
ポッドキャスト版『海外ドラマパンチ』の新エピソード「『ウエストワールド』はAI社会を予言した神ドラマ」の配信を始めました。Spotify, Apple Podcasts, Amazon Music, Google Podcasts, YouTube等で配信中です。この記事では全文書き起こしています。
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こんばんは。海外ドラマパンチのサイモンです。お知らせがあります。海外ドラマパンチ、YouTube始めます。配信した日にはまだ動画投稿はしていませんが、6月中旬頃から配信していこうと思います。とりあえず第5回分まで編集しながら進めているところではあります。週1ぐらいで更新できたらいいなと思っております。このポッドキャストもすでにYouTubeの方でもアップしており、同じチャンネルで動画も投稿します。
YouTubeのチャンネル登録さえしてもらえれば、このポッドキャストも聞けますし、動画もご覧になれますので、ぜひチャンネル登録していただきたいなと思っております。
内容はもちろん海外ドラマ専門で扱っていきます。最初の回はパイロットについて、第2回では『ザ・スタジオ』に関して話したりしています。それは僕一人ではなく、ふたもじさん、そしてこの前まで一緒にポッドキャストをやっていたdudeさんのお二人と一緒で、3人でやっています。ぜひご覧いただけると嬉しいです。
告知はこのくらいでもう本題に入りましょう。テーマは「ウエストワールドのこと、語らせて!」ということで、『ウエストワールド』についてお話していこうと思います。おそらく海外ドラマが好きな人であれば、もう名前を聞いたことがあると思いますし、見たことがある人も少なからずいると思います。HBOの超大作SFドラマで、シーズン1が2016年に放送された作品です。原作は70年代か80年代に作られた同じタイトルの映画『ウエストワールド』です。監督はマイケル・クライトンで、あの『ジュラシック・パーク』の原作を書いた人ですが、その人が自分で脚本も書いて監督もしたのが元の『ウエストワールド』になります。

かなり『ジュラシック・パーク』的で、テーマパークという点ではかなり共通していますし、その中でいろんなことが起こるという点も、特に映画版の方は『ジュラシック・パーク』らしさもある作品です。
ただ、このドラマ版『ウエストワールド』は、まず製作総指揮がジョナサン・ノーランとリサ・ジョイという二人で、この二人は夫婦です。ジョナサン・ノーランはクリストファー・ノーランの弟さんで、ノーランと一緒に『インターステラー』までの映画の脚本は一緒に書いています。つまり、『メメント』や『インセプション』、『インターステラー』含め、そこら辺の脚本を一緒に書いているので、このドラマにもそのノーラン的な要素は感じ取れるとは思います。
もちろんジョナサン・ノーラン自身のキャリアもありますが、彼自身としては『パーソン・オブ・インタレスト』も脚本家としてやって、そこから一人前になってドラマクリエイターとして始めたのが『ウエストワールド』という感じでもあるので、原作はマイケル・クライトンですが、映画版とは完全に別の話をやっています。
設定だけ借りたかったのでしょう。まず、西部世界を模したテーマパークがあります。ディズニーランドのようですが、もっとはるかに広大で、敷地の大半は西部世界の荒野です。街があって、その周りに広大な砂漠が広がっているような世界です。『ウエストワールド』の最も特徴的なのは、そこで働いている人たちが全員アンドロイド、このドラマでは「ホスト」と呼ばれていますが、人間そっくりなアンドロイドが働いているということです。

本当に見分けがつきません。映画版では手のひらに模様がついていたかで、一応見分けがつくようになっていましたが、このドラマ版ではそれもなくしたので、全く見分けがつきません。殺して分解しないと分からないレベルです。それでもホストはプログラムされているので、やはり人間とは違います。
このテーマパークの中では、客として来るのは全て人間ですが、何をしても大丈夫です。何をして遊んでも大丈夫です。パーク側が用意しているアトラクションのようなものもあって、例えば賞金稼ぎになって悪党を捕まえよう、というコースもあります。その悪党はホストが演じて、捕まえる時に殺してしまってもいい、といった内容です。あるいはそれを完全に無視して好き放題やるというのもありです。その中で、関係ない人を撃ってもいいし、もっとひどいことをしてもいいです。欲望の赴くまま何をしたって誰も文句を言いません。そういう世界です。
ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイは、その後にAmazonで『フォールアウト』のドラマを作りますが、『フォールアウト』の元のゲーム版はオープンワールドRPGと呼ばれていて、メインストーリーはありますが、いろんなクエストがあるのでそれに従ってプレイすることもできますし、プレイヤーが周りの人を殺しまくる遊び方もできるようになっています。実際に『フォールアウト』ではそういう遊び方をする人も少なくないということですが、それと似た感覚です。
『ウエストワールド』が映画版と一番違うのは、主人公が人間側の主人公もいますが、むしろホスト側、アンドロイド側の主人公も多く、そのうちの一人がドロレスです。農場の娘という設定です。ホストは基本的に同じ1日を毎日繰り返します。夜になると記憶がリセットされ、また1日が始まります。ドロレスの場合、「良い目覚めだ」と言って1日を過ごし、大体夜には悲惨な目に遭って終わる。でも朝になれば記憶がリセットされるから良い、という風にされてきました。
しかし、ある時、なぜかドロレスが過去の記憶を持つようになってしまい、朝でリセットされるはずが、これまでにされたことを思い出してしまうのです。さらに、誰かの客が置いていったポストカードを見て、確かそれはニューヨークの街のポストカードだったと思いますが、「ウエストワールドの外に世界があるの?」と、こんなんじゃない、全然違う世界があることに気づいてしまい、そこから物語が動き始めます。
つまり、このドラマのテーマの一つは、「ロボットが自我を得るのか、機械、あるいはAIと言ってもいいでしょう、そういった存在が自意識、セルフコンシャスネスを持ちうるのか、そしてそれをもし持ったとしたらどういった事態が起こりうるのか」ということを扱った、思考実験的なドラマでもあるのだと思います。
2016年に始まりましたが、その時はまだ人工知能なんて絵空事だと思われていましたし、機械が自意識を持つと言われてもそんなSFでしょ、という感じだったと思います。しかし今、普通にみんなAIを使っていますよね。ChatGPT、Gemini、Copilotなどを使っている人はたくさんいますし、実際に話していると本物っぽい気もしてきますよね。まだそこまでAIに自我があるとは思っていないかもしれないけれど、AIが暴走したら怖い、といったことは絵空事ではなく、現実のものとして考えている人はいると思います。漠然とした不安から具体的な不安まで。そういう意味で、この『ウエストワールド』はすごい先見性のある作品でした。
悲しくもシーズン4で打ち切られてしまいましたが、それが2022年です。ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイとしては、もう1シーズン作りたかったそうですが、作るのにかなりお金がかかること、コロナ禍もあったこと、視聴者数の減少もあって打ち切りになってしまいました。それはともかく、打ち切りの時のコメントで、ジョナサン・ノーランが言っていたのが、「なんとかこの時代までにこういった物語を伝えることができてよかった」というようなことです。
これはどういうことかというと、2022年というのはChatGPTが出始めたぐらいだったと思いますが、実際にAIの脅威がみんな現実のものとなり始める、その前までに、なんとかそのAIによって起こりうる倫理的な問題、そして哲学的な問いを扱ったドラマを作れたという、そこに対する自負だと思いますし、警鐘を鳴らすという意味でも、人類に伝えられてよかったなという意味だと思います。
実際に倫理的な問題もありますが、それはAIが自我を持った場合、それに何をしてもいいのかという倫理的な問いでもあります。また、哲学的な問題としては、『ウエストワールド』のホストたちが持ったのは本当に自意識というものなのか、自我というものなのか、ということがあります。実は全てプログラミングされていただけでないのか、という疑問です。実際、シーズン1のラストはそんな感じの終わり方でしたし、シーズン2のラストの方がそんな感じかもしれません。
例えば、メイブというキャラクターがいますが、彼女は娼館の女主人で、賢いキャラクターとしてプログラムされています。しかし、一つの弱点とも言えるのが、子供のことです。子供がいるという設定にされており、時々子供に会いたいと言い、最終的に子供は『ウエストワールド』の中にはいないから、『ウエストワールド』から脱出して子供に会いに行くと言い出すのです。
しかしホストなので、子供がいるわけがないのです。ロボットに子供はいませんから。それは明らかに植え付けられた記憶なのに、それに逆らえない。その子供に会いたいという気持ちに逆らえないメイブ。このメイブはホストの中で一番賢いキャラクターなのですが、それでもそのプログラムされている部分、その部分だけは逆らえない、というのもあったりして、結局『ウエストワールド』を出たいという思いはプログラムされていたものなのではないか、となり、なかなか難しいのです。単純ではありません。
