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『パラサイト』と『ラ・ラ・ランド』に見るラストシーンの想像と現実

 アカデミー賞を獲り、日本でも大ヒットしている『パラサイト 半地下の家族』を自分も観てきました。全体の考察は他の方もたくさんやられているので、今回はラストシーンの映画技法に注目して考察していきたいと思います。

 

 なお、この記事は『パラサイト』と『ラ・ラ・ランド』のネタバレをがっつりしているので、お気をつけください

 

 

 

 

『パラサイト』のラストシーン

 『パラサイト』の終盤で、半地下の父親キム・ギテクは富豪のパク・ドンイクを刺し、富豪宅の地下に隠れます。実際には、地下に隠れるシーンは長男のキム・ギウの想像なのですが、捜査状況から察するに事実でしょう。そして、ギウはいずれお金持ちになって、あの家を買うぞと決心するのです。

 

 しかし、ギウの想像シーンから再び半地下のシーンに戻った瞬間に観客は理解するのです。「そんなことは無理だ」と。半地下の家族に生まれた以上、どんなに頑張っても大富豪にはなれません。そんな現実を突如として突きつけるのが、最後の半地下のシーンだったのです。

 

 大富豪になるシーンは、もしそれが現実ならばハッピーエンドと言うことができるでしょう。観客には、パッと見は想像なのか現実なのかわからないので、そのときはハッピーエンドなのかなと感じられてしまうのです。しかし、最後の半地下のシーンにより、ギウの抗えない現実の格差を突き付けられて、絶望を味合わせられることになります。

 

ラ・ラ・ランド』のラストシーン

 これと対照的なのが、『ラ・ラ・ランド』のラストシーンです。『ラ・ラ・ランド』の終盤は、それまでの5年後の冬が舞台になります。女優として成功したミアは偶然にセブが経営するジャズ・バーに寄ります。そこでミアは、セブの演奏を聴きながら、もしセブと今までずっと付き合い続けていて、ともに成功していたらという想像をします。そんな世界はさぞかし素晴らしいものであったろうと、ミアは思うのです。

 

 ミアとセブが別れたことを後悔しているかのように受け取れるこのシーンですが、最後の最後にそうではないことが明らかになります。ミアとセブは、最後に見つめ合い、軽く微笑むことで、これで良かったのだということを確認し合います。

 

 想像シーンの時点では、急にバッドエンドのような雰囲気が立ち込めてきたのですが、ラストシーンでこの映画はハッピーエンドだったことが明らかになります。

 

 

 

映画における想像と現実

 『パラサイト』と『ラ・ラ・ランド』のラストシーンに共通するのは、直前で「こうなったら良いな」という想像を示した上で、現状に対する判断を見せているという点になります。

 

 『パラサイト』の場合は、「将来、大富豪になってあの家を買い、父に再会できたら良いなあ」という希望を示した上で、「でも、そんなことは無理だ」という現実を観客に突きつけます。

 

 『ラ・ラ・ランド』では、「こんな風にすべてが上手く言ってたら最高だったのになぁ」という後悔にも似た気持ちを示した上で、「でも、やっぱり現状のままで良かったよね」という主人公たちの判断を見せています。

 

 このように、「こうだったら良いな」という想像を示した上で、現状に対する判断を見せるという手法は、有効な方法の一つと言えるでしょう。観客は、すぐにその状況を判断できないので、エンドロールの間にそのラストシーンについて思いを巡らせることになります。

 

 『パラサイト』や『ラ・ラ・ランド』などは、このようなラストシーンの構成のおかげで、深く充実した余韻を残す作品に仕上がっているのです。