You know, for someone who says they don't wanna be a hero, you sure end up being one a lot.
英雄になりたくないと言う人に限って英雄になるんだよ。
- Clarissa Mao, The Expanse season 6 episode 6
SFドラマ『エクスパンス~巨獣めざめる~』はついにファイナルシーズン。泣いても笑ってもこれが最後です。太陽系は、ついに平和を得ることができるのでしょうか?(ネタバレあり)
↓前シーズンのおさらい
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『エクスパンス』シーズン6基本データ
- 原題:The Expanse
- 制作:Amazon
- 配信日:2021年12月10日~2022年1月14日
- 話数:6
- 予告編:
マルコ・イナロス
シーズン5では、フリー・ネイビーが地球に隕石を落とし、多くの犠牲者を出していました。シーズン6は、その続き。太陽系では、マルコ・イナロス率いるフリー・ネイビーがさらに勢力を拡大させています。
ロシナンテ号は、新たにクラリッサ・マオをクルーに向かえ、マルコに対抗していきます。シーズン6の一つの見せ場が、第3話のロシナンテ号vsマルコ・イナロスの宇宙船対決。
マルコは、今が戦うときではないと部下に諭されながらも、ロシナンテ憎さに攻撃を仕掛けていきます。しかし、戦況はロシナンテ号が優勢となり、最終的に魚雷を打ち込まれます。だが、不発。フィリップ・イナロス(ナオミの息子)を見かけたジェームズ・ホールデンは、自分の命令で魚雷を解除していました。
これは、後に仲間から判断ミスだったと責められます。ナオミもフィリップのことは気にしなくて良いから攻撃してくれと口では言うのですが、本心はそうでもないのかもしれません。ジェームズ・ホールデンは、仲間に何を言われても自分の判断は正しかったと思っています。ホールデンは、戦闘に強いわりに誰にでも優しいですよね。もともとは、運搬船のクルーであり、戦士ではなかったからでしょうか。
その真逆に、仲間や息子であっても優しくないマルコ・イナロス。ケレスにはベルタ―たちを置き去りにしています。内惑星(地球・火星)の人々がケレスに物資を支給しなければ、ケレスの人たちは内惑星に見殺しにされたことになります。そうすれば、他のベルタ―は内惑星への反感を抱き、さらに幅広い支持を得られるできるだろうという目論見でした。マルコ・イナロスは、戦闘に頼るばかりではなく、大衆を扇動する力があるのが手強いです。
一方、国連事務総長のアヴァサララは、地球の惨状を報道することでベルタ―の人々から同情を集めようとします。この作戦が、フィリップ・イナロスなどにじわじわと効いてきます。マルコがアンチ内惑星で支持を集めるなら、アヴァサララは内惑星への共感を得ることで対抗し、どちらも戦闘力ではなく人々から支持を得る力で争っているのが面白い。
ここまで、独自にマルコに対抗してきたカミーナ・ドラマーは、ケレスに物資を届けて人々を救い、第5話でついに連合軍と合流します。部下のミチオ(優しい顔してるんですよ)は、戦闘でへまをやらかしたものの、仲間を救って名誉挽回。カミーナのミチオに対する態度を見るに、カミーナのリーダーシップは立派なもので、一緒に仕事をした人々からは尊敬されているんじゃないかなと思ったりします。
最終決戦へ
みんなが揃ったところで、最終決戦です。連合軍の作戦の内容はよくわからなかったのですが、簡単に言えば、①リングにあるレールガンを掌握する②マルコ・イナロスの船を倒す、といった感じでしょうか。リングは、フリー・ネイビーのレールガンが装備されているので、以前に火星軍はこてんぱんにやられていました。
最終決戦は、見事なものです。圧倒されました。特に、エイモスとボビーがレールガンに立ち向かうところは手に汗握って見ていました。まず、宇宙船から緊急脱出みたいに出ていくときの怖さよ。あんなにレーザーがぴゅんぴゅん飛び回っている中で、ほぼ宇宙服だけで出ていってますから。人間の体は小さいので、むしろコンパクトな方が当たりにくいのでしょうが、それにしても怖いのには変わりない。
レールガン基地に着陸してからは、ひたすら中心に向かっていきます。当然、レールガンを警備している機械や人々から猛攻撃を受けるのですが、さらに上からも撃たれます。絶体絶命。でも、エイモスとボビーは死んでも構わないという気合いでやってきているので、そんなことはお構いなしにレールガンに向かっていきます。ボビーが一発命中させた後、ロシナンテがやってきてレールガンは破壊されました。
残るは、マルコ・イナロスのみ。リングをくぐって逃げようとしているマルコをどうやって倒すのか。ロシナンテのクルーが思いついたのが、リングの”力”を使った作戦でした。これも自分にはよくわかっていないのですが、どうやらリングを力が起動すると、そこを通り抜けようとした物はきれいさっぱり消えてしまうようです。宇宙船が消滅する描写は、シーズン5の最後にもありました。作戦は成功し、マルコは消滅します。
太陽系に平和は訪れるのか?
アヴァサララは「戦争は戦場で終わらない」と言います。リングでの決戦が終わった後、太陽系の平和に向けた話し合いが行われます。主要テーマは、リングを誰が管理するのか?リングは、数多くの植民地へ向かうためのルートですが、適切に管理しないとリングの”力”が暴れかねません。また、マルコ・イナロスのような者が支配してしまう可能性もあります。
地球、火星、小惑星帯の誰からも賛同を得られる第三者が望ましいということになり、全会一致でジェームズ・ホールデンが指名されます。ホールデンは、一度は引き受けたものの、就任会見で電撃辞任し、カミーナ・ドラマーを次期長官に指名します。
ホールデンは、優しすぎて組織の長という感じはあまりしませんでしたし、カミーナなら、優秀なリーダーのもとでの経験も豊富で、自身のリーダーシップも巧みと見られるから良いんじゃないのかな。第一、ホールデンがみんなから賛同を得られる英雄とは言え地球人なので、またしても地球が小惑星帯を管理するという構図になりかねません。それなら、ベルタ―のカミーユの方が政治的に良いということでしょうか?
