海外ドラマパンチ

海外ドラマ最新情報・紹介・感想

海外ドラマ『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』シーズン1感想&解説

f:id:presbr:20210330175132j:plain

 海外ドラマ『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』は、リドリー・スコットが本当にやりたかったSFを、これでもかと見せてくれます。『プロメテウス』『エイリアン:コヴェナント』『ブレードランナー2049』に続く、リドリー・スコットSFの代表作が、ここに誕生しました。 

 

 

 

 

『レイズド・バイ・ウルブス』シーズン1基本データ

・原題:Raised by Wolves

・製作:HBO Max

・公開年:2020年

・話数:10

・脚本:アーロン・クジコウスキ(映画『プリズナーズ』)

・予告編:

www.youtube.com

※海外ドラマ『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』シーズン1は、U-Nextで独占配信中。 

 

以下、シーズン1のネタバレを含みます。

 

物語の始まり

 舞台は、未知の惑星ケプラー22b。そこに降り立ったマザーとファーザーは、子供を育て始めます。第1話前半のスケールは小さいのですが、そこに映画とは異なるドラマの余裕を感じます。まずは、じっくりとマザー&ファーザーとキャンピオンの背景を描いていくのです。

 

 その後、ミトラ教徒の人々がやってくるも、マザーが一人を残して殺害し、おまけに宇宙船に行って墜落させます。マザーが叫ぶと、途端に人間は木端微塵になってしまうから、恐ろしい。結果、残ったのはマザーが宇宙船から救出した数人の子供たちと、なんとか生き残ったミトラ教徒のみになります。

 

 第2話では、スーとマーカスの物語が描かれます。2人は、もともと無神論者のメアリーとケイレブでした。2人は、生き残るためにミトラ教徒のスーとマーカスになりすまします。元の2人の子供だったポールは、そのまま育てることになります。

 

 自分は、この2人のことが大好きですよ。良い奴らではないです。ポールの実の両親を殺し、トラビスは最初のリーダーを殺しています。でも、2人はひたすら自分たちが生き残るために、実の姿を隠して頑張っていると考えると、嫌いになれないんです。2人が、たまにイチャイチャしているのも良い。

 

 他の登場人物たちが、全く自分たちの欲を出さないので、そのぶんメアリーとケイレブの人間らしさが光るんです。

 

殺戮兵器マザー

f:id:presbr:20210628001722j:plain

↑ 首にかけた袋にマザーの眼が入っている。“眼”は、暗黒光子という人類にとって未知の物質から出来ている。ミトラ教徒によると、暗黒光子はソルから与えられたもの。

 

 それに対するのが、マザー。最強お母さんアンドロイドです。母強しとか、そういうレベルではありません。その気になれば、一瞬で相手を殺すことができます。その圧倒的な力で子供たちを守るのですが、精神的には意外と脆い面も。

 

 マザーは、ある機械を見つけると、それで過去を体験することに夢中になります。そこで明らかになるのが、実はマザーはミトラ教徒の殺戮兵器だったということです。今は、マザーは無神論者なのですが、それはキャンピオン・スタージェスがそのように作り直したからでした。

 

 自らの“創造主”のことを知ったマザーは、すっかりスタージェスにぞっこんになってしまい、空中セックスをしたりもするわけです。これが原因で、マザーは自分の子供を授かったと考えます。

 

 アンドロイドが子供を産めるのかという問題については、『ブレードランナー2049』でも扱われていました。『2049』では、リドリー・スコットは監督ではありませんが、製作総指揮を務めています。

 

 

 

アンドロイドと生命

 マザーとメアリーとは異なったタイプの“母親”が、望まぬ子供を授かってしまったテンペスト。マザーはアンドロイドなので自分の子供を持つことができず、メアリーも不妊であることが後に明らかになります。そのため、実際に血縁のある母親になれるのは、現時点ではテンペストだけです。

 

