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Amazonドラマ『Mr. & Mrs. スミス』感想:偽装結婚した2人のスパイアクション&コメディ

 2005年の映画『Mr. & Mrs. スミス』は、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが共演し、日米ともにヒットを記録しました。そのリメイク版が、今回のAmazonプライムビデオのドラマ『Mr. & Mrs. スミス』です。

 

 リメイクといえど、映画版とドラマ版は設定も内容も雰囲気も全く異なります。共通点は夫婦のスパイが主人公ということぐらい。最初は少し混乱しますが、全く別の作品であることがわかれば、これはこれで独特の味わいのあるスパイコメディに仕上がっています。

 

 

基本データ

  • 原題:Mr. and Mrs. Smith
  • 配信:Amazonプライムビデオ
  • 配信日:2024年2月2日
  • 話数:8
  • 元ネタ:サイモン・キンバーグ脚本『Mr. & Mrs. スミス』
  • 脚本:フランセスカ・スローン、ドナルド・グローバー
  • 主演:ドナルド・グローバー、マヤ・アースキン
  • あらすじ:仮面夫婦となり指令されたミッションを遂行する仕事に就いたジョン・スミスとジョーン・スミスは、様々な任務や夫婦関係の危機に直面する。

予告編

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 本作は、2005年の映画『Mr. & Mrs. スミス』のリメイクだとされていますが、厳密には少し違うようです。Wikipediaには、1996年に1シーズンだけ放送されて打ち切られたドラマ『Mr. & Mrs. スミス』と2005年の映画版にインスパイアされたと書かれており、いずれも原作とは書かれていません。なお、2005年の映画版は1996年のドラマ版と特に関係はなさそうです。

 

 どのような位置づけにしても、今回のドラマ版を観れば、2005年の映画版とはほとんど関係がないことがわかります。Mr. & Mrs. スミスという名前だけ借りてきたと言っても良いほどです。なにしろ、映画版では2人とも相手が別々の組織のスパイだということを知らずに結婚生活を送っていましたが、ドラマ版では同じ組織で共同ミッションを行うことを前提に結婚生活を送っています。

 

 むしろ、内容は『ジ・アメリカンズ』(Disney+で配信中)の方が近いのではないかというくらいです。『ジ・アメリカンズ』は、1980年代のアメリカを舞台に、アメリカ人夫婦になりすましているソ連のスパイ2人組を主人公にしたドラマです。『ジ・アメリカンズ』はとてもシリアスなドラマですが、コメディ調にしたらドラマ版『Mr. & Mrs. スミス』になりそうです。

 

 

キャスト&スタッフ

 ドラマ『Mr. & Mrs. スミス』のショーランナーを務めたのは、ドラマ『アトランタ』を手掛けたドナルド・グローバーとフランセスカ・スローン。ドナルド・グローバーは、2021年にAmazonと包括契約を結んでおり、Amazonプライムビデオ向けの作品としては昨年の『キラー・ビー』に続いて2作目になります。

 

 

 製作総指揮および最初の2話の監督を務めたヒロ・ムライも『アトランタ』組。2018年には、ドナルド・グローバーがラッパーのチャイルディッシュ・ガンビーノとして発表した「This Is America」のMVを手掛けて注目されました。最近は、ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン/The Bear』(Disney+で配信中)でも製作総指揮をしています。

 

 共演するマヤ・アースキンは、ドラマ『PEN15』(日本未上陸)で主演とショーランナーを務め、特に批評的に成功しました。『オビ=ワン・ケノービ』にも少しだけ出演しているそうです。母親が日本人、父親がアメリカ人の日系アメリカ人です。

 

 なお、本作の製作段階においては、ドラマ『Fleabag/フリーバッグ』のフィービー・ウォーラー=ブリッジがドナルド・グローバーとともにショーランナーと主演を務める予定でしたが、方向性の違いを理由に離脱しています。それぞれ個性の強い『アトランタ』と『フリーバッグ』が合体して『Mr. & Mrs. スミス』を作るというのはとても意欲的なプロジェクトでしたが、そのせいでどちらかの個性が潰れてしまってもつまらないので、最終的にやっぱり別々で何かを作ってもらうのは正解だったような気もします。

