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海外ドラマ『キンドレッド 時間を超えた絆』感想|アメリカの歴史をSFで描いた良作

 去年くらいから、時間を扱ったSFドラマの数がかなり増えている気がします。Netflixの『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』、Amazonの『アウターレンジ~領域外~』、Apple TV+の『シャイニング・ガール』などなど。

 

 時間SF自体は以前から色々ありますが、近年の時間SFドラマは、SF以外の要素を強く持っているものがあります。例えば『ロシアン・ドール』の内容は、主人公が人生を見つめ直すことに重点が置かれていますし、『シャイニング・ガール』は、SFというよりほとんどサスペンスです。

 

 というわけで『キンドレッド』です。このドラマは、タイムトラベルという題材を利用し、奴隷制度のあった時代を新たな視点から描いています。こういった題材だと聞くと身構えてしまうかもしれませんが、このドラマは、そういった社会派のテーマとエンターテインメント性をとても上手く融合させた稀有な作品です。

 

 今回は、Disney+(ディズニープラス)で独占配信中の海外ドラマ『キンドレッド 時間を超えた絆』を前半はネタバレなし、後半はネタバレありでレビューしていきます。

Disney+ (ディズニープラス)

 

基本データ

  • 原題:Kindred
  • 配信:FX  on Hulu(アメリカ)、Disney+(日本)
  • 原作:オクテイヴィア・E・バトラー『キンドレッド』
  • 公開日:2022年12月13日
  • 話数:8
  • 脚本:ブレンダン・ジェイコブ=ジェンキンス
  • 主演:マロリ・ジョンソン、マイカ・ストック
  • 概要:幼い頃に母親を亡くした黒人女性のデイナは、白人男性のケビンと付き合い始める。そんな頃、デイナはいきなり19世紀のプランテーションにタイムスリップする。

予告編

youtu.be

 

 原作者は、SF界における黒人女性作家の草分け的存在とされているオクテイヴィア・E・バトラー。1973年にアメリカで刊行され、このドラマの原作になった『キンドレッド』は、バトラーの代表作の一つ。現在、河出文庫から邦訳版が出版されています。

 

タイムトラベルSFとして

 ドラマ『キンドレッド』シーズン1の物語は、現代の時間軸で考えると、たった2日間の出来事です。第1話冒頭で、主人公のデイナが自宅の中でなにやらひどく慌てている様子が描かれており、シーズン1は、そこに至るまでの2日間の話です。この2日間で、デイナは白人のケビンと出会って、時間を超えた旅をすることになります。

 

 このドラマのタイムトラベルの仕組みは、だいぶユニークですが、難しいものではありません。現代のデイナは、19世紀の少年ルークの身に危険が及ぶと過去にタイムスリップさせられます。逆に、19世紀にいるデイナが身の危険を感じると、現代に戻れます。なかなか面白い設定です。最終話のある場面では、この仕組みがとても効果的な演出にもなっています。

 

 19世紀の時間の流れ方は現代よりも早いため、19世紀で1日過ごしても現代では10秒ぐらいしか経っていなかったりします。これは、映画『インターステラー』でもあったような設定ですね。あっちは重力によるもので物理学的な裏付けがある一方で、こちらはそういったものではありませんが。

 

 こういう設定になっているのは、もしかしたら、19世紀の1日と21世紀の10秒というのは、同程度の意味があるからなのかもしれません。というのは、例えば、遠く離れた人に連絡したかったら、19世紀だったら手紙を届けるのに何日も掛かりますが、21世紀ならメールで一瞬で届きます。まぁ、実際には、単に19世紀の話をたっぷりやりたいからという物語展開上の理由なのでしょう。

 

奴隷制度を描く作品として

 正直に言います。私は、奴隷制度を扱った作品を、どうしても重く、辛く感じてしまい、あまり多くは観られていません。Amazonオリジナルドラマの『地下鉄道』も何話か観ましたが、やはり辛すぎて途中で辞めてしまいました。

 

 当時、奴隷として生きていた人が受けていた苦痛は、私がこんな映画やドラマを観て感じる辛さとは比べ物にならないものなので、こんなのは「逃げ」なのかもしれません。そうは言っても、なかなか自発的に観るモチベーションが湧きにくいのは確かです。

 

 また、奴隷制を扱った作品に限らず、歴史ものを観ているときには、結局、過去の話だよねという気持ちが、私の心のどこかにはあります。過去にそういった辛いことがあるのは分かるけど、そもそも歴史的事実だから、どうしようもないよなと。

 

