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ドラマ『ザ・ソプラノズ』シーズン6感想~マフィアの人生、家族の人生~

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  ドラマ版『ゴッドファーザー』として名高い『ザ・ソプラノズ』。ついにファイナルシーズンに到達しました。個人的に、このシーズンはこれまでで最も面白かった。シーズン5もかなり面白かったけど、それにも増して。では、『ザ・ソプラノズ』シーズン6及び最終話の感想です。

 

↓これまでのシーズンの感想

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『ザ・ソプラノズ』シーズン6基本データ

・原題:The Sopranos

・放送局:HBO

・放送期間:2007年1月9日~6月10日

・話数:21

・あらすじ:

 トニーは、これまでの仲間たちに疑いの念を抱き始め、徐々に孤独感を募らせていく。認知症のジュニア、ジョニー・サックの後継者争いが始まるNY、勉強も仕事もしようとしないAJなど、まだまだ悩みの種は尽きない。

 

キャラクター別感想

 これまでのシーズンの感想では、MVPと言って誰か気に入ったキャラクターを取り上げていたのですが、シーズン6は全員にMVPをあげたい。ということで、今回は登場人物別に感想を言っていきます。

 

ヴィト

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 可哀そうだったな。マフィアの世界ではゲイは厳禁だそうなので、ヴィトは稼ぎ頭であったにも関わらず、ニュージャージーから逃亡する羽目になります。トニー側の人間にしてもフィル側の人間にしても、ホモフォビア(同性愛者を嫌悪する)度合いは凄まじくて吐き気がするほど。ああいった世界の内部で差別が是正されているとも思えませんが、今は少しはマシだったりする?

 

 ヴィトに関しては、トニーも相当悩んでいたようです。ファミリーの幹部であるので生かしたいという気持ちは強かったようですが、他のファミリーの手前、ゲイを許すことは出来ませんでした。トニーの悩みは尽きないねー。トニーはヴィトを殺すように命令を出すのですが、結局はその前にフィルが殺してしまいました。

 

ジョニー・サック

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 家族思いのサクリモーニ氏は、今は牢屋の中にいます。娘の結婚式のときには、なんとか出席することが出来たのですが、式終了直前にパトカーで連行されてしまいます。それは、さすがにツラいよ。あと数分ぐらい待ってやれ。娘の門出を祝わせてやりたかった。

 

 ジョニーは、間もなく重い病になり、数ヶ月後には亡くなってしまいます。最期は、家族に見守られながらだったので、そこだけは救いかもしれません。常に家族のことを第一に考え、家族に資産を残すために検察との取引に応じたりもしていたので、憎めない人だったなと思います。

 

 トニーにしてみれば、彼の境遇に一番近いのがジョニーでした。ボスの立場で、家族持ちです。すったもんだがありながらも、ジョニーとは良い友人だったように見えます。もしかしたら、トニーが一番心を痛めたのはジョニーの死なんじゃないかな。

 

クリス・モルティサンティ

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 若いメンバーではあるが、トニーの親族であるという点が強み。クリスは、これまで自分の立場に関してずっと不満を言っていました。責任ある仕事が回されないことや、食事代をいつも払わされることなど。シーズン5のラストでは、エイドリアーナがFBIに情報を流していたことをトニーに告白したのですが、ろくに感謝もさていなかったようです。

 

 トニーにしてみれば、クリスは面倒事を持ち込んできただけなので、それは感謝もするわけはないだろうという態度。かつてセラピストのメルフィーとの会話で、信用できるのは友人ではなく家族だけだと語っていましたが、シーズン6に入ってその確信は揺らいでいます。

 

 クリスが製作した『Cleaver』という映画で、トニーはクリスへの疑いをより強くしています。「ゴッドファーザー×ソウ」というとんでもないアイデアから始まった映画企画ですが、出来上がった映画はちょっと面白そう。マフィアに殺されてバラされた男が、片腕が包丁になったゾンビとして復活して復讐を遂げる物語です。トニーは、この映画はクリスが自分に復讐をしたいという思いを込めたのではないかと邪推してしまいます。

 

 その後、クリスはどんどんファミリーへの不満が募っていき、ついにはトニーと心中をしようします。しかし、トニー・ソプラノという男はしぶとい。なかなか死にません。逆に、クリスはトニーに殺されてしまいます。その後のトニーは、やっと厄介事が始末できて清々した気持ちでいます。

 

 トニーは、以前から感情が薄いようなところがあるので、もう家族を殺してもさほど深い悲しみに暮れるということもないのでしょうか。冷徹とも言える態度は、だからこそマフィアのボスに相応しいのかもしれない。

