We are Sex Pistols, we ain't fake it.
- John Lydon
イギリスの伝説的ロック・バンド「セックス・ピストルズ」の物語をドラマ化。イギリスにカオスのムーブメントを巻き起こした彼らを描いたドラマは、刺激的でエキサイティング! ディズニープラスで独占配信中のドラマ『セックス・ピストルズ』のネタバレ感想をまとめました。
基本データ
- 原題:Pistol
- 配信:FX on Hulu(アメリカ)、Disney+(日本)
- 公開日:2022年5月31日
- 話数:6
- 原作:スティーヴ・ジョーンズ著『ロンリー・ボーイ ア・セックス・ピストル・ストーリー』
- 監督:ダニー・ボイル(映画『トレインスポッティング』)
- 脚本:クレイグ・ピアース(映画『エルヴィス』)
予告編
海外ドラマ『セックス・ピストルズ』は、ディズニープラスで独占配信中。月額料金は990円(税込)、年間プランなら9,900円(税込)です。
登場人物/キャスト
スティーヴ・ジョーンズ
演:トビー・ウォレス
ギターの弾けないギタリスト。ちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれていた。それ冗談としても、最初から楽器やデヴィッド・ボウイの使ったマイクを盗んだりする素行の悪い青年ではあった。起訴されたときにマルコムが援護してくれて収監を免れたこともあり、マルコムに対しては頭が上がらない。このドラマは、スティーヴの自伝をベースにしているため、彼の視点でストーリーが進む。
↓ドラマの原作になったスティーヴ・ジョーンズの自伝
ジョニー・ロットン
演:アンソン・ブーン
歌えないボーカル。すべてに反抗心を燃やす。ツンツン頭、猫背、睨みがちな眼が特徴。後の2つの特徴は、子どもの頃に患った大病の影響であるらしい。その頃の恩で、母親に対しては優しい。消防士の子どもたちのためにライブをするラストシーンが良すぎて、一気に好感度が上がった。
グレン・マトロック
演:クリスチャン・リーズ
ベースが弾けて作曲もできるベーシスト。ポール・マッカートニーを尊敬している。しかし、その真面目な性格はセックス・ピストルズのバンドの方向性と合わず、特にジョニーとの関係が悪化したため脱退した。グレンがいればピストルズはもう少し長く続いていたかもしれないが、確かに性格的にジョニーと相容れないのはよくわかる。
シド・ヴィシャス
演:ルイス・パートリッジ
ベースの弾けないベーシスト。本名はジョンだが、それだとジョニーと名前が被るため、ジョニーのハムスターの名前から芸名を付けた。グレンの後釜として加入。ジョニー以上に音楽性よりもビジュアルを重視していた。ナンシーと出会った後、ドラッグに溺れるようになり、アメリカツアーでドラッグを絶った際には禁断症状が出るほどだった。ジョニーの「あいつには早すぎたんだ」という言葉が切ない。
ポール・クック
演:ジェイコブ・スレイター
存在感の薄いドラマ―。スティーヴとは仲が良いらしい。そのくらいしかわからなかった。
マルコム・マクラーレン
演:トーマス・ブロディ=サングスター
マネージャー。SEXの店長。メンバー間であえて喧嘩をさせたり、センセーショナルなプロモーションを行うことで、セックス・ピストルズの反抗的なイメージを作っていった。ピストルズをめぐるトラブルの99%はマルコムのせいで起こっている。
ヴィヴィアン・ウエストウッド
演:タルラ・ライリー
SEXの店長。ボンテージを取り入れたパンク・ファッションを流行させた。その後もファッションデザイナーとして成功し、現在では東京の青山などを含め、世界各地に店舗を持っている。
クリッシー・ハインド
演:シドニー・チャンドラー
SEXの店員。アメリカ出身。有名音楽雑誌NMEの記者の恋人がいるが、スティーヴとも深い関係を持っていた。自分で作曲もしているが、なかなかバンドが見つけられない。めちゃくちゃ可愛いくて優しいので、好きにならずにはいられない。
クリッシー・ハインドは、セックス・ピストルズが解散した1978年に「プリテンダーズ」を結成。このバンドもメンバーの入れ替わりがかなり激しかったらしいが、2005年にロックの殿堂入りを果たしている。ちなみに、2006年にはセックス・ピストルズもロックの殿堂入りをするはずだったが、「クソみてぇな系譜に組み込まれたくねぇ」として受賞を拒否した。受賞拒否したのは現在までにピストルズのみ。
パメラ・”ジョーダン”・ルーク
演:メイジー・ウィリアムズ
過激なファッションで旋風を巻き起こし「パンクの女王」と呼ばれた存在。ドラマでは具体的に何をしているのかわからなかったが、ヴィヴィアン・ウエストウッドのモデルであり、複数のパンクロック・バンドのマネージャーをしていたこともある。パンク全体のミューズのような存在か。
ナンシー・スパンゲン
演:エマ・アップルトン
