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ドラマ『キャシアン・アンドー』は傑作『ローグ・ワン』のスピリットを完璧に受け継いだ名作

I’d rather die trying to take them down than die giving them what they want.

- Cassian Andor, Andor

奴らの欲しいものを渡して死ぬより奴らを倒そうとして死にたい。

ーキャシアン・アンドー『キャシアン・アンドー』

 

 私は、スター・ウォーズの映画はすべて観てことがありましたが、近年のドラマシリーズにはまだ手を出せないでいました。そんな折、2022年に公開された『キャシアン・アンドー』は、エミー賞作品賞にもノミネートされるなど評価が非常に高いことを知りました。ということで、ここから観始めることにしました。

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 時代は、映画のエピソードⅣ『新たなる希望』とスピンオフの映画『ローグ・ワン』の約5年前。『ローグ・ワン』で主人公ジン・アーソのサポート役として活躍していたキャシアン・アンドーが今作の主人公になっています。

 

※この記事はドラマ『キャシアン・アンドー』シーズン1のネタバレを含みます。

 

 

基本データ

  • 原題:Andor
  • 配信:Disney+
  • 配信日:2022年9月21日~11月23日
  • 話数:12
  • 原案:トニー・ギルロイ(映画『ローグ・ワン』『ボーン・アイデンティティー』シリーズ)

予告編

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名もなき者たちの反乱

 2016年に公開された『ローグ・ワン』は、正史9部作の番外編的な作品ですが、裏の傑作的な高い評価を受けています。実際、エピソードVII『フォースの覚醒』以降のSW映画の中では、圧倒的に完成度の高い作品だと思います。

 

 なぜ『ローグ・ワン』があれほどの傑作だったのかというと、名もなき者、具体的にはフォースを持たない者たちの反乱が描かれていたことが挙げられます。彼女たちの活躍は、正史の中ではほとんど触れられることがありませんでした。

 

 自分たちの名前が後世に残らないであろうことはジン・アーソたちもわかっていましたし、きっと生き残ることもできないだろうということは認識していました。それでも、後世の人々のために決死の作戦に挑むところには、胸が熱くならずにはいられないわけです。

 

 そのスピンオフとなる『キャシアン・アンドー』も、そのコンセプトをしっかり受け継いでいます。そもそも、主人公のキャシアン・アンドーにしても、ちょっと影が薄い人物なので、あまり主人公らしくはありません。『ローグ・ワン』では髭があったので、まだ見た目には多少のワイルドさがあったのですが、髭を剃ると、なかなかマイルドで可愛らしくも見えてきます。

 

 キャシアンは、最初から反乱軍にいたわけではありません。盗みをやったり、傭兵として雇われたりと、やっていることはいつも帝国側に敵対することばかりですが、志はありませんでした。

 

 アルダーニの反乱グループに雇われ兵として参加したキャシアンは、6人の仲間たちと要塞攻略を目指します。第6話にて作戦は実行に移されますが、これは凄かった。このエピソードだけで『ローグ・ワン』級です。

 

 反乱グループのメンバーは、人数も少なく、戦闘のプロというわけでもありません。計画は順調に進みましたが、それでも何人かの犠牲者は出てしまいます。容赦なくコロッと殺されてしまうのが、リアルでハラハラさせられます。戦闘を生き抜いた者だけが見られた流星群の鮮やかさが目に焼き付けられます。

 

 アルダーニを脱出した後、キャシアンは、反乱グループのメンバーの1人から盗んだ資金を折半して盗まないかと提案されます。これもまたリアル。エピソードVIII『最後のジェダイ』でも描かれていたような人間の汚い面がここでも見られます。

 

 そういえば、表の顔は古物商、裏の顔は反乱グループの黒幕であるルーセンも、そこまで潔白な人間ではありません。キャシアンを引き入れたのは良いものの、その後にはやっぱり彼を殺そうとしています。

 

 エピソードVIIはファンから酷評されましたが、味方に見えても清廉潔白とは限らないという価値観を示したのは、私は興味深かったです。しかも、ルーク・スカイウォーカーであっても、その例外ではないとする大胆な姿勢も嫌いではありません。

 

民衆の歌

 アルダーニ要塞の攻略のニュースは瞬く間に銀河中を駆け巡ります。そして、民衆に立ち上がる勇気を与えます。キャシアンの母は、特に熱い思いを持っていた人物でした。体は衰えていたものの、自分の住む惑星から逃げ出すことはせず、最後まで民衆を鼓舞しました。

 

 さすがにキャシアンは逃げないわけにはいかないので、どこか報奨金を持ってリゾート惑星に行きますが、なんとひょっこり逮捕されてしまいます。唐突に逮捕されたかと思いきや、あっという間に懲役6年を宣告されたのには、呆気にとられるしかありません。

 