 

バカラ

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 ジュニアの世話役だったバカラも、今ではトニーの姉のジャニスと結婚し、トニーとは義兄弟の関係になっています。であるにも関わらず、ファミリー内での昇進はさほどしていません。姉とは言えジャニスを侮辱し続けるトニーにキレたバカラは、トニーに殴りかかります。

 

 トニーは、どんどん孤独感を募らせていっています。クリスには裏切られたと感じ、ジュニアには撃たれ、ついにバカラとの仲も険悪になってしまいました。家族ともいまいち上手くいません。まあ、それはいつものことか。*1

 

 バカラは、最期にはフィルの仲間によって鉄道模型店で殺されてしまいます。このシーンが実に良かった。悲劇の場面を、汽車の落下や叫ぶ人々の模型などを交えて描いているが面白い。シーズン6は多くの人が殺されていますが、その中でも色々な違いがあるのも見どころです。

 

ポーリー・ガルティエリ

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 トニーとはかなり長い付き合いがあるポーリーですが、シーズン6ではその関係も怪しくなってきます。トニーとポーリーは、ひょんなことから2人で旅行をすることになるのですが、そのときにトニーはとにかくよく喋るポーリーに辟易してしまいます。

 

 そこから、シーズン4でラルフvsジョニーの面倒が起こるきっかけになった暴言が、ポーリーによってジョニーに流されていたことを言い当てます。こういうところは、本当にドラマの作り方が上手いなと思います。2シーズン前のことを、ここで持ち出してくるわけですから。

 

 ポーリーは、最後まで美味しい立場にいるんですよね。フィルに近い人間でもあるので殺されることもなく、トニーにもちゃんと信頼されているので、そのままでも問題ありません。ちょっと不公平に感じなくもないですが、そういうものです。トニーも「この世の中は不公平なものなんだよ」と言っていました。

 

シルヴィオ・ダンテ

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 トニーの相談役として、影ながら常に支えてきたシルヴィオ。シーズン6序盤では、銃撃されたトニーに代わり一時的なボスになります。シルヴィオの妻は誇らしげでしたが、本人は裏方の方が自分に向いていると思っています。ボスになったストレスから、シルヴィオは持病の喘息を悪化させて入院することになってしまいます。やっぱり、ボスは相当にストレスフルな役職なのでしょう。

 

 シルヴィオも、最後にはフィルの仲間に撃たれてしまいます。バカラに比べると簡潔な描写でしたが、個人的に一番グッと来たのがこの死でした。シルヴィオは、絶対にトニーを裏切らないので、その忠実さが良い。加えて第20話のあの場面では、シルヴィオが死ぬと、トニーは本当に孤立無援になってしまいます。死ぬ瞬間には、あ~、もう!トニーは死んでしまうんだ!と観念したものです。*2

 

ジュニア

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 ジュニアは、シーズン6第1話でトニーを撃ちます。初っ端から、まさかの衝撃展開。ジュニアが認知症であることはシーズン5から明らかで、そのことが原因になっています。以前は、認知症のフリをして検察を騙したりもしていましたが、実際に認知症になってしまったというのは悲しい皮肉です。

 

 病院に入ってからも、症状は悪化の一途を辿ります。それでも、職員を買収してポーカー大会を開いたりしている頃は、まだ元気だった感じもするんですけどね。ジャニスをリヴィア(トニーの母)と見間違え、最後にはトニーのこと、さらにはかつて一緒にニュージャージーを仕切っていたジョニー(トニーの父)のことも忘れてしまっているのは、なんとも切ないというか……哀愁。

 

トニー

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 クリスを殺し、バカラとシルヴィオが殺されたときは、もう本当にトニーも死んでしまうのかと思っていました。というより、数シーズン前から、エンディングではトニーが死ぬのではないかと自分は漠然と思っていました。トニーは、マフィアという職業柄、いつ死ぬかわからないということを自覚しているようでした。そのため、最終話でその死の場面を描くのは自然に思われたのです。

 

最後の1秒

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 最後に、トニーの家族はあるレストランに集まることになります。トニーが最初に来て、次にカメーラ、そしてAJがやってきます。BGMはジャーニーのDon’t Stop Believin'。トニーは、常に周りに目を走らせています。3人はオニオンリングを食べながら、メドウを待っています。

 

 メドウは縦列駐車に苦戦中。やっと駐車をすることができて店に入ろうとした瞬間、BGMはパッと途切れ、画面は暗転します。数秒後、無音のままエンドロールが流れ始めます。これにて、6シーズン86話に渡るソプラノ・ファミリーの物語は終わりを告げます。

