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この海外ドラマが気になる<2023年6月編>とピークTVの終焉/新時代の話

 2023年5月は、アメリカテレビドラマ史において、最も重要な月だったのかもしれません。前回書いた通り、全米脚本家組合によるストライキはまだ続いています。さらに、数々の名作ドラマは5月末に一気に終わりを迎えました。これは、ピークTVの終わりなのか、それとも新たな時代へ向けての区切りなのか。そんな話は、この記事の後半ではしていきます。

 

 

2023年6月の気になる海外ドラマ

『サイロ』シーズン1 毎週金曜 Apple TV+

『僕は乙女座』シーズン1 6月23日 Amazon

 

 6月の気になるドラマはそこまで多くないのですが、マイナーでもチェックしておきたい作品が2つあります。1つは、Apple TV+の新作SFドラマ『サイロ』。格差社会を扱ったSFだとかいう話で、題材的には手垢が付きすぎている気もするのですが、評判は上々です。

 

 Amazonプライムビデオの『僕は乙女座』は、映画『ムーンライト』やドラマ『ぼくらを見る目』のジャレル・ジェロームが主演するナンセンスコメディ。身長4mの青年の話だとか。4mあると、部屋の天井に頭がぶつかってしまいます。この設定で、どれだけ遊んでくれるか気になりますね。

 

 Netflixでは『ブラック・ミラー』シーズン6の配信が始まります。私は、まだシーズン2までしか観られていないので、少しづつでも観ていって、いずれ追いつきたいですね。Amazonでは『ジャック・ライアン』シーズン4も配信されます。こっちも、気になるとは言いつつ、まだ1話を観ていません。取捨選択が難しい。

 

 

ピークTVの終焉か新時代か

 ピークTVという概念があります。海外ドラマ黄金時代と同義と言って良いでしょう。定義は色々あるのですが、その始まりは2008年頃とされることが多いと思います。『ブレイキング・バッド』や『マッドメン』が始まった頃です。それ以来、アメリカドラマは質・量ともに大幅に上がっていきました。今のところ、明確に終わりが来たとは言われていません。

 

 ところが、今週は『メディア王~華麗なる一族~』を筆頭に、『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』『マーベラス・ミセス・メイゼル』『バリー』が相次いでファイナルシーズンの幕を下ろしました。ここ数年のエミー賞を賑わせてきた最重要ドラマたちが、こうも一気に終わると、寂しくなってしまいます。日本では、まだ『バリー』ファイナルシーズンが観られないので、実際には悲しみを一気に感じずに済んでいますが。

 

 加えて、先月から全米脚本家組合のストライキが始まっています。状況を傍目から見ている限りでは、ストライキはもう数ヶ月は続きそうです。この間、テレビドラマの脚本執筆作業は完全にストップしています。一部の作品は脚本家抜きで撮影が進められていますが、それで良い作品を作るのは難しそうです。

 

 となると、今年の末から来年の始めあたりに放送・配信されるドラマの質には、正直言ってあまり期待はできません。ドラマの数自体も少なくなるでしょう。ストライキの結果がどうなるにしろ、テレビドラマにとって空白の期間ができるのは避けられません。

 

 問題は、その後です。ハリウッドは、再び高品質なドラマを続々と作ることができるのでしょうか。それとも、ピークTVは今、終わってしまったのでしょうか。

 

 まずは、悲観的な観測からしてみましょう。なぜ、今週でピークTVは終わりを迎えてしまったと考えられるのでしょう。いくつかの名作ドラマが終わってしまったとしても、また新たな名作が生まれてくれば問題ないはずです。この15年間はその状態が続いてきました。

 

 しかし、昨年から気になる動きがあります。経営状況が悪化した各メディア企業は、徹底した無駄の削減をしています。その一貫として、自社の人気がないオリジナル作品を自社のストリーミングサービスから配信終了しています。昨年はワーナー・ブラザース・ディスカバリー、先月はディズニーが行っています。

 

 オリジナル作品が配信終了してしまうと、他社がわざわざ配信権を買わない限り、二度と観ることはできません。このような作品は、そもそも人気がなくて配信終了しているので、誰も配信権を買わないことは十分に考えられます。

 

 こうなると、その作品に携わった人々の苦労は、完全に無に帰してしまいます。そのようなリスクがあると、クリエイターたちのモチベーションも下がってしまいます。それは、作品の質にも影響を与えるでしょう。

 

 また、企業側はそのような減損処理をしているだけでなく、どのような新作の製作にGOを出すのかにも、これまで以上に慎重になってます。そのため、確実にヒットが見込める作品に注力するようになります。そうなると、今のハリウッド映画業界と同じく、シリーズ作品ばかりが作られることになります。

 

 すでにその傾向は出ています。ディズニーはMCUとスター・ウォーズのユニバースをドラマでもどんどん拡大し、ワーナーは『セックス・アンド・ザ・シティ』『ゴシップ・ガール』をリブートし、パラマウントは『デクスター』『iCarly』をリブートしています。この傾向はさらに強まるでしょう。現に、ワーナーは『ハリー・ポッター』をリメイクすると言い出しています。

 

 シリコンバレー系のスタジオならどうでしょう。実は、Amazonはハリウッドとまったく同じ戦略を取っています。ただし、新興スタジオのAmazonはリブートするほど強いIPを持っていないので、大金をはたいて『ロード・オブ・ザ・リング』の権利を買ったり、ルッソ兄弟に新たな超大作ユニバース(『シタデル』スパイバース)を作らせたりしています。

 

 NetflixとApple TV+も同様に強力なIPは持っていませんが、Amazonほど強引なことはしていません。ただ、Netflixは近年、打ち切りが目立ちます。ある程度評価が高く、ファンが付いている作品でも2シーズンで終わってしまったドラマが数多くあります。Apple TV+はまだ大丈夫そうですが、全体的な作品の質が徐々に下がっていることが懸念事項ではあります。

 

 とはいえ、ここまでの話は、悲観的な要素までを抜き出しただけ。楽観的な予測ができそうな事実も挙げておきましょう。まず、まだ完結していない名作ドラマがいくつかあります。HBOの『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』と『THE LAST OF US』、Apple TV+の『セヴェランス』は、いずれもピークTV的な良作です。いずれも、2024年頃にはシーズン2が観られるでしょう。

 

 さらに、ストライキのおかげで、脚本家の待遇はこれまでより改善されるはずです。そうなれば、脚本家のモチベーションも上がり、これまで以上に優れた脚本が生まれるようになると期待することができます。特に、今回のストライキは若手脚本家に育成の機会を与えることも重要な点として挙げているので、今後の新人脚本家にも期待できそうです。

 

 結論としては、現時点ではピークTVが終わったかどうかを判断することはできないということになります。今後のアメリカテレビ業界に関しては、悲観的な要素もあれば楽観的な要素もあります。ひとまず、ストライキの動向には注目していきたいと思います。

 

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