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シットコム・パロディとしての『ワンダヴィジョン』感想&解説

In a real magic act, everything is fake.

- Wanda Maximoff, Wandavision

 

 MUC初のドラマ(『エージェント・オブ・シールド』は一旦置いておいて)である『ワンダヴィジョン』は、いきなり攻めたスタイルでやってきました。シットコムみたいで、シットコムじゃない、少しシットコムなドラマだというのです。

 

 すでに映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が公開・配信されているので、『ワンダヴィジョン』もなんとなくネタバレ的なものは知っていたのですが、それでも「シットコム風」であることに興味を惹かれたので、ようやく観てみました。

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 誤解のなきよう、まず前提として、私はマーベルの専門家ではないので、MCU絡みの考察とかはしません。もう2年前のドラマですし。その代わりに『ワンダヴィジョン』のシットコムの側面を徹底的に掘り下げていきます。

 

 ドラマ『ワンダヴィジョン』は、ディズニープラスで独占見放題配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。

Disney+ (ディズニープラス)

 

 

 

『ワンダヴィジョン』基本データ

  • 原題:WandaVision
  • 配信:Disney+(ディズニープラス)
  • 公開日:2021年1月15日~3月5日
  • 話数:9
  • 原案・脚本:ジャック・シェイファー
  • 監督:マット・シャックマン
  • 主演:エリザベス・オルセン、ポール・ベタニー

予告編

www.youtube.com

 

どのシットコム?

 そもそもシットコムとは、シチュエーション・コメディの略で、毎回決まった形式で展開するコメディドラマのことを言います。要は、いつも同じ登場人物たちが、ソファに座って会話をしているようなコメディです。

 

 『ワンダヴィジョン』の第1話は、いきなり白黒の画面から始まり、まるまる50年代のシットコム風の展開をしていきます。第2話も同様に、今度は60年代のシットコム風です。具体的には、以下のような名作シットコムの数々をパロディしているようです。

 

『ディック・ヴァン・ダイク・ショウ』1961~1966年

『アイ・ラブ・ルーシー』1951~1957年

『奥様は魔女』1964~1972年

『かわいい魔女ジェニー』1965~1970年

『ゆかいなブレディー家』1969~1974年

『メアリー・タイラー・ムーア・ショー』1970~1977年

『ファミリータイズ』1982~1989年

『フルハウス』1987~1995年

『愉快なシーバー家』1997~2000年

『マルコム in the Middle』2000~2006年

『モダン・ファミリー』2009~2020年

『ジ・オフィス』2005~2013年

 

 あまりにも世代が違うので、実際に観たことがあるものはほとんどありませんが、どれも有名な作品ではありますね。『奥様は魔女』と『フルハウス』は日本でも有名ですし、マイケル・J・フォックスが出ている『ファミリータイズ』も知名度はありそうです。『マルコム in the Middle』は観たことはありませんが、出演していたブライアン・クランストンはその後に『ブレイキング・バッド』で大ブレイクしているので、タイトルは聞いたことがあります。

 

『マルコム in the Middle』

 

 『モダン・ファミリー』と『ジ・オフィス』は観たことがあります。両方とも「モキュメンタリー」と呼ばれる形式を取っています。モキュメンタリーとは、フィクションをドキュメンタリー風に撮影・編集することです。特に、この2作品ではドラマの登場人物がインタビューに答えるような形でカメラに向かって話しかけます。『ワンダヴィジョン』では、第7話でこの形式をオマージュしていました。

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『モダン・ファミリー』 Disney+(ディズニープラス)で配信中

 

シットコムの変容

 こうやって、それぞれの時代のシットコムを年代順にパロディしていくと、ある変化に気づきます。途中から笑い声がなくなるのです。『ワンダヴィジョン』では第6話以降、上記のリストでは『マルコム in the Middle』以降は、観客の笑い声(ラフトラック)が入っていません。また、撮影方式がマルチカメラからシングルカメラに変わっています。簡単に解説します。

 

2000年以前のシットコム

 観客の笑い声が入っている。複数のカメラで1つの場面を撮影するマルチカメラ方式。毎回、同じセットの部屋で物語が展開し、同じようなアングルで撮影される。

 

2000年以降のシットコム

 観客の笑い声がない。1台のカメラのみを用いて登場人物を追うシングルカメラ方式。モキュメンタリー形式に代表されるように、旧来のシットコムよりリアリティを重視している。

 

 2000年頃を境に、シットコムの形式は急に変わりました。2000年以降、ラフトラックありのマルチカメラ撮影でヒットしたのは『ビッグバン・セオリー』くらいのものです。他は、すべてラフトラックなしのシングルカメラです。

 

 

