I feel much much older.
- Tiffany Quilkin, Paper Girls season 1
Amazonプライムビデオで配信が始まったオリジナルドラマ『ペーパーガールズ』を観てみました。SFドラマ風を装っていて、確かにタイムトラベルの話なのですが、このドラマのメインはそこではありません。『ペーパーガールズ』は、青春ドラマであり、新聞配達をする4人の少女たちが成長していく姿を描いたドラマです。今回の記事では、前半はネタバレなし、後半はネタバレありで、ドラマ『ペーパーガールズ』を語っていきます。
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基本データ
- 原題:Paper Girls
- 配信:Amazonプライムビデオ
- 配信日:2022年7月29日
- 話数:8
- 原作:ブライアン・K・ヴォーン&クリフ・チェンによる同名コミック
- 脚本:ステファニー・フォルサム(映画『トイ・ストーリー4』)
- 出演:ライリー・レイ・ネレット、ソフィア・ロジンスキー、カムリン・ジョーンズ、フィナ・ストラッザ、アリ・ウォン
- あらすじ:田舎町で新聞配達のバイトをしていた4人の少女たちは、時間戦争に巻き込まれることになる。
予告編
Amazon Originalドラマ『ペーパーガールズ』は、ブライアン・K・ヴォーンとクリフ・チェンによる同名のコミックが原作になっています。2015年に始まり2019年に完結した原作は、コミック界の最高賞とされるアイズナー賞でBest New SeriesやBest Writer、Best Coloringなど数々の賞を獲得しています。
1980年代を舞台に、ティーンエイジャーたちがSFの世界で冒険をするというあらすじから、Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』と『ペーパーガールズ』はよく比較されるそうです。ただし、『ストレンジャー・シングス』が始まったのは2016年なので、実は『ペーパーガールズ』の方が先。
主な出演者はもっぱら新人ですが、大人のアリ・ウォンはコメディアンとして有名で、Netflixでコメディショーが配信されているそう。
↓ 原作は全30話。通常版なら全6巻、Deluxe版なら全3巻、Complete版なら全1巻にまとめられています。邦訳はありません。
追記:ドラマ『ペーパーガールズ』のシーズン2は製作されず、シーズン1で打ち切られることがAmazonプライムビデオより発表されました。
短評(ネタバレなし)
第1話の時点では、正直あまり惹きつけられるところはありませんでした。最新のSFドラマにしては、特殊効果がチープなのが気になります。第3話あたりから別のガジェットなども出てきて、それなりに盛り上がりはしますが、SFとしては全体的に薄味に感じます。
ただし、このドラマのメインが、12歳の少女たちの成長物語であることがわかってくると面白くなってきました。12歳のときの将来の夢が実際に叶えられる人は一握りで、多くの人は「現実」という壁にぶち当たって、子供の頃には思いもしなかったことをしています。『ペーパーガールズ』は、そんな現実を知り、大人になっていく少女たちの成長物語です。過激な描写などは全くないので、その点はご安心を。
※以下、ネタバレを含みます。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
1988年のハロウィーンの翌日、新聞配達のバイトをしていた4人は、謎の人物によって2019年にタイムトラベルさせられてしまう。そこで、エリンは大人の自分自身に、マックは大人になった兄に出会った。マックは兄から自分が若くして病気で亡くなることを聞かされる。4人は、STFアンダーグランドの一員であるラリーに出会う。オールド・ウォッチの殺し屋に追われ、4人組と大人エリンとラリーは巨大ロボットに乗って1999年にタイムスリップする。
