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この海外ドラマが気になる<2023年10月>とApple TV+が “シネマ” を救うかもしれない話

 最近、楽しみにしていたドラマの続きがどんどん配信されているので、海外ドラマライフが充実しています。9月は『ファウンデーション』S2、『バリー』S4、『キリング・イヴ』S4、『フィラデルフィアは今日も晴れ』S16、『イエロージャケッツ』S2などを観ましたが、久しぶりにお気に入りのキャラクターに再会できるのはやっぱり楽しいですし、これぞ海外ドラマの醍醐味とも改めて感じています。

 

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2023年9月の気になる海外ドラマ

『ジェン・ブイ』シーズン1 毎週金曜 Amazon

『レッスン in ケミストリー』ミニシリーズ 10月13日 Apple TV+

『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』シーズン5 10月18日 Disney+

『アップロード~デジタルなあの世へようこそ~』シーズン3 10月20日 Amazon

 

 Amazonプライムビデオの大ヒットドラマ『ザ・ボーイズ』のスピンオフドラマ『ジェン・ブイ』が始まりました。楽しみにしていましたよ。Apple TV+の『レッスン in ケミストリー』は、ブリー・ラーソン主演の伝記風ドラマ。たぶん良い評価を得るタイプのドラマです。

 

 他の2本はシットコムの新シーズン。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』も『アップロード』も設定が斬新で、しかもシットコムの割にそれなりにセットや特殊効果にお金をかけている感じがあるので、まさに今だからこそ作られるようになった作品なんですよね。

 

Apple TV+が “シネマ” を救う?

 10月20日から、全国の映画館で、マーティン・スコセッシ監督の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が公開されます。スコセッシの新作ですから、私も絶対に観たいと思います。

 

 実は、この『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、後にApple TV+で配信されることが決まっています。というのも、この作品はパラマウントとAppleの共同出資で制作されているので、劇場にはパラマウントが配給し、配信はAppleが独占することになっています。

 

 このあたりの事情は、スコセッシの前作『アイリッシュマン』のときと似ています。あのときは、スコセッシがハリウッドの大手スタジオすべてに声を掛けても巨額な制作予算を理由に却下されたため、Netflixで制作しました。今回も同じで、パラマウントだけでは制作費用を捻出できなかったので、Appleも一緒に参加することになりました。

 

 NetflixとAppleは、どちらもシリコンバレー発で動画配信サービスをやっているとは言っても、劇場公開に関しては方針が異なります。Netflix映画も劇場公開をすることはありますが、いずれも1週間だけの小規模公開です。アカデミー賞の選考基準を満たすために仕方なく劇場公開していることが見え見えです。

 

 一方、Apple TV+は、もっと劇場公開にも寛容です。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』に関しては、まだApple TV+での公開予定日が明らかにされていません。配信予定日を明らかにすればApple側にとっては有利なはずですが、そうすると劇場で観る人が減ってしまいます。そこはAppleが譲歩しているというわけですね。

 

 過去には、AppleとA24が共同でジョエル・コーエン監督の映画『マクベス』を制作したことがありました。このときも同様に、劇場にはA24が配給し、配信はApple TV+が独占していました。なお、このときは劇場公開が2021年12月25日、配信公開が2022年1月14日でした。つまり、3週間は映画館のみで公開されていました。加えて、Appleが劇場に配給しているわけではないので、配信公開後も劇場でかかっていたところはあると思います。

 

 また、Appleはリドリー・スコット監督の歴史大作『ナポレオン』の配給ではソニー・ピクチャーズと手を組み、今年の12月1日から全国で劇場公開する予定です。こちらも、Apple TV+での配信予定日はまだ明らかにされていません。

 

 なぜ、Appleはここまで劇場公開に寛容なのでしょう? Netflixのように、ストリーミング限定にしてしまった方がAppleにとっては良いように感じられます。Appleがそれをできないということはないはずです。『アイリッシュマン』の制作費をNetflixが払うことができたのですから、世界最大の企業であるAppleが『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の制作費を払えないわけがありません。それにも関わらず、パラマウントと一緒にやっているわけです。

 

※厳密には『キラーズ~』の企画にはパラマウントが先に取り掛かっていたので、Appleが配給権を独占したくても無理だったのかもしれませんが、『ナポレオン』には元々ソニーは関わっていなかったので、独占することもできたはずです。

 

