろうとオットーは判断したということなので、ミープに十分な信頼を置いていたことが伺えます。

 

 一方のミープには選択肢があります。ここで依頼を断れば、それきりです。わざわざナチスに通報しなくても、静かにオペクタ商会を去れば、あらゆる面倒に関わらずに済みます。ミープはユダヤ人ではないので、余計なことさえしなければ命の危険はないからです。

 

 しかし、ミープはその選択肢は選びませんでした。ほとんど悩みもせず、イエスと即答します。もちろん、彼女がその返答の重みを自覚せずに言ったわけではありません。その返答のせいで、おそらくこれから数年間、危険な目に遭うかもしれないということをわかっていて、それでも「イエス」と答えています。

 

 なぜ、ミープは即答することができたのか? 職場でよくしてもらっていたオットーに恩義は感じていましたが、それだけでは命を懸けるには不十分です。考えるに、ミープは本能的に「イエス」と答えており、「ノー」という返答は全くもって論外だというほどの倫理観を持っていたのだと思います。

 

 果たして、私たちが同じ状況に置かれたとき、どれだけの人が同じように即答することができるでしょうか。自分が「ノー」と答えたら、自分は安全で、別にフランク一家にしても誰か他の人が助けてくれるかもしれません。なぜわざわざ自分が助けなくてはいけないのでしょう。そんなことを考えてしまうので、自分だったら絶対に即答はできません。悩んだ末に自分がどんな決断を下すかは、正直、その状況に置かれないとなんとも言えません。

 

 ミープの返答は、だからこそ、驚くほどの決意を伴ったものであるわけです。しかも、ミープはレジスタンスや政治団体に入っていたわけでもありません。その場で急に問われて決断したことです。「普通」の立場の人間であるミープの行動だからこそ、戦争とは今のところ縁のない生活を送っている私たちにも真に迫って感じられます。

 

 

戦時下のパーティー

 フランク一家を匿うことになったとはいえ、ユダヤ人ではないミープは、比較的安全な立場にいます。昔の友人からは、パーティーにも誘われました。ヤンとは新婚ほやほやで、戦争さえなければ一番幸せな時期だったでしょう。でも、逆に、フランク一家があれほど不自由な生活を送っているのに、自分がパーティーに参加するなど不謹慎ではないか、と考えて自粛することもできます。

 

 結局、ミープはヤンやフランク一家と相談してパーティーに行くことにします。特に、オットーの台詞が印象的で、具体的には忘れてしまいましたが、私たちのために自粛する必要はない、君は君自身の人生を謳歌しなさい、とかそんなことを言っていたと思います。リーヴ・シュレイバーが演じるオットー・フランクは、優しさと威厳を兼ね備えた存在感がとても良かったですね。

 

 現代では、様々な情報が瞬時に手元に入ってくるので、世界中のあらゆる悲劇がリアルに感じられます。昔から現実ではありましたが、現地の映像がリアルタイムで入ってくるとなると、感じ方はよりリアルになります。自分が安全だとしても、震災の被害者の心情を慮って、自粛をする人もいます。世界中で戦争が起こっていて沢山の人が亡くなっているのに、自分はこんなに能天気な生活を送っていていいのだろうか、と私自身も一時期思ったことがあります。

 

 実は『アンネの日記』でも、同じようなことをアンネが書いています。アンネは、自分は隠れ家で家族と一緒に生き延びていられるのに、他のユダヤ人たちが殺されていることにとても胸を痛めています。私たちの視点からすれば、アンネは十分に悲惨な状況に置かれていたわけですが、それでもアンネは生き延びていることの幸運と罪悪感を同時に感じていました。

 

 オットーの言葉を免罪符のように持ち出して正当化するのも良くはないかもしれませんが、他者が悲劇的な状況に置かれているからといって、自分まで悲劇に巻き込まれる必要はないと思います。そういったメッセージがオットーの言葉には含まれていると感じました。

 

アンネの日記との関連

 このドラマを観終わってから、電子書籍で『アンネの日記』を買って読んでいます。これまで自分は『アンネの日記』のあらすじを知っているばかりで、2年間も隠れ家から出ないで暮らしていたのだから、きっと暗くてじめっとした内容に違いないと思っていたのですが、読んでみると異なる印象を受けました。

 

 当時15歳弱だったアンネには、すでに自分たちが置かれている状況を客観的で冷静に捉える視点があって、日記とは言えども独りよがりではない読みやすさがあります。そもそもアンネ自身も出版されることを意識して書いていたということですが、それにしてもこの年齢でこれだけ書けるのは凄い才能と思います。

 

 内容の大半は、隠れ家の日常や同居している家族や知人との諍いを描いたものですが、ときどきアンネの心情が書かれているところでは、なんとも言えない気持ちになります。というのも、アンネは決して隠れ家での生活を恨むことはないからです。もっと良い生活ができたらそれは素晴らしいだろうけれど、現状だって生きていられるのだから、他のユダヤ人と比べれば遥かに良い暮らしができている。むしろ、ユダヤ人の他の人々のことを思うと、胸が苦しくなってくる。と、アンネが書いているのです。

 

 それは、全くそのまま私たちがアンネに対して思っていることです。アンネの最期を知っているのでなおさら苦しい気持ちになります。アンネの境遇なら弱音を吐いたって当然だと思いますが、頑張って我慢して、逆に他者を思いやって心を痛めている、その優しさに複雑な気持ちにさせられます。

 

 ドラマと比較してみると、よく映像化されていたんだなとわかります。ドラマを観ていたとき、アンネが活発な少女として演じられていたので、アンネのことをよく知らなかった自分は「へぇ、そんな感じなんだ!」と思ったのですが、確かに原作を読んでいるときもアンネだけはわんぱくな印象を受けます。姉のマルゴーが大人しい秀才タイプなので、余計にそういう印象を受けます。

 

 自分がドラマを先に読んだからというのはあるかもしれませんが、ドラマでのアンネはとてもよく演じられていたと思います。演じていたビリー・ブーレ(Billie Boullet)は、これ以前には『ミルドレッドの魔女学校』シーズン4に出演したことがあるだけの新人ですが、本作でクリティクス・チョイス・アワードの助演女優賞にノミネートされています。

 

 

正義の異邦人

 ドラマ『正義の異邦人:ミープとアンネの日記』は、元の『アンネの日記』を知っていても知らなくても十分に見どころのある作品でした。戦争を扱った作品は重厚なので、特にドラマともなると8時間も観ていられるかと最初は気掛かりでしたが、実際に観てみると、ちゃんとドラマとして見やすいところもあり、それでいて胸を打つ物語がしっかり語られていました。

 

 最後に、タイトルについて。原題のA Small Lightとは、ミープ・ヒースの発言から引用した言葉で、小さな希望を持っていれば世界を変えられるといった趣旨のメッセージになっています。

 

 邦題の「正義の異邦人」は、また別の意味があります。これは、ホロコーストからユダヤ人を守るために自らの生命の危険をも厭わなかった人々に対して贈られる称号です。ミープもその1人です。ちなみに、日本人ではただ1人、杉原千畝にのみ正義の異邦人の称号が与えられています。

 

 海外ドラマ『正義の異邦人:ミープとアンネの日記』は、ディズニープラスで配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)