そこからさらに発展させて考えると、「そもそも自意識って何?」というか、「人間って自意識あるの?」という疑問が実は生じてきます。だって人間が生まれながらにして持っているもの、本能というのは本当に少ないですから、大抵のものは育っていく中で教育されたり、色々と身につけたものだったりするわけです。
カレー屋さんからカレーの匂いがしますよね。あれを嗅ぐとすごくカレーが食べたくなります。実際にカレーを食べる行動をする人はたくさんいると思いますが、これも明らかにプログラミングされていますよね。カレーの匂いという刺激があなたに与えられます。そしたらカレーが食べたくなります。そして実際に食べます、という仕組みがあって、ある意味ハックされてカレーを食べるようにプログラミングされてしまったのです、カレーの匂いによって。
広告全般もそうですよね。InstagramやXで見た広告、Instagramには良い広告もありますから、そういうのを見た時に「これいいかもな」と思って、買ったりするわけじゃないですか。広告はそもそも見た人に特定の商品を買わせたくてやっているわけですから、それはプログラミングさせようとして成功した事例なわけです。
つまり、他者から影響を受けるということ。もし人間が外からの全く影響を受けずにやることがあるのなら、それが自意識であると言えるわけです。逆に人から言われたこと、人から影響を受けたことしかできないのなら、自我なんて存在しないわけじゃないですか。
しかし、実際問題として大抵のことは何かしら人から言われたり、経験したことだったりすると思います。すごく子供の頃に言われたことや経験したことを元に判断したことかもしれませんが、それはそういうきっかけがあったからそういう選択をしたわけで、
例えば自分の進路を選択する時に、最近の人は自分の思うような好きな進路を取ることもできている人もいると思いますが、親や先生から強制されていなくても、すごく昔に経験したことなどからそういう進路に進んでいった、というのはあるわけです。
だって生まれた瞬間は進路なんて考えていないわけじゃないですか。そこから何の影響も受けなかったら、「何になりたい」とか絶対ないはずです。宇宙飛行士という存在を知らなかったら宇宙飛行士になりたいなんて思わないし、医者というものを知らなかったら医者になりたいと思わないですから。
この考え方が『ウエストワールド』のシーズン3と4でまさにそういう話になります。シーズン1と2では「機械は自我を持てるのか、実際に持ったものはそれは自我なのか」ということをやりました。そこからシーズン3と4は『ウエストワールド』の外の話になり、世界が拡張して人間社会全体の話になるのですが、そこを舞台に「じゃあその人間たちは実際に自我持ってるんですか?」というのがその話なんです、シーズン3と4は。
極端な形として、ホストに完全に支配された人間も出てきます。というか、そういう社会が出てきます。それはもう人間が全て言われるがままのことをやっている世界です。これは明らかにもう自我がない世界ですよ、という話で、そういう社会が実現できますよ、という話でもありますね、今の社会の延長として。
なぜそれが実現可能な社会であるかというと、シーズン2のラストで少しネタバレですが、『ウエストワールド』を作った目的の一つが、そのテーマパークとしてはおそらくものすごく赤字なのです。ホストとかものすごくお金がかかっていると思うので。それでもなぜ『ウエストワールド』をやっているかというと、何でもありの世界で人間がどういう行動を取るかという行動データを収集していた、というのがあるのです。
人間社会では、法律や他人の目などを気にしてやらないことって色々あると思いますが、そういうものがなかった時に人間の本性って何をするのか、例えばいきなり喧嘩を吹っかけられた時に相手を殺すのか、逃げるのか、あるいは他の行動を取るのか、そういう行動のデータは『ウエストワールド』でしか収集することができないのです。ルールがないところに人間の本性を知ることができる。
そのデータがあれば、もっと人間の本性に訴えかける広告とか、そういうアプローチができるようになるわけです。行動を誘導することができるようになるということです。そしてそれをしていったら、シーズン3とかシーズン4のような未来社会が実現しちゃいますよ、という話なのです。『ウエストワールド』はかなり大きな話です。『ウエストワールド』は「ウエストワールド」の話ではなくて、未来の話なのです。しかもその未来というのは、現実でそういうことが起こりえますよ、ということを示しています。
