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『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』実際のWeWorkの解説とネタバレ感想

I'm not interested in the old ways. I'm interested in the world to come.

- Adam Neumann, WeCrashed

 

 幻のユニコーン企業WeWork。一時は時価総額470億ドルを超えたこともありながら、上場したときには見る影もなくなってしまいました。なぜ、そんなことが起こったのか? その背後にはどんなドラマがあったのか? 今回は、Apple TV+で独占配信されているオリジナルドラマ『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』の感想を書いていきます。

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基本データ

  • 原題:WeCrashed
  • 配信:Apple TV+
  • 公開日:2022年3月18日~4月22日
  • 原作:ポッドキャスト番組『WeCrashed: The Rise and Fall of WeWork』
  • 主演:ジャレッド・レト、アン・ハサウェイ

予告編

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 ドラマ『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』はApple TV+で独占配信中。Apple TV+は初回7日間無料、その後は月額900円(税込)です。Apple TV+で配信されている作品は、すべてここでしか観ることができない独占配信作品です。

Apple TV+

*なお、ドラマ『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』はリミテッドシリーズなので、シーズン2はありません。

 

ドラマの内容は実話?

 ドラマ『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』の内容は、ほぼすべてが事実です。レベッカ・パルトロウ・ニューマンが女優のグウィネス・パルトロウのいとこだというのも事実ですし、アダム・ニューマンがカプチーノとラテをずっと勘違いしていたのも事実です。孫正義がWeWorkのオフィスを12分だけ見学して、その後の車中ですぐに投資することを決めたのも実話です。

 

 WeWorkの一連の顛末はそれなりに有名ですし、日本のソフトバンクも深く関わっているので、ググればネット記事がたくさん出てきます。以下の記事では、なぜWeWorkがあれほど巨額の赤字を出していたかも含めて解説されていて、わかりやすいです。

リンク:WeWork問題のまとめ。ソフトバンクとの関係、上場延期、赤字の内訳などオフィス運営事業者がわかりやすく解説します | 【月額300円~】東京都心の自社ビル直営METSバーチャルオフィス

 

 また、WeWorkの件は今回のドラマだけでなく、過去にはドキュメンタリーの題材にもなっています。U-NEXTで配信中の映画『WeWork/470億ドル企業を崩落させた男』では、アダムの元アシスタントや元WeWorkユーザーからその実態を知ることができます。カプチーノとラテに関する証言も、この映画の中にあります。

 

 同じくU-NEXTで配信されているドキュメンタリーシリーズ『ジェネレーション・ハッスル』第5話「ウィーワークはカルトだったのか」でも、同様の内容が扱われています。書籍では、Eliot BroWnとMaureen Farrellによる『The Cult of We: WeWork, Adam Neumann, and the Great Startup Delusion』に一連の出来事がまとめられていそうですが、まだ邦訳はされていません。

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WeWorkの現在

 WeWorkの現在について、軽く調べてみました。WeWorkは、2022年現在、世界38ヵ国756ヵ所にコワーキングスペースを持っています。日本では、仙台・東京・横浜・名古屋・大阪・神戸に合わせて41ヵ所のオフィスを持っています。ドラマの中でも登場していた学校事業のWeGrowは、1校のみで2年しか続きませんでした。当時の1年間の学費は約500万円と、かなり高額だったようです。

 

 ドラマでは触れられていませんでしたが、The We Companyは、WeWorkWeGrowの他にWeLiveという事業も行っていました。WeLiveは、要はシェアハウスみたいなものですが、WeWorkと同様にメンバー同士の交流を重視したライフスタイルを提供していました。しかし、こちらも2ヵ所に進出したのみで、2020年には終了しています。

 

 WeWorkは、2019年にアダム・ニューマンがCEOを退いたのち、全世界の社員の20%近い2,400人をレイオフしています。2020年には、さらに250人を対象にレイオフを行っています。同じ頃にコロナ禍の影響で中国の100ヵ所およびその他の66ヵ所のオフィスを閉鎖しています。