 とはいえ、テンペストは自分の子供など欲しくありません。でも、マザーは必死にテンペストの子を守ろうとします。ここには、リドリー・スコットSF作品でよく見られる「アンドロイドによる生命への敬愛」といったテーマが見られます。

 

 特に、『ブレードランナー』と『エイリアン:コヴェナント』で、そのテーマは顕著に表れます。ここに登場するアンドロイドは、人間や動物、さらにはエイリアンであっても、その生命というものにを大事に思い、畏怖の念さえ抱いています。『ブレードランナー』のロイの最期の場面や、『コヴェナント』でデイヴィッドが密かに行っていた研究を思い出してください。

 

 どんなに精巧に作られたアンドロイドであっても、生命は持ちません。この場合は、魂と言った方が良いかな。だからこそ、アンドロイドたちは生命に憧れを抱き、歪んだ愛情を持っています。リドリー・スコットSFの世界では。

 

 ただ、これだけだとアンドロイドが人間を殺戮することに説明が付かないので、この仮説にはもう少し改良が必要です。生命の中でも、自らが生きるためならば殺生は必要でしょうし、さらには他を殺す生命も殺さなければいけないと修正します。人類の歴史において、宗教紛争によって亡くなった命は数知れません。無神論者のマザーは、そのような理由からミトラ教徒のことが許せず、ミトラ教徒の宇宙船を墜落させたのでしょう。

 

 これでもまだ不正確な記述ではあります。なぜなら、それが本当にマザーが考えたことかどうかは分からないためです。宗教が悪だという教えはスタージェスが直接言っていたことであり、プログラムされていることです。しかし、これ以上アンドロイドの意志の問題に踏み込むと本題からずれてしまうので、興味がある人は『ウエストワールド』を観てください。

 

3人の母親

 長くなりましたが、そんな理由でマザーはテンペストの子供の命を何とかして守ろうとします。人口胎盤を使おうとしていたかな。シーズン1の時点では、まだテンペストの子供は生まれていません。

 

 メアリーがマザーの子供の面倒を見ている理由は、それほど難しくはありません。普通の人間でも“同情(sympathy)”のために同じ行動をする可能性はありますが、メアリーの場合は自分が子供を持つことができないことも理由にあるのかもしれません。

 

 しかし、マザーのお腹にいたのは、マザーの子供ではありませんでした。苦痛の末に生まれたものは、空飛ぶ蛇のような、見るも恐ろしい存在でした。

 

 蛇の成長はとてつもなく速く、ラストシーンでは宇宙船ポッドよりも大きくなっています。このような蛇の存在については、すでに示されていました。第5話の後半で、ミトラ教徒たちは、巨大な蛇状の骨を見つけ、その中を探索しています。つまり、あの蛇は、宇宙船ほどの大きさになる可能性もあるということです。

 

 ファーザーはといえば、現在、迷走中です。ジョークが大好きなファーザーは、なぜかマザーが妊娠したことを知ると激昂します。そんなところで、人間らしさを発揮しなくて良いのに。

 

 迷走中といえば、マーカスもそうです。元々はミトラ教徒のふりをした無神論者であったにも関わらず、今ではソルの声を聴いたと主張し、横暴な振舞いを見せます。この男2人、大丈夫なのか?

 

宗教

f:id:presbr:20210628001728j:plain

↑ ミトラ教徒の赤いマークは、おそらく太陽を模したもの。

 

 ここで、このドラマのもう一つのテーマ「宗教」に触れなければいけません。ドラマの大まかな構図としては、無神論者のアンドロイドvsミトラ教徒です。神を信じるか否かが争点になっています。

 

 ミトラ教徒が信仰しているのは、ソルという唯一神です。おそらく、その起源は、solar(太陽)にあるのでしょう。具体的な教理はわかりませんが、ソルを信仰することが、最重要ポイントになっています。

 