1999年の世界で、KJとティファニーは、それぞれ23歳になった自分自身と出会う。4人は、まだアンダーグランドの一員になっていないラリーに出会い、大人ティファニーとともに敵に立ち向かう。タイムトラベルに全面反対するオールド・ウォッチは、タイムトラベラーの記憶を片っ端から消去していた。ラリーは、オールド・ウォッチに殺された。オールド・ウォッチに捕らえられた4人は、これまで自分たちを追ってきていた殺し屋に助けられ、KJとマック、エリンとティファニーの2組に分かれて別の時代に脱出する。
感想(ネタバレあり)
タイムトラベルSF
短評でもすでに書いた通り、『ペーパーガールズ』はSFとしてはいまいちだと感じました。たぶん予算が少なかったんでしょう。日本の仮面ライダーとかでも、このくらいの特殊効果は使ってそうです、ただ、話のスケールも小さかったので、ミニマルなSFとして観れば、まぁ良いかなという程度ではあります。
時間戦争の設定は、だいぶ凝っています。簡単に言うと、オールド・ウォッチとSTFアンダーグラウンドという2つの勢力が戦っています。オールド・ウォッチの方が最初にあった組織であり、彼らはタイムトラベルによって歴史が改変されては困ると思って、全面禁止にしました。オールド・ウォッチは、主に裕福な既得権益層によって支持されています。一方、その後の時代に現れたSTFアンダーグランドは、タイムトラベルを駆使することで、悪い歴史を修正するべきだと考えています。
現代社会をもろに反映していますね。既得権益を守りたい保守富裕層 VS 経済格差を含めすべてを帳消しにした人々。ドラマの描き方からすると、歴史を改変しようとするアンダーグラウンドが良い組織であることにしたいようですが、どうなんでしょう。過去を上手く修正できれば良いですが、予期せぬ副作用が生じ、また別の負の歴史が生まれないとも限りません。
SFの話に戻りましょう。タイムトラベルものでも、作品によってその設定は微妙に違います。『ペーパーガールズ』の場合は、タイムトラベルによって歴史が修正できることになっています。別の時代の自分自身と出会ってもタイムパラドックスが起こることはありません。しかし、オールド・ウォッチがタイムトラベラーの記憶を片っ端から消去し(清め)ているため、今の状態では歴史上の出来事はオリジナルのまま何も変わっていないようです。
原作があるせいか、ドラマ本編ではさらっとしか語られない割に、タイムトラベルの設定はしっかりしています。オールド・ウォッチおよびSTFアンダーグラウンドが具体的にどんな組織なのかはさっぱりわかりませんが、今後の展開で明らかになっていくのでしょうか?
SFとして、もう一つ触れておきたいのが、巨大ロボの登場です。第3話のラストでしたかね。いきなり巨大ロボが出てきて、大人エリンが操縦することになります。メカ好きは喜んじゃいます。ああいったSF的なガジェットがこの後もちょくちょく出てきたりするんですかね?
エリンの物語
このドラマにおいて、SFは外殻であるような印象を受けます。メインは、主人公の4人組の成長物語です。1988年に12歳だった4人は、それぞれ2019年および1999年の世界の自分に出会います。
エリン(ライリー・レイ・ネレット)は、2019年の自分に出会いました。彼氏はおらず、母親が亡くなった後も一人で家に住んでいます。ヘリの操縦士になった妹とは疎遠状態にあります。大人エリン自身は、安定した職を持ち、車も家もある今の生活にそれなりに満足しているフリをしています。でも、12歳のエリンは議員になって4人の子供を持ちたいという夢を持っていたので、こんな生活は全く望んでいません。
大人エリンがこのような生活を送っているのは、病気の母親の看病を自分だけがしなければならなかったからだそう。それは、妹に迷惑をかけないためだったのですが、妹からは母親との最期の時間を奪われたといって文句を言われてしまいます。意思疎通が上手く図れなかったために、姉妹関係は不幸な状態になっています。
ものすごく「現実」の問題です。子供の頃には、自分がずっと親の介護をすることになるだろうとは思っていませんから。普通は、大人になっていく過程で徐々に知っていく「現実」を、12歳のエリンは一気に知ってしまいます。しかも、かなりショッキングな形で。大人のエリンは、死ぬときぐらいはカッコよく(?)死のうと思い、敵とともに自爆します。12歳のエリンは、これらの出来事を受けて、どのように自分の人生を生きていこうと思ったのでしょう?
