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Apple TV+『レッスン in ケミストリー』の元ネタとネタバレ感想

Cooking is chemistry, and chemistry is life.

料理は化学である。そして化学は命である。

- Elizabeth Zott, Lesson in Chemistry

 

 ブリー・ラーソンのテレビドラマ初主演作品となったApple TV+の『レッスン in ケミストリー』は、料理番組に出演して一世を風靡することになる女性化学者の物語。この記事では、ドラマの原作や元ネタを紹介し、ネタバレありの感想をまとめました。

 

<PR>ドラマ『レッスン in ケミストリー』は、Apple TV+で独占配信中。

Apple TV+

 

 

基本データ

  • 原題:Lesson in Chemistry
  • 配信:Apple TV+
  • 公開日:2023年10月13日~11月22日
  • 話数:8
  • 主演:ブリー・ラーソン

予告編

youtu.be

 

原作と元ネタ

 ドラマ『レッスン in ケミストリー』は、Bonnie Garmusの同名小説が原作になっています。原作は、書評家から絶賛され、アメリカ最大の書店チェーンBarnes & Nobleが選ぶ2022年のベストブックの1冊にも選ばれています。同社が発表した2022年のベストセラーランキングでも25位になっており、Amazonでは24万件以上のレビューが残されて星4.6という高評価を得ています。

 

 

 小説のあらすじなどから察するに、ドラマ版は原作の内容を忠実に映像化しているようです。主人公の幼少期の話などはもっとたくさん書かれていそうな気もしていますが。

 

 小説が原作なので、ドラマの内容はすべてフィクションです。エリザベス・ゾットのような人物は実際には存在しないのですが、モデルになったと考えられる人物は何人かいます。

 

 特に、本書に影響を与えたと考えられるのが、ジュリア・チャイルド。1960年代からテレビの料理番組に出演し、フランス料理をアメリカの家庭に広めたことで知られています。この年代の料理番組の人といえばジュリア・チャイルドというくらい有名で、彼女の生涯はドラマ『ジュリア -アメリカの食卓を変えたシェフ-』(U-NEXTで独占配信中)でも描かれています。

 

 もう1人が、1950年代の女性科学者のロザリンド・フランクリン。彼女は、DNAが二重らせん構造であるというアイデアの基になる研究を行いました。しかし、彼女の研究成果は、当時対立していた科学者のモーリス・ウィルキンソンによってワトソンとクリックに勝手に共有されることになります。

 

 結果的に、ワトソンとクリックはDNAが二重らせん構造であることを解明し、その功績によってウィルキンソンとともに1962年にノーベル生理学・医学賞を授与されています。フランクリンはその数年前に若くして亡くなってしまったため、ノーベル賞の栄誉に与ることはありませんでした。

 

 ジュリア・チャイルドは科学者ではありませんし、ロザリンド・フランクリンは料理番組とは全く関係ありませんが、この2人の女性が社会に与えた影響は計り知れないほどです。ぜひとも名前を憶えていってください。

 

 

感想(ネタバレ)

 私は、今現在大学の理学部にいるので、アカデミアの世界で女性の比率が少ないというのは日々実感していることでもあります。去年まで、私が所属する物理学科には女性の教員が1人もいませんでした。学生の中でも、女子学生の割合は1割を切っています。

 

 海外に目を向ければ、マサチューセッツ工科大学の女子学生比率は48%など、アカデミアの世界での性別格差はかなり是正されているようです。ドラマ『レッスン in ケミストリー』では、主人公以外の女性研究者が出ていませんが、このような状況が日本ではまだまだ当たり前であることは悲しいですね。

 

 とか他人事みたいに言ってる態度が本当は問題で、男性である自分が大学を中退して、女子学生のための枠を開けるべきなのかもしれません。なかなか自分には実行することができませんが。

 

 ドラマの時代設定は1950年代から1960年代。当時は、研究所の男性たちが「性差別」という言葉を言われてもピンと来ないほど、性差別が社会課題として認知されていませんでした。

 

 研究所で、エリザベス・ゾットは様々な差別的な扱いを受けています。それだけでも十分苦しいものですが、エリザベスが博士号を取得できなかった経緯にはもっと辛い過去がありました。

 

 正直に言えば、第1話でああいった性暴力に関するショッキングな描写をする必要はなかったのではないかと個人的には思っています。というのも、ショッキングなシーンがあるとそちらばかり印象に残ってしまい、このドラマの本質的なテーマである「アカデミアの世界での言動や待遇による性差別」の印象が弱くなってしまったと感じます。

 

 このことに限らず、全体的に本作には主題と関係ないストーリーや描写が散見され、結果的にテーマがぼやけているところがあります。例えば、隣人の黒人女性の道路建設反対の話。要は、人種差別というテーマを持ち込もうという意図があったのだと思います。でも、誤解を恐れずに言えば、このストーリーには全く興味を感じませんでした。

 

 主人公はデモに1回参加しただけで、殊更に公民権運動に関わっていたわけでもなく、内容自体も道路建設計画への反対という地味なものです。マッドが生まれる前からあの会議をやっているので、7年くらいやっているのも奇妙なのですが、最終的にバッドエンドで終わるというところも、一体何を目的にこの話をやっていたのかよくわかりません。

 

 あとは、第3話の犬視点の話。急に犬が喋り出したりして、ディズニーの映画でも始まったのかと思いました。第4話以降では、もう犬が喋ることはなく、犬が活躍することもありません。可愛らしかったですが、あれは何だったのでしょう?

 

 そういう点が気になったので、このドラマを傑作とまで言うことはできないのですが、そういった要素を選り分けて無視すれば、大筋に関してはとてもよくできた作品です。

 

 エリザベス・ゾットは、恋に落ちたカルヴィン・エヴァンスを失い、続いて研究所での仕事も失ったため、どん底に落ちます。残されたのは、お腹の中の子どもだけ。それだって、本来は欲しくないものでした。

 

 何事にも完璧を求めるエリザベスが、完璧な子育てをすることができずに、隣人に助けを求めるシーンが印象的でした。1人で思い悩んでいたところをやっと解放されたという気持ち。わかります。人に話してみたら、意外と何でもなかったと思えることはよくあります。

 

 ひょんなことから料理番組のプロデューサーと知り合ったエリザベスは、娘の教育費用のためにオファーを受けることに。料理は化学だというのは全くその通りで、化学の知識は実際に料理にもよく役立ちます。エリザベスは、以前から料理好きでしたが、理系の女性で料理が好きだという人も少なくない気がします。実験と称して、あれほど徹底的に試行錯誤を繰り返す人はいないと思いますが。

 

 エリザベスの番組は瞬く間に評判になります。そのおかげで、当時の主婦の料理習慣がどのように変わったかなども観たかったですが、とにかく彼女が有名になったことはわかりました。最も印象的だったのは、観客の一人が医者になりたいと言い、エリザベスが「あなたならできる」と全肯定していたところ。あれこそが、ドラマの真のメッセージなのかなと思います。

 

 最後に、エリザベスはカルヴィンの過去を知り、財団からの研究支援を受けられることになります。カルヴィンの母親も苦労を経験した人であり、こうやって孫娘に出会えたというのは、感動的です。

 

 もっとエリザベスの料理番組のことや番組が社会や彼女自身に与えた影響を知りたかった気持ちはありますが、全体的には『レッスン in ケミストリー』は良いドラマだったと思います。

 

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