 

 2019年にIPO(新規上場)を目指したときの時価総額は470億ドルでしたが、企業の目論見書「S-1」の内容が疑問しされ、問題が続出。上場は一時取りやめ、2021年にSPAC上場という形で上場しました。このときの時価総額は90億ドル。2022年10月3日現在の時価総額は19.2億ドルです。

 

 

感想(ネタバレ)

テック企業ではない

 このドラマを観る以前、WeWorkのことは大して知らなかったのに、なぜかシリコンバレーの企業だと思っていました。コワーキングスペースを提供する会社がどうしてテック企業なんだろう?と不思議に思いましたが、真相がわかりました。WeWorkはテック企業ではありませんでした(しかもシリコンバレーではなくニューヨーク)。

 

 やっていたことを考えれば、当たり前です。オフィスを借りて、綺麗にして貸し出す。どこにもテクノロジーは関わっていません。ところが、同様の勘違いをしていたのはどうやら素人の自分だけではなく、WeWorkに多額の出資をしていた人たちにもいたようです。不思議な現象です。

 

 その原因の一つは、アダム・ニューマンの存在にあるのでしょう。スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなど、シリコンバレーでは一癖も二癖もあるカリスマ性のあるCEOたちが大成功を収めてきました。

 

 アダム・ニューマンがWeWorkをテック企業だと思わせようとしたのも、自分の性格をよく知っていたからだと思います。正攻法では出資を集められなくても、自分がスティーブ・ジョブズになれば可能なはずだと。

 

 アダムの言動が、WeWorkのオフィスを使いたいという人にとっても魅力的に見えたことは想像に難くありません。ジョブズは文字通り雲の上の存在ですが、アダムはWeWorkのユーザーにとって身近に感じられる存在であり、しかも現在進行形でWeWorkを急速に成長させていました。起業家の彼らならば、アダムを尊敬したくもなるでしょう。

 

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↑ ドラマのオープニング。ユニコーン企業(未上場かつ時価総額10億ドル以上の若いテック企業)が崩壊していく様を表しています。テーマ曲は、イギリスのJungleによるHappy Man。

 

 2017年には、孫正義のビジョン・ファンドが立ち上げられました。この投資ファンドは、主にソフトバンクとサウジアラビアの政府系ファンドの出資によって運営されています。ベンチャー企業を対象とする投資ファンドとしては世界最大規模であり、若手CEOたちは「マサ」こと孫正義からの出資を喉から手が出るほど欲しがっていました。

 

 アダム・ニューマンもその一人。インドでの講演で、マサの注意を惹きつけた後、ニューヨークのオフィスを案内します。その結果、アダムは12分の内覧と車内の会話だけで、見事にマサからの出資を引き出しました。孫正義が「私はビジネスではなく人を見る」と本当に考えているかは知りませんが、アダムの性格はかなり強烈ですから、やる気を買うならアダムへの投資を即決したこともわかります。今考えてみれば、それはあまりにも軽率な判断だったと言わなければいけませんが。

 

狂気のレベッカ

 こうやってビジネス面の話ばかりしていると、どうしてもアダムの話題ばかりになってしまいます。しかし、このドラマを観ていると、レベッカ・ニューマンの方がよっぽど強烈な人間だったことがわかります。レベッカは、ウォール街で数週間働いたことがあり、ヨガ講師をやっていたこともあり、一時期は女優を目指しており、WeWorkではブランドマネージャーを務めていました。

 

 レベッカの思想だけは大層ご立派なものです。WeWorkのスローガンである「世界の意識を高める(elevate the world's consciousness)」を言い出したのもレベッカだそうです。オフィスの「エネルギー」を大事にし、自分が負のエネルギーに囚われないように常に気を付けています。裏を返せば、自分さえ良ければ、他の人の負のエネルギーなどお構いなし。友人からブランドマネージャーの座を奪ったりします。それ以前にも散々な言動を繰り返してきましたが、これが一番引きましたね。ありえない。

