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ドラマ『ミズ・マーベル』は意義深いがあと一歩足りないスーパーヒーロー作品|海外ドラマレビュー

 MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の何作目か分からないテレビシリーズとして公開された『ミズ・マーベル』。結論を先に言うと、初のムスリムのスーパーヒーローとして非常に意義深い作品ではあるものの、エンターテイメント作品としてはあと一歩足りないかなという印象を受けました。少しネタバレありのレビューです。

 

 ドラマ『ミズ・マーベル』は、ディズニープラスで配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

基本データ

  • 原題:Ms. Marvel
  • 配信:Disney+
  • 公開日:2022年6月8日〜7月12日
  • 話数:6
  • 原案:ビシャ・K・アリ
  • 主演:イマン・ヴェラーニ

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 従来のハリウッド作品ではイスラム系はテロ行為を行う悪役として描かれることが頻繁にありました。悪役でないムスリムは全然出てこなかったと言っても良いほどです。そもそもMCUの第1作『アイアンマン』にしても、最初の場面はトニー・スタークがアフガニスタンのテロ組織から脱出するところです。

 

 しかし、実際にはほとんどのイスラム系の人はテロ組織の人間ではありません。にも関わらず、イスラム系であるという理由だけで危険人物と見なされてしまうケースが実際に少なからずあるようです。そういった背景から、近年のハリウッド作品ではイスラム系の悪役は減っています。

 

 そして、満を持して登場したのが、マーベルにおける初のムスリムのスーパーヒーロー「ミズ・マーベル」です。原作は2014年から始まったマーベルコミックスのシリーズで、2015年にはヒューゴー賞のグラフィックノベル部門を受賞するなどの評価を得ています。マーベルコミックスの作品は、決して賞レースで強いわけではないので、快挙と言えるでしょう。

 

 『ミズ・マーベル』の主人公は、パキスタン系アメリカ人のカマラ・カーン。イスラム教を信仰し、そういったイベントに参加することもありますが、大抵はアメリカのティーンエイジャーらしい日常を送っています。キリスト教を信仰するアメリカ人はたくさんいて、その信仰のレベルは色々あるわけですから、何もイスラム教ばかりが特別に堅苦しいわけではありません。

 

 カマラは、アメコミやスーパーヒーローの大ファンで、特にキャプテン・マーベルのことが大好きです。異なったエスニシティを持つ主人公だと、自分との共通点を見つけるのが難しいこともありますが、その点、カマラ・カーンはとても現代っ子らしいので、共感できるところもたくさんあります。

 

 主演のイマン・ヴェラーニは、パキスタン出身のカナダ人で、本作で俳優デビュー。イマン自身、以前からマーベル作品の大ファンで、『ミズ・マーベル』はまさに自分のために書かれたコミックだとまで感じていたそう。それで、こうやって実際にカマラ・カーンを演じることになるとは、夢がありますね。

 

 ドラマでは、ムスリムの慣習やパキスタンの歴史に関する描写もたっぷりあります。アメリカではあまり知られていない事柄ばかりだと思うので、MCUという大規模な作品の中でこういった物語を語るのはとても意義のあることです。

 

 

 ただ、意義のあるからといって必ずしも面白いとは限りません。特に、MCUは完全なエンターテインメント作品なので、ワクワクしたりハラハラしたりするような作品であることは絶対条件です。

 

 そのことに関しては『ミズ・マーベル』は不十分であったと感じます。例えば、カマラの友人がモスクの役員になるために立候補し、選挙活動を行う話がありましたが、これは本筋のストーリーとは1ミリも関係がありません。カマラの親友で、カマラに片想いしているブルーノも、活躍しているようでそんなにしていません。

 

 第5話は過去の話で、パキスタンがインドから独立するときの出来事が描かれます。マーベル初のパキスタン系ヒーローを描くということで、このエピソードには力を入れていたんじゃないのかなと思います。しかし、印パ戦争はあくまでゴタゴタを生み出す背景としてしか機能しておらず、壮大な出来事の割にストーリーとの結びつきが弱いと感じます。

 

 すべてがそんな調子というわけではありません。カマラの兄の結婚式の場面には、このドラマの良いところがよく表れています。ムスリムの慣習を見せるとともに、その直後の戦闘の舞台にもなっています。インド映画を意識したと思われるダンスシーンは、本家と比べるとぬるすぎて脱力しましたが、それ以外は良かったです。

 

 こういうことを全篇に渡ってやるべきだったんだと感じます。ムスリムの慣習や行事をハリウッド大作の中で見せる重要性はわかりますが、メインストーリーと関係ないところであんまり長くやられると娯楽性を損なうことになると言わざるを得ません。主演のイマン・ヴェラーニはとてもチャーミングで、カマラ・カーンのデビュー作として最良のものになる要素は揃っていたにも関わらず、惜しいといった印象です。

 

 最も単純な解決法としては、4時間半のドラマにするのではなく、2時間の映画にすれば良かったんだと思います。すでに、スーパーヒーロー誕生の話としてのセオリーはしっかり押さえていますし、ムスリム文化を描くという目的も十分達成していますが、2時間の中に詰め込むという制約があれば、もっとスッキリした出来になると思います。

 

↓このドラマのおかげでMCUが南アジア系の音楽を使えるようになったのは強い。昨年のアカデミー賞で歌曲賞を受賞したのはインド映画の『RRR』でしたし、南アジアの音楽はアメリカでもクールなものとして認識されつつあるような気がします。

 

 ドラマ『ミズ・マーベル』は、ディズニープラスで配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

 ムスリムの日常をきちんと描きながら、しっかり面白いコメディになっているドラマ『絶叫パンクす レディパーツ!』(原題 We Are Lady Parts)はとてもおすすめです。

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