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海外ドラマ『マッドメン』全シーズン感想(ネタバレあり)

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You think you’re going to begin your life over and do it right, but what if you never get past the beginning again?

– Pete Campbell, Mad Men season 7 episode 9 “New Business”

 

 先日、海外ドラマ『マッドメン』を全話見終わりました。観始める前は、エミー賞を取りまくっているとはいえ、60年代ニューヨークの広告業界というテーマは、あまり魅力的に感じていませんでした。ところがどっこい(死語)、これほど良く出来たドラマはそうそうあるものではありません。

 

 ネタバレなしでの『マッドメン』の紹介は以前に書いたので、今回はネタバレありで感想をまとめていきます。最終回のネタバレも含みます。

 

↓ ネタバレなしで『マッドメン』の紹介

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ドン・ドレイパーは何者か?

 この疑問は、シーズン1の前半ではとても気になるものの一つでした。ドンは、自分の過去のことも全く話そうとしません。第1話のビジネスディナーのときからそうであり、その後もほぼ毎エピソードで同様の場面が登場します。Who is Don Draper?

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 その真相は、驚くべきものでした。ドン・ドレイパーはドン・ドレイパーではなかったのです。本名は、ディック・ホイットマン。戦争のときに死んだドンに代わって、ディックはドンとして人生を生きることに決めたのでした。

 

 これほどの秘密をここまで隠しおおせてきたのが不思議ですが、まずはピート、次にベティ、さらには子供たちと、徐々に真実が明らかにされていきます。しかし、たとえドンが実はディックだと明かしたとしても、ドンは元のディックにはなれません。家族や同僚たちと関係を築いてきたのは、ドンだからです。

 

 ドンがディックに戻れるのは、本物のドンの妻だったアンナに会いに行くときだけ。そこにいるときのディックは、表情も柔らかく、リラックスしているようです。アンナとは決して恋愛関係にはならず、半ばふざけあっているかのように生活を楽しんでいます。

 

 それゆえ、アンナが亡くなったと電話で知らせを受けたときには、見たことがないほどの涙を流していました。ディックとしてのアイデンティティがなくなってしまったようなものですから。

 

 ニューヨークにいるときのディックは、空疎なドンの人生を生きなければいけません。彼は、そこに全くもって実態を感じていません。妻も子供もいて、仕事が順調であるにも関わらず。だから、浮気を平気でするし、嘘を吐くことも平気です。

 

 それでも、ドンの人生を生きなければいけません。朝鮮戦争のときとは違って、今では色々と背負っているものがあるので、名前を変えて人生をリセットすることは出来ません。

 

 たぶん、ディックがディックとして生きていたとしても、広告業界で成功し、ベティと結婚していたと思います。それでも、浮気をするし、仕事から逃げ出すこともあったと思います。人生を再スタートさせたくて名前を変えたにも関わらず、結局は同じ人生を送っているのだとしたら、それは大いなる皮肉です。

 

ペギー・オルセンは何者か?

 この物語のもう一人の主人公が、ドンの秘書としてキャリアをスタートさせたペギー・オルセン。「Here's your basket of kisses.」という何気ない、それでいて抜群にセンスのある発言がきっかけでコピーライターの仕事を始めます。

 

 最初は、あまりNY育ちとは感じられない垢抜けなさがありました。それが、広告業界に長くいるにつれて、明らかに染まっていきます。オシャレにもなるのですが、口が悪くなり、人使いも荒くなっていきます。男社会の広告業界で成功するには、そうなるしかなかったのでしょう。

 

 ドンは、そんなペギーのメンター的存在でした。そもそもペギーをコピーライターとして重用していたのがドンで、ペギーが子供を産んだことを知っていたのも当初はドンだけでした。そのときには、過去を捨てる生き方を肯定していました。ドンは、ペギーの仕事上のメンターであるだけでなく、人生の指針でもあったのです。

 

 ドンとペギーが、常に仲良くやっていたわけではありません。むしろ、どちらも才能があるので、衝突することも多々。一度は、ペギーはスターリング・クーパーを退社しています。そこも含めて、ペギーがドンのようになっているなと感じたりもしました。

 

ジョーン・ハリスは何者か?