 

 完全に度肝を抜かれました。本当に驚いて、鳥肌が立ちました。Wi-Fiが切れたのかなと一瞬思ったのですが、そうではありませんでした。後で観終わってから戻してみても、やはり真っ暗な数秒間が存在するのです。前代未聞。大胆不敵。最後の最後に、こんな仕掛けがあったのです。

 

 すでに色々なところで考察が出回っていると思いますが、まだ何も読んでいない自分の現時点での解釈を書いておきます。とんちんかんなことを書くかもしれませんが、それはいつもそうなので、許してください。

 

 エンディングの後には、2つの可能性があります。1つは、ドアを開けたのがメドウである可能性です。場面の繋がりから考えれば、こう考えるのが妥当です。3人のもとにメドウが到着し、4人家族はその後も日常を過ごすのでしょう。その中では、これまで同様に言い争いや衝突もあるでしょうが、それらも含めて日常を送っていきます。ハッピーエンドと言って良いでしょう。

 

 2つ目が、ドアを開けたのが殺し屋である可能性です。前話までの展開は、明らかにトニーの死に向かっていたので、これもまた妥当に思えます。フィルは殺されていますが、その報復など殺される原因はいくらでも考えられます。トニーがしきりと辺りを見回していたのも、誰かを警戒していたのかもしれません。バッドエンドということになるかもしれませんが、これまでのトニーの所業を考えてみれば、殺されても文句は言えません。

 

 このエンディングが上手いなと思うのが、この2つの可能性を完全に50:50にしているところです。1つ目の可能性に至る展開も、2つ目の可能性に至る展開も十分に考え得るものにしています。そこまでの86時間の物語がエンディングで収束し、全く異なる2つの可能性を示します。

 

 『ザ・ソプラノズ』の特徴の一つが、衝撃の展開がほとんどないことだと思っています。すべてが起こるべくして起こっています。ラルフがトニーに殺された場面やクリスが心中を図ろうとした場面では、驚きこそするものの、その展開自体は予想外のものではありません。近いうちにラルフが死に、クリスが反旗を翻すことも明らかでした。

 

 であるならば、エンディングも想定内のものであるはずです。結末を明示していないので、視聴者に放り投げたように思えますが、実際には2つの可能性を十分に示唆しています。これまでが1つの筋道を示していただけで、最後だけは2つの道を示しているのです。非常に緻密な脚本で、舌を巻かざるを得ません。

 

 ここで、じゃあ結局どっちなのか?と決めることには、正直あまり意味がないと思っています。異なる2つの状態があるなら、それが両方存在すると考える量子力学的解釈*3でも良いじゃないですか。エンディングの後について、ああいう可能性がある、こういう可能性があると、あちこち思いを巡らす楽しみを与えてくれたのですから。

 

補足

*1: トニーは、ついにはメルフィーにも見切られてしまいます。犯罪者へのセラピーは犯罪を助長する可能性がある、という論文をメルフィーが読んだからです。メルフィーにしてみれば、完全にバッドエンド。自分が6年以上やってきたことが、実は犯罪者をおだてていただけなのかもしれないのだから。

 

*2: 実際には、フィルによってトニーが殺されることはありませんでした。フィルが殺されたからなのですが、この知らせを聞いたときのFBI捜査官の反応が良かった。捜査対象とは言え、あまりにも長く捜査しすぎて、トニーには死んでほしくなかったんだろうな。

 

*3: トニーが病院で物理学の先生と話をしていたが、あれもこの量子力学的エンディングを示唆していたのかも。ただし、あの場面で先生が言っていたことは、量子力学に多少の心得がある自分でも意味がわからなかった。

 

 

 

まとめ

 『ザ・ソプラノズ』シーズン5,6は傑作です。人によってどのシーズンが好きなのかは色々ありそうですが、自分の中ではこの2シーズンが断トツです。それまでのシーズンで組み上げてきたキャラクターたちがそれぞれ決断のときを迎え、ファミリーとしても大きな危機に直面しています。マフィア映画をほとんど観たことがない自分ですが、それでもとても面白かったです。

 

 そして、ここまで記事を読んで頂いた方なら知っていると思いますが、今年2021年秋に『ザ・ソプラノズ』の新作映画が公開されます。映画『The Many Saints of Newark』は、1960年代頃を舞台にしたドラマ版の前日譚にあたります。詳しいことは、ソプラノズ有識者の方(自分より遥かにソプラノズ愛があります)に書いて頂いた下の記事を読んでみてください。

psbr.hatenablog.com

 

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