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ロバート・A・ハインライン『夏への扉』ブックレビュー

 ロバート・A・ハインラインといえば、海外SFビッグ3の一人(他の2人はアイザック・アシモフとアーサー・C・クラーク)にも数えられる、言わずと知れた有名SF作家でしょう。

 

 とは言え、私自身がハインラインの小説を読むのは、この『夏への扉』(原題:The Door into Summer)が初めて。ハインライン原作の映像化作品も、『輪廻の蛇』を原作とした映画『プリデスティネーション』ぐらいかな。『スターシップ・トゥルーパーズ』は、まだ観たことがないから。

 

 『夏への扉』は、近々、山崎賢人主演で映画化されるとか。海外のSF小説を日本で映画化するというのは、かなり珍しい。たぶんこの『夏への扉』が、特に日本で人気のある小説だからというのが理由にありそうです。ゴリゴリのSFではないので、邦画程度の予算でも見劣りすることはなさそうですしね。

 

 と、そんなこんなで、ハインラインの『夏への扉』を読んでみたのです。私が読んだのは、ハヤカワ文庫の福島正実訳のバージョンです。とても読みやすかったですね。日本で人気があるというのも、福島さんの訳に依るところもあるのではないでしょうか。

 


 

  久しぶりに、夢中になって小説を読みました。主人公のデイヴィスは、とても優秀な技術者。めちゃくちゃ便利な家庭用機械を、次々と発明しています。片っ端から、全部あったら良いなぁと思っていました。ところが、彼は親友・恋人だと思っていた人に裏切られてしまいます。

 

 でも、結局、30年後の2000年まで冷凍睡眠をすることになります。西暦2000年の世界でデイヴィス君はいくつか苦労をするわけですが、一番思ったのは「研究させたれや!」ということ。デイヴィス君は、研究さえできれば、ある程度は幸福な人間ですから、そのくらいさせてあげてよ、とはずっと思ってました。彼のためだけでなく、人類のためにも。

 

 と、ここから急展開です。どうやらタイムマシンが実在するらしいということを知り、デイヴィスは博士を騙して30年前にタイムトラベルしてしまいます。1970年では、ヌーディストのサットン夫妻と友人になり、二人の協力もあって、マイルズ&ベルに復讐を果たします。そして、リッキイとピートと一緒に2000年の時代に幸せに暮らすのでした。

 

 大まかにはSF設定を取り入れた、復讐劇といった感じでしょうか。とは言っても、シビアな雰囲気はなくって、デイヴィス君頑張れ!という気持ちで楽しく読み進めていくことが出来ました。ピートとの再会が、やっぱり一番嬉しかったね。

 

 

 

タイムトラベルと因果のループ

 それでは、ちょっと科学のお話でもしておきましょう。『夏への扉』は、タイムトラベルものとは言え、構造は他のタイムトラベルものと比べるとシンプル。主人公は、1970年→2000年→1970年→2001年と移動しているだけです。ちなみに、作品自体は1957年発表なので、1970年の世界も、当時の人々からしてみれば未来のことです。

 

 気になるのが、これがパラレルワールド理論を採用しているか否かです。パラレルワールドを導入するなら、主人公が1970年に戻った時点で、それ以降の未来は分岐してしまい、元々の2000年には戻れなくなります。『バック・トゥ・ザ・フューチャーPart 2』の中でも説明されていることです。

 

 ただ、『夏への扉』に関しては、そうではなさそうです。デイヴィスが最初に訪れた2000年の世界では、既に(1970年に戻ったデイヴィスが創業する)アラディン工業があったりするので、タイムトラベルをする事実が反映されています。すなわち、『夏への扉』においては宇宙は一つだけであり、デイヴィスが過去に戻っても、同じ2000年に戻ることが出来るのです。

 

 この「宇宙が一つ」を仮定すると、パラドックスの問題が非常に起こりやすくなります。『夏への扉』では、タイムトラベルをした結果起こることが、最初から伏線として書かれているので、一見するとパラドックスは起きていないように思います。

 

 しかし、「因果のループ」と呼ばれるパラドックスは多々起こっています。因果のループとは、卵が先か鶏が先か問題のようなものです。今回の場合は、例えばアラディン工業の名前がそうです。デイヴィスは、2000年にアラディン工業という名前を見たので、1970年に戻って創業した会社をアラディン工業と名付けます。では、そもそも最初にアラディン工業と名付けたのは誰なのでしょう? 因果のループは、まだ解決されていないパラドックスなので、解決法はありません。

 

 この因果のループの問題は、私がつい最近観た海外ドラマ『ドクター・フー』シリーズ9第4話「洪水の前」にも出てきて、個人的にはホットな話題です。ホットとは言っても、理解してしまえば、ただ解決法がないというだけで、それ以上何も出来ないのが歯がゆいところではあります。

 

 私が、この本の好きなところの一つが「護民官ピート」という言葉です。なんかカッコいいですよね。言いたくなります。護民官ピート。”トゥリブヌス・プレビス・ピート”と言うのが正しかったりするのかな?どっちにしろ、護民官ピートという言葉は良いですね。

 

 もし、皆さんがこの本を誰かにおすすめすることがあったら、タイムトラベルものだというのは言わない方が良いと思います。私は、『夏への扉』がタイムトラベルものだと知って読み始めたために、序盤の不可解な出来事(デイヴィスがマイルズとベルに捕らわれているときに、デイヴィスの車が消えたことなど)が、タイムトラベルして未来から来たデイヴィスの仕業だというのが、なんとなくわかってしまいました。

 

 ぜひ、人に勧めるときは「可愛い猫が出てくる話だよ」ぐらいの紹介にしておくと良いんじゃないかな。その人も、きっと楽しんでくれることでしょう。

 

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