忘れちゃいけないのが生理の話。ガールズが大人になる過程で経験するものです。第5話は「新たなピリオド」というタイトルですが、periodには「時代」という意味の他に「生理」という意味もあります。大人エリンが壮絶な最期を遂げた直後、4人は生理とタンポンの話をしています。笑いましたねぇ~。
マックの物語
マック(ソフィア・ロジンスキー)の将来は、エリンよりもさらに暗いものです。見た目はエドワード・ファーロングに似ているので、ターミネーターに侵略される未来ならまだ良かったでしょう。2019年の世界では、マックは生きていませんでした。とっくの昔、16歳のときにガンで死んでいました。夢見ていたことを何一つ果たすことができずに生涯を終えるそうです。あまりにも残酷な「現実」です。
2019年の世界で、マックは医者になった兄に出会います。やんちゃだった兄が、妹の病気で改心して医者になっていたことにマックは驚きが隠せません。それでも、自分の兄であることに変わりはなさそうです。2人で空き地で遊んでいる場面は和みました。オールド・ウォッチの殺人女に狙われたせいで、結局はマックもその時代を離れることになります。
それでも、自分の将来に関して知ってしまったことは、深く衝撃を与え続けています。あと4年をどう生きるか、という難題を12歳にして突きつけられてしまいます。4年というのが微妙で、それだけあれば中学校に入学して卒業することもできます。どうすれば良いんでしょう?
KJの物語
名家のブランドマン家出身のKJ(フィナ・ストラッザ)は、未来でも問題なく暮らしていそうです。実際、名門ニューヨーク大学の映画学科に通っており、不自由は全くなさそうです。ただし、12歳のKJは、自分の新たな一面を知ってしまいます。敵の兵士を殴り殺してしまったり、友人を殴ってしまったり、実は意外と武闘派だったこと……ではありません。自分がレズビアンであることを知ります。12歳のKJにも、そのような自覚が全くないわけではなかったと思います。”ガールフレンド”という言葉への過剰な反応だったり。
KJは、ひそかにマックに心を寄せています。マックが果たして応じてくれるかどうかは、この後の展開次第。シーズン1の最後には、KJとマックは同じタイムマシンに乗り、エリンとティファニーは別のマシンに乗っています。KJとマックの関係は、ここで急展開があるのかも??
ティファニーの物語
ティファニー・クイルキン(カムリン・ジョーンズ)は、自分の夢を実現しているように見えます。高校では卒業生代表としてスピーチをし、夢だったマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学しています。2019年には、それなりに名の通った研究所を設立します。しかし、今はなぜかDJをやっています。
12歳のティファニーは、理解に苦しみます。夢だったMITに入学したのに、なぜ退学してしまったのか? その後、23歳の自分から、実は養子だったという「現実」が明かされます。それはそれでショックです。大学2年生のときにその事実を知ったティファニーは、それまでの夢がすべて里親の夢に過ぎず、自分が本当に望んでいたことではなかったと気づいたと言います。でも、12歳のティファニーは、MITの卒業生代表も自分の夢だとまだ信じています。
自分は4人の中で一番ティファニーに共感しています。自分は、幸運なことに、それなりに自分の夢を今のところ実現してこられていて、希望の大学にも入れています。そして、ちょうど23歳くらいです。それでも、ときどき自分の夢が果たして本当に自分の夢なのかと思うことはあります。親や先生たち、あるいは社会によって、自分の夢だと思い込まされたのではないか、と思ったりするわけです。今の結論としては、それならそれで良いと思っています。親や先生がいなければ今の自分はいないわけですし、誰かに強制されたわけでもないですから、これは確かに自分がやりたかったことなのだと。
ドラマのティファニーは、どうやらこれから全然別のキャリアを送っていきそうな雰囲気ではあります。ティファニー博士というのは、タイムトラベル界隈では有名な人だとか。12歳のティファニーは、大人のティファニー博士に会いに行こうとします。が、手違いでエリンとともに1950年代頃に送り込まれてしまいました。これで、シーズン1はおしまい。シーズン2が製作されるかどうかは、現時点では未定です。
まとめ
4人の少女たちのキャラクターはとてもよくできていて、青春物語・成長物語として、とても面白かったです。SFとしては今一つだとしても、キャラクターに注目して観ていくと楽しくなってきます。最終話でティファニーが言った「何日経ったかわからないけど、だいぶ大人になった気がする」というセリフこそが、このドラマのテーマなのでしょう。
追記:ドラマ『ペーパーガールズ』のシーズン2は製作されず、シーズン1で打ち切りになることがAmazonプライムビデオより発表されました。残念!