夏の演劇学校という、そのコンセプトだけで楽しそうです。3週間、皆であたふたしながら演劇を作り上げるなんて、きっと良い経験になるでしょう。今回は、そんな演劇学校を扱ったコメディ映画『シアター・キャンプ』のレビューです。
基本データ
- 原題:Theater Camp
- 公開日:2023年7月14日(アメリカ)、同年10月6日(日本)
- 上映時間:93分
- 配給:サーチライト・ピクチャーズ
- 監督:モリー・ゴードン、ニック・リーバーマン
- 脚本:ノア・ガルビン、モリー・ゴードン、ニック・リーバーマン、ベン・プラット
- 原作:同製作陣による同名の短編映画
予告編
映画『シアター・キャンプ』の撮影のほとんどは、2022年6月の19日間で行われました。台詞のほとんどはアドリブだったとキャストがインタビューで明かしています。
インタビュー動画 Ben Platt and the Cast of "Theater Camp" at Sundance 2023 - YouTube
2023年1月のサンダンス映画祭で初公開され、そのときには本編の上映後に、映画のラストで行われるミュージカルを実際に子役たちが上演しました。映画は、「U.S. Dramatic Special Jury Award: Ensemble Cast」(アンサンブルキャストに対する特別賞)を授与され、サーチライト・ピクチャーズが配給権を獲得しました。
キャスト
ベン・プラット
ミュージカル映画『ディア・エヴァン・ハンセン』主演。本作の脚本も務めている。
モリー・ゴードン
映画『ブックスマート』およびドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』(原題 The Bear)シーズン2などに出演。本作の監督と脚本も務めている。
ノア・ガルビン
映画『ブックスマート』およびドラマ『グッド・ドクター』などに出演。ブロードウェイ版『ディア・エヴァン・ハンセン』の主演を務めたこともある。本作の脚本も務めている。
ジミー・タトロ
Netflixドラマ『アメリカを荒らす者たち』シーズン1に主演。自身のYouTubeチャンネル「LifeAccordingToJimmy」の登録者数は340万人。
アイオウ・エディバリー
ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』で準主演。アニメ『ビッグ・マウス』および『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の声優も務めている。現在、アメリカで主演映画『Bottoms』が絶賛公開中。
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以下、うっすらネタバレを含みます。
感想
映画『シアター・キャンプ』は、モキュメンタリー形式を取っています。ドキュメンタリーの形式を真似したフィクションです。ホラーだと映画の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『女神の継承』、コメディだとドラマの『ジ・オフィス』や『モダン・ファミリー』などがあります。
でも、意外とコメディ映画でモキュメンタリーというは珍しく『ボラット』ぐらいしかありません。あれは、実際に半分くらい本物のドキュメンタリーであるわけですけど。
映画『シアター・キャンプ』は、モキュメンタリーコメディ映画ではあっても『ボラット』とは真逆で、もっと楽しくて心が温まるような作品になっています。
ストーリーは、約3週間の演劇学校の様子を描くというものですが、撮影も実際に19日間で行われています。台詞もほとんどアドリブだそうなので、実際に演劇学校みたいなことをやって、ほとんどドキュメンタリーのような状況を作って映画を撮影したのだと思われます。
この映画には、面白いキャラクターがたくさん出てきます。昔からずっと演劇学校に参加していて、今は講師として参加しているエイモスとレベッカ。瀕死状態の母に代わって責任者となったインフルエンサー気取りのトロイ。人間関係が苦手すぎるグレン。演劇のことを何も知らない経歴詐称のジャネット。
子どもたちの中にも、子役として活躍している子(IMDbスターメーターで2000位というのはなかなかのもの)や、何をしているのかよくわからない芸能エージェント志望の子など、面白い人たちがいます。何よりも、子どもたちが全員、演劇が大好きで、やる気満々なのが観ていて清々しい。
そんなメンバーたちで演劇を作っていく中、ときどき唐突にネタが差し挟まれます。個人的には、レベッカのテキトーすぎる降霊が一番面白かったです。そもそも、ジョーンは瀕死状態なのであって、まだ死んでいないですし。
催涙薬のくだりも好きです。ドーピング選手みたいになって良いのか!と講師の2人は言っていますが、そんなに大げさな話ではありません。しかも、その間にもなぜかレベッカが自分で薬を試しているので号泣しています。
アイオウ・エディバリー演じる経歴詐称講師にも、面白いシーンはいくつかあったのですが、彼女に関してはもっと面白くなるポテンシャルがあったのに活かしきれていない印象がありました。経歴詐称であることがバレるかバレないかのスリルで、もっと笑いは誘えたと思います。
そもそも、彼女はキャストの中で、おそらく唯一の元スタンダップコメディアンなので、せっかくのアドリブならネタをやっているところをたくさん見てみたかった気持ちがあります。
面白いキャラクターや設定がいっぱいあるのは嬉しいのですが、それゆえにポテンシャルを十分発揮できていない要素が多分にあると感じました。レベッカのテキトー降霊術は、もう少しじっくりやっても笑いが取れるやつです。
エイモスとレベッカの関係性はだいぶ深いものなのだろうなと察することはできましたが描写が十分だったとは思えませんし、トロイとあの資産会社の女性の関係はまだイジって面白くできた気がします。隣の高級なキャンプの子どもたちやAirbnbで貸し出しているコテージに泊っている人に関する説明はざっくりしすぎていて、よくわからずに終わってしまいました。
コメディ的にもドラマ的にも、もっと深堀りできるところはたくさんあったのに、さほどそういうことをせずにエンディングに至ってしまった印象です。私は、もっとこのキャラクターたちのことを知りたかったですし、そうすればもっと好きになれたと思います。その後なら、エンディングではもっと感動できたでしょう。
とはいえ、最後のミュージカルのシーンは、今のままでも十分心を動かされるものがあります。技術屋のグレンが大活躍をするのは、最初は「お?!」と思ったものの、とてもハマリ役で、嬉しかったです。最後の見せ場を全部さらっていった感があります。
はみ出し者でも、夏の演劇学校では見せ場があるというメッセージはとても良かったです。特に、照明係の子が、最後にステージに上がっていたところが、ちゃんと気配りが行き届いて良い。
エンドロールで説明される登場人物たちのその後は、これもすべてネタですが、どれも唐突で、脈絡がないからわかりにくい。そこまで来たらもうシンプルにめでたしめでたしで良いよ。最後になって、そんなにぎちぎちにネタを詰め込まなくても良いから、とは思いました。
総括としては、映画『シアター・キャンプ』は、多彩なキャラクターとネタが詰まった愛すべき作品です。それこそ、モリー・ゴードンとノア・ガルビンが出演していた『ブックスマート』にも似ています。中心に据えられた演劇愛と優しいメッセージには、こちらの心も温かくなります。
一方で、せっかくの設定やキャラクターが不完全燃焼で終わってしまっている部分も多々あります。もっとこのキャラクターたちのことを知りたい!と思わせている点でこの映画は上手いのですが、実際にはそこまでたっぷりは描かれないので、ちょっとしたフラストレーションを感じました。全6話のミニシリーズにしても全然良かったのに。