この決断が太陽系にとって最良のものかどうかは、ホールデン自身もわからないと言っています。これで太陽系に平和が訪れれば良いものの、そう簡単には行かないでしょう。一難去ってまた一難。社会とはそういうものです。でも、ホールデンの決断が平和への一歩になるのではないか。そういう希望を与えてくれます。
ラコニアの謎
ドラマはこれで終わりです。しかし、謎はいくつか残っています。一つは、最後にホールデンも語っていたプロト分子の行方です。シーズン5で、ズミヤ号の爆破とともに破壊されたと思われていたプロト分子でしたが、シーズン5最終話でプロト分子が脱出していたことが明らかになっています。シーズン6の内容から察する限り、フリー・ネイビーはプロト分子を用いて火星軍と取引をし、武器を得ていたようです。
では、火星はプロト分子を何に使っているのか?これが、惑星ラコニアの大きな謎に関わってくるのかもしれません。シーズン6では、各話の冒頭でラコニアの話が少しずつ描かれます。リングの先の植民地惑星の一つであるラコニアには、火星の人たちが移住していました。そこで生活していた女の子は、死者を復活させる犬と遭遇し、犬の力を使って弟を復活させます。
さて、この犬とは何なのか?火星はラコニアで何をしているのか?復活した弟は人間ではない何者なのか?すべて謎のままです。原作の方には色々書いてあるようですが、邦訳されているのは第1巻「巨獣めざめる」のみ。原作は2022年中に長編第10巻が刊行されるということですが、邦訳出してくれないかなぁ。
シーズン7やスピンオフはあるのか?
ドラマ『エクスパンス~巨獣めざめる~』は、シーズン6をもってAmazonによって終了することが発表されました。この決定は、シーズン6が配信されるかなり前にされていたので、急に打ち切られたというわけではなく、もとからシーズン6がファイナルシーズンとなる前提で制作されてきました。
ラコニアの謎が残った状態で終わったので、打ち切りっぽくも見えるのですが、これは前述の通り原作の都合によるものと考えた方が良いでしょう。ドラマは、基本的に1シーズンかけて原作1巻を扱うペースになっています。シーズン6は第6巻「Babylon's Ashes」と短編「Strange Dogs」がベースになっています。
惑星ラコニアについては第7巻以降で詳しく扱われるようです。ただし、第7巻は第6巻の28年後の物語になっています。シーズン6だけでこの内容を扱うのはあまりにも短すぎることもあり、このように謎が残ったエンディングになっていると言われています。
現時点で『エクスパンス』にはスピンオフの噂はないのですが、制作陣いわく「これでさよならじゃなければ良いよね」とも語っています。『エクスパンス』といえば、シーズン3の時点で当時の放送局だったSyfyに打ち切られたものの、その後のファンの署名活動による後押しもあってか、Amazonによって救済されて続きのシーズンが制作された経緯があります。
…gave us 6 seasons to tell interesting stories with fun characters along the way. Thanks to each and every one of you for supporting us these past several years. Hopefully this isn’t goodbye forever, just so long for now. Till next time beratnas. Yam seng. 🥃🚀✨ #TheExpanse /2 pic.twitter.com/7sDYv6k3pT
— The Expanse Writers (@TheExpanseWR) January 15, 2022
最終回配信後の制作陣のツイート(意訳)
なんとワイルドな体験だったことか。今の気持ちを十分に言い表せる言葉はないが、一つ言っておくなら「感謝」だ。これまで一緒に宇宙を旅をし、打ち切りから救ってシーズンン6まで制作させてくれたすべてのファンに感謝する。これまでの数年間サポートしてきてくれたすべての人に感謝する。できればこれが永遠のさよならじゃなくて、とりあえずのさよならだと良いよね。また会える日まで。乾杯。
※ beratna: ベルタ―語でbrother(仲間)
yam seng: ベルタ―語でcheers(乾杯)
なお、現在『エクスパンス』のゲーム版がTelltale Gamesで開発中。The Expanse: A Telltale Seriesというタイトルで、カミーナ・ドラマーが主人公になるとされています。ドラマ―の声は、ドラマと同じくキャラ・ジーが担当します。2021年12月に製作中であることが発表されたばかりなので、続報を待ちましょう。
スピンオフ等の可能性はまだ消えていませんが、ドラマはこれで一旦おしまいです。いくつか謎は残っているものの、太陽系内のことはひとまず決着がついているので、そこまで後味は悪くありません。むしろ、最後に壮大な戦闘シーンも見せてくれたので、素晴らしいSFシリーズを締めくくるのに素晴らしい最終話だったのではないでしょうか。
総括
『エクスパンス』ほど面白いSFはないんじゃないかと常々思っていたのですが、ファイナルシーズンでもって、それは確信に変わりました。最終話の圧巻の戦闘を含め、ビジュアルは今シーズンも絶好調。マルコ・イナロスを単なる野蛮な敵ではなく、知能戦を仕掛けるリーダーとして描いていたのも面白かったです。
本当の悪はマルコ・イナロスではなく、マルコのような存在を生み出してしまった格差社会の構造にこそあるという主張は常に一貫していたのも良かった。単純な善vs悪という構図に陥らず、様々な経験と思惑を持つ人々が活躍する群像劇として、非常に上手く構成されていました。これを超えるSFドラマは、もう当分出てこないんじゃないかと思わされます。本当にこのドラマを観られて良かった。