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Netflixドラマ『ぼくらを見る目』感想:"真実”を誰が決めているのか

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If they don't wanna hear my truth, I don't wanna waste my energy. 

- Korey Wise, When They See Us

 

 この『ぼくらを見る目』がNetflixで公開されたのは2019年です。しかし、2020年以降にこのドラマを観た人ならば、ほぼ間違いなくBLM運動のことが思い浮かぶと思います。自分もそうでした。

 

 1989年にニューヨークで起きた一連の警察および検察の行動を見て、改めて司法制度の脆さやBLM運動について考えさせられることになります。 

 

 

 

 

ドラマ『ぼくらを見る目』基本データ

・原題:When They See Us

・製作:Netflix

・配信日:2019年5月31日

・話数:4

・監督-脚本:エイヴァ・デュヴァネイ

・あらすじ:

 ある夜に公園で集まっていた少年たちは、そのときに女性を襲ったとして後日、警察に連行される。そこで行われた尋問は、少年たちに自白を強要させるようなものだった。

 ・予告編:

www.youtube.com

※『ぼくらを見る目』はリミテッドシリーズなので、シーズン2以降はありません。

 

尋問

 第1話で、5人の黒人少年が警察署に連行され、取り調べを受けます。これが、5人のその後の人生を決定付けてしまいます。

 

 取り調べとは言うものの、そこで行われたことはほぼ拷問です。刑事たちは、15歳前後の少年たちに保護者や弁護士の立ち合いなしで、食事や睡眠を与えず、30時間以上尋問を続けたのです。

 

 あの刑事たちは、一回刑務所入った方が良いですよ。10年ぐらい。自分たちが少年たちに何をしたのか知るために。

 

 気になるのは、あの3人の刑事が、本当に少年たちが真犯人だと信じていたかどうか。一応、あの刑事たちはそれなりに経験もあるはずなので、少しでも頭が回っていれば、少年たちが無実であることは分かるはずです。

 

 すなわち、もし刑事たちが少年たちの有罪を心の底から信じていた場合、彼らの頭は全く回っていなかったことを意味します。その原因は一つしかないでしょう。"黒人の少年たちは犯罪を犯すもの”だと、はなから決めてかかって疑うことがなかったからです。

 

 あるいは、刑事たちは少年たちが無罪だと感じていながらも、事件を解決したことにするために嘘を吐かせたのかもしれません。この場合は、刑事たちは言語道断の大悪人であると言わざるを得ません。自分たちの保身のためなら、5人の少年たちを刑務所に入れても良いだろうと判断したのですから。

 

 どっちにしろ、刑事たちに弁解の余地はありません。偏見に満ち、プロフェッショナルの欠片もない最悪の刑事です。それなのに、数十年後になっても「正義は果たされた」とのたまっているのです! 本当に刑務所にぶち込みたい。

 

裁判

 裁判の経過に関しては、正直、さすがに信じがたいものがあります。ドラマで描かれた弁論を見る限りでは、どう見たって少年たちは無罪です。なにしろ、検察は何一つ物的証拠を示すことが出来ていないのですから。

 

 証拠を持たない検察が、犯行の凶悪性をやたらと強調して、陪審員の心理面に働きかけるのは他のドラマでもしばしば見ることがあります。このドラマで検察側が取った戦法はその最たる例で、ひたすら事件の凄惨さを示すばかり。最終弁論まで、そんな調子です。

 

 弁護側が優秀だったのかどうかは分かりません。頑張っていたようには見えますが、あんな検察に負けてしまったのですから。陪審員が悪いのか、弁護士が悪いのかは分かりませんが、どんな論理を持ってあの判決を出したのかは謎です。「疑わしきは罰せず」という言葉を知らないのかな。

 

 一つ、弁護側がミスをした可能性としては、人種問題に触れたことです。非常にセンシティブな問題なので、吉と出るか凶と出るかは微妙と言わざるを得ません。吉と出たのが「O.J.シンプソン事件」ですね。あの裁判では、被告が起訴されたのは黒人だからだという点を押し進め、最終的に無罪を勝ち取っています。

 

 凶と出る場合もあります。例えば、陪審員にドナルド・トランプのような人物がいた場合です。弁護側が人種差別に言及したら、こういった人々は激しい拒否反応を示します。"人種差別を声高に叫んで得をしているのは黒人たちで、逆に白人は肩身の狭い思いをしている”と思い込んでいるためです。

 