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 個人的に、このドラマで一番好きな登場人物はジョーンでした。そのグラマラスな容姿のためかというと(確かに自分はヘテロセクシャルの男性ですが)、必ずしもそれだけではありません。シーズン1のときは、むしろジョーンのことが嫌いだったので。

 

 シーズン1のときのジョーンの印象は、いわゆる意地悪な姉御キャラで、ロジャーと寝ているのは上司に対する枕営業のようだと思っていました。しかし、シーズン2以降で、ジョーンのことが詳しく描かれていくにつれ、この認識は改めなければいけませんでした。

 

 ビジネスは男性のものであり、女性は良い男性と結婚して家庭に落ち着くべきだという価値観がまだまだ根強かった時代において、ジョーンはビジネスで非常に成功しています。シーズン1時点での、秘書のまとめ役みたいな役職も、当時のスターリング・クーパー社で女性が就ける最高の仕事だったと思われます。

 

 ジョーンほど会社に尽くしている人もいません。ジョーン自身も、自分がいなければ会社が上手くいかないだろうというくらいの自信を持っています。一度は会社を離れることになってしまったものの、やがては復帰します。スターリング・クーパーこそが彼女の居場所だったのです。

 

 男性関係については、かなり苦労していました。ロジャーとは不倫で、結婚した男は戦争に行ってしまいます。ジョーンに言い寄ってくる男性は山ほどいるのですが、本当にジョーンのことを考えてくれる男性はなかなかいません。ロジャーとは関係が終わった後はなんだかんだ頼りにしていそうだし、ボブ・ベンソンは良い奴にも見えましが、他は全員クズでした。

 

ピート・キャンベルは何者か?

 スターリング・クーパー社きってのわがままボーイのピート・キャンベル。コネ入社で、お金には全く困っていません。シーズン1の時点で、すでに結婚することが決まっています。にも関わらず、ペギーを始め多くの女性と関係を持ち続け、会社では自分が軽く見られていると文句を言っています。

 

 よくもそんなに自分勝手でいられるなと思います。ドンも似たようなものですが、ピートの方がたちが悪い。さぞ甘やかされて育ったのでしょう。

 

 そんなピートでも、多少は会社のことを考えるようになります。シーズンを追うごとに、見ていても分かるほどに接待が上手くなり、ケン・コスグローブと競い合って、会社の中でも重要な存在になっていきます。私生活の方は、相変わらずといった感じでしたが。

 

 

最終回

 人気のあるドラマの最終回は、何か特別なサプライズを用意しようと大胆なことをやった結果、絶賛か極端な賛否両論のどちらかの評価を得やすい傾向があります。しかし、『マッドメン』についてはそのどちらでもないようです。ドンの自殺フラグが立ちまくってはいましたが、最終的にはすべてが落ち着くべきところに落ち着いた感じでした。

 

 ペギーがスタンと一緒になるのも、もうそれしかないだろうと思っていました。ペギーは、恋愛に関してはずっと上手くいっていませんでしたから。あれだけいつも電話で話していれば、恋仲にもなりますよ。

 

 ジョーンは、ビジネスを始めることに決め、そのときに付き合っていた男性とは別れることになります。ジョーンには、仕事か男性かの2択が一応あったわけですが、もちろんそこは仕事を取ったわけです。男性の方が、ジョーンが仕事を選ぶなら付き合っていても上手くいかないと言って離れていってしまうのは、やはり当時の価値観なんだなと思います。

 

 ドンは、とても死にたそうでした。怪しげなセラピーで出会った孤独感を感じている男性には、思わず抱き着いてしまうほどです。ドンも孤独だったのかぁと少し涙を誘われそうになったのですが、おい待てよと。あなたは、たぶんその男性よりずっと恵まれている。みんなが自分の元を去っていってしまうのは、あなたのせいだ。

 

 結局、ドンはマッキャンに戻ってコカ・コーラのCMを作ったようです。70年代の広告は自分自身ほとんど知らないのですが、コカ・コーラのものはさすがに有名です。それらが、ドンの手によるものだと考えるのは夢がありますね。

 

↓ さらにディープに『マッドメン』の魅力を語る(軽微なネタバレあり)

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