 一応、指摘しておくと、Appleは当初から劇場公開に寛容だったわけではありません。アカデミー賞を受賞した2021年の映画『コーダ あいのうた』は、サンダンス映画祭で公開された際に絶賛され、Appleがサンダンス史上最高額で配給権を獲得しました。『コーダ』は、元々フランスの配給会社が制作資金を出していたので、本来はその会社が配給を行う予定でした。でも、Appleが金にものを言わせて配給権を横取りしたのです。実は、日本に限っては『コーダ』はApple TV+で配信されておらず、GAGAが配給しているのですが、その背後にはこのような事情があったと言われています。

参照記事:MVも登場のApple TV+人気映画「CODA」、なぜ日本では未配信? - iPhone Mania

 

 では、なぜ最近になってAppleは劇場公開に前向きになったのでしょう? その理由の一つとしては、映画は今でも劇場公開された方が配信限定の場合よりも遥かに話題になるということが挙げられます。例えば、2021年にはApple TV+で映画『フィンチ』が公開され、2022年には映画館で『オットーという男』が公開されました。どちらもトム・ハンクスの主演作品ですが、果たして、どちらのタイトルをよく聞いたことがあるでしょうか?

 

 映画通の人なら『オットーという男』のタイトルを聞いたことがあるかもしれませんが、『フィンチ』を知っている人はかなり限られると思います。『オットーという男』にしたって全然大きな作品ではないのですが、それでも配信限定で制作予算も何倍か掛かっていると言われる『フィンチ』よりは知名度があるわけです。

 

 Appleの狙いはそこにあるんだと思います。正直、Apple TV+の知名度は、NetflixやAmazonプライムビデオと比べると遥かに劣ります。そこで有名監督や俳優が参加している映画を独占配信したところで、そもそもApple TV+を誰も知らないので、映画の存在すら知られることがなく終わってしまいます。そうなるくらいなら、一度劇場公開して映画の話題性を高めてから、Apple TV+で独占配信することで知名度を高めようという作戦なのかもしれません。

 

 それに、映画のプロモーションにかけては、ハリウッドの大手配給会社の方が遥かに上手です。Apple TV+のプロモーションは、正直、下手すぎると言わざるを得ません。2年ほど前まではApple TV+の公式SNSすらありませんでした。今でも、Apple TV+作品のプロモーションは、Apple製品の新情報に埋もれがちです。

 

 ただ、こういった戦略上の理由以外に、もう一つ、Apple TV+が劇場公開を推進する理由に関する仮説があります。それは、Appleという企業がメセナ的な考えのもとにApple TV+をやっているというものです。つまり、世界最大の企業が芸術支援の一環として映画制作に積極的にお金を出し、劇場公開も推進しているというわけです。

 

 スティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーに力を入れていたことはよく知られていますし、Appleはアートに関心が強そうな企業だというイメージが、少なくとも私の中にはあります。Appleが慈善事業としてApple TV+を運営しているとまでは言いませんが、これまでのプロモーションへの無頓着さや、その割にドラマ『ファウンデーション』や『インベージョン』に破格の予算をかけてきたことを踏まえると、採算度外視でやっているようにしか見えないのです。

 

 しかも、Apple TV+は、シリーズ作品をほとんど作っていません。近いうちにハリウッド版『ゴジラ』の新作がApple TV+で公開されるので、これは例外になりますが、それでも現在のハリウッドの制作会社が完全にシリーズ作品頼りな状況と比べれば、遥かに単作に力を入れています。リドリー・スコットもマシュー・ヴォーンもジョン・カーニーも、非シリーズの新作をAppleで作っているわけですから。Appleは、それこそマーティン・スコセッシが “シネマ”と呼ぶような作品を作っているのです。

 

 かつては、Netflixがシネマの救世主になるかもしれないと思われていた時期がありました。マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』やノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』が作られていたときはそうでした。でも、今では人気俳優を寄せ集めたスパイ映画のような作品にばかりお金をかけています。ハリウッド以上に高速に陳腐化してしまいました。

 

 結局、今の時代にシネマで儲けるのは難しいんだと思います。Netflixの挑戦は称えられるべきですが、それでもシネマでビジネスを成立させることはできなかったのです。Appleも、もしかしたらシネマで儲けることに関しては失敗するかもしれません。でも、彼らにはiPhoneのお金があります。シネマにいくらお金をつぎ込んだところで、経営は安定したままです(Appleの時価総額はパラマウント・グローバルの300倍です!)。今後は、シリコンバレーの桁違いの資金力が、シネマを救うのかもしれません。

 

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