海外ドラマパンチ

海外ドラマ最新情報・紹介・感想

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シーズン4ネタバレ感想

We're just not asking the right questions. We will. We'll find it.

正しい質問を訊けていないだけ。きっと絶対に見つけ出す。

- Chief Liz Danvers, True Detective season 4

 

 5年ぶりに帰ってきたHBOの伝説的刑事ドラマシリーズ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』。製作陣が一新されたシーズン4の正直な感想をネタバレありで綴ります。

 

 

キャスト&スタッフ

 5年ぶりの『トゥルー・ディテクティブ』では、ドラマ製作を主導するショーランナーの人物が変更になっています。これまでの3シーズンはすべてニック・ピゾラットがショーランナーとなり、全話の脚本を手掛けていましたが、今回は新たにイッサ・ロペスが手掛け、全6話の監督もしています。

 

 製作総指揮には、映画『ムーンライト』を手掛けたバリー・ジェンキンスも参加。その他の製作陣もほとんどが一新されています。ニック・ピゾラットや、シーズン1に参加したマシュー・マコノヒー、ウディ・ハレルソン、キャリー・ジョージ・フクナガらもこれまで同様に製作総指揮としてクレジットされているものの、実際の製作にはほとんど関わっていない名義貸しだと言われています。

 

 主演は、言わずと知れた名優ジョディ・フォスター。今年も、映画『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされていました。本作の演技でも、エミー賞にノミネートされることは確実視されています。

 

 もう一人の主人公を演じるのは、ネイティブ・アメリカンの血を引くカーリー・レイス。世界王者に輝いたこともあるプロボクサーです。女優としては、2021年に映画『Catch the Fair One』でデビューし、インディペンデント・スピリット賞にもノミネートされています。

 

 HBOはすでに『トゥルー・ディテクティブ』をシーズン5に更新することを決定し、ショーランナーは引き続きイッサ・ロペスが務めます。内容は未定であるものの、これまでのシーズンと同様にアンソロジーとして独立したシーズンになる見込みです。

 

 

伝説の刑事ドラマの帰還

 初めて『トゥルー・ディテクティブ』シーズン1を観たときの衝撃は忘れることができません。あの衝撃を超える作品には、未だに出会えていない気がします。そのくらい、『トゥルー・ディテクティブ』は私にとってメモリアルな作品です。

 

 シーズン2は、一般には酷評されていますが、個人的にはただ別の方向に舵を切っただけで普通に面白かったと記憶しています。シーズン3は、シーズン1の方針に回帰し、これもまたよくできたシーズンだったと思います。とはいえ、シーズン1の衝撃を超えるのは『トゥルー・ディテクティブ』といえど不可能なのはわかってきたので、シーズン4に対しての期待値はそこそこ抑えて観始めました。

 

 シーズン4でまず目を惹くのが、主演のジョディ・フォスター。テレビドラマへの出演は1975年以来の49年ぶり。猟奇殺人事件を扱う本作の雰囲気は、映画『羊たちの沈黙』に近いものがあり、クラリス・スターリングの再演もちょっと彷彿とさせるようなキャスティングです。

 

 ジョディ・フォスターの演技は凄く良かった。アラスカの辺鄙な街に左遷された警察官を巧みに演じています。ジョディ・フォスターが演じるリズは、署長のような立場にあるらしく、特に若手のプライアーをこき使う傾向があるのですが、自分のオフィスでプライアーを怒るように脅すシーンに関しては観ているこっちまでヒリヒリした気分になって本気でビビりました。

 

極夜に起こる猟奇的な事件

 シーズン4の舞台になったのは、極夜のアラスカ。白夜とは逆に一日中夜なので、時間間隔が狂いそうになります。だから、副題が「ナイト・カントリー」になっています。そういえば、劇中で誰かが意味深に「ナイト・カントリー」と言っていましたが、あれはどういう意味があったのでしょう?

 

 今回の事件は、とある研究所で起こった研究者たちの誘拐事件。彼らは後に凍った姿で見つかります。てっきり全員死んでいると思ったら、1人だけ生きていて、捜査員の一人はうっかり腕をぽっきり折っていまいます。その瞬間、もの凄い形相で叫び出す瀕死の男性。怖っ。ホラーだ。

 

 ホッケーのアリーナで凍った死体を溶かしているところは、絵的にとても良い。『ハンニバル』にありそうな猟奇性を感じます。

 

 研究所の事件とともに、刑事のナヴァロは6年前に起こったアニーの失踪事件を持ち出してきます。ナヴァロは、かつてはリズの相棒であったものの、ある出来事をきっかけに離職し、今は別の捜査機関で働いています。2人の仲は良好とは言えなかったものの、アニーの事件との関連が見えてくるにつれ、共同で捜査をするようになっていきます。

 

シーズン1との関連?