シドの恋人。シドとともに重度の薬物依存症になる。子どもの頃に統合失調症と診断されたことがある。一度はメンバーたちによってアメリカに帰国させられたが、再びイギリスに帰ってきた。最終的に、ホテルの部屋で刺殺された。ドラッグで錯乱状態になったシドが殺害したとされているが、公判が始まる前にシドが薬物の過剰摂取で死亡してしまったため、真相は明らかになっていない。
こうやって色々書くためにウィキペディアなどでセックス・ピストルズ関連の情報を集めたりしたのですが、改めてドラマは説明不足の傾向があったなと感じます。ジョニーの子どもの頃の病気のことは全く知りませんでしたし、ジョーダン・ルークのこともよくわかりませんでした。全部で6時間ある割には情報量が少ないんです。
ただし、情報を得たいならば、ググれば済む話。文章では伝えられないことを伝えられるのが映像の魅力ですし、その点でこのドラマは素晴らしい。1970年代イギリスのパックロックのシーンを再現して感じさせてくれます。さすがダニー・ボイル。
感想~セックス・ピストルズと出会う~
セックス・ピストルズの名前は、洋楽にさほど詳しいわけでもない私でも聞いたことがあります。ただ、名前を聞いたことがあるだけで、曲自体を耳にする機会が少ない気がします。そう思って、しばらく前にGod Save The QueenをYouTubeで聞いてみたことがあります。そのとき思ったんです。
え、この人たち、歌ヘタじゃない?
これだけ世界的に有名なロックバンドが、歌が下手なわけがあるかと耳を疑いましたが、どう解釈しても歌が上手いとは思えませんでした。英語の歌詞をきちんと理解することもできず、それっきり自発的にピストルズを聞くことはありませんでした。
それならなぜこのドラマを観ようと思ったのかといえば、監督の名前を目にしてしまったからです。ダニー・ボイルですよ。あの『トレインスポッティング』の、そして『スラムドッグ$ミリオネア』の、さらに『127時間』のダニー・ボイルです。それなら、ぜひともこのドラマは観ておきたい!
パンクロックバンドの伝記ドラマということで、作風は『トレインスポッティング』にとても近いものがあります。イギリスの労働者階級の若者たちが、社会に嫌気が差して、反抗していく話です。英国王室や音楽業界にファック・ユー!と叫んでいます。
当時の若者たちは、そんなセックス・ピストルズの姿に憧れ、パンクは大きなムーブメントになったようです。でも、このドラマを観ている限りでは、私自身にはセックス・ピストルズに憧れの気持ちは湧いてきませんでした。色々反抗して頑張ってるなぁみたいな、一歩引いた視点で観てしまうところがあります。私も十分若いはずですが、いわゆる「さとり世代」の一員だからでしょうか。
だからといって、このドラマが面白くなかったわけではありません。とても面白かったです。ドラマでは、ピストルズだけではなくザ・フーとか、当時のロックが山ほど使われていて、満喫できました。映像もあえて当時のフィルムっぽい質感にしてあって、趣がありました。
ドラマを見終わって、再びピストルズのGod Save The Queenを聞いてみました。やっぱり歌がヘタだなと思いました。でも、それだけじゃありません。THERE IS NO FUTUREとか、叫びが聞こえてくるようになりました。ピストルズの必死の反抗が伝わってきました。歌がヘタなのも、歌が上手くなければロックをやっちゃいけないのかよ!という反抗だと感じましたし、こうも違って聞こえるものなんだなと実感しました。
ピストルズに詳しい人には、今さら何を言っているのだと思われるのかもしれません。でも、現代の人々が1970年代のイギリスの音楽の背景を知るのは容易ではありません。しかも、そのせいでピストルズの何が偉大なのかはよくわからなくなっていると感じます。
アヴリル・ラヴィーンは、かつてセックス・ピストルズに関してこんなことを言っています。
People are like, 'Well, she doesn't know the Sex Pistols.' Why would I know that stuff? Look how young I am. That stuff's old, right?
「つまり彼女はセックス・ピストルズを知らないわけか」と人々は言うけれど、なんで知ってなければいけないの? 自分は若いんだから。ピストルは古いんだって、分かった?
なかなか挑発的な発言ですが、知識でマウントを取ってこようとする音楽マニアに対してはガツンと言ってやりたい言葉です。それはともかく、ピストルズが古いのは事実です。音楽性が優れているわけでもないので、当時の時代背景を知らないとピストルズの良さを感じ取ることは難しいんじゃないでしょうか。そういう意味では、私はこのドラマのおかげでピストルズに興味を持つようになりましたし、観ることができて良かったなと思っています。