 ともかく、そんな心の弱い自分でも、ドラマ『キンドレッド』は全話観ることができました。その1つの理由としては、SFという殻を被っているからだと思います。タイムトラベルSFとして、面白い設定があり、先が気になる展開にもなっています。そもそも私は、このドラマが奴隷制を扱った作品であることすら知らずに観始めました。

 

 もう1つの理由として、現代人が19世紀に行くという設定によって、ドラマの視点が現代人寄りになっていることがあると思います。現代にも人種差別があるとは言っても黒人のデイナが奴隷のような扱いを受けたことはありませんでしたし、白人のケビンだって人種差別には反対です。

 

 だから、2人に対しては、それなりに共感しやすいのです。19世紀の白人たちは全員、人種差別主義者のクソ野郎ですが、少なくともデイナとケビンは彼らがクソ野郎だと知っています。その上で「でも、この時代の白人っていうのはそういうものだよな」という、ちょっと引いた視点も持っています。言ってみれば、デイナとケビンは、私たちと同じような現代的な倫理観を持っているので、私もすんなり物語に入っていくことができました。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

SF×アメリカの歴史

 19世紀にいるときのデイナは、ケビンの奴隷という立場になってしまいます。もちろん、ケビンはデイナを奴隷扱いはしませんが、それ以外の白人からの視線は酷いものです。屈辱的なものです。

 

 一方のケビンは、白人男性であるというだけで特権的な立場に置かれていますが、とても居心地が悪そうにしています。現代の差別主義者でも想像できないようなレベルの差別主義者の白人たちに囲まれていたら、それも当然かもしれません。

 

 デイナは、死んだと思っていた母に出会い、協力して何人かの奴隷を助けたりしています。母親のオリヴィアは、もう長いこと19世紀に閉じ込められているので、当時の生き方にだいぶ慣れています。

 

 デイナは、様々なトラブルを起こしながらも、最終話までは、なんだかんだ深刻な被害を受けることはありませんでした。しかし、最終話で、ついに領主のトーマスはブチぎれて、デイナを捕らえ、鞭を打ち始めます。目を背けたくなる展開になったとき、デイナは急に現代に戻ります。命の危険を感じたため、タイムトラベルをしたのでした。

 

 これは、上手い仕組みだなぁと思いました。こうすれば、主人公がギリギリ死なないレベルで、死にそうな経験をさせることができます。また、演出上も、辛すぎる場面を避けることができます。これは、私のような心の弱い視聴者が逃げないようにするための措置でもありますが、もう一つのメリットとして、トラウマポルノになることを避けられる効果があります。

 

 トラウマポルノとは、特に人種差別や性暴力に関して非常にショッキングな描写をすることで、視聴者により強い印象を与えようとする作品のことを言います。そのようなことが実際に起こっていたとしても、それをそのまま描くのは安直で、トラウマを拡散させるだけの行為であるとともに、当事者の尊厳も傷つけるものと言えます。Amazonオリジナルドラマの『ゼム』などは、そのことに関してだいぶ物議を醸しました。

 

 ドラマ『キンドレッド』は、そのあたりは慎重にやっているような印象を受けました。ケビンが、奴隷たちの見世物を見せられているときでも、映像としてそれ自体が映されることはありませんでした。デイナが鞭で打たれるシーンも、最小限に留めています。それでも、視聴者には、これらのシーンが強く印象付けられているはずです。そういうところは、このドラマはとても上手いなと感じました。

 

まとめ

 ドラマ『キンドレッド 時間を超えた絆』は、アメリカの過去の奴隷制度を新たな視点から描いた優れた作品だと思います。現代人が19世紀に飛ばされるというSF設定も効果的に活用されていて、SFの新たな可能性も見せてくれたようにも感じました。異色のジャンルミックスドラマでしたが、そのおかげで間口はだいぶ広がっていて、多くの人におすすめしたい作品です。

 

 シーズン1は、デイナとオリヴィアが現代に戻った一方、ケビンは19世紀に取り戻されたままで終わりました。続きが気になるところですが、なんとこのドラマは、シーズン1で打ち切られてしまいました!

 

 今さら言ってもですが、このドラマの唯一の失敗は、リミテッドシリーズにしなかったことでしょう。ドラマの映像を観ても、明らかに予算が少なかったことが伺えるので、残念ながら放送局側も最初から力を入れている作品ではなかったのでしょう。原作がそれほど長いわけでもないので、全8話で全部描き切ってほしかったですね。

 

 それでも、原作は邦訳版もあるので、結末を知りたい人はそちらを読むことができます。アメリカでは非常に評価が高く、ベストセラーにもなった小説なので、読んでみる価値は十分にあるでしょう。

 

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