 2つの事件を結ぶ鍵となったのが、渦巻きのマーク。いたるところに出てきて、猟奇的な雰囲気を高めます。リズが自宅で捜査資料を広げているとき、引いて見てみると渦巻き型になっているのは意味がわからないし、演出としてあざとすぎるなとは思いますが。

 

 

 この渦巻きマークは、シーズン1にも登場したものです。シーズン1では、小児性愛者の集団を意味するマークだったことが示唆されています。シーズン3でも過去の事例として引用されており、その意味合いが改めてはっきり示されています。

 

 シーズン4で同じ渦巻きマークが出てきたということは、同じ組織の関連を窺わせまずが、実際には全然関係ありませんでした。漁師のマークとかなんとか。それは、ちょっとドラマとしてどうなんでしょう。本当にその意味しかないのであれば、シーズン1と関連のあるフリをして視聴者をたぶらかせただけです。そんなことしなくて良いのに。

 

 渦巻きマークは、なんとかシーズン4を『トゥルー・ディテクティブ』の正史に組み込もうと努力した結果のように見えます。そもそもこのドラマがアンソロジーシリーズであることに加え、シーズン4では製作陣が変わり、ニック・ピゾラットも関わっていないため、これまでのシーズンとの関連は非常に薄くなっています。

 

 正直、シーズン4はこれまでのシーズンと切り離して、例えば『メア・オブ・イーストタウン』のように、別の刑事ドラマとして放送しても良い作品です。それでも、あえて『トゥルー・ディテクティブ』のシーズン4としたのは、その方が絶対売れるからだと思います。そして、シーズン4とするからには関連が全くないのも良くないだろうとの判断で、渦巻きマークを無理やりストーリーに組み込んだように感じられます。

 

 賢明な判断とは言い難いですが、HBOの上層部が指示したことだろうと考えて、無視することにします。そして、シーズン4はこれまでの『トゥルー・ディテクティブ』とは全く関係ないリミテッドシリーズとして考えることにしました。シーズン2と同じ扱いです。

 

 

シーズン4は面白かったのか?

 それでもって、じゃあシーズン4が面白かったのかというと、私は普通に楽しみました。猟奇的な事件の雰囲気や人間関係に悩まされる刑事たち、極寒の夜しかないアラスカの世界観など、リミテッドシリーズの刑事ドラマとして味わい深いところはたくさんありました。

 

 ただ、少なからず興ざめな部分があったのも事実。真犯人がエコロジストの女性集団だったというのは、とても現代の時流に合っていますが、ミステリーとしてはいまいち。また、その点は置いておいても、犯行シーンで掛かっていたBGMがマズい。女声ボーカルが叫ぶ曲は、女性たちの怒りを表現した曲としては良いものの、あまりにもインパクトが強すぎて、それまでのドラマの雰囲気からかけ離れています。

 

 たぶん、あえてそのBGMを選んだのだと思います。これまでの『トゥルー・ディテクティブ』とは違って、実は女性の怒りを伝えるフェミニズムドラマだったのだと端的に伝える手段としては効果的でした。このBGMのおかげで、誤解の余地がなくなりましたから。でも、もうちょっと雰囲気を壊さないか、徐々にやっていくか、別の手段がなかったものかと個人的にはもやもやしています。

youtu.be

 

 シーズン4のストーリーは、全体的に散漫としているようにも感じられました。刑事ドラマなので、事件を追うというメインストーリーはしっかりやっていますが、テーマがはっきりしません。これまでの『トゥルー・ディテクティブ』では、刑事たちの長年に渡る執念深さが各シーズンを貫く太い軸になっていました。『ハッピー・バレー』では主人公の女性刑事の怒り、『ブロードチャーチ』では誰も信用できなくなる疑心暗鬼の心など、優れた刑事ドラマには一貫したテーマ性があるものです。

 

 しかし、シーズン4ではそれが感じられません。ナヴァロは長年に渡って執念深くアニーの事件を追いかけ、リズは周囲の人間と衝突しがちな不器用な人物ですが、それらがシーズンを貫くテーマになっているとは感じられません。むしろ、最終話ではサイドストーリーでしかなかった環境保護および先住民の居住地保護こそがメインテーマであり、さらには女性の怒りこそが一番のテーマであると伝えようとしています。作品の中心にあるはずの核がわかりません。

 

 ちなみに、怪奇現象っぽい出来事がろくに解決されなかったことは、そんなに気になりませんでした。まともに解決できる気がしていなかったので。推理作家ならば、そこらへんもちゃんと考えてくれるのですが、テレビドラマでは無理かと。『X-ファイル』のような怪奇現象自体をテーマにしているドラマならば何かしらの説明を付けるのでしょうが、本作は渦巻きマークからして、怪奇現象はこけおどしに使われているだけでしかない雰囲気がありましたから。

 

 繰り返しますが、私はシーズン4を普通に楽しんで観ました。そもそも私自身、刑事ドラマがとても好きなので、刑事ドラマの定石を押さえていれば楽しんで観ます。その点、シーズン4は刑事ドラマとしてちゃんと見どころを押さえていたので、特に最終話を除けば、観ている間は十分に楽しかったです。印象に残るような作品ではないかもしれませんが、楽しかったならそれで良し。そう私は思います。