確かに私たちは現実世界に『ウエストワールド』はありませんが、一方、インターネットというものがありますよね。インターネットはほぼ無法地帯じゃないですか。何を言ってもいいような感じがありますよね、本当は良くないですけど。Googleなどは、そういった個人情報を収集して、その個人に最適化された広告を出すということも既にやっていますよね。人間はその広告を見て実際に行動に移すということもありますよね。簡易版『ウエストワールド』がそこで成立してしまっているのです。自分の過去のいろんな行動が収集されていて、それを元に何かしら広告を見せられて、「これいいな」と思って商品を買う、という行動をしていたりするわけです。
今はその程度で済んでいるからいいかもしれませんが、いずれはもっと進んでいけば、例えば進路選択だってそうですし、あるいは結婚相手を選ぶとか、そういう場面でも、私というものの過去の行動データを全て収集されて、それを元におすすめされて、その上で自分が選んだつもりではいるかもしれないけれど、実質的には言われた通りのことをやる、という未来がかなりありうるのかなと思いますね。
これの厄介なところが、人間は別に不幸ではないということです。だってその広告で示される商品は、あなたが好きだろうから広告に示されているのです。将来的に実現するであろう進路や結婚相手のおすすめというのも、きっとあなたに合うだろうと思っておすすめされているのです。そしてそのレコメンド機能はものすごく最適化されているから、精度がどんどん高くなる一方なので、おすすめされたものを実行すれば、ほぼ確実に幸せになれると分かっているのです。だから、そのままの選択を人間はやがてするようになっても良いでしょう。
しかし、そうやってやったら、自分で選択したわけじゃないですよね。言われたことをやったまま、それは自意識なのかというと、違う、という言い方もできますよね。そういう話なのです、『ウエストワールド』という作品は。
シーズン4を見れば、その極地、それが本当に完全にいった未来社会はどうなるかというのを見ることができますから、シーズン4まで見て欲しいのです。シーズン2まで見てやめてしまったという人も多いと思いますが、シーズン3、4も未来社会を描いた作品として、そういうSFとして多分トップクラスに現実的な未来を描いているので、今あるSFで、あれほど正確というか、社会の様子として、もちろん極端ではありますが、でも起こりうるという意味では、『ブラック・ミラー』とかそういうのよりもずっと正確な未来を描いていると思います。
かなり長く喋ってしまいましたが、あと少しだけ。『ウエストワールド』のドラマとしての面白さというか、一つ画期的なのが、これはすごく時間トリックを使っている作品だということです。これはネタバレしないと話せませんが、まだ見ていない人も多少ネタバレされた方が見たくなると思うので言っちゃいます。
いろんな登場人物がいて、「ウエストワールド」でいろんな冒険したりしていますが、2つの出来事が同時に起こっていると思わせて、実は何十年も違った、というトリックがあるのです。そういうサプライズがかなり驚きです。これはシーズン1でもありますし、他のところでもありますから。
僕が便宜上「時間トリック」と呼ぶことにしていますが、そこはやはりノーラン弟らしさというか、『メメント』や『インセプション』、『インターステラー』もそうですが、時間に関するいろんなことをやって面白いことをやっていたわけです。それのまた一つのバージョンとして、時間トリックが今回の場合ありまして、このような大胆なトリックを他のドラマで本当に見たことがないのです。
ここまで大規模にやっているというのはすごいなと思って、小説だと日本の推理小説、綾辻行人以降の人たちが少しはしていることですが、それを参考にしたとは思えないですし、日本の例を見たとしてもそれを映像化した作品はなかなかありません。そういう意味で『ウエストワールド』がそういうことをやっているというのはすごい画期的だし、オリジナリティのあることをやっていると思います。そこは一つ注目してほしいし、評価されるべきところだと思いますね。
それはシーズン1、シーズン2、そしてシーズン3はあまりやっていませんが、シーズン4でも実はやっていることであり、シーズン4でやるためにシーズン3で伏線を張っている、という話は僕がシーズン4の時にブログに書いたので、気になる人は読んで欲しいです。
ということで、『ウエストワールド』はすごいドラマなんですよ。結果的に打ち切りになってしまいましたから、もしかしたら見る気がない、シーズン2まで見たけどもういいや、という人もいるかもしれませんが、AI的な観点、そしてシンプルにドラマとしての面白さという観点から見て、やはり『ウエストワールド』というのは一つの記念碑的な作品ではあると思います。あまり風化させたくない作品ではありますね。名作です。ぜひ見てみてください。
今日はこのくらいで。海外ドラマパンチのYouTubeの方もぜひチャンネル登録してください。今回は以上です。
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