 一方、無神論者のマザーは神を信じないのですが、創造主の存在は信じています。それは、どこかにいるだろうというぼんやりした存在ではなく、マザーを設計した技術者という実在する人物です。しかし、ケプラー22bにいる限りは、創造主スタージェスの存在を実証できないので、マザーの信仰も実質的に宗教と同じになってしまいます。

 

 神の声に関する問題も残っています。今のところ、神の声を聴いたと主張しているのは、マーカスとポールです。しかし、はたして本当に神の声だったのでしょうか。別の存在がいるような気もしています。

 

残された謎

 シーズン1では、多くの謎が未解決のまま残されました。いくつか、振り返っておきましょう。

 

 まず、神の声に関する問題です。はたして、マーカスとポールが聞いた声は本当に神の声なのでしょうか?また、ソルは親のいない子が救世主になると予言しているそうですが、その子とは誰のことなのでしょう?

 

 そもそも、ソルという神が存在するのかも、わかりません。もしかしたら、何かしらの未知生物がソルのなのかもしれません。少なくとも、ソルは人間以上の知能を持っています。マザーの眼である暗黒光子は、人間の技術ではなく、ソルから授けられたものだそうなので。

 

 最終話で明らかになった衝撃の事実が、ケプラー22bの生物が、元々人間だったということです。ネアンデルタール人と同じ骨格であり、ファーザーによると、これは人間が退化した結果だと言います。もしかしたら、ケプラー22bだと思っている惑星は地球だったりするのでしょうか?(猿の惑星⁉)

 

 最終話でマーカスが襲われた黒衣の集団や巨大宇宙船の謎もあります。それまでは、ケプラー22bにはマザー&ファーザーと宇宙船が墜落したときに生き残ったミトラ教徒しかいないと思われていました。

 

 しかし、最後に登場したのは、そのどちらでもありません。最終話のあのシーンだけでは、これ以上何も読み取ることができないので、シーズン2への大きな謎として残っています。

 

 マザーの腹から出てきた蛇についても謎が残ります。何者かがマザーに蛇の受精卵を入れたということですが、それは一体……? マザーが接続していたコンピュータにアクセスしていた可能性が高く、受精卵を植え付けた生命体は、それなりの知能を持つと予想されます。

 

 

 

科学トリビア 

f:id:presbr:20210628002112j:plain

↑ NASAによる本物のケプラー22bの想像図

 

 ちなみに、ケプラー22bというのは実在する惑星です。ケプラー22bは、地球からはくちょう座の方向に620光年行ったところにある恒星ケプラー22の第2惑星です。620光年というのは、宇宙スケールでは近いと言えます。銀河系の直径が10万光年ぐらいなので。

 

 ケプラー22bという惑星の直径は、生命が存在し得るハビタブルゾーンに存在しているため、研究が盛んに行われています。直径が地球の約2.4倍であることなどから、その環境は地球とは大きく異なるという見立てが有力ですが、詳しいところはまだわかっていません。もしかしたら、地球のような海を持っているかもしれません。

 

 ついでに、ケプラー22bは、その通称を「ナメック星」にしようという署名運動が起こったんことがあります。むしろ、こっちの逸話の方が有名だったりするんですかね。

 

まとめ

 リドリー・スコットがドラマでは初めて監督を務めた『レイズド・バイ・ウルブス』ですが、それにふさわしく、近年のリドリー・スコットSF作品の特徴が非常に色濃く出たドラマになっていました。

 

 映像も非常に巧みで、極限までシンプルな衣装や宇宙船ポッドのデザインも印象的です。SFが好きならば、これはハマるのではないでしょうか。現に、自分はそうでした。こういった贅沢な映像が、ドラマで毎話楽しめるのは、良い時代になったものだなと思います。

 

 『レイズド・バイ・ウルブス』は、すでにシーズン2の製作が決定しています。シーズン1の最終話は、衝撃の事実の連続だったので、シーズン2では謎を解き明かしてくれるのでしょうか。楽しみに待ちます。

 

psbr.hatenablog.com

psbr.hatenablog.com