 

 

 なにより、レベッカ自身が何も成し遂げていないのがムカつきます。アダムは、色々と問題はありましたが、実際に自分でビジネスモデルを思いつき、投資家から資金を集めたのは事実です。でも、レベッカは本当に何もしていません。それなのに、会社であんなに大きな顔をできるのが信じられません。

 

 アダムもそのことには気づいているのですが、なぜかレベッカには好き放題やらせています。WeGrowなんていう学校事業まで任せています。しまいには、2人で会社の目論見書「S-1」を作成する始末です。その結果、あんな文書ができてしまいました。

 

 S-1はインターネット上で公開されているので、ググれば簡単に見つかります。WeWorkのS-1のリンクを以下に貼っておきます。300ページくらい書いてあるので読む必要はないですが、ドラマの中でも言われていた3ページが面白い。

リンク(WeWorkのS-1)

https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1533523/000119312519220499/d781982ds1.htm

"WE DEDICADE THIS TO THE ENERGY OF WE - GREATER THAN ANY OF US BUT INSIDE EACH OF US"

「私たちはこれをWEのエネルギーに捧げます。私たちの誰よりも偉大でありながら、私たち全員の中にあるものに」

 

 この文章だけ読んだら、どこかの宗教団体か何かだと思ってしまいます。素人目にも、こんな会社の株を買いたくありません。

 

 レベッカは、アダムにとっては必要不可欠な存在だったのかもしれません。会社のCEOというのはストレスが多い仕事ですが、レベッカは何か適当なデタラメを言ってアダムを安心させてくれます。しかも、レベッカは「女性は夫を支えるのが務め」と考えているような人なので、なおさらアダムにとってレベッカの支えは大きな力になっていたでしょう。しかし、それゆえにアダムもどんどんスピリチュアルな思想に染まってしまいました。

 

まとめ

 WeWorkの崩壊は、出会ってはいけない3人が出会ってしまったために起こりました。カリスマ起業家のアダム、スピリチュアルな妻のレベッカ、そしてろくに事業内容も見ずに巨額の資金を提供した孫正義です。

 

 アダムみたいなタイプの起業家は少なくなさそうですが、たいていの場合は出資する側が慎重になってブレーキをかけます。でも、孫正義は逆にアクセルを全開にさせました。さらに、レベッカはアダムの思想をどんどんと歪め、ハンドル操作を大きく誤らせました。その結果、WeWorkという車は、とんでもない方向に猛突進して激突してしまいました。

 

 WeWork関係のドキュメンタリーや本でも、このドラマほどレベッカの存在に注目したものはないと思うので、その点は斬新だなと感じました。個人的には、もう少し具体的なビジネスの部分も知りたかった気持ちもありましたが、それは自分で調べれば良いということなのでしょう。アン・ハサウェイとジャレッド・レトの演技は流石で、観ていて面白かったです。

 

 個人的なお気に入りは、アダムの側近みたいな3人組。1人は創設当初から電気関係で活躍していたアジア系の若者。もう1人は、高級バッグを買ってしまった女性。あと1人は何をしていたか忘れました。アダムとレベッカの家で勝手にテキーラを飲んでいた3人組です。彼らは、夢を持ってWeWorkの一員になった若者たちですが、結局、何も得られずに終わってしまったところに哀愁を感じます。

 

 ところで、このブログでは、Apple TV+の『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲~』、Disney+で配信中の『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』、U-NEXTで配信予定の『Super Pumped: The Battle for Uber』をまとめて「スタートアップの失敗三部作」と呼んでいます。いずれもユニコーン企業として注目されながら、あるところで大失敗を経験した企業に関するドラマです。共通する内容も多くあるので、このジャンルに興味がある人は他の2本もぜひ。

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