 そして、キャシアンは監獄での労働を命じられます。命令に従わなかったら、即電気ショックです。帝国軍らしい厳格な監視体制が敷かれていますが、囚人に部屋のリーダーを任せたりしているので、意外にも看守は少なめ。それほどシステムがちゃんとしているということなのでしょう。

 

 ある日、キャシアンたちは、ここの囚人たちは一度出てもまた戻ってきて、永遠に出ることができないという事実を知ります。そこで、キャシアンはキノに働きかけて、脱獄作戦を実行に移します。このときのリーダーのキノが激アツ。One Way Out(道はひとつ)の掛け声で、すべての囚人たちを奮い立たせます。

 

 このときも、やはり全員が生きて出られるわけがないことは皆わかっています。それでも、帝国軍によって希望を握りつぶされた囚人たちは、わずかながら脱出の希望があり、後世には確実に希望を与える作戦に参加します。アツアツ展開です。

 

 実際、生きて脱出できた囚人はキャシアンを含めて数人ぐらいであるような気がします。でも、その数人が監獄の実情を銀河系中の人々に訴えれば、無数の人間が反乱の意思をさらに強めることになるでしょう。

 

 キャシアンの母親の葬儀では、ついに民衆が蜂起し、帝国軍に襲い掛かります。計画性も何もないので、相当な数の犠牲者が出たと思いますが、キャシアンとキャシアンの母の活動はここまで人々を駆り立てさせたのです。

 

 この集団蜂起自体は、帝国軍には全くダメージを与えなかったと思います。でも、これは血の日曜日事件みたいなものです。血の日曜日事件は、無数の犠牲者を出しましたが、この事件がきっかけで各地でロシア帝国への反乱が起こるようになり、ついにはロシア第一革命にまで発展しました。

 

 歴史を動かしてきたのは、権力者ばかりではありません。歴史書に名前の残らなかった人々の行動が世界を変えたことも実際にあるのです。

 

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↑ 映画『ムーンライト』や『ドント・ルック・アップ』、ドラマ『メディア王~華麗なる一族~』などの音楽を手掛けてきたニコラス・ブリテルによるスコアにも注目。最終話の葬送のシーンで流れる曲は鳥肌ものです。厳かな曲調は、中盤から戦闘的な調子に変化していきます。

 

組織としての帝国軍

 「名もなき者」というテーマは『ローグ・ワン』から引き継がれたものですが、このドラマにはもう一つ、これまでのスター・ウォーズ作品で見逃されてきたテーマが扱われています。それが、組織としての帝国軍です。

 

 帝国軍は、広大な銀河系の惑星をほぼ完全に掌握しています。これは、並大抵ではない統治力です。ライトセーバーを振り回したり、フォースで首を絞めたりするだけではできません。組織の力が不可欠です。

 

 ドラマでは、帝国保安局の監査官デドラと一区域の司令官代理を務めるシリルの物語も描かれます。デドラは、これまでのSWの世界観の中にいたら、ダースベイダーに首を絞められるだけのモブキャラだったでしょう。シリルに至っては、台詞が一言もないようなエキストラキャラだったに違いありません。

 

 つまり、彼らも「名もなき者」であるので、『キャシアン・アンドー』というドラマは『ローグ・ワン』のこのコンセプトを帝国軍にまで拡大させた作品だと言えます。ドラマの長い尺を上手く生かした方針です。

 

 2人の物語を観ていると、奇妙な感覚に捉われます。2人は確かに帝国軍の人間ですが、悪事を為している風では全然ありません。シリルは、2人の同僚が殺されたことに怒りを覚え、キャシアンを追いかけていきます。デドラは、アルダーニ要塞攻略の隠れた意味合いに気付き、組織のために積極的に提案をしていきます。

 

 2人がやっていることは、ミクロに見ればあらゆる組織の構成員がやっていることと変わりありません。デドラなんかは、男だらけの会議でも成果を出そうと頑張っているので、応援したくなってしまうほどです。

 

 だから、最終話で集団蜂起に巻き込まれたデドラが襲われそうになっているときには、やめてくれ!と思ってしまいました。それでは、あまりにも報われないだろうよと。そして、シリルとは、ちょっと良い感じの仲になりそうです。このぎこちない恋愛には笑ってしまいそうになりますが、あえて帝国軍側でこういった話をやるのは興味深いですね。

 

まとめ

 スター・ウォーズって、まだまだ何でもやれるんですよね。『ローグ・ワン』路線で、またこのような素晴らしいドラマができたことはとても嬉しいです。ドライでシビアで誰がいつ死ぬかわからない。そのくらい本気のサスペンスを見せてくれたわけですから。

 

 なお、ドラマ『キャシアン・アンドー』は、現在シーズン2の製作が進んでおり、2024年中に配信される予定となっています。シーズン1は現在ディズニープラスで独占配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

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