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『ウエストワールド』は個人情報の重要性を伝えるドラマ

※この記事は、海外ドラマ『ウエストワールド』シーズン1~3のネタバレを含みます。未見の方はお気をつけください。

 

 現在、U-NEXTでシーズン4が配信されているSF海外ドラマ『ウエストワールド』は、難解ではあるもののよく練られたストーリーで話題を集めました。シーズン1はSFミステリーとしてあまりにも完璧だったので、シーズン2以降はどうしてもそのレベルを超えることができていないと感じるところもありますが、それでも私はこのドラマを十分楽しんでいます。

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 その理由の一つとして、このドラマの根底にある、他のSF作品とは一線を画す思想があります。それは、"個人情報"です。特にシーズン2以降、このドラマは、本質的な意味での個人情報の重要性が一つのテーマになっています。これは、あまりSF映画やドラマでは扱われてこなかったものなので、一見すると奇妙で無味乾燥なテーマに感じますが、実は最も的確で、現代社会において議論されるべき事柄です。

 

個人情報は儲かる

 ドラマの話に戻ります。個人情報の話が出てきたのは、シーズン2の最終話でした。そこでは、そもそもなぜ「ウエストワールド」が作られたのかが明かされます。単なるアミューズメントパークとして作られたのではありません。ウエストワールドを運営するデロス社の真の目的は、顧客の個人情報を集めることにありました。ここでいう「個人情報」とは、名前や住所といった情報に限りません。個人の行動に関するデータも含みます。

 

 ウエストワールドの中では、自分の欲望のおもむくままに、何をやっても構いません。つまり、ウエストワールドでの個人の行動を観測すれば、その人の欲望が完全にわかってしまうのです。加えて、ある出来事が起こったときに、その人がどのように行動するかもわかります。例えば、目の前に急に銃を持った人が現れた場合、逃げるのか、それともその場にじっと留まるのか、あるいは率先して銃撃するのかといったようなことです。

 

 現実社会では様々な制約があるので、自分が思った通りの行動ができないこともありますが、ウエストワールドの中では思ったことをそのまま行動に移すことができます。

 

 デロス社は、顧客データを集積し、あらゆる人間の行動を分類した究極の人類データを作ろうとしています。このデータは、一般企業に売られ、マーケティングに活用されます。人類データがあれば、製品やサービスを欲しがるであろう人に対してダイレクトに宣伝をすることができます。これができれば、販売効率はグッと上がりますし、マーケティングの手間も省けます。

 

 現在、デロス社と似たようなことをやっているのがGoogleです。Googleは、人々の検索動向をトラックし、個人の特性にあった広告を配信しています。Googleの主な収益源は広告掲載によるであり、Google検索がもの凄く便利なツールであるにも関わらず無料で使えるのは、この仕組みがあるからです。

 

 ウエストワールドの真の目的が個人情報の収集だとわかると、なんだかショボいと感じた視聴者もいたようですが、それはむしろ真逆。今の時代、個人情報の収集ほど儲かるビジネスはありません。Google がどれほどの成長を遂げたかを見れば、十分よくわかるでしょう。

 

自由意志が無用になる

 シーズン3で、ドロレスたちはウエストワールドを飛び出し、現実社会が舞台になります。そこで、ドロレスは、あることに気づきます。現実社会で生きる人間たちも、ウエストワールドの中で生きていたホストたちと同様に、自由意志を持ってはいなかったのです。すべての行動が機械によって決められ、多くの人間たちはそれを受け入れています。

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 なぜこのような社会になってしまったのでしょう? 先ほど広告の話をしましたが、もう少し考えを進めてみればわかります。GoogleのAIは、私の個人情報を完全に把握できるようになったとします。すると、AIは完璧に私の好みに合った製品・サービスをおすすめしてくれるようになります。私は、最初は半信半疑でそれらを買うかもしれませんが、その製品を実際に気に入る可能性が高いので、徐々にAIのおすすめを信用するようになります。

 

 私のことを完全に知っているAIは、やがて私のキャリアや結婚相手もおすすめしてくるようになりました。このときまでには、私はAIのことを全面的に信用しているので、おすすめされた通りの行動をします。なぜなら、そう行動することで最も満足度が高くなるとわかっているからです。

 

 こうやってAIによって人間が支配される社会は完成します。人々は、機械に指示されたことに何の疑問も抱かず、その通りに行動をします。この社会で生きる人間は、AIやGoogleに反感を抱いてはいません。なぜなら、それらは本当に人間を幸福にしてくれるからです。でも、人間の自由意志はありません。

※Googleというのはもちろん一つの例として出しただけです。

 

 ここで一旦、人間と機械の違いを考えてみます。人間と機械の関係は、人間が機械に対して何をするのか指示するだけです。機械(AI)が、自発的に何かをしようとすることはありません。例えば、AIにチェスに強くなれ!と命令すればいくらでもチェスに強くなりますが、そもそもAI自身が誰にも命令されずにチェスを始めることはありません。つまり、人間は機械に対して自由に命令できるのに対し、機械は自由に行動することはありません。これが、人間と機械の違いだと『ウエストワールド』は説いています。

 

 となると、もし人間から自由意志がなくなったら、人間と機械の違いがなくなることになります。すなわち、個人情報を収集され続けると、やがて人間は自由意志を使わなくなるので、機械と区別できなくなってしまうのです。

 

 ここまで来てやっと、なぜ『ウエストワールド』というドラマが個人情報の問題を扱っているかがわかります。『ウエストワールド』は機械と人間の境界といったテーマをメインに据えていますが、それを語るためには個人情報収集の話題は必要だったのです。

 

さらにその先へ

 シーズン4はまだ2話しか観ていませんが、今後も個人情報の問題は重要になってくると思われます。例えば、収集した個人情報をホストの一人にインストールすれば、そのホストは元の人間と全く見分けがつかなくなります。なぜなら、その個人情報には、名前や住所といったデータだけでなく、あらゆる事柄にどのように反応するかといった内容も含まれているからです。

 

 すると、知り合いの人間がいつの間にかホストと入れ替わっていても気づかないということが起こり得ます。これは、どう考えたって悪用されそうな技術です。『ウエストワールド』シーズン4では、そんな展開があるんじゃないかと思っています。

 

 現代でも個人情報の保護は重要だと言われていますが、なぜ重要なのかが十分議論されていないような気がします。誰だってクレジットカードの情報が盗まれるのは嫌ですが、年齢や生活状況の情報だったらまぁ良いかなと考え、気軽に提供してしまうことがあります。しかし、そういった個人情報を企業が十分に集積した末に訪れる未来が『ウエストワールド』です。という、そんな視点を持ってみると、ドラマをさらに楽しめるのではないでしょうか。

 

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