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Netflix『カンク・オン・アース~フィロミナ・カンクとお勉強』レビュー|孤高の歴史のデストロイヤー

Which is better, The Bible or Koran?

- Pholomena Cunk, Cunk on Earth

聖書とコーラン、優れているのはどっちですか?

ーフィロミナ・カンク『カンク・オン・アース~フィロミナ・カンクとお勉強』

 

 イギリスのBBC Twoで『カンク・オン・アース~フィロミナ・カンクとお勉強』(原題 Cunk on Earth)が放送されたのは2022年9月のことでした。ちょうどベルギーのテクノポップバンド、テクノトロニックがPump Up The Jamをリリースしてから33年後の出来事です。

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 その数か月後にNetflixで全世界に配信されると、フィロミナ・カンクは世界で話題の人物になります。それほどヒットした理由の一つは、番組の切り抜き動画がTikTokでバズったためです。著名な歴史家であるカンクの存在が、現代社会を席巻しているSNSで知られるようになるとは、奇妙なものです。

 

 Cunk on Earthは、イギリスのコメディアン兼俳優であるダイアン・モーガンが演じるフィロミナ・カンクを主人公にしたモキュメンタリー番組シリーズの一つです。そもそもフィロミナ・カンクというキャラクターは、ドラマ『ブラック・ミラー』の脚本家のチャーリー・ブルッカーが手掛けた風刺番組Charlie Brooker's Weekly Wipe(2013~2015年)の中のコーナーで生まれました。チャーリー・ブルッカーは、あんなにダークなSFシリーズを作っていますが、こんな感じの風刺コメディもよく作っています。

 

 2016~2018年にはCunk on Britainという番組も作られたりして、定期的にフィロミナ・カンクはBBCに登場しています。しかし、日本で観られるのは、Netflixで配信されているCunk on Earthだけです。

 

 フィロミナ・カンクは、口をへの字に曲げて、歴史の専門家たちに秀逸な質問を次々とぶつけていきます。「ルネサンスとビヨンセでは、文化的な影響力がより大きかったのはどちらですか?」「ベートーベンの『運命』の歌詞にはどんな意味があるのですか?」「ピラミッドは上から作ったのですか? 下から作ったのですか?」などなど、私たちには思いつかないような鋭い問いばかりです。

 

 専門家たちも、カンクの質問に真摯に答えようとしますが、戸惑いの表情を浮かべることも少なくありません。実際には専門家が笑ってしまうNGシーンが大量にあるようなのですが、こういったおふざけに真面目に付き合ってくれるのが良いですね。

 

 こういった専門家は、主に欧米の歴史・自然番組に出演しています。日本ではヒストリーチャンネルやディスカバリーチャンネルでたくさん放送されていて、NHK BSなどでも放送されています。

 

 こられの番組には、定番のスタイルがあります。番組のホストが歴史的名所や大自然の中を歩きながら、カメラに向かって語りかけてくるのです。そして、自分がすでに答えを知っていることを専門家に言ってもらうために、研究所や博物館を訪れて質問をしていきます。

 

 フィロミナ・カンクがやっているのは、こういったタイプの番組のパロディです。カンクは、いつもチェック柄のブレザーと水色のシャツを着て、世界中を歩き回り、視聴者に向かって語りかけます。専門家に対しては、純粋に自分が分からないことを質問します。

 

 フィロミナ・カンクは、歴史の風刺者でもあります。欧米で一般に「歴史」と言われるもののほとんどは白人男性たちの歴史でした。試しに、欧米の歴史上の人物を何人か思い浮かべてみてください。アリストテレスやルイ14世、チャーチルなどの名前がとりあえず挙げられると思いますが、いずれも白人男性です。しかも、歴史番組のホストといえば、基本的には白人男性たちが務めてきました。

 

 カンクのやっていることは、これまで白人男性の視点でしか語られてこなかった「歴史」の解体でもあります。別の視点から見てみれば、歴史にはツッコミどころがたくさんあります。活版印刷術はグーテンベルク以前から中国にありましたし、コロンバスがアメリカ大陸を"発見”する前からアメリカ大陸はありました。選挙権が与えられる前から女性はこの世に存在してきましたし、黒人は奴隷解放される前から人間でした。

 

 日本にいれば、日本史や中国史も学ぶので、ここまで欧米の白人男性中心の歴史観はないのかもしれません。でも、ヨーロッパ史に関しては、だいたい同じ調子です。良い加減、そんな歴史観を見直しても良いんじゃない? というのが、この番組に通底している隠れたテーマです。

 

 おバカなフリして、意外とクレバーな番組です。そういうところは、凄く英国コメディらしい。つまり、基本的にはおバカなんだけど、実はめちゃくちゃ鋭い風刺をしていることがあります。でも、やっぱりおバカなだけのときもります。こんなことは、日本のお笑いはもちろん、アメリカもそんなことはやらないので、イギリス特有のコメディ文化なんだろうなと思います。

 

 ただ、それ以前に、この番組は英語特有の表現やダジャレも多いので、欧米文化に馴染みがないと難しいとは思います。英国コメディ初心者には、ちょっとおすすめしにくいです。字幕翻訳者さん、凄く頑張ってましたけどね。

 

 でも、きっと日本にもイギリスのお笑いが好きな人はいると思います。そういった方には問答無用で観てほしい番組です。コテコテの英国コメディが字幕付きで観られる機会なんて、そう多くはないですから。

 

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