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海外ドラマ『ザ・ナイト・オブ』感想―誰とも話すんじゃない―

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I’ve been an “I don’t know” guy all my life. It’s never let me down.

- John Ston in The Night of

 

 これまで変哲のない生活を送っていたのに、いきなり殺人容疑を掛けられ、刑務所に入れられたらどうなるのか。HBOのドラマ『ザ・ナイト・オブ』の主人公である大学生のナシール・カーンは、ある夜を境に、人生が一変することになります。

 

 

 

『ザ・ナイト・オブ』基本データ

・原題:The Night of

・放送局:HBO

・放送日:2016年12月20日~2017年2月14日

・話数:8

・主演:リズ・アーメッド 

・あらすじ:

 普通の大学生活を送っていたナシール・カーンは、ある夜の出来事により、殺人事件の最重要容疑者になってしまう。

・予告編:

※『ザ・ナイト・オブ』はリミテッドシリーズ(ミニシリーズ)なので、シーズン2以降はありません。

  

『ザ・ナイト・オブ』感想(ネタバレあり)

誰とも話すんじゃない

 ある夜の出来事で、絶望的な状況に置かれてしまうナシール・”ナズ”・カーン。すべての証拠がナズを指さし、おまけに凶器と思われるものまで持っていました。あの夜のナズの行動は非常に愚かなのですが、愚かであることは罪ではありません。(『ベター・コール・ソウル』S1にそんな台詞があった気がする)

 

 彼が自分の無罪を示すには、どうすれば良いのか。弁護士に頼る他はないでしょう。最初は、逮捕直後に出会ったジョン・ストーンに依頼しました。しかし、彼はナズが無罪をなるとは全く思っておらず、取引をすることを強く勧めます。そこで、ナズの家族は無償で担当してくれるというアリソンに依頼します。しかし、彼女も結局は答弁取引に持ち込みます。このドラマ、弁護士がナズを助けて無罪を勝ち取るという展開かと思いきや、前半の展開はむしろ逆なのです。弁護士さえもナズを無罪にする気がないため、ナズは完全に孤立無援の状態になります。

 

 刑事のボックスは、一見したところ誠実な人物に見え、希望の光になってくれそうです。しかし、彼も実はそこまで誠実な人物ではなかったことが、裁判で明らかになります。ボックスは、捜査当初からナズを犯人だと決めてかかっていたために、証拠を細かく調べることを怠っていたのでした。呼吸器をナズに渡したのが、果たして本当に意図的な行動だったのかはわかりませんが、目撃証人の調査が甘かったのは確かです。

 

 ジョン・ストーンが言う通り、このドラマでは「誰とも話すんじゃない」=「誰も信用してはいけない」のです。これはナズだけでなく、ドラマを観ている私たちへの忠告でもあります。主人公のナズもいくつもの嘘を吐いていたことが後半で明らかになり、私たちは彼をも信用することが出来ません。 

 

大学生ナシール・カーン

 元々、ナシール・カーンは一般的な大学生活を送っているようでした。 特にイケてるわけでもないよう。自分も、まさにそんな感じなんですよねぇ。それゆえ、なおさらナズの境遇が怖いのです。彼は、あの夜から突然レイプ殺人者のレッテルを貼られ、刑務所で生活をすることになります。

 

 ナズが送られたのは、ニューヨークのライカーズ刑務所。厳しいとか聞いたことがあります。凶悪犯罪者も多く収監されているようでした。ナズも、最初は非常に困惑します。でも、彼はまだ若いので、刑務所に適応してしまいます。ライカーズで生き抜くためには、そうするしかありませんから。

 

 坊主にしてタトゥーを入れたナズは、容姿だけでなく、中身もすっかり変わっています。麻薬の輸送を請け負い、人を半殺しになるまで殴ります。事件当夜のナズは、到底あんな殺人事件を犯すはずはないように見えたのですが、このような一面を見せられると、その確信も揺らいできます。

 

 そんな普通の大学生が、刑務所の空気に馴染んでいく様を演じきったリズ・アーメッドは素晴らしいです。ちなみに、リズ・アーメッドはこの役でゴールデングローブ賞にノミネートされ、エミー賞では男優賞(リミテッドシリーズ・テレビ映画部門)を受賞しています。

 

アメリカ司法制度の課題

答弁取引

 ドラマの中盤で、ナズは「plea bargain」という取引を持ち掛けられます。字幕では「司法取引」となっていたのですが、より正確には「答弁取引」という言葉が使われるらしいです。これは、ドラマの中でも行われていたように、検察側と弁護側が裁判の前に話し合って、本来よりも軽い量刑で合意するというものです。日本では行われていません。

 

 答弁取引に、弁護側には量刑が軽くなるというメリットがあるのは明らかですが、検察側のメリットが意外に思いました。というのも、裁判費用を抑えるためとかなんですね。検察側も多くの訴訟を抱えているでしょうから、少しでも簡単に片づけられるなら、そうしたいのも分からなくはありません。些末な事件は、早く終わらせてしまいたいでしょう。

 

 しかし、答弁取引制度には問題もあります。今回のナシールが危なかったように、犯してもいない罪に関して自白をしてしまう可能性があります。ナシールは実際にはそうしませんでしたが、もし自分だったらそうしてしまうかもしれません。裁判というのは一種の博打のようにも感じられますから、確実に軽い量刑で済ませられる取引は魅力的です。例え、実際には罪を犯していなかったとしても……。

 

陪審制度

 私は、以前からアメリカの陪審制度が好きではありません。有罪か無罪かを決めるのが、なぜプロフェッショナルの裁判官ではなく、素人の一般人なのかが理解できないのです。素人であるがゆえに、弁護士の話術に踊らされてしまう可能性も高そうではないですか。陪審員の負担も大きいです。

 

 今回の陪審員たちは、それでも誠実な人たちだったようで、意外にもちゃんと機能していた印象がありました。いや、最終的に判決不能という結果が出たから、機能してないのか。でも、下手に有罪判決を下すよりはまし?おそらく、あの陪審団は推定無罪の原則をとても尊重する人たちだったのでしょう。

 

 判決不能→裁判やり直し放棄、という流れだったので、この裁判では、結局ナズの無罪は証明されていません。推定無罪のまま、釈放されることになりました。ただ、実社会で推定無罪が成り立つかというと、そうではありません。ナズは、周りの人からは殺人者と思われたままなのかもしれません。真犯人が見つかれば容疑もスッキリ晴れます。そうでなくとも、自分を信じてくれない人々とは、それ以上親しくすることもないですかね。最終話の終盤で登場したナズの友人とは、もう付き合うべきではないでしょう。

 

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