監督マット・シャックマン

 このような様々な形式がエピソードごとに切り替わっていく面白さが『ワンダヴィジョン』にはあります。このドラマの全話の監督を手掛けたのが、マット・シャックマンでした。この人は、本当に色々なドラマでエピソード監督をしています。『Dr. HOUSE』『CHUCK/チャック』『ゲーム・オブ・スローンズ』『マッドメン』『ザ・ボーイズ』などなど。シットコムでも『New Girl/ダサかわ女子と三銃士』『Everybody Hates Chris』などに参加しています。

 

 そんな膨大なマット・シャックマンのフィルモグラフィーの中でも、代表作と言えば、2005年から始まったシットコム『フィラデルフィアは今日も晴れ』です。シャックマンは、全162話中43話の監督をしています。このドラマは、色々とアンチシットコム的というか、典型的なシットコムに見せかけてシットコムのパロディであるようなところがあります。

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『フィラデルフィアは今日も晴れ』 Disney+(ディズニープラス)で配信中

 

 『フィラデルフィアは今日も晴れ』は、そもそも『フレンズ』の真逆をやろうというコンセプトで始まったドラマでした。バーを経営する主人公5人組の間に友情などは全くなく、常に自己中心的で、しょっちゅう酷い目に遭っています。さらに、かなり挑戦的なエピソードもあります。シャックマンが監督したシーズン10第4話「Charlie Work」には、約10分間に渡るダイナミックな長回しがあります。

 

 マット・シャックマンほど『ワンダヴィジョン』の監督に相応しい人もいなかったでしょう。願わくは『ワンダヴィジョン』の中にも『フィラデルフィアは今日も晴れ』のパロディがあったら面白かったのですが、元からシットコムのパロディ的な性格を持つドラマをさらにパロディするのは、さすがにやりすぎだと感じたのかもしれません。自分だったら、最終話を「ウエストビューを破壊する一行 (The Gang Destroys Westview) 」というタイトルにしますけどね。

 

シットコムをパロディする

 シットコムをパロディするという試みは、別に『ワンダヴィジョン』が初めてではありません。『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』シーズン2第4話の冒頭20分もシットコムのパロディになっています。主人公とその家族が仲良くドライブをする話なのですが、いきなり死体が出てきたりして、不穏さでいっぱいです。かなり『ワンダヴィジョン』に近いことをやっています。

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 2021年に始まった『くたばれケビン!』もシットコムのパロディをやっています。『ワンダヴィジョン』とほぼ同じ時期に製作・公開されていますが、こっちの方がかなり挑戦的です。

 

『くたばれケビン!』 Amazonプライムビデオで配信中

 

 『くたばれケビン!』の主人公は、結婚してから10年が経つ夫婦の妻。ドラマは、夫のケビンが登場するときだけシットコムになり、それ以外の場面は普通の形式のドラマになります。このような形式を取ることで、シットコムパートでのケビンの勝手気ままなコミカルな行動はグロテスクにさえ見えてきて、結果的に旧来のシットコムで描かれてきた「夫に従順な妻」を強烈な風刺しています。

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 その反面、『ワンダヴィジョン』を観ていて、もやもやしていた部分が1つあります。ワンダは、あまりにもシットコム的な妻、母親像に固執しすぎに見えます。夫の奇行に振り回される妻、子どもたちに振り回される母親、それでも家族のために家事をこなす女性。ここまで古風な女性像を描くのも今どき珍しい。しかも、ハリウッド最大のヒットシリーズで。

 

 

『ワンダヴィジョン』総括

 ドラマの後半エピソードはワンダと悪役の対決が繰り広げられるだけなので、最終的にはヒーローものお馴染みの展開に落ち着きました。最終話1個手前の第8話は、まるまるワンダの過去の話だったのですが、ほとんどわかっていることを繰り返し説明しているだけなので、退屈ではありました。最終話はスーパーヒーロー対決なので、これが冗長だと言うのは野暮かもしれません。でも、ワンダとヴィジョンの別れのシーンは、もう少し短く済ませても良かったんじゃないかとも思ったりしました。

 

 MCUが初めてドラマに取り組んだからでしょうか。若干、締まりがないような気がします。Disney+(ディズニープラス)での配信なので、放送時間が決まっていないことも関係あるのでしょうか。昔からテレビで放送されてきたシットコムは、時間制限があるゆえのタイトさが多かれ少なかれあったと思うので、その点に関しては見倣うべきだったでしょう。とはいえ、最近のMCU映画には2時間半を超えるものが少ないので、これはドラマに限った話ではないのかもしれません。

 

 マーベルファンでもないのに余計なことを色々書いてしまいましたが、シットコムをパロディするという試み自体は楽しみました。特に、第7話の『ジ・オフィス』風オープニングや『モダン・ファミリー』風の展開は面白かったです。他のエピソードに関しても、元ネタを知っている人はよく楽しめたんじゃないでしょうか。

 

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