 

 

感想(ネタバレあり)

 2005年の映画版『Mr. & Mrs. スミス』は、いかにもハリウッド的な映画でした。当時のハリウッドスターであり、白人の美男美女の代表格みたいなブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが主演し、大味のスパイアクション&コメディをやっています。「ハリウッド映画」といって想像する要素がすべて入っています。

 

 それだけに、ドナルド・グローバーがこの映画のリメイクをやると聞いたときはかなり意外に思いました。彼が手掛けた『アトランタ』は、キャストのほぼ全員が黒人で、人種差別問題を様々な形で風刺的に扱ったコメディドラマです。エンタメ業界への風刺も鋭く、シーズン4第8話ではディズニーを名指しでおちょくっているほど(放送したFX局の親会社はディズニーなのですが……)。

 

 そのため、意外には思ったものの、ドナルド・グローバーが手掛ける『Mr. & Mrs. スミス』は、元ネタとは全然違うものになるだろうというのは容易に想像できました。実際に作品を観てみると、やはり内容も雰囲気も元の映画とは完全に異なるものになっていました。

 

 ここまで事情を知っていれば良いのですが、ほとんどの人は本作を映画『Mr. & Mrs. スミス』のリメイクだと思って観るわけで、不親切だなぁとは思います。でも、いかにもハリウッド的な作品を全然違う作風に作り替えてしまうのは、それはそれでドナルド・グローバーらしいなとも思うので、個人的には嫌ではありませんけど。

 

 それでは、どのように作り替えられたかというと、半分スパイアクション、半分夫婦ドラメディ(ドラマ&コメディ)みたいになっています。世界各地でロケをしたり、毎回アクションシーンがあったり、スパイものらしいところはそれなりに押さえています。第3話には雪山でのアクションがありましたが、これなんかは『007』シリーズでお馴染みです。

 

 ハリウッドのスパイ映画と比較すると派手さには欠けますが、ドラマとしては十分なスケールです。ヒロ・ムライ監督の特徴として、HBOのドラマ『バリー』でもそうでしたが、カメラの動きがゆったりしている傾向があるので、なおさらアクション映画っぽさは薄くなっていますが、コメディならこれもありかと。

 

 それ以上に、今回のドラマ版が印象的だったのは、若いカップルの物語だったということ。吊り橋効果で付き合い始めたようなものなので、最初の段階では2人の間に愛があるかどうかはよくわかりませんでしたが、ジョンとジョーンは互いに関係性を探り合いながら夫婦になろうとしていました。

 

 テーマとしては、契約結婚ものっぽくもあるので、ほとんど『逃げ恥』なんじゃないですか。観たことはないですけど。スミス夫妻の場合は、果たして吊り橋効果の連続で育まれた愛は本当の愛なのかみたいな疑問は、ずっとあるのかなと思います。

 

 2人は、ときどき互いへの愛を確認し合うのですが、自分なんかは「本当かぁ?」とずっと思ってはいましたが、本人たちにとっては本物だったのかもしれません。ただ、たとえ愛が本物だったとしても、この2人が一緒に生きていくのは難しそうだなとも思います。ジョンはオープンで自由な性格ですが、ジョーンは真面目でパーソナルな性格なので。ユーモアのセンスだけは一致していて、別のスミス夫妻を一緒に笑ってバカにできるところは、素直に良いなぁと思いました。

 

 ラストシーンは、あえて解釈の余地が残るようになっています。最後に放たれた銃弾は2発。それは、相手のジェーンが放ったものなのか。それとも、私たちのジェーンが放ったものなのか。細かいことを補足しておくと、私たちのジェーンが撃ったとするなら、1発は自分の銃から、もう1発は殺した相手の銃を奪って撃ったことになります。

 

 どうなったかは個人の解釈に完全に委ねられていますが、メタ的に考えると、シーズン1で打ち切られたなら私たちのスミス夫妻の死亡、シーズン2に更新されたなら敵のスミス夫妻の死亡ということになるのかなと。どっちのスミス夫妻が死亡するかは、皆さんの再生回数に懸かっています。

 

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