 弁護側が人種差別に言及したことがミスだったのかどうかは分かりません。警察の差別意識が不当起訴に繋がったのは確実ですが、それ自体は物的証拠にはなりません。裁判で使うならば、慎重な扱いが必要です。特に、今回は検察側の証拠の弱さをひたすら突いていけば良いようにも思えたので。

 

刑務所・出所後

 有罪判決が出てしまった以上、残りの人生はすべて決まったも同じです。もはや、真実がどうだったかは関係ありません。5人は、性犯罪者として生きていくことになるのです。それは、刑務所内でも出所後も変わりません。

 

 アメリカでは、性犯罪者は犯罪者の中でも特に酷い扱いを受けます。刑務所内でも、他の犯罪者から蔑まれます。性犯罪は利益が出るものではなく、完全に個人の肉体欲によって実行していることなので、お金に困っていたからなどといったなどという合理的な理由が絶対に存在しないからでしょう。

 

 成人刑務所に入ったコーリー・ワイズは、まさにそんな扱いを受けます。中には理解してくてる者もいたのですが、ほとんどの者はコーリーを最低のゲス野郎だと思っています。

 

 これに関しては、仕方ないと言わざるをえません。なぜなら、裁判で有罪判決が出ているからです。本人が無罪だと言っていたとしても、証拠を精査された結果として出された裁判の有罪判決を信じるのが普通です。本来ならば、それで良いんです。

 

 今回の有罪判決は、"証拠を精査された結果”などでは全くないのですが、5人と知り合った人たちがそこまで調べることもないでしょう。有罪判決が出たら、社会的には有罪なのです。

 

 それだけ、裁判の有罪判決は重いんです。その証拠になる警察の尋問も重いんです。もの凄く重要なんです。警察や判事は毎日のように扱っている案件でも、容疑者にとっては自分の人生を左右する出来事です。ぜひとも、慎重に慎重を期してもらいたいし、偏見を持って捜査・裁判を行うなどはもってのほかです。

 

 5人は、それほど絶望的な状況であるにも関わらず、尋問以降は一度として自分たちが有罪だと嘘を言わず、真実を貫き通しました。刑期の途中で外に出ることができる仮釈放申請のときも、自分が有罪宣告された罪を認めることはありませんでした。勇敢です。

 

 なかなか出来ることではないでしょう。彼らは、警察署で刑事たちを信じて嘘を吐いてしまったことから、二度と嘘を言うものかと決意したのです。自分だったら、絶対無理です。仮釈放申請では、速攻で罪を認めてしまうでしょうね。

 

 

 

BLM運動へ

 ドラマ内の事件は1989年に起こり、ドラマが公開されたのは2019年ですが、内容は2020年に大きな盛り上がりを見せたBlack Lives Matter運動の背景を的確に突いています。

 

 BLMは、黒人のジョージ・フロイドが警官による不必要な暴力を受けて殺害された事件をきっかけに大きなムーブメントになりました。これが、ドラマで扱われた内容と酷似していることは明らかでしょう。少年たちは、刑事たちのあまりにも理不尽な尋問によって、刑務所に送られました。

 

 そもそも1989年だって、人種差別政策がとっくに撤廃された時代なので、あのような暴挙が許されるわけはありません。しかし、それから30年経っても、いまだに状況が変わっていないということには、さらなる怒りを覚えます。いや、もう、マジで。本当にやめようよ。よめてよ。頼むから。どうすりゃ良いの。

 

まとめ

 いくつか、『ぼくらを見る目』に関連した作品を昨年から今年にかけて観ていたので、紹介します。

 

 まず、2020年にNetflixで公開された映画『シカゴ7裁判』。こちらも実話がベースになっており、警察による市民への暴力がテーマになっています。人種差別問題も含まれてはいるのですが、あまり主題という感じではありません。

 

 二つ目が、2016年に放送されたHBOのドラマ『ザ・ナイト・オブ』。殺人事件の冤罪をかけられたパキスタン人青年の裁判が描かれます。内容は『ぼくらを見る目』に似ている部分もあります。主人公は黒人ではありませんが、特に9.11以降は、イスラム系の人々に対しても差別が起きており、そのことが背景になっています。

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 三つ目が、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4。麻薬組織と警察の攻防が描かれるこのドラマですが、シーズン4の主人公はボルティモアで暮らす黒人少年たちです。『ぼくらを見る目』は、そのタイトルの通り他者から彼らがどのように見られているかという物語である一方、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』シーズン4は彼らがどのような環境で育っているのかを描いています。

 

 いずれの作品も、とても見応えがあるので、興味があればぜひ。ただし、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』は、シーズン4だけ観るというのはなしですから。全シーズンが